千二百四十三話 <筆頭従者長>アドゥムブラリとの血文字連絡
皆に手を上げて、
「――皆、アドゥムブラリから血文字がきた」
「はい」
「にゃ~」
ビッグな黒猫はその場でホバリング。
腹の毛と四肢から燕の形をした橙色の魔力が噴出している。
虹色の〝アメロロの猫魔服〟の幻影服も時々出現していた。
肩の竜頭装甲を意識し、〝古の光闇武行師デファイアルの仮面〟を解除。
その相棒の頭部に浮遊しながら向かうと、目の前に、
『――アムシャビスの光玉は宵闇の女王レブラ様の勢力側とされている【サネハダ街道街】と【ケイン街道】を好む魔商団ドムラチュアを率いる〝大魔商ドムラチュワ〟が持っているようだ』
【サネハダ街道街】と【ケイン街道】を好む魔商団ドムラチュア……。
〝大魔商ドムラチュワ〟か。
聞いたことがないからビュシエとバーソロンを見る。
バーソロンは、
「はい、聞いたことがあります」
ビュシエは、
「知りません」
と簡潔に話が終わる。アドゥムブラリの血文字が直ぐに、
『気に食わないがアムシャビスたち、通称〝堕ちた紅光〟たちの遺品や持ち物は、諸侯や神々のコレクションとなっていることが多いようだ。特に宵闇の女王レブラ様が好むようで……大魔商ドムラチュアはアムシャビスの関わる品の入手に力を入れては、手に入れて、媚びを売っているようだ。そして、荒神反魂香は、宵闇の女王レブラの眷属の一人のシキ、通称コレクターが持っているようだ』
『シキだと? 巨乳で美人の商人で蒐集家、通称コレクター……驚きだな』
『あぁ、俺も初めて聞いた時は耳を疑ったが、あくまでも仮の情報だ』
頷いた。
『了解。シキか。当たり前だが、ペルネーテで魔宝地図を漁っているばかりではないようだな。そして、シキの部下、骸骨の魔術師ハゼスは、過去、加勢してくれた』
『あぁ、混沌の夜だな、キサラやエヴァに主からもだが、よく聞いている』
『おう、ヴァルマスク家のホフマンとヴァーミナ様の大眷属シャイサードも味方となった』
皆も俺の血文字を見て、過去のことを思い出したような表情を浮かべていく。
すると、直ぐにアドゥムブラリの血文字が浮かぶ。
『ふむ、女王サーダインと黒髪の貴公子との戦いか』
『おう。【未開スキル探索団】の〝左長〟の直下組織【樹海狩り】の連中も絡んできた。それが、混沌の夜の戦い』
俺の血文字に皆が頷く。アドゥムブラリの血文字が直ぐに浮かぶ。
『そうだな、デルハウトとシュヘリアが光魔騎士となる起因となる戦いでもあった夜だ』
と血文字を送りながらビッグな相棒の頭部に着地する。
傍にいるヴィーネ、エヴァ、キサラ、フィナプルス、ビュシエ、キッカ、イモリザ、バーソロンはアドゥムブラリの血文字を見て驚く。
光魔騎士グラドはそうでもない。
皆、得物を仕舞った。
しかし、ここで宵闇の女王レブラ様の眷属シキ。
セラの迷宮都市ペルネーテに住まう通称コレクターがここで絡むとは思わなかった。
『宵闇の女王レブラ様の眷属のシキは魔界セブドラに渡ったことがあるのだろうか』
アドゥムブラリにそんな血文字を送ると、ビッグな黒猫の頭部の端にいたバーソロン、エヴァ、キサラも寄ってきた。
『通称がコレクター。地下オークションに出ている常連で、異常に強い部下たち……当然あるだろう。真実の姿は別種な存在の可能性もある』
『シキの真実の姿か……』
一瞬、宵闇の女王レブラ様と重ねるが、まさかな……。
アドゥムブラリの血文字に皆が神妙な顔付きを浮かべて頷く。
キサラは、青炎槍カラカンと魔槍斗宿ラキースを仕舞う。
バーソロンは右手に召喚した〝ゲンシヤの柄巻〟に魔力を通す。
放射口から漆黒と深紅と藤紫の刃を発生させていた。
バーソロンは〝ゲンシヤの柄巻〟を部下にあげるはずだったが……。
タイミングを逃したか。アチを<従者長>にしたことで、〝ゲンシヤの柄巻〟は自分で使うことにしたのかな。単に忘れたか。
キサラは、皆の速度を上昇させる<飛式>と<魔倶飛式>の紙人形たちを皆の体に付けたまま、消していない。
すると、そのキサラが、
「シキことコレクターはキーラ・ホセライの【御九星集団】と繋がりがあると聞いたことは覚えています」
あぁ、悪夢教団ベラホズマの一派から崇められていたナナを誘拐しようとしていたキーラ・ホセライの【御九星集団】か。
【闇の枢軸会議】の大枠の中に入っている【闇の八巨星】の一つ。
キーラは地下オークションで色々とアイテムを手に入れて教団の東部局長の地位を捨て、独自の【御九星集団】を率いてアシュラー教団と袂を分かった。
【御九星集団】は、アドリアンヌと関係が深いカザネたちが所属しているアシュラー教団とは敵対関係。
ナナをサイデイルで匿っている俺たちとも間接的に敵対関係ではある。
が、直に話ができるタイプと予想。
ヴィーネは、
「キーラはサーマリア王国と関連する組織とも繋がっている」
その言葉に皆が頷いた。キサラが再び、
「ナナを誘拐した話にでましたね」
「カリィが仕事で暗殺した中にもキーラの関係者がいたはずです」
カリィとレンショウか。
共に暗殺の仕事をしまくっていた。
そんな二人も俺の<従者長>となり【天凛の月】の大幹部となった。
すると、アドゥムブラリが、
『主、【メイジナの大街】の大魔商デン・マッハのことだが、まだ話がある。今は大丈夫か?』
『あぁ、大丈夫だ。【古バーヴァイ族の集落跡】に向かう最中だったりする』
『了解した。簡潔に言うが、デン・マッハは、魔王の楽譜とモモンの楽器を持つ。宵闇の女王レブラ様が占領している傷場、その一つの使用許可は下りているようだ。そのデンはレブラ様が支配している傷場から、東マハハイム地方の傷場に出入りをし、セラの闇社会とも通じている』
『ほぉ……惑星セラ側の東マハハイム地方に傷場があるとは初めて知った。そして、その傷場は、魔界セブドラ側の宵闇の女王レブラ様が支配する傷場の一つに繋がると……』
『そうだ。セラの東マハハイム地方には傷場は多いとも聞いている』
「「「おぉ」」」
ヴィーネたちが驚きの声をハモらした。
「重要な情報です。そして、フォルニウムとフォロニウムの兄弟山には、傷場がありそうな雰囲気、その気配がありました」
ヴィーネの語りに頷いた。
「たしかに……」
と、語る。アドゥムブラリに、
『侵略王六腕のカイが起こしたグルドン戦役と関係がある?』
『関係はあるかもな。正直分からん』
『東は一度旅しているが、見つけられなかった』
『ふむ、東マハハイム地方は広大だ……』
『【剣団ガルオム】を潰そうとした【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】が支配する【豹雷都市トトラキラ】や【異風都市イビキアンデス】などの都市もあるか』
と血文字を送ると、直ぐにアドゥムブラリは、
『あぁ、蛇人族種族たちが暮らす地域と、フォルニウムとフォロニウムの兄弟山に、シジマ街より東のレリック地方など、更に東の群島諸国も含まれる。広大な範囲に及ぶのが、東マハハイム地方なんだからな。傷場もあるだろう』
『……そりゃ、そっか。傷場が複数あってもおかしくないか』
『あぁ』
皆も頷いた。
「宗主たちは東マハハイム地方に旅をしたことがあると聞きました」
「そうだ。サイデイルに暮らしている<光魔ノ蓮華蝶>のジョディとシェイル。シェイルを癒やすのに必要なアイテムを採取するための旅だった。亜神夫婦のことを想うと、今でも胸にくる」
「……はい」
皆も同じ気持ちなのか、瞳を潤ませる。
直ぐにアドゥムブラリに血文字を送る――。
『魔皇シーフォとの約束もあるから、直ぐには無理だが、コレクターのシキへと会いにペルネーテに行くか』
『おぉ、主! ありがとう!』
『おう』
『しかし、荒神反魂香を、そのシキが本当に持っているのか不明。更に交渉となったら、どんな要求をされるか……』
シキとは何度か会っている。
シキの部下の骸骨の魔術師ハゼスは、混沌の夜の時に俺を助けてくれた。
宵闇の指輪の繋がりもあるにはある。
そして、直に宵闇の女王レブラ様と交渉すれば……荒神反魂香の入手が容易になる可能性もあるかな。これは少々難しいか。
そのことは血文字では伝えず、
『たしかに、手練手管な手段も使うだろうシキだが、まだ先のことだ』
『ふむ』
『ペルネーテではアメリ&ヴェロニカの件とベニーの件もある』
『あぁ、宗教国家ヘスリファートやセブンフォリア王国の庶子の件と【七戒】か』
すると、そのアドゥムブラリの血文字を消すように相棒の触手手綱が目の前に来た。
それを掴んで触手手綱をモミモミと握りながら、
『――おう。聖槍アロステをアロステの丘に刺し戻す約束もある。その下のゴルディクス大砂漠に行って、キサラの故郷を見ときたい。ツアンの奥さんと家族が住んでいる【外魔都市リンダバーム】にも行く予定はあるからな』
『一度、セラに戻る流れは確実か』
『おう』
「ん、ロロちゃん、ゆっくりと進もう~」
「「ふふ」」
「【古バーヴァイ族の集落跡】は、もう直ぐそこですよ」
バーソロンの言葉に古バーヴァイ族の四腕戦士キルトレイヤと四腕騎士バミアルが頷く。
『……しかし、主は、セラ側の神聖教会と本格的に関わるつもりか?』
『大変そうだが、<筆頭従者長>のヴェロニカにちょっかいを出した以上はな……更に、アメリを誘っている魔族殲滅機関の一桁や聖鎖騎士団の司祭と助祭も見ておきたい』
『宗主としてか。了解した』
エルフを魔族と決めつけている偏狭な国が宗教国家ヘスリファート。
それでもやることはやるつもりだ。
そんなことを考えていると、
『偏狭な政策を国是とする連中だと、気が滅入るかもだぜ? たとえ根がいい奴だったとしてもそれが仇になるかも知れないからな』
『……それはあるっちゃあるが、俺は光側を強調すればなんとかなるかもだ』
『光神ルロディス様や水神アクレシス様の加護を持つ主は、機知に富む。だからなんとかなるか……』
『おう、魔族殲滅機関のディスオルテが、光神教徒ディスオルテの由来など。歴史も気になるからな』
『あぁ、それか。神界騎士団のエラリエースも主は仲間にしたんだったな。で、そのエラリエースも眷属にするつもりか?』
『本人が望めば受け入れる。ただ、エラリエースの姉さんは神界騎士団で、もろに神界セウロスの方だ。しない可能性もある』
『そっか』
『アドゥムブラリは一度バーソロンのバーヴァイ城に戻るのか?』
『おう、そのつもりだ。【メリアディの書網零閣】に移動するかもだが、さすがに遠い』
『〝列強魔軍地図〟に刻まれている地名の一つ、ゼメタスとアドモスがいる【グルガンヌ大亀亀裂地帯】に近いエリアだな。ここからだと、かなり遠い北側の地が、【メリアディの書網零閣】か』
『そうだ。【地獄火山デス・ロウ】はもっと北だから、それに比べたら近いが』
『あぁ、ではそろそろ【古バーヴァイ族の集落跡】に着く』
『了解した』
そこで血文字を終わらせる。
キサラとヴィーネにヘルメとグィヴァと自然とアイコンタクト。
頷き合うと、
「ンン」
ビッグな黒猫が喉声を響かせて下降を始めた。
【古バーヴァイ族の集落跡】に到着か。
緑はそれなりあるが、細長い岩が乱立。
巨人が横たわっているような岩が多い。
モスクのような岩もある。
奥と周囲にはピラミッド状の小山が幾つも連なっていた。
細長い岩だと思ったが、古バーヴァイ族の巨大な角が大本かな。
ペミュラスを見ると、
「はい、ここが【古バーヴァイ族の集落跡】ですぞ」
バミアルとキルトレイヤに視線を向けると厳しい顔色だった。
「主、ここは我らの故郷で間違いない。あの岩は、すべて我ら同胞……」
「岩に見えたが古バーヴァイ族か……」
「「はい」」
続きは明日かも。
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