千二百十一話 キスマリとポーさんの情報と〝ブハタベの謎箱〟
「トウラン・バフハールはマーマインに討ち取られていたのか! そして戦公バフハールの知り合いだったとはな」
六眼『トゥヴァン族』のキスマリも知らなかったようだ。
ラムーの言葉を聞いた皆は、少し驚きつつ隣にいる者たちと会話をしていく。
俺は皆を見て、
「トウラン・バフハールさんの頭部、狂眼トグマの親戚で戦公バフハールの従兄弟とか大物だな」
と語る。
皆が頷いた。
キサラとヘルメは、
「はい、ハルちゃんの吸収する機会かと思いましたが、これは交渉用でしょうか」
「そのほうがいいかと」
二人の発言に頷く。
ヴィーネたちも頷いた。
意見を求めるようにポーさんを凝視し、
「ポーさんとムクラウエモンが魔法紋の書に嵌められる切っ掛けとなった片方の戦公バフハールさんは、今も生きているのかな」
ポーさんは頷いて、
「魔界セブドラですから、絶対はないですが、生きているはず。魔大公ペルスウェールに負けるとは思えない」
と発言。
そのポーさんの肩に乗っている魔蛙ムクラウエモンが、
「げろげろ、げろげろ(あぁ、勝利するか退いているだろう)」
「生きているなら、この魔族の頭部は返すか。ハルホンクが喰えば、<戦眼ラララギ>を得られるかも知れないが、それは無し」
「賛成です」
「ん」
「「はい」」
「そうですね。トウラン・バフハールの従兄弟の頭部ですから、埋葬したいと考えるかもです。返還したら、ハザルハードを討ち取ったご主人様は、恩を得た形となる」
ヴィーネの言葉に皆が頷いた。
が、疑問がある。そのことを皆に、
「戦公バフハールだが、ヴァクリゼ族を代表する立場なのかな」
「違います」
「あ、そうなのですか」
ヴィーネが聞いていた。
キサラとエヴァも驚きながら、ポーさんを見る。
バーソロンとビュシエは微かに頷く。
戦公バフハールは、ヴァクリゼ族ではないと知っていたか。
「げろげろ、げろげーろ、げろげろ、げろげーろ。(だいたい、戦うことばかりのヴァクリゼ族は知らんことのほうが多いぞ。そしてほぼほぼ四眼四腕がヴァクリゼだったからなぁ。戦公バフハールの魔族の名は違うかもだ。が、眼の数だけだから親戚と呼べる魔族なんだと思うぜ。鑑定にもあったしな)」
とムクラウエモンが語る。
頷いた。
「バフハールさんの魔族が、ヴァクリゼ族と親しい間柄ってことか」
「はい、そのはず」
「四眼四腕の魔族は魔界に多いです」
「はい、四眼四腕で有名なのは、ヴァクリゼ、シクルゼ族、デクルゼ族ですが、多種多様にいます。セラで言うなら亜種、吸血鬼で言うなら分派、分家ですね」
バーソロンとビュシエの解説に皆が頷いた。
ポーさんは、
「狂眼トグマよりも古い魔族が戦公バフハール。その関係から、たまたま四眼四腕の魔族と同盟を組む機会があった縁の可能性もありまする。妻、子供、そのまた子供……など。それとも実は、真のヴァクリゼ族の族長が……戦公バフハールの可能性も、長い戦いの螺旋の影響で、片眼だけになっただけかも知れません。詳しくは知りませんが、四眼四腕の魔族たちには、秘話や伝承が多い。眼、魔眼に関する『朱豪醗眼』、『魔靱鳴神』、『欲王巴魔復』、『魔鳴破雷』、『嵐死沸眼』、『泡武眼』、『木守姥眼』、などのスキルと関連した言葉は、噂で聞いたことがあります」
「眼の伝説か……」
「ポーは博識だ。我らの祖先が使う『欲王・巴魔復』の名を聞こうとはな」
と、キスマリが発言。
六眼のトゥヴァン族は欲望の魔王ザンスインを信奉していることが多いのかな。
そのキスマリは傷痕が痛々しい二眼を擦りつつ、俺に向け、
「主、戦公バフハールは有名だが、我は戦場で見たことがない。そして、強さ的に単なるヴァクリゼ族ではないと思うぞ」
と発言した。頷く。
キスマリもセラに来るまで魔界大戦を潜り抜けていたからな。
ビュシエの過去の記憶を共有した際に見えた戦公バフハールは二眼の隻眼に見えた。
吸血神ルグナド様も驚いていたように、戦公バフハールは強い存在だろう。
ヴァクリゼ族の族長なら、もっと前に出ているはずだ。
大きな笠を被る浪人のような印象の戦公バフハールは強そうだったなぁ。
戦公バフハールがエイゲルバン城に現れた理由にはトウラン・バフハールを探していたから?
マーマインのハザルハードが暗躍し【ローグバント山脈】に根を張る前とか、色々とありそうだが、これはいくら予想をしても切りが無い。
魔蛙ムクラウエモンに視線を向けると、
「げろげろ、げろげーろ、げろげろ、げろげろーん、いっさむ、げろーん、げろろ~。(主、俺とポーは別段にバフハールに恨みはないからな。幻獣大魔事典パジースを扱う魔大公ペルスウェールと幻魔百鬼夜行書主を使うバフハールとの争いに巻きこまれただけだ。だから、接触したいなら協力するぜ。と、格好付けるが、バフハールは本拠地を持たない。戦と博打と魔酒が好きなバガボンド。まず会おうと思って会えるタイプではないのだ。あ、無類の魔酒好きだから、魔酒で有名な【キューリントンの万魔酒場】か【ゼガサッチの魔荏粕群】、【ホーブスルタンの魔酒滓大谷】にいるかもな」
と長く鳴くと皆静まった。
皆に向け、
「ムクラは、戦公バフハールは魔酒が好きらしいから、その魔酒と関係している土地の名を教えてくれた」
と通訳をした。
「ん、魔酒の土地は先生が喜ぶ」
「あぁ、塔烈中立都市セナアプアでの仕事が一段落したら、呼ぶのもいいかもな」
「ん!」
エヴァの笑顔を見て癒やされた。
エヴァはいつもセラの皆のことを考えていると分かる。
ま、それはセラ組の皆か……。
さて、
「四眼の魔族の頭部は仕舞う。では、ラムー〝小箱〟を頼む」
「はい――」
霊魔宝箱鑑定杖を翳し次々と鑑定を行う。
「名は〝ブハタベの謎箱〟、階級は不明。魔力を込めると、契約が可能のようですが、謎です。中身も読めませんでした。呪いはないと分かりますが、契約となると、不透明です。次の柄巻の名は〝ゲンシヤの柄巻〟階級は伝説級。製作者は不明です。魔王級魔族ゲンシヤが長く使っていたようです。何度もあった魔界大戦を生き抜いたようですが消息は出ていません。次は、歪な勾玉。名は、〝古淫魔女王ゲヘナの勾玉〟、神話級。ですが、見た目からも分かると思いますが、魔力は薄まっていて、魔力を送っても反応があるかどうか微妙なところですね。では、魔力回復ポーションを飲みます――」
と、ラムーは革袋を触る。
直ぐに周囲に魔法の膜を展開させて、鋼の兜を脱ぐ。
魔力を回復ポーションを飲む姿も見慣れた。
「ブハタベの謎箱か……契約が可能ってのもな。〝ゲンシヤの柄巻〟はバーソロンに預けとく。部下に回してくれ」
「はい! 有り難き幸せ!」
「「「おぉぉ」」」
「〝古淫魔女王ゲヘナの勾玉〟も皆にあげようと思うが、どうだろう……」
続きは今週を予定。
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