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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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千二百四十話 アチの処女刃と皆を乗せていたロロディーヌ

2023年10月5日 12時32分 最後のほう修正

「抱えるぞ――」

「ひゃいっ」


 アチを抱えて<武行氣>で浮かぶ。

 アチの頬と首の炎の模様が煌めいていく。

 バーソロンとは炎の模様の形が異なる。

 ――前にも思ったが、炎の模様は個性だな。

 各人に固有の身体的特徴のバイオメトリクスとして、耳の形や『唇紋』と同じように個人の鍵に使えそうだ。


 そんなことを考えつつ大ホール内を飛翔しながら本丸から地続きの廊下から空き部屋へと突入した。

 寝台の上にアチを降ろして――。


「あ、ありがとうございます!」


 アチは素早く立ち上がり、敬礼。

 『敬礼は必要ないさ』というように片手を上げながら空き部屋を見渡す。


「いいさ、今、そこに盥を用意する」

「はい」


 部屋の中央には天井と床を垂直に繋がっている縦長の香炉があった。

 天井と床に繋がっているのは、煙突の排気目的かな。

 その横に丁度良い空きスペースがあったから、そこに<邪王の樹>を発動――。

 右手の指先から邪界ヘルローネの樹と枝葉がニュルッと生まれ出る。

 と、出た樹は瞬く間に大きい盥へと成長を遂げた。


「わっ」


 アチは驚く。

 この辺りはイメージ通り――そして、振り返って、「では、これを――」と処女刃をアチに放った。アチは処女刃を受け取り、上に翳しながら処女刃の腕輪の内側を見て、


「これが、処女刃……バーソロン様から聞いています」


 と、発言しつつ外側の模様などを指先でなぞりつつ眺めていく。

 角があるが金髪のアチも美人さんだから絵になる。

 金色の眉毛は眉尻が少し太く後は細い。

 鼻筋は高い。唇は小さくて顎は細い。

 頬と首の炎の模様はバーソロンよりも小さい。

 デコルテも人族の女性と変わらない。

 肩幅からして、和服が似合いそうだ。

 胸の大きさはバーソロンのほうが大きいかな。


 アチの表情は厳しい。

 処女刃を嵌めてスイッチを入れる覚悟をしたのかな。


「スイッチは、いつでもいい」

「はい、スイッチを入れたら内側から……」


 処女刃から刃を出していた。その刃をジッと見ては、嫌そうな表情を浮かべる。

 俺も『……分かる』と、その気持ちを表情と仕種で現しつつ「結構な鋭さだ。がんばれよ」と励ました。


 アチは頷きながら微笑んでから、


「……はい! では、処女刃の腕輪を嵌めて……儀式を行いたいと思います」


 頷いて、


「おう。<従者長>最初の仕事と思え。吸血鬼(ヴァンパイア)の回復能力と<血魔力>の扱いに慣れる方法は、これが一番だ。そして、今後だが〝黒呪咒剣仙譜〟などの修業方法も容易に可能となる」

「はい」


 アチは左の二の腕に処女刃の腕輪を嵌めた。

 まだ表情には硬さがある。

 そのアチは処女刃のスイッチを押した。


「くあっ……け、結構、痛いんですね……」


 処女刃の腕輪が嵌まる二の腕は血塗れだ。

 左腕の前腕にまで血が滴っていた。ポタポタと盥にアチの血が垂れていた。


「喰い込むからな……がんばれ」


 と、励ますが、見ているほうも痛くなる。

 できることなら代わってあげたい。

 が、こればかりは見守るしかない。


「はい。あっ……くぅ……処女刃の刃を押し戻すように回復……自動的に刃が戻るのですね……」


 頷いて、


「元々のデラバイン族も頑丈でタフだからな、普通の人族から光魔ルシヴァルへとはまた異なるだろう」


 と発言。しかし、処女刃の腕輪は、どMな訓練だよな……。

 アチは頷きつつ覚悟を決める。

 眼力には迫力があった。


「光魔ルシヴァルの<従者長>としてがんばります――」


 アチの気合いの言葉に頷く。



 ◇◇◇◇


 セラなら一日以上は経っているかな。

 すると、盥に溜まっていた血が急激に減った。


「あ! できました! <血道第一・開門>の獲得です!」

「おぉぉ~おめでとう、アチ。血文字のメッセージができるだろう」

「やってみます――」


 アチはバーソロンに血文字を送る。

 目の前にバーソロンの血文字が浮かんだ。


 これで、アチとの遠距離での連絡手段を確保できた。


『ん、シュウヤ、アチの血文字を見た。今、ペミュラスたちと広場に戻る』

『了解』

『ご主人様、【古バーヴァイ族の集落跡】へと直ぐに向かいますか』

『おう、その予定だ』


 エヴァたちと血文字を送ってから、アチを見て、


「では、バーヴァイ城はアチに任せる。バーソロンは俺についてくるようだからな」

「はい、お任せを。そして、【古バーヴァイ族の集落跡】は【デラバインの廃墟】や【廃城デラバイン】と同じく近隣地帯の一つ。直にバーソロン様が見るいい機会となります」

「おう、では、<古兵・剣冑師鐔>のシタン、魔傭兵ラジャガ戦団の兵士たち、【グラナダの道】の面々、黒狼隊、蜘蛛娘アキ、アチュード、ベベルガ、人造蜘蛛兵士たちと連携を取りつつバーヴァイ城を上手く治めてくれ。あ、光魔騎士ファトラと、元【見守る者(ウォッチャー)】の高位〝捌き手〟で、元神界騎士団第三部隊長だったエラリエースともよく話をするように、エラリエースはブラッドクリスタルを生み出せるからな。アチも<血魔力>を学ぶ立場となる以上は重要な存在となる」

「はい!」

「【バードイン迷宮】の刑務所組のファウナも優秀だ。体がつぎはぎ状となっている魔族たちのことも気に掛けてあげてくれ」


 何かしら個性があると思うからな。


「はい!」


 良い笑顔だ。さて、


「んじゃ――」


 <武行氣>を強めて部屋から飛ぶように出て、大ホールに向かう。

 大ホールにいたヴィーネとキサラとイモリザが、俺を見て、


「あ、ご主人様! もう!?」

「シュウヤ様はアチを……」

「使者様♪ お楽しみな時間を削るとは珍しい!!」


 イモリザは銀髪で大人の玩具を作っていたから魔槍杖バルドークを召喚。


「おい――ここは子供はいないからって――」


 と、そのイモリザの銀髪を魔槍杖バルドークの竜魔石で崩すように突っ込んだ――。

「うひゃ~」勿論、本気ではないから直ぐに魔槍杖バルドークを離す。


 イモリザの銀髪は崩れるように元通り。


「使者様のツッコミが、少し怖かった♪」


 ひょうきんなイモリザの表情が可愛くてなんとも言えない。

 そのイモリザを見てキサラとヴィーネも笑っていた。

 俺も笑いながら、


「……相棒は外かな」

「あ、はい」

「そうですが……」

「ん?」


 ヴィーネとキサラは顔を見合わせて苦笑する。

 そう言えば銀灰猫(メト)もエヴァたちがいないな。

 外でも祭りでも起きているのか、「えんや~こーらや、はぁ、どっこいじゃんじゃん、こーらや」的な声が多重に聞こえてきた。『次行ってみよう~』と渋い声が響いてきそうな感じだ。


 騒がしい。人造蜘蛛兵士たちとデラバイン族たちの訓練かな。


 ま、大ホールから出たら分かるだろう。

 と極大魔石が仕舞ってある箱から数十とした極大魔石を取り出して戦闘型デバイスにブッコミつつ大ホールから出た。


 広間に多数のデラバイン族たちがいるが、人造蜘蛛兵士たちはいない。

 と、空にも……。


「「「「「うあぁぁぁ」」」」」

「わぁぁぁ~♪」

「にゃごぉぉぉ~」

「ふふ~」

「ウォォォン~」


 空を飛んでいる神獣ロロディーヌの上に多数のデラバイン族の兵士たちが乗っていた。

 アチを眷属にする前も、皆を乗せて飛行していたようだが、その続きを行っていたようだ。


 一緒に飛行している魔裁縫の女神アメンディ様も楽しそうだ。デラバイン族の民を乗せた相棒との飛行だしな。


 神獣ロロディーヌの大きさに合う〝アメロロの猫魔服〟はさすがに見えないが……。


 魔皇獣咆ケーゼンベルスは飛ぶように見えているが跳んでいるだけか。 

 俺も<武行氣>を使おう――。

 両手を上げながら浮遊し、体で螺旋を宙に描くように上昇、飛行しながら神獣(ロロ)に向かった。


「ん、シュウヤ~」

「あ、主様♪」


 エヴァと蜘蛛娘アキの二人は手を繋ぎながら神獣ロロディーヌの鼻先に乗っていた。

 ペミュラスの魔素は感じられるが、見えない。

 頭部の黒毛ソファに包まれているのかな。


 皆を乗せた神獣ロロディーヌは、やや興奮気味で鼻息が荒い。

 大きいゴロゴロ風の喉音は結構強烈だ。


 その神獣ロロディーヌは飛行速度を落としながら俺に近付いて口を開け、


「にゃおぉぉ~」


 鳴いたが、口から出た魔息が――。

 強烈な向かい風を浴びているような勢いで――髪の毛がオールバックとなった。

 同時にツナ缶の魚の臭いが漂う。


 そのことは言わず、


「……よう、ロロ、待たせたな。皆で楽しんだようだが、この人数で【古バーヴァイ族の集落跡】には行かないぞ。一旦、下に降りようか」

「にゃ~」





続きは今週。

HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1巻~20巻が発売中。

コミックス1巻~3巻発売中。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「では、バーヴァイ城はアチに任せる。バーソロンは俺についてくるようだからな」 うんうん、バーソロンの狙い通り。そしてやはり遠方に居ても何か有ったら連絡取れるのは安心。 [一言] 処女刃の儀…
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