千二百十話 <白炎明鬯穿>スキル獲得とキサラとミレイヴァルとの槍稽古
「ラムーと皆、少し試すから待ってくれ――」
「はい」
「「「ハイ!」」」
「ん」
「ふふ、はい、ご主人様なら、うずうずしてくると思いました」
次の鑑定に移る前に仙王槍スーウィンを掴み引く。
肩の竜頭装甲を意識。
古の光闇武行師デファイアルの仮面を装備。
一瞬で、光闇武行師の衣装に様変わり――。
心臓の鼓動音が心地良い。
心臓と渦の魔印が刻まれたハーフプレートの魔鎧と衣装を装着。
<経脈自在>と<武行氣>を行いながら歩く。
闇色と白色の炎が陰陽太極図の小さい模様を幾つも俺の周囲に発生していった。
光と闇の飛沫、火末と呼べる無数の魔力粒子が体から放出されていく。
同時に仙王槍スーウィンに魔力を込めつつ足下に<生活魔法>の水を敷く。
<闘気玄装>と<水神の呼び声>をも発動――。
仙王槍スーウィンの穂先が震動しつつ、穂先と柄から風と水の泡のような魔力が発生。
「「わぁ~」」
「今、一瞬、水神アクレシス様の水飛沫が!」
「はい、ヘルメ様となんか少し似ていたような気がしますが……」
「わたしとですか?」
「はい」
と、皆の会話が始まっている。
最中にも、清々しい風と水の泡のような魔力は子精霊の形となる。
そして、俺の体の<武行氣>と関連した火末のような魔力と、光闇武行師の衣装から出ている闇色と白色の炎と混じりながら大気に消えていく。
「今度はデボンチッチたちが見えました!」
「はい、不思議です……」
「神界セウロスの勢力圏に湧くデボンチッチたちか……」
「やはり、神界側の御方でもあるのだな……」
速度が加速した。
スキルではないが修業による新たなる武術知見の獲得は大きい。
――そして、右腕ごと槍になった如くの仙王槍スーウィンで普通に<刺突>。
と、仙王槍スーウィンの穂先の表面に水の膜が出来ると、その水の穂先の形をした穂先が少しだけ前に出ると、水飛沫を発して消えた。
そのまま、少し動きを止めた――拍手が響く。
「「素敵!」」
「槍の間合いがいかに長いか分かりますね」
「「「はい」」」
「今、<刺突>の穂先から水の穂先が出たように見えました」
「はい、一瞬ですが見えました」
「<闘気玄装>との相性がいいと鑑定結果にありましたからね」
「ん!」
「はい!」
「はい!」
「なるほど」
皆が納得していく。
次に、仙王槍スーウィンごと真っ直ぐ伸びていた右手を広げた。
落下した仙王槍スーウィンを、左手で掬うように持ち、左腕を引き、同時に右手へと移し替えながら風槍流『風握り』を行う。
【白炎王山】に住まう仙王スーウィン家か――。
一歩、二歩、三歩、四歩、五歩、六歩、七歩、八歩――。
と前に出ながら重心を下げつつ体幹だけで前進。
足下の水を利用しつつ左右の足を前後させて――。
小川が滔々と流れるがままを連想させるようなステップワークを行いながら<龍豪閃>を繰り返す訓練を続けた。
「うつほ・かせ――」
「「ほ・みつ・はに」」
沙・羅・貂たちが神界セウロスに至る道と関係する神事と儀式の言葉を、俺の槍の動きに合わせて叫んでいた。
「仙王槍スーウィンを最後に使いし者は――」
「水の相即仗者であり水の即仗を持つ存在なり――」
「その者、水を知り闇を知り光を知る――」
「一即多、多即一を理解する希有な者、調和を齎す一即多、多即一を実行しえる――」
皆の言葉と共に活力が増えて<闘気玄装>が強くなった。
仙王槍スーウィンから清々しい息吹を感じ取る。
白炎王山が近くに感じられた。
同時にミレイヴァルの破迅槍流と閃皇槍流を想像しつつ仙王槍スーウィンを振るって<豪閃>から<刺突>を流れるように繰り出して<勁力槍>を意識発動。
そして、<闇雷・飛閃>――。
風と共に一部の机と椅子を切断してしまった。構わず――。
直線機動で連続的に<刺突>。
ミレイヴァルの<一式・閃霊穿>のような鋭さはないが――。
破迅槍流開祖のミレイヴァル。
閃皇槍流も扱える。凄い武人だ。
「――陛下はわたしの……」
ミレイヴァルは破迅槍流と閃皇槍流を参考にしているのに気付いた。
エヴァとキサラも「ん――」「シュウヤ様の動きを見ると興奮してきます――」と俺の動きに合わせて得物を横に振っていた。
可愛いから修業を止めたくなる。
いかん、と修業に集中――。
厨房側に近付いたところで、体幹を活かすように踵から根が生えた如くの急ストップ。
同時に左手が握る仙王槍スーウィンを前方に突き出す<刺突>――。
またも、仙王槍スーウィンの穂先の表に水の膜が出来上がっていた。
――<水刺突>?
と思ったところで水の膜はパッと銀色に閃光染みた炎に変化しながら銀の炎は大気と衝突しているかのようにドドッと鈍い音を響かせて消える。
ピコーン※<白炎明鬯穿>※スキル獲得※
「「「おぉ」」」
「閃光のような槍技……」
「神界セウロスの言葉と、白炎王山の仙王槍スーウィンの言葉とリズムに、ミレイヴァルの閃皇槍流も参考していたようだが……」
「ふふ……嬉しいです。そして、なんという才能の高さでしょう」
「ご主人様! 仙王槍スーウィンで新スキルを!?」
「にゃごぉ~」
「ちゅい~」
銀灰猫とアモパムもテルミット反応のような<白炎明鬯穿>の一瞬の輝きを見て驚きの鳴き声を発して、逃げていた。
厨宰と庖丁師の方々と共に離れた。
「おう、獲得した<白炎明鬯穿>だ」
「「「「おぉ~」」」」
仙王槍スーウィンの柄に右手を添えながら右手の掌に仙王槍スーウィンを移す。
左に横回転――同時に、俺に近付く敵を想定し――。
右手の仙王槍スーウィンの石突を素早く上げた。
迅速な斬り下げ攻撃を、石突で受けて弾いたと想定し――。
反撃の穂先を下から三日月の絵を描くように振るう<豪閃>を繰り出す。
続けざまに風槍流『異踏』を左右に行い、軸をずらして、複数の槍衾を避けた。と、想定。
更に斜め右前からユイとアキレス師匠と似た、凄腕魔剣師と凄腕槍使いに間合いを詰められたと想定――。
俄に<山岳斧槍・滔天槍術>を意識。
ユイと似た凄腕魔剣師の<飛剣・柊返し>のスキル攻撃を一の槍で防ぎ切る。
すると、アキレス師匠と似た凄腕槍使いが――。
『一の槍は、単純だが、単純だからこそ、無限の枝が生まれ風の哲理を内包した一の槍は、万事を得るとなるのじゃぞ! これが風槍流内観法極位――』
厳しい稽古途中のアキレス師匠とダブる。
師匠――仙王槍スーウィンの柄を右手、左手に変幻自在に変化させる<山岳斧槍・滔天槍術>の基礎を使い、アキレス師匠と似た凄腕槍使いの槍舞を防ぎ切ったと、と、想定。
「「「「「おぉぉぉ」」」」」
「我もまざりたい稽古だ!!!」
地響きのような歓声が響く。
そのまま横回転と足を交互に後方へと動かしながら仙王槍スーウィンの柄を左右の防御に回す風槍流『風柳』を行う。
「「「きゃ~」」」
「ズボンと靴の衣装も素敵です~」
「はい~白銀と闇色の玉の飾りが渋すぎる~」
闇色のズボンと靴に小さい白銀と闇色の勾玉のようなアクセサリーは女性陣に人気が高いようだ。
動きを遅めつつ深呼吸するように再び<武行氣>を強く意識すると、
「シュウヤ様、お供を――」
「陛下、わたしもお供いたします――」
キサラとミレイヴァルが、俺に寄る。
「我も出たかったが、この戦いも見物か」
六眼キスマリは先ほどもまざりたいと叫んでいたが、槍使い同士の二対一も面白いようだな。
と、あまり周囲に気を配っている暇はない。
キサラは左からダモアヌンの魔槍を振るい、
ミレイヴァルは右から聖槍シャルマッハで、俺の首と腹を交互に突いてくる。
正直、普通の強者だったら、ミレイヴァルの上下の振り分け攻撃に対処ができてもキサラの胴払いで、おだぶつだろう。
が、仙王槍スーウィンと一槍は、だてに実戦は重ねていない。
聖槍シャルマッハの二回連続突きを石突で弾き、ダモアヌンの魔槍の払いを仙王槍スーウィンの柄で受けながら退いた。
後退するが
「読んでいます――」
「――はい!」
キサラとミレイヴァルは<魔闘術>系統を強めて前進。
連続的に俺の胸と腹を狙うように突いてきた。
――二人とも手加減無しだな――。
<山岳斧槍・滔天槍術>を意識し、発動。
二人の突きと払いを、正確に仙王槍スーウィンの柄と穂先で防ぐ。
が、正確だからこそ、痛ッ、柄を握る指を数本持っていかれた――。
<山岳斧槍・滔天槍術>に対応してくる二人が槍の女神様に見えてくる。
前に出て、と、<刺突>のモーションからフェイク――。
左右に動きながらキサラに<龍豪閃>、ダモアヌンの魔槍で防ぐ。同時に、体勢を崩したように見せかけての下段への<魔経舞踊・蹴殺回し>――。
ミレイヴァルは素直に後退。
後退したミレイヴァルのフォローにキサラが俺の足を刈る<豪閃>系の薙ぎ払いを繰り出してくる。それを仙王槍スーウィンの穂先で防ぐ。
続けて雷のような魔力を体から放ったミレイヴァルの迅速な突きが頭部に迫る。
俄に、仙王槍スーウィンを上げて、石突で聖槍シャルマッハの突きを防ぐ。
「……<一式・閃霊穿>が防がれた!」
と、キサラが俺の足を連続で突いては、腕を正確に突いてきた。
キサラの下段突きでズボンが斬られた。
ミレイヴァルも直ぐに立ち直って、俺の腹を突いてくる。
さすがの二人。が、そこを狙う。
すべての<魔闘術>系統を弱めた――。
直ぐに<魔闘術>系統を強める。
強弱を付けた。
同時に左右に振った仙王槍スーウィンで二人をふるいにかける。
そして、凄腕だからこそ阿吽の呼吸はできてしまうもの――。
<血道第三・開門>――。
<血液加速>を発動――。
仙王槍スーウィンに魔力を通す――。
<戦神グンダルンの昂揚>と<破壊神ゲルセルクの心得>を意識し実行。
仙王槍スーウィンを横に傾け前に押す。
揃った動きのキサラとミレイヴァルのダモアヌンの魔槍と聖槍シャルマッハの穂先と衝突した仙王槍スーウィンの柄は直進し、ダモアヌンの魔槍と聖槍シャルマッハの穂先を上に往なすことに成功。
そのまま仙王槍スーウィンを二人に預ける風槍流『枝預け』を実行――。
「「え!?」」
キサラとミレイヴァルは反応が遅れた。
そして、横に退かされていた机と椅子を破壊してしまうと躊躇したこともあるか。
俺の仙王槍スーウィンを胸元で持った形となる。
ガラ空きの二人の両足を左足で掬うように蹴り上げた。
「「きゃぁ」」
と転倒させた。
「「「おぉ」」」
「<筆頭従者長>とミレイヴァル様がいとも簡単に……」
「すげぇ」
「というか、最後、見えなかったぞ」
「……シュウヤ様は得物を二人に預けていた。さくっと足を刈っただけだが、陛下は槍の天才だ」
「「「おぉ」」」
バーソロンの語りに皆が、興奮したように叫ぶ。
その間にキサラとミレイヴァルを抱き上げつつ、すべての<魔闘術>系統を終わらせた。
「二人とも大丈夫か?」
「あ、はい」
「ありがとうございます、陛下、強かった……」
と、二人とハグをしてから、離した。
仙王槍スーウィンをそこで仕舞う。
装備もハルホンクの防護服を意識し、古の光闇武行師デファイアルの仮面を脱いだ。
「ングゥゥィィ」
ラムーに〝四眼を持つ魔族の頭部〟を見ながら、
「ラムー、四眼魔族の頭部の鑑定を頼む」
「はい」
「……気になる」
キスマリが前に出ると、ラムーは頷いて、霊魔宝箱鑑定杖に魔力を通した。
霊魔宝箱鑑定杖の先端に嵌まる灰色の水晶が俄に輝き、そこから迸った灰色の魔力が四眼魔族の頭部と衝突し、光を失っていた四眼が怪しく光り始めた。
ラムーは頷いて、
「名は、トウラン・バフハール。ヴァクリゼ族で、戦公バフハールの従兄弟、狂眼トグマの親戚で、四腕の魔剣師でもあったようです。ハザルハードが、トウラン・バフハールの四眼に内包されていた<戦眼ラララギ>を手中収めるために吸収したようですね」
「へぇ……」
続きは今週。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。
コミックス1巻-3巻発売中。




