千二百二十二話 バーヴァイ城の地下回廊から冥界シャロアルへ
光魔騎士グラドと光魔騎士ファトラは大ホールの出入り口の左右に立っている。
「ふふ、使者様が、地下回廊に冒険に旅立つ♪」
イモリザの歌が響く。
ケーゼンベルスと黒狼隊はいない。
沙・羅・貂もいない。
デラバイン族たちに新技の<御剣導技・風梛>を披露していたから、そのまま美しい葉の守袋を活かす剣術か、基礎の<御剣導技>の訓練でもやっているのか、指導でもしているのか、ついでに【バーヴァイ平原】の見回りでも行っているんだろうか。
すると、バスラートの後方から【グラナダの道】のミューラー隊長とイスラとキョウカが前に出て近付いてくる。
モイロも続いた。
「シュウヤ様、バスラートとモイロを頼みます」
バスラートとモイロは胸元の鎧に籠手の金属を当てていく。周囲の【グラナダの道】の皆も一斉に胸元に鎧に籠手の金属を当てていった。
渋い魔鋼族ベルマランの方々だ。
その皆に、
「おう、ミューラー隊長とイスラは俺たちとついてこないのか?」
「わたしたちは途中まで、ご一緒させてもらいます」
「了解した。地下も広いようだからな」
「はい、地下の表層エリアも広い。少しずつバーヴァイ城の地下に慣れていこうかと」
「分かった」
すると、デラバイン族の将校の一人キョウカが、
「シュウヤ様、ソフィーの幻獣ルバルを護衛に【グラナダの道】たちとバーヴァイ城の地下回廊を警邏したいと思います」
頷いた。
キョウカは、ソフィーに会釈。
ソフィーは俺たちに敬礼をしてくれた。
蒼い魔鳥トチュはさすがにいないか。
そのソフィーに敬礼を返してから、バーソロンに視線を向けた。
「はい、事前に連絡済み、見回り強化の一環です。地下回廊は【幻瞑暗黒回廊】とも通じていますし、不透明すぎるので、魔裁縫の女神アメンディ様の救出には、ついてこないように指示を出してあります」
バーソロンの言葉の後、ここにいるデラバイン族の兵士と将校たちは一斉に気をつけの体勢となった。
この辺りは、さすがの城主だ。
軍服系の防護服が似合うし、バーソロンは美人さんで格好いい。
自然とバーソロンをリスペクト。
バーソロン様と呼びたくなった。
そのバーソロンからミューラー隊長たちに向け、
「了解した。【グラナダの道】の皆も健闘を祈る。では、バーソロン、地下の先導を頼むとしよう」
「「「はい!」」」
「ん!」
「にゃご」
「にゃァごぉ」
黒猫は黒豹へと体を大きくさせた。
銀灰猫は銀灰虎へと体を大きくさせる。
「がんばりましょう」
「「「「「イエッサー!!」」」」」
「――使者様、魔獣アモパムは、ソフィーに預けて、わたしも使者様の第三の腕状態として冒険に参加したいです!」
「おう、来い」
「やった♪ では、皆さん、また会いましょう♪ 変身――」
と、イモリザは黄金芋虫に変化を遂げて、俺の右手に付着。
肩の竜頭装甲も呼応して、魔竜王バルドークの蒼眼を輝かせつつ、黄金芋虫のイモリザが通りやすいように半袖に変化させる。黄金芋虫のイモリザは右腕の肘で肉肢となった。
デラバイン族の兵士たちは、
「「「おぉ」」」
「イモリザ様の変化はいつ見ても不思議だ!」
「「はい!」」
と驚いている。
左前にいるエヴァが、
「ん、シュウヤは〝影心冥王ゼムラの冥印鍵〟を持っているから影心冥王ゼムラが接触してくるかも?」
と指摘。紫色の双眸のエヴァは真剣だ。頷いた。
「あるかもな」
「はい、冥界の神の一柱か諸侯の一人が影心冥王ゼムラ」
「おう。魔裁縫の女神アメンディ様を捕まえたドボログ・ガンバードも冥界の神か。更に獅子冥王ラハグカーンもいる。獅子獣人を巨大にした存在。前回は闇神アーディン様の片目から怪光線のようなビームで事なきを得たが……」
「獅子冥王ラハグカーンは宗主を狙っている印象です」
キッカの言葉に頷いた。そのキッカは、
「前にも話に出ましたが、宗主が塔烈中立都市セナアプアで戦った相手に、その信奉者がいたと聞いています」
頷いた。【白鯨の血長耳】の緊急会合のエセルハードの時だ。
あの時、空中戦で戦った中にカットマギーがいたんだよな。
今では<従者長>で塔烈中立都市セナアプアでは重要な戦力だ。
「影心冥王ゼムラ……最上級の神様かも知れない相手」
「その影心の名前と、ソフィーと幻獣たちに行った手段から、相手の心や精神を攻撃する搦め手が得意な相手かも知れません……」
キサラの言葉には警戒が溢れている。
ヴィーネも頷いて、
「冥界の神ドボログ・ガンバードよりも厄介な相手が、ゼムラかもですね」
皆の語りに頷いた。
「命を弄ぶ存在がゼムラ。魔界王子テーバロンテと等しく滅したい……」
少し怒気を込めて語ると、皆も頷いた。
が、傍にいたキサラとヴィーネとバーソロンは、俺の顔色の変化を見て、少し青ざめてしまった。少し笑みを意識して、
「……ごめん、今は余計なことはしない方向で行こうか」
「ふふ、はい」
すると、【グラナダの道】の皆に水を振り撒いて、各自の魔法防御力を上昇させていた常闇の水精霊ヘルメが、
「――バーソロンも言いましたが魔界と冥界の境目は不透明。前例もあるので要注意ですね。あ、閣下、左目に入っておきます」
「わたしは右目に」
「おう、了解」
「「はい――」」
ヘルメとグィヴァは一瞬で液体と稲妻のスパイラル状態のまま両目の中に飛び込んできた。
両目に精霊が格納される瞬間は痛くないが、なんとも言えない感触を得られて少し気持ちがいい。
「にゃ~」
黒豹は常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァの動きに釣られ前足を上げて反応していたが、階段の前に移動。
「ンンン」
足下にいた銀灰虎も相棒を追い掛ける。
その間に肩の竜頭装甲を意識し、
「ングゥゥィィ!」
と、古の光闇武行師デファイアルの仮面を装備した。
胸に心臓と渦の魔印が刻まれたハーフプレートのような魔鎧となる。
光闇武行師デファイアルは軽装っぽいがこれはこれでいい。
光の炎と闇の炎を纏ったベルト布はそのまま放置。
光と闇の魔力が活性化した。
……が、まだ<武行氣>は使わない。
背中の左右からベルト状の光の炎と闇の炎が伸びているが、それが巨大なバチのような幻影となって上下に動く。
太鼓は出現していないが、太鼓の音が響いた。
「「「きゃぁ」」」
デラバイン族の女性兵士たちには人気があるようだ。
素の筋肉が見えているからか?
ヴィーネとバーソロンは少しおろおろとしている。
嫉妬しているが、対処できないからだろう。
可愛いし面白い。
「「ふふ」」
キサラとキッカはそんな美女軍団の対応を見て笑っていた。
少し赤面となったバーソロン。
皆を見回してから「……では」と言って踵を返す。
大ホールをスタスタと歩いて階段を下りていった。
俺たちも階段を下りる。
先頭にバーソロンと黒豹と銀灰虎。
次鋒にビュシエ、キッカ、キサラ、キスマリ。
中堅に俺、エヴァ、ヴィーネ、フィナプルスが続く。
背後からミューラー隊長たちも遅れて付いてくる。
踊り場から地下通路を直進。
足早に先を進む。歩きながら<闇透纏視>の訓練を実行――バーソロンの後ろ姿から背中の後ろ正中線に、肩甲下線などにも、うっすらと魔点穴が浮き上がる。
そして、周囲の風の流れ的に闇色の魔力の流れが見えた。
不思議だが、魔力をちょいと消費する。
皆と一緒に地下通路を進む。
〝冥界と魔界の境目〟を目指した。
太い柱と柱があるところに到着。
天辺が、クリスタルの髑髏。
柱の表面には『地獄変相』のような絵柄が刻まれているのは変わらない。
バーソロンは<魔炎双剣ルクス>を発動。
右手と左手に炎の魔剣ルクス&バベルを出現させていた。
「あそこから下りましょう――」
先に行くバーソロンの足は速い。
闇雷の封泉シャロアルに入った時と同じく、いきなり敵が湧く可能性が高いってことか。
「了解――」
俺も右手に青炎槍カラカンを召喚。
左手に茨の凍迅魔槍ハヴァギイを召喚。
更に、アメンディの魔法布でもある<魔布伸縮>を意識して出した。
アメンディの魔法布から力強い虹色の魔線が一気に伸びた。虹色の魔線は階段の下へと続いている。
これなら案外早くに魔裁縫の女神アメンディ様が捕らわれている場所につけるか?
「ん」
エヴァもヌベファ金剛トンファーを出した。
「はい」
ヴィーネはガドリセスの赤燐の鞘からガドリセスを抜いた。
「行きましょう」
「はい」
キサラとビュシエもそれぞれ得物を召喚。
キサラが、
「モンスターの気配に要注意です」
皆が頷き、
「「「はい」」」
「ん、冥界シャロアルに入った直ぐに巨大な深海魚のようなモンスターが襲い掛かってきたってシュウヤは言っていた」
「はい」
バーソロンは冥界シャロアルを知るようで、
「湖の中を進んでいるようで、また少し違う。方向感覚が狂う。近くにいる味方にダメージを与えないように注意が必要です」
と発言した。
自分への戒めもあるだろう。
「「了解」」
「ん、分かった」
「周囲へと、大々的に光魔ルシヴァルの存在を知らしめることになるが……分泌吸の匂手か、<霊血の泉>を使えば、その辺りは平気だろう」
「豪毅な戦術ですが、視界が悪いならいい作戦ですね」
「あぁ、前は何もせずに、不意打ちを受けたからな。どうせ不意打ちされるなら最初から知らしめるのもありかと思った」
「ん」
「はい、あ、ここはもう、魔界と冥界の境目……モンスターの気配はありませんが、ここにもモンスターは湧くことがあると聞いています」
と発言したキッカは魔剣・月華忌憚の切っ先をだれもいない廊下の先に向けている。
「階段を下りたら、本当に冥界シャロアルです」
ビュシエの言葉に頷く。
皆の覚悟を見てから、
「では、相棒とメト。バスラートとモイロを乗せてくれ」
「あっ、歩く速度を考えてのことですね」
「そうだ。二人ともいいかな」
「当然です」
「はい」
「「ンン」」
黒豹は体を更に大きくさせると、バスラートの下で香箱で座る。
銀灰虎はそのままモイロの足下で香箱スタイルで座った。
バスラートとモイロは黒豹と銀灰虎に跨がった。
「にゃ~」
「にゃァ」
バスラートとモイロを乗せた二匹はバーソロンの直ぐ背後に移動する。
バーソロンは頷いてから、
「陛下、そのアメンディ様の魔法布による案内のほうが確実かと。わたしは最後尾に移動します」
「おう」
バーソロンは炎の魔剣ルクス&バベルから<ルクスの炎紐>に切り替えている。
前に出て階段に近付いた。
バーソロンと位置を交換するように前に出ながら<魔布伸縮>を意識し操作。
ゆらゆらと揺れる<魔布伸縮>のアメンディの魔法布から出ている虹色の魔線は階段の先をずっと差し続けている。
「では、黒豹と銀灰虎、少し後退してくれ。前衛はやはり俺が担当だ」
「にゃ~」
「にゃァ」
バスラートとモイロを乗せた黒豹と銀灰虎は後退。
俺は先に階段を跳ぶように下りていく――。
液体に包まれるような滑りの感覚を覚えた直後――。
斜め左右前方から深海魚のようなモンスターが襲い掛かってきた。
速やかに<魔布伸縮>のアメンディの魔法布を引く。
と同時に<武行氣>と<闘気玄装>を発動させながら前方に出て、右手の青炎槍カラカンで<血穿>を繰り出した。
青炎槍カラカンの<血魔力>の閃光的な直線状の血飛沫を右の視界に感じながら、やや遅れて左手が握る茨の凍迅魔槍ハヴァギイを前方に突き出す<水穿>を繰り出した。
青炎槍カラカンと茨の凍迅魔槍ハヴァギイの穂先が二匹の深海魚モンスターの頭部を穿つと体を両断する勢いで突き抜けた。
分断された深海魚モンスターの肉塊は左右に弾け飛ぶ。
「ん、いきなり敵!」
エヴァたちの声を背後に感じながら、
「あぁ、魔素は複数、まだまだ多い、前進し倒しまくるぞ――」
と発言し、<分泌吸の匂手>を実行――。
続きは今週を予定。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




