千二百五十五話 <魔神ノ遍在大斧>
黒い大斧を持ち上げた。
金属か樹木か分からない柄は、少し長くバルディッシュ的。
浮遊しているヘルメとエヴァの位置を見ながら――。
その黒い斧の柄を<握吸>で強く握りつつ上下に強く振るう――。
トフィンガの鳴き斧よりも重い――。
右へと黒い大斧を動かし――。
風槍流『風握り』を行った。
更に風槍流『風蛇右腕』で黒い大斧を動かしていく。
黒い大斧から出ている頭蓋骨の群れは、青白い軌跡を宙空に残しつつ黒い大斧と俺の動きを追ってきた。
蒼白い頭蓋骨の群れは大斧と俺の動きをトレースしているようだ――。
前に出ながら振り上げ、振り下げる。
黒い大斧の柄を前腕へと滑らせ黒い大斧を転がし、前腕を俄に、上へとズンッと突き出し、前腕の筋肉を黒い大斧の柄に衝突させる。
黒い大斧を斜め前方へと浮かばせた。
その前に浮いた黒い大斧を左手で掴みながら横回転。
――左手で<握吸>を発動。五本の指が、黒い大斧の柄を握る動きを見ながら――黒い大斧の柄を左手の掌の中で回した。
黒い大斧が回っていく。
ハンカイならもっと上手に扱える。
そして、俺もハンカイ先生から斧武術は習っているし、<山岳斧槍・滔天槍術>を獲得しているから多少はマシになったかな。
と、足を止めて黒い大斧を掲げた。
大斧の刃には青白い部分もある。
指を離し、掌の中を柄が滑るように落ちていく。
が、素早く指と掌を閉じて大斧の柄の握りを直す。
黒い大斧を再度掲げた――。
柄腹から、握り突起を凝視。
持ち手の色合いは樹にも見えるが……。
鋼に黒曜石のような魔宝石にも見えてきた。
その握り突起を右手で摘まむように握り直す。
柄頭と呼べる〝握り突起〟にはストラップが通せそうな穴がある。
穴にはまた別の何かがある?
ロロディーヌとメトの可愛いストラップが欲しい。
そんなことを考えつつ右手に持ち替えた。
再び、黒い大斧を凝視――。
柄肩に、斧へりと、斧筋と、分厚い斧刃は漆黒の金属の他に骨の素材もあるように見えた。タングステンの灰色の金属もあるように見えた。米粒ほどの大きさの金属の中に魔印と髑髏が刻まれているし、混合素材が非常に気になる。
内包されている魔力も凄まじい。
鋭そうな刃末と刃先と刃元を凝視。
鋭い刃先からも青白い魔力が滲み出ていた。
青白い魔力は魔界セブドラの大気を侵食しているようにも見えた。
少し怖いな、と考えた直後、傍にいるエヴァもビクッとしていた。
俺の心と連動した?
傍にいる<筆頭従者長>のエヴァも成長している。
当然、<血魔力>を有した<紫心魔功>も発展中だ。
半径数メートルなら、<筆頭従者長>の成長度と<分泌吸の匂手>などの効果だけで、俺の気持ちをリアルタイムに理解できるようになっているかも知れない。
更に言えばエッチを重ねている効果もある。
エッチを重ねるごとに俺の気持ちはエヴァに読まれまくっていた。
同時にエヴァの心の声が聞こえる時は嬉しい瞬間でもある。
そのエヴァは藤色の眼で俺と黒い大斧を見て、
「――ん、黒い大斧と<黒衣の王>の装備の一つと分かるけど、周囲の青白い頭蓋骨たちはなんだろう」
エヴァの言葉に頷いた。
そのエヴァとヘルメに黒い大斧を見せつつ、
「魔神バーヴァイ様を慕っている古バーヴァイ族の魂かも知れない」
と呟く。
分厚い斧刃と柄に……周囲を浮遊している大小様々な蒼白い頭蓋骨たちを見ていると、ヘルメが、
「ありえますね。しかし、古バーヴァイ族の他に、人族風の頭蓋骨と、他の魔族の頭蓋骨もあります。魔神バーヴァイ様が今まで仕留めてきた魂の欠片、それが頭蓋骨として現れている? または【古バーヴァイ族の集落跡】故の現象か……閣下の称号効果もありますから」
エヴァと共に頷いた。
「その可能性もあるな。見た目から直ぐに分かるが、この黒い大斧で攻撃を加えた相手に、青白い頭蓋骨の群れが攻撃を加えるって線が濃厚かな」
「ん」
「はい。それと、閣下のことを守る障壁となる可能性も」
「その可能性もある」
「はい、あ、大斧のスキルは何か覚えたのですか?」
「まだスキルは覚えていない」
「あ、そうなのですね」
ヘルメの言葉に頷いた。
すると、「ンン、にゃァ」と鳴いた銀灰虎は高台から跳躍し、右のほうに向かった。
撤退中の二眼四腕の魔族かな。
生き残りがいたようだ。
「メト、深追いはするな、赤霊ベゲドアード団が逃げるだけなら、逃がしてあげてくれ」
「ンンン――」
銀灰虎は喉声で返事をしつつ両前足を伸ばし地面を突く。反動で、後ろの両足が上がていた。
お腹を露出させながら器用に両前足だけで数歩歩いていた。
急ストップの仕種の歩き方が曲芸的。
可愛いし面白い。
ヘルメもエヴァもそれを見て微笑んでいた。
すると、ヘルメが、俺の近くに降下し着地。
俺の右手を凝視し、
「その黒い大斧に、魔力を通されましたか?」
「まだだ、今、黒い大斧に魔力を通してみる」
「はい!」
「ん」
期待しているヘルメとエヴァに見守れながら――
<黒衣の王>を意識して、黒い大斧へと普通の魔力と<血魔力>を送る。
すると、黒い大斧から出ていた青白い頭蓋骨が細まりながら防護服と繋がり青白い魔線に変化を遂げた。
「ん、魔線が繋がった。シュウヤの防護服は<黒衣の王>の部分とゴルゴダの革鎧服の部分もある?」
「おう。ハルホンクがゴルゴダの革鎧服に合わせてくれた」
青白い魔線の周囲に魔印のような文字が出現。
黒い大斧の周囲に浮いていた青白い頭蓋骨も魔力粒子となって、黒い大斧の中へと吸い込まれた途端、黒い大斧の柄から黒色の蛇の群れのような金属が伸びて右腕に絡む。
「なんと!」
柄は、俺の握り手と調度合う波の形状に変化し、掌にジャストフィット。
「形状変化が可能!」
「ん、斧の柄が伸びて斧槍のようになった!」
更に、右拳と右前腕を細かな鋼の板が覆い始める。
大斧の伸びた柄の一部が、段だら坂の形状の黒い金属の籠手となった。
「わ、柄が籠手にもなった」
「アイテムボックスをも守る形状ですし、柄の金属が蛇に見えました」
二人の言葉に頷く。
大斧の形状は変わらないが、斧槍に近い形となる。
……これは一気に俺好みの武器となった。
「ん、魔毒の女神ミセア様が関係していたりして……」
エヴァの言葉を聞いて、思わずヴィーネは?
と、ヴィーネが活躍している左後方の戦いを見た。
ヴィーネたちはまだ三腕の魔族の集団と戦っている。
三腕の魔族たちは手斧を召喚させて逃げまくっていた。
ビュシエの<血道・霊動刃>とヴィーネの翡翠の蛇弓から出ている光線の矢で確実に数は減っているが、逃げながら戦う相手は中々に厄介だ。
黒髪の集団と戦っている黒い獣集団も、その先に見えている。
黒髪の戦国武者たちが、小豪族レン・サカザキの勢力なら交渉したいところだ。
後で、サシィたちにも血文字で連絡しないとな。
「斧槍となれば閣下と合う……魔神バーヴァイ様の魂が閣下に呼応を?」
「……ないとは言えない」
「ん、茨の凍迅魔槍ハヴァギイか、もう一つの仙王槍スーウィンを使うのをやめて……その大斧&斧槍となる、黒い大斧を暫く試す?」
「あぁ……どうするかな」
茨の凍迅魔槍ハヴァギイは<魔茨・甲凍迅>を覚えることが可能……。
ラムーの霊魔宝箱鑑定杖を使った結果では……。
長く装備し実戦を重ねると、魔烈皇凍迅流以外の魔茨甲凍迅流の<魔茨・甲凍迅>などスキルを学べる機会が得られる。
だから【古バーヴァイ族の集落跡】に来てから暫く茨の凍迅魔槍ハヴァギイを使っていたんだが……早々都合よく覚えてはくれないか。
切り替えて、この斧槍にもなる黒い大斧を試すかな。
「暫く、この黒い大斧を試すとして、この斧槍状態も<黒衣の王>の恒久スキルの範囲内のようだ。スキルは覚えていない」
「はい、〝黒衣の王〟の装備に対応する<黒衣の王>は中々優秀ですね」
「ん、精霊様も言ったけど、やはり黒い大斧は魔神バーヴァイ様の魂の一部が内包していると思う」
魔神バーヴァイ様の幻影が骸骨となって黒い大斧への変化だからな……。
頷きながら、
「あぁ、そうだな」
「はい」
ヘルメとエヴァは頷く。
エヴァは俺の装着している太腿を守る赤黒いキュライスを見て頷き、赤革の長いブーツも見てから、
「ん、黒い大斧をハルちゃんに食べさせるのもあり?」
「ングゥゥィィ……エヴァ……ナイス」
「ははは」
「「ふふ」」
思わず、豚鼻を鳴らして笑った。
ヘルメもエヴァも肩の竜頭装甲の素直な応えに笑っている。
「食べさせてもハルちゃんは、竜の口から品物を吐き出せるようですからね」
「ん」
「そうだな。ハルホンク食べていいぞ」
黒い大斧を右肩に出た肩の竜頭装甲に当てた。
「ングゥゥィィ!」
一瞬で黒い大斧を吸い込んだ肩の竜頭装甲。
おぉ……魔力をかなり得た。
ピコーン※<魔神ノ遍在大斧>※スキル獲得※
おぉ、<黒衣の王>に続いて魔神バーヴァイ様と関係しているスキルを獲得。
魔竜王の蒼眼が煌めいて、
「ウマウマァ、ウマカッチャン!! ゾォイ!」
と、喜び叫ぶと右肩の竜頭装甲の口から黒い大斧が吐き出された。
直ぐにその黒い大斧を握る。魔神ノ偏在大斧か。
その黒い大斧から青白い魔力と共に青白い頭蓋骨の幻影が周囲に零れていった。
続きは明日。
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