千二百十二話 幻魔ギルンの指造魔岩とド・バキリスの装身具
〝古淫魔女王ゲヘナの勾玉〟か。
魔力の薄さ具合に……。
呪神ココッブルゥンドズゥを思い出す。
今も魔霧の渦森に、像があるんだろうか。
「ん、〝古淫魔女王ゲヘナの勾玉〟は名前的にシュウヤが触っては、ダメなアイテムかも知れない」
「魔界セブドラには、悪のような女神や諸侯が多いようです。神話級ですし、鑑定眼を避けるための、魔力を偽装した罠かもですよ」
と鋭い。
エヴァとヴィーネの発言に皆が頷く。
「ヴィーネ、鋭い意見です。そして、その予想は考えていなかった」
「ふふ、はい」
キサラに褒められたヴィーネは嬉しそうだ。
別段にズレてないが、銀仮面の位置を少し直す。
照れた仕種もまた、美人さん。
ヴィーネは視線をミューラー隊長に向けて、「悪神という名は別にありますが、悪女系の魔界の神々や諸侯は多いようですから……」と発言。
ミューラー隊長は肩を揺らし、
「……ヴィーネ様。はい、この間皆さんに話をした際に登場した魔翼の花嫁レンシサと鴇母レムリア以外にも、悪夢の女神ヴァーミナ様、宵闇の女王レブラ様、淫魔の王女ディスペル様が有名でしょうか。異性の眷属や信者を翻弄する。特に淫魔の王女ディスペル様は神界魔界、セラと問わず異性の戦力を次々と魅了して堕としていることで有名です」
と語る。頷いた。
「「「……」」」
【グラナダの道】の面々は沈黙。
鋼の兜だから、皆の顔色は分からないが、なんとなく気持ちは分かった。
ミューラー隊長は体の動きだけで哀愁を醸し出す。
「ですが、セラにいるシュウヤ様に対して魔界騎士を初めて認めた魔界の神様が、悪夢の女神ヴァーミナ様と聞いています。悪夢の女神ヴァーミナ様に信仰は皆無ですが、そこは最大限にリスペクトしております」
「ん」
「サイデイルの時ですね」
「閣下とシュヘリアに接触してきたことを思い出します」
「「はい」」
「悪夢の女神ヴァーミナ様は本人は狭間を越えていませんが、何かしらのスキル、アイテムを使いリスクを背負って、狭間を越えてシュウヤ様にアクセスしてきた」
皆の言葉に頷いた。
ミューラー隊長たちや【バードイン迷宮】の刑務所組のキサラたちから過去話は聞いているのか沈黙しつつ話を聞いている。
ミューラー隊長は、
「そして、古淫魔女王ゲヘナですが、レンシサから名は聞いたことがあります」
「お?」
「廃れた魔神の一つだと、『あぁ、昔は知らないけど、魔界セブドラの古い民たち、名は忘れたけど、その村の民から僅かに信仰心を得ているだけの哀れな存在よ』と喋っていました」
「「おぉ」」
「その村はレンシサが治める地方にあるってことかな」
「はい、多分……」
「なら、取っといて、その村の民に返還したほうが良さそうだな」
「「「はい」」」
「ん、賛成」
皆も頷いた。
「では、〝古淫魔女王ゲヘナの勾玉〟だが、俺が預かる。〝ブハタベの謎箱〟も俺がもらおう」
「「はい」」
「閣下、〝ブハタベの謎箱〟に挑戦し、契約を結ぶのですか?」
「挑戦は、今はしない。で、バーソロン、〝ゲンシヤの柄巻〟を取っといてくれ」
バーソロンは皆に向け、お辞儀。黒と赤が混じる髪は綺麗だ。
髪留めもお洒落。
「はい、では、失礼をして魔王級魔族ゲンシヤが使っていた魔杖とも似ている〝ゲンシヤの柄巻〟を――」
と発言し、机の上の〝ゲンシヤの柄巻〟を右手で掴む。
魔力を通すと、漆黒と深紅と藤紫の刃が放射口から迸る。
「「おぉ」」
「魔剣と同じ……しかも伝説級か……」
「凄い武器だ。バーソロン様はだれに授けるのだろうか……」
ざわざわ、ざわざわ、とデラバイン族の兵士たちと将校がざわめく。
気持ちは分かる。ムラサメブレード系のような魔杖は渋いからな。
が、ゲンシヤの柄巻の放射口は鋼の柄巻とは造りが異なる。
そして、バーソロンの魔力に呼応して柄巻の内部から魔刃を生み出しているエネルギー源が気になったが……バーソロンは、そのゲンシヤの柄巻の魔刃を眺めてから静かに頷いて魔力を止めた。
バーソロンは、ただのゲンシヤの柄巻となってから、それをアイテムボックスに仕舞う。
さて、次の、
「ラムー、装身具と魔宝石の鑑定を頼む」
「はい、お任せを――」
直ぐに霊魔宝箱鑑定杖に魔力を通し、先端の水晶から灰色の魔力が迸った。
灰色の魔力が当たった装身具は煌めかない。
だが、鑑定に成功したようだ。ラムーは頷いた。
「名は、〝ド・バキリスの装身具〟ユニーク級、防具に装着しますと、身体能力が向上し重い荷物が持てるようになるようです。では、次の――」
今と同じく霊魔宝箱鑑定杖に魔力を注いだラムー。
魔宝石は灰色の魔力を受けると僅かに煌めいた。
ラムーは頷く。
「名は、〝幻魔ギルンの指造魔岩〟伝説級で、第一種に近い第二種危険指定アイテムです。この〝幻魔ギルンの指造魔岩〟に魔力を注ぐと好きな指が潰れますが、指の位置に〝幻魔ギルンの指造魔岩〟が嵌まり込み新たな〝魔造指〟を得る。または、〝幻魔ギルンの魔契約指〟となる。その幻魔ギルンの魔契約指となれば、侵食されるかもです。しかし、同時に<幻魔指>のスキルなど、<幻魔指・??>系統のスキルの獲得ができるチャンスが得られるようです」
「おぉぉ」
「でも、指が潰れる……」
「<幻魔指>系統か……」
「光魔ルシヴァルなら?」
「皆さんなら、最初の指が潰れても、再生しますから、〝幻魔ギルンの指造魔岩〟が嵌まり込まないかも知れません」
ラムーの言葉に皆が頷く。
キサラが、
「自分の指を触媒に幻魔ギルンの指を移植し、強い指を得ますが、本人が幻魔ギルンに操られる可能性もありますね」
「あぁ、第二種危険指定アイテムだからな。危険は危険だが……精神力が高く、また格闘を主力にする方ならいい装備になりえるか?」
「……それは、はい」
「でも指が、自分の指でなくなるのは、嫌……」
「はい。変化するのは怖いです」
エヴァとキサラの言葉に皆が頷く。
ヴィーネは、
「ご主人様のようにハルホンクがあれば、違うと思うのですが」
と発言。
肩の竜頭装甲が喰ったら<幻魔指>のスキルだけを得られるか?
が、ただの魔力の餌になる場合もあるかもだ。
「ングゥゥィィ! ナカナカ、ウマソウダ、ゾォイ!」
「ウマカッチャンとなるか。だが槍使いの俺が覚えてもなぁ。魔造指自体が、武器になるのもパイルバンカー好きには浪漫ある。しかし、長柄の握りの感覚は変えたくない」
「……はい。では、拳を武器にする……サルジン辺りのお土産にしますか?」
ヘルメの発言だ。
獣顔のモヒカンの頭髪が特徴でヒャッハーなサルジンか。
血魔剣と関係している外宇宙の理ソレグレン派の吸血鬼の一人。
現在、サイデイルの防衛チームの一員。
「それはいいかも知れない。とりあえず、〝幻魔ギルンの指造魔岩〟は俺が保管しとくが、いいかな」
「「はい」」
「ん」
続きは、今度こそ今週を予定となるかも。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。」1巻~20巻発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




