千二百二十九話 古バーヴァイ族の四腕戦士キルトレイヤ
古バーヴァイ族の四腕戦士キルトレイヤは……。
巨人の女性として復活を果たした。
アシンメトリーの角を生やしている。
角の大きさはバミアルより小さいが、同じ素材で象牙質っぽい。
そのキルトレイヤは四腕で脇を締めた。
踏ん張るように、
「ウゴアァァァ――」
と大きな声で叫び、両腕を拡げながら<血魔力>を体から噴出させる。続けざまに蒸気的な魔力を発して拡げた。
その魔力の色合いは紫色と黒色だ。
先ほどのバミアルと同じ。
古バーヴァイ族の<魔闘術>系統のスキルと予測。
その魔力の影響で長い黒髪が靡く。
背筋と腕の筋肉は立派だが、女性特有の細さと美しさを持つ。
「「「おぉ」」」
「「にゃ~」」
「きゃ」
魔裁縫の女神アメンディ様と待機組も魔力の噴出具合に驚いていた。
魔力の噴出具合はバミアルよりも噴出量が多い。
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスを彷彿とさせる勢い。
筋肉量だけならキルトレイヤよりバミアルのほうが上か。
そのバミアルは、ビュシエが前方にも造り上げた<血道・石棺砦>の石棺砦を利用せず。 野戦一筋の如く、片足がイソギンチャク状態の四眼四腕のモンスターとの相対を選ぶ。
今も気合い一閃――。
四眼を有した魔族の首を刎ねた。
続けざまに前に出たバミアルは三腕を振るいつつ片腕持ちの魔剣を袈裟懸けに振るい、一振りで数体を斬り伏せている。
バミアルはフォローが必要ない勢いだ。
今も、魔剣を振るい突く。
殴り蹴り飛ばしの凄まじい勢いでモンスターたちを蹂躙していた。
バミアルの野性味ある戦いっぷりを見ると……。
バーバリアンという言葉を連想してしまう。
映画で例えるならば……。
『コナン・ザ・バーバリアン』
その映画に出演していた若かりし頃のシュワルツェネッガー氏とバミアルは似ているか。
誕生したばかりのキルトレイヤのほうが、好みの筋肉量だ。乳輪と乳首は好み。乳房は中々の大きさだ。
全体的に女性らしい引き締まった筋肉が逞しい。
美しい巨人さんだ。
そのキルトレイヤは体から噴出させていた<血魔力>と紫色と黒色の蒸気的な魔力を水神ノ血封書に吸い込ませる。
と、片腕で乳房を隠した。
悩ましいポーズのまま体は収縮させると、俺たちに会釈をしたが、途中でハッとした表情を浮かべながら見渡した。
大柄の体に軽装の装備が自然と装着された。
アイテムボックスはないように思えるが、<血道第五・開門>の<血霊兵装隊杖>のようなスキルでもあるんだろうか。
そして、キルトレイヤは死ぬ直前のことを思い出している?
キルトレイヤは地面に刺さっている魔剣を見てバミアルをもう一度見ると胸をなで下ろす。
頷くと足早に、俺と魔裁縫の女神アメンディ様の前に来て、
片膝で地面を突き「我が主――」と頭を垂れてくる。
そのキルトレイヤに、
「キルトレイヤ、これからよろしく頼む。俺の名はシュウヤ。横にいる女性は魔裁縫の女神アメンディ様、大きい黒豹の名は神獣ロロディーヌ。愛称はロロだ」
「にゃ~」
「よろしくですよ、キルトレイヤ――」
魔裁縫の女神アメンディ様は魔布を伸ばす。
キルトレイヤの肩に魔布が触れると、虹色の魔力が魔布から溢れ出て、その魔布がキルトレイヤの首に巻き付いた。
ポンチョのような魔法の衣装を着させてあげていた。
「はい、主と魔裁縫の女神アメンディ様と神獣ロロディーヌ様、よろしくお願い致します」
「にゃ~」
「今、バミアルが戦っているモンスターは見た目が四眼四腕の魔族だが、実は違う」
「はい、外法シャルードゥの操り人形となった同胞たちの魂です」
当然、知っているか。
キルトレイヤは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべ、
「わたしたちを守りつつ最期まで戦った者の魂が利用されている……」
と語った。
地面に刺さっている魔剣をチラッと見ている。
「キルトレイヤ、バミアルたちの戦いに交ざっていいぞ」
「え、はい!」
「が、俺たちはここから離脱する予定だ。外法シャルードゥも、姿を現さないかぎり無視する」
「分かりました。では――」
魔剣を引き抜き抜いたキルトレイヤは体から<魔闘術>系統を発動させると前進。
「バミアル!」
「キルトレイヤか!」
「ふふ、はい、シュウヤ様たちは直ぐに離脱するようです――」
「承知――」
バミアルと位置を交代するように跳び出たキルトレイヤは魔剣を上段から振るい下げながら四眼四腕の魔族との間合いを潰す。
四眼四腕の魔族は液体的な片足を震わせながらも魔剣の振るい下げに反応できない。
キルトレイヤの魔剣が四眼四腕の魔族の頭部を捉え、腹までを両断。
倒したように見えたが四眼四腕の魔族の液体的な片足は別の生き物の如く動く。
無数の蛇か、触手のような形となってキルトレイヤに襲い掛かった。
キルトレイヤは冷静に魔剣で弧を描く。飛来してきた触手の群れを斬る。
切断された触手だったモノは液体となって消えた。
魔剣を横に傾けたキルトレイヤは地面を蹴り、斜め前に跳んだ。
魔剣とマフラーが煌めく。
魔線と剣閃の煌めきが美しい。
魔剣の剣身が前列の四眼四腕の魔族たちの首に吸い込まれた。
斜陣前列の四眼四腕の魔族たちの首が一気に空に舞う。
制動もなくキルトレイヤは駆けた。
細長い片足の裏で地面を捉え蹴る。
と、体ごと魔剣を大きくさせながら、前のめりになる勢いで魔剣を突き出した。
突き出た魔剣の切っ先が、四眼四腕の魔族の体を突き抜け、そのモンスターの体を吹き飛ばしながら直進。片足がイソギンチャクから半透明な触手が飛来し、キルトレイヤの体に突き刺さっていくが、キルトレイヤは構わず他の四眼四腕の魔族に突進。
魔剣とキルトレイヤは数十の四眼四腕の魔族の体を貫く。
キルトレイヤと魔剣の勢いは止まらない。巨大な矢印となった如くの勢いで直進し、四眼四腕の魔族の斜陣を崩しきる。
キルトレイヤの躍動か。
バミアルに負けず劣らず凄まじい強さ。
マフラーから出た魔力が虹色の軌跡を描く。
紅虎の嵐で<従者長>のサラを思い出す。
バミアルは、その華麗なキルトレイヤの動きに呼応したように左から前に出た。
魔剣を右から左へと振るいながら横回転を行う。
そのバミアルの迅速な魔剣は四眼四腕の魔族の胴を抜く。
力強いバミアルは魔剣の剣筋は衰えないまま、次々と四眼四腕の魔族の胴体を捉え両断していく。
四眼四腕の魔族の片足から煙りが噴出し、それが当たって体の一部が火傷していたが、直ぐにバミアルの体は再生していた。
バミアルも豪快にモンスターを倒す。
と、俺の右腕の肉肢となっているイモリザがピクピクと動く。
イモリザもバミアルとキルトレイヤの躍動を直に見学したいんだろうな。
が、念の為、まだ右腕にいてもらう。すると、ヘルメが、
「いい動きですね」
「あぁ、ユイとカルードの動きを思い出す」
「はい、凄まじいです」
「はい」
グィヴァの発言にモイロが返事をして、皆が頷く。
そのグィヴァとヘルメは浮遊しながら少し進む。
バスラートが、
「魔剣の扱いと体の大きさの変化、それらを活かす武術は古バーヴァイ族独自のようですな」
と発言した。エトアは少し興奮した調子で、
「倒し方が豪快でちゅ!」
「にゃ~」
「にゃァ」
と語ると相棒と銀灰虎がトコトコと前を歩く。バミアルとキルトレイヤの戦いに参加するつもりはないと分かるが、見学かフォローするつもりなんだろう。
「ユイの凄腕具合は分かりますが、カルードさんも聞く限り、かなりの剣の腕前と聞いています。キッカの<血魔剣術>とは異なる凄腕と」
バーソロンの言葉に頷いた。
近くにいるバスラートとモイロは頷いた。
そして、ヘルメとグィヴァは真下に来た黒豹と銀灰虎に近付き乗っていた。
「にゃ~」
「ンン、にゃァ」
「ふふ、ロロ様の背中をゲットです。〝アメロロの猫魔服〟の感触は気持ちいいです」
「メトちゃんの背中をゲットです~」
と楽しそうに語る。黒豹と銀灰虎は馬を超える大きさだから、精霊の二人が乗ることにより、迫力が増したように見えた。
すると、背後で奮闘していたビュシエたちが戻ってきた。
「ご主人様、背後の四眼四腕の魔族の見た目のモンスターをすべて退治しました」
「おう、では、前から湧いてくるモンスターを倒したところで、撤退といこうか」
「はい」
ヴィーネから魔裁縫の女神アメンディ様に視線を向け、
「魔裁縫の女神アメンディ様、また転移は可能ですか?」
「はい、可能です」
と、答えてくれた魔裁縫の女神アメンディ様だが、周囲を見て不安気となった。
直ぐに転移をして魔界セブドラに帰りたい? といった印象を抱く。
元々戦闘は得意ではないはずだからな。




