千二百五十話 魔神バーヴァイ様の幻影との会話
かなり魔力を得た……。
すると、天井の大きな岩の明るさが減る。
お? と見上げると、天井の岩の真下に星雲のような星系図が拡がっていたが、その一部が消えていた。
更に、魔神バーヴァイ様の幻影が風の影響を受けて揺らぐと一部が消える。
幻影は先ほどと異なり元に戻ることはなかった。
魔神バーヴァイ様は四方の岩柱と、周囲の台の上に出現中の複数の〝炎幻の四腕〟を見て……はかなげな表情を浮かべて頷いている。
〝炎幻の四腕〟は天井の星雲から光を受け続けていたが……。
魔神バーヴァイ様の幻影は、
「レンブラント……我は……」
と呟いてから俺を見て、
「……良し……シュウヤが得ている〝アメンディの神璽〟の効果は確かのようだ……同時に、我の〝真なる黒衣の王〟の装備を得るに相応しい器でもあるようだな」
真かどうかは分からないが……。
頷いて、
「<黒衣の王>は恒久スキルとして得られました」
魔神バーヴァイ様の幻影は頷いた。
「でかした……シュウヤを〝黒衣の王〟の真なる使い手として認めよう。そのスキルを使えば〝黒衣の王〟の装備者が分かるはずだ。また、〝黒衣の王〟の装備と心身が一体化していても、その装備者の肉体から装備と魂を上手く引き剥がすことは可能となろう」
魂を引き剥がす……。
<黒衣の王>にはそんな効果があるのか。
とりあえず感謝の気持ちを込めて、ラ・ケラーダの挨拶を行った。
「ありがとうございます――」
と礼を言うと、魔神バーヴァイ様は頷いてくれた。
「うむ! 我も礼を言おう。バーヴァイ族を助けてくれてありがとう」
「はい」
「<黒衣の王>を得たシュウヤは我の魔界騎士となったと言える! であるからして魔界セブドラに散った〝黒衣の王〟の装備類は今からシュウヤの物となる! そして……この聖域を侵し狙っている連中と……他の〝黒衣の王〟の装備類を不正に得て我が物顔で使用している者たちと、<祭祀大綱権>を不正に得て、我やバーヴァイ族の高位の者の力、魔力、精神、スキルを己に取り込んでいるフザケタ存在たちを滅してくれると……非常にありがたい……それらの者たちを討伐したら、その者たちが身に付けているだろう〝黒衣の王〟の装備類はシュウヤの物となる……魂剥がしは少し厄介ではあるが……」
と、頼んできた。
〝黒衣の王〟の装備類は強いんだろうとは思うが……。
実物を見ていないし、俺たちの装備の充実度はかなりの物。
と、そんなことを考えていると魔神バーヴァイ様の幻影はペミュラスを見て睨んでいた……百足高魔族ハイ・デアンホザーのことは嫌いかな……と、バーヴァイ様の幻影は黒豹も睨んだ。
観察しているだけか。
あの四眼は迫力がある。
そして、正直に言おう。
「……魔神バーヴァイ様、スキルの獲得は深く感謝しています。ある程度の崇拝もします。しかし、俺は魔神バーヴァイ様の部下でも魔界騎士でもない」
「……なんだと……」
「はい、しかし、今回の目的とも合うかも知れない〝黒衣の王〟の装備類の奪取は狙うかも知れないです。平和に繋がるので、しかし、不正に<祭祀大綱権>を獲得した存在に対しては別段恨みはないので、その者たちのことを深く追うことはしないつもりです」
「むむむ……」
魔神バーヴァイ様は機嫌を損ねたか。
幻影が薄らいでいる。
俺の言葉でショックを受けたわけではなく俺に力を授けたことで、姿が保てなくなった? すると、魔皇獣咆ケーゼンベルスが一歩前に出て、
「……ウォォォン! 魔神バーヴァイの幻影、我の主を、勝手にお前の魔界騎士にするでない!」
と叫ぶように発言。魔神バーヴァイ様の幻影は、
「……お前は……」
「【ケーゼンベルスの魔樹海】の魔皇獣咆ケーゼンベルスだ」
「……その名は聞いたことがある……シュウヤの配下になっていたのか……魔界王子テーバロンテが滅したことでの動きの変化だな」
「ウォォン! そうだ。数千年の呪縛を解いたのは、我の偉大な主シュウヤ様! であるから主は、我よりも弱い魔神バーヴァイの魔界騎士に収まる器ではない!」
ケーゼンベルスが覇気を込めて語る。
魔神バーヴァイ様の幻影は、
「今の我は、たしかに弱い。神意力を有した攻撃を受けたら消し飛んでしまう。まさに、風前の灯火的な存在が我だ……だが、我は腐っても魔神の一角、その本質に変わりないのだ。お前の主であるシュウヤに〝黒衣の王〟を授け、正式に、黒衣の王の装備類を身に付けることを認めた存在でもあるのだぞ……」
と威厳を醸し出しながら語る。
ケーゼンベルスは頷いた。
が、唸り声を上げてから、体を少し大きくさせて、
「……それは分かっている。主を強化してくれたこと、これからも強化に繋がることに、貢献してくれたことには、深い感謝を送ろう。だが、それはそれである。我の主で大事な友が……お前の支配化に下るのは、我の沽券に関わるのだ……皆もそうであろう?」
と語りつつ俺と相棒をチラッと見て、皆に視線を送っていた。
ヘルメたちは、
「「はい」」
と頷くが『大丈夫ですよ~』的な顔色だ。
最近、俺が拒否感を強めたこととバーソロンの<筆頭従者長>の強さっぷりを見たこともあるからか、神聖ルシヴァル大帝国の魔皇帝が云々とは言わなかった。
ヘルメの野望が好きな常闇の水精霊ヘルメではあるが……。
ちゃんと分かっているのもまたヘルメなんだよな。
黒豹も分かっているのか、
「にゃ~」
と鳴いた。
魔神バーヴァイ様の幻影は、
「……安心しろ。我は、シュウヤを支配したわけではない。〝黒衣の王〟の装備類と<祭祀大綱権>のスキルを不正に得た者たちの抹殺だが、それは単なる我の願いでしかない。それをやるもやらないもシュウヤの自由ぞ……更に、魔界騎士も、我が一方的に認めただけだ……弱い魔神の戯れ言と心得よ」
と語る。
少し間が空いた。
魔皇獣咆ケーゼンベルスは頭部を上げ、「ウォォォン!」と喉元を震わせながら吼えた。
そして、頭部を少し下げて魔神バーヴァイ様の幻影を凝視し、
「……ならば、良し!」
と語り立派な歯牙を見せる。
魔神バーヴァイ様の幻影も笑顔となって両手を拡げながら「うむ!」と発言。
そのバーヴァイ様の幻影と魔皇獣咆ケーゼンベルスは、暫し、見つめ合う。
不思議な空気感だ。
「にゃ」
「にゃァ~」
普通の大きさに戻っている黒豹と銀灰猫は、ケーゼンベルスの横に移動していた。
黙っているヴィーネたちを見てから頷いた。
そして、魔神バーヴァイ様の幻影に、
「……不正に〝黒衣の王〟の装備類を得ている者と<祭祀大綱権>を獲得した存在が、俺たちの領域を攻めるなど、仲間や弱い立場の者たちを攻撃するのを見たり聞いたりとしたのならば、俺たちなりに動いて対処したいと思います」
「……それで十分だ。では、そろそろか。直に、この祭壇は下に落ちる……そして、間に合わなんだか……」
魔神バーヴァイ様の幻影は四つの柱に重なり台の上に浮いている〝炎幻の四腕〟を見ながら語る。
「祭壇が落下……ロロとメト、準備を、皆も」
「にゃ~」
「にゃっ」
一瞬で、黒豹は神獣に変化を遂げる。
頭はネコ科で体付きはグリフォンに近い。
胸元の毛は盛り上がっている。
あのフサフサした毛の群れにダイブしたい。
と、考えていると、
「ん、ロロちゃん~」
「「ふふ――」」
「ロロ様~」
エヴァを先頭にヴィーネとキサラとバーソロンとフィナプルスとイモリザとビュシエが神獣の胸の毛の中に体を預けていた。
キスマリは最後に遠慮していたエトアを押して、「わぁ~」とエトアを相棒の毛の中に送って上げていた。
銀灰猫は俺の左肩に跳躍――。
すると、
「「わ~」」
「「触手が~」」
「あぅ~」
「あん、そこ……」
神獣の体から出た触手が、相棒の胸と胴体に抱きついていた、皆の体に絡み付いたようだ。バーソロンのエロい声が響いたが、気にしない。
その皆の体に絡んでいた触手が相棒の体に収斂された。
相棒の体に皆が付着するように運ばれるのを見ながら消えそうな魔神バーヴァイ様の幻影に、
「……〝炎幻の四腕〟の魔神レンブラント様ですが、この場に魔神レンブラント様は出現しない理由があるのですか?」
「色々とある……」
「聞かせてくれますか?」
「ふむ……我の幻影が保っていられるか不明だが、それでもいいか?」
「はい」
「魔神レンブラントは、神格を失っている。たかが人族と魔族の女のためにだ」
「え……神格を……では、周囲の〝炎幻の四腕〟は」
「神格を失っても、尚も健在な理由は、セラでレンブラントの血脈は脈々と続いているからだ……魔王レンブラントとしてな……セラの南マハハイム地方にあるサーマリア王国という名は聞いたことがあるか? 人族の国だが、数多くの魔王級の存在が建国に関わっている国なのだが……」
おぉ……ここでサーマリア王国建国秘話か。
ユイの持つ武器は……サーマリア伝承に登場する、アゼロス&ヴァサージという魔王級魔族の名が由来になっている一対の刀剣。
たしか、サーマリアの豪商・五本指のドルイ・リザロマの物を、ユイが組織の依頼でドルイを暗殺した際にもらった。と語っていたことは、今でも覚えている。
続きは明日を予定。
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