千二百九話 夢追い袋と無魔の手袋と仙王槍スーウィンの鑑定
皆に、
「では、コツェンツアの魔槍を仕舞う」
「はい」
コツェンツアの魔槍を戦闘型デバイスのアイテムボックスに仕舞った。
無魔の手袋も出して、夢追い袋の隣に置く。
「次は、魔法袋の夢追い袋と無魔の手袋の鑑定も頼む」
「はい、任せてください」
ラムーは直ぐに霊魔宝箱鑑定杖の先端を、夢追い袋に向ける。
霊魔宝箱鑑定杖に魔力を通すと、先端の灰色の水晶から灰色の魔力が出て、夢追い袋に当たった。ラムーは頷く。
直ぐに霊魔宝箱鑑定杖を無魔の手袋にも翳し、魔力を送ると、先端の灰色の水晶から灰色の魔力が無魔の手袋に当たった。
ラムーは頷いて霊魔宝箱鑑定杖を下ろす。
「袋の名は〝夢追い袋〟、階級は不明。夢魔世界の素材で造られたアイテムボックス。製作者も不明。第一種危険指定アイテム類などどんな呪いの品も仕舞うことが可能なアイテムボックスのようです。手袋の名は……〝無魔の手袋〟、階級は不明。これも夢魔世界の素材で造られた。無魔の手袋を装備していれば、どんな呪いの品だろう掴むことが可能で、手袋以外の素肌に、呪いの品が触れても、大抵は呪いを防ぐようです」
「「「「おぉ」」」」
【グラナダの道】の魔鋼族ベルマランの面々が驚きの声を発していた。
皆、頭部をすっぽりと包む鋼の兜や鋼の仮面を被っているから、声質は全員がくぐもっている。この食堂はコンサートホールのような吹き抜けの造りだから響く。
地響きが起きたようにも感じた。
「……無魔の手袋を装備しているだけで、全身に効果が及ぶのは知りませんでした」
「はい、とはいえ、呪いの品を皮膚に触れさせたくはないですよね」
「「はい」」
「ん」
「ですね」
皆と共に頷く。エヴァは、
「ん、無魔の手袋を装備していれば、精神的な呪い攻撃も防げる?」
とラムーに聞いていた。
ラムーは、
「はい、多分大抵の呪い系の精神攻撃を防げるでしょう」
「ん、無魔の手袋は優秀」
「あぁ、ゼレナードたちは優秀だった」
「たしかに、白色の貴婦人勢力はオセべリア王国のアルゼの街、古代狼族など無数の勢力が犇めいていた樹海を越えて、南マハハイム地方のすべてを手中に収めんとする勢いでしたからね。ゼレナードの配下ケマチュンたち死の旅人の連中は【ギルティクラウン】のメンバーを倒していましたし……」
「聖ギルド連盟の刻印バスターの五番ドルガルですね」
「「はい」」
「犠牲は多い」
「今にして思えば、俺たちの同胞を殺されたのと同じこと」
「あ、はい……」
ヴィーネの言葉に頷いた。
皆、塔烈中立都市セナアプアの冒険者ギルドマスターでもあるキッカを見た。
キッカは頷いて、
「樹海の白き貴婦人の騒乱……聖ギルド連盟の【秩序の掟】の賢者ソーシス様は異変に気付いていたようですが……」
と、そこで言葉を止めた。
エヴァは、
「ん、塔烈中立都市セナアプアも忙しいから仕方ない」
キッカは頷く。
するとヴィーネが、
「はい、強力な【白鯨の血長耳】がいますが……評議員議長ネドーと副議長のドイガルガの空魔法士隊と空戦魔導師に子飼いの複数の闇ギルドだけでも、その戦力は凄まじいです」
と思い出しながら語ると、キサラが、
「ですね、数え切れないほどの闇の組織の枠組み【闇の枢軸会議】もありますし……」
「「……」」
ヴィーネ、エヴァ、ミレイヴァル、フィナプルス、バーソロンはそれぞれを見るように頷いていた。魔獣アモパムの傍にいたイモリザも此方に来て一緒に渋い顔色を浮かべていく。
ココアミルク肌のイモリザは小柄で可愛いから渋さを出そうとしても、可愛いしか言葉が浮かばない。
すると、ヴィーネが、
「【闇の八巨星】の組織もその範疇です。しかも下界の【血銀昆虫の街】には【魔の扉】のバルミュグがいた【テーバロンテの償い】とライカンの勢力などもいた。あぁ【魔術総武会】も絡んでいましたから、まさに跳梁跋扈の伏魔殿が塔烈中立都市セナアプアでしたから」
ヴィーネが思い出しながら語る。
キッカを含めた皆が頷いた。
バーソロンは、
「しかも、ネドーは己の死を察知していたのか不明ですが、己の魂と魔界王子テーバロンテの眷属バルミュグさえも利用し、強力な魔人へ転生、〝魔王錬成〟を試みたようですからね、とんでもない老獪な人族ですよ」
たしかに……。
バーソロンはバルミュグが持っていた魔杖バーソロンの中に意識の一部が内包していたから、塔烈中立都市セナアプアの下界の闇はよく知っている。
ヴィーネは、
「ですから、樹海のゼレナードの動きに対応しろと言われても、それは難しいというかできないかと」
「はい」
キッカも納得。
キサラは、
「ユイやヴィーネにサザーから聞きましたが、〝雀〟という名の船宿での、オフィーリアの演技も凄かったと聞いていますよ」
「ん、白色の紋章除去もあった」
「あぁ、ありました……はい……まさに激動の歴史、わたしたちは凄まじい作戦を実行したんですね」
ヴィーネがしみじみと語る。
頷いた。というか、マジで俺はよくやったと思う……。
「……ん、あの時はクナたちと心配してた。白き貴婦人のゼレナードたちがいる本部に忍び込む前の重要な作戦。ママニとサザー、墓掘り人のサルジンとカルードたちはアルゼの街に行った。フレデリカの屋敷の占拠も難しい任務、皆がんばった」
「……はい、たしかに。わたしはケマチュンとロンハンにイライラしてしまった。ロンハンの首を本気で刎ねたかった……オフィーリアもがんばってくれました。ツラヌキ団の人質の無事の確認もありましたね」
と、ヴィーネが思い出すように語る。
あの時のギリギリの戦いをよく知るメンバーが頷く。
キッカは真剣な顔付きで話を聞いていた。
俺はユイと一緒に、樹海を移動していたロンハンとダヴィを追ったんだったな。
<無影歩>があって良かった。
そして、<無影歩>の発展に繋がるかも知れない大きな針か杭の〝コグロウの大針〟に魔力を通してみたいところだ。
「……ゼレナードは、ミスティの祖先たち【星鉱独立都市ギュスターブ】を潰し、魔神具を設置して、そこに暮らしていた住民たちの体と魂を利用していた。凄まじい強敵でしたからね」
「樹海に一大拠点を築き上げていたゼレナードでした」
皆が頷く。
キッカは、
「……話を聞けば聞くほど、背筋が寒くなりますが、そんな大物中の大物、SSS級と呼べる、災厄のような存在の大魔術師ゼレナードを倒せた皆さんが凄すぎる! ゼレナード討伐の事象は、アルゼではそれなりに知れ渡っているようですが、本当ならば、もっともっと多数の方々に知ってもらうべき事象、南マハハイム地方全体の歴史に刻まれるべき大偉業です」
と力強く発言。皆が頷いた。
ヴィーネは誇らしげに、
「それはごもっとも、しかし、ご主人様は名声はあまり気にしていない様子ですから」
と発言。
「ふふ」
キサラも優し氣に微笑んで、胸元に手を当てている。
闇と光の運び手と言いたげだが、最近はあまり言わない。
「ん、隠れた英雄がシュウヤ! 南マハハイム地方全体を救った英雄!」
エヴァの誇らしげな顔が可愛い。
そして、嬉しい。が、正直言えば皆だ。その想いを、
「英雄、そうだな。あの作戦に参加した皆が英雄だろう」
「「「ふふ、はい!」」」
「はい!」
「ん!」
ヴィーネ、キサラ、ヘルメ、エヴァは笑みを浮かべつつ右拳をコツンと突き合わせる。
イモリザは交ざりたそうにしたが、まざってこなかった。
ビュシエも皆からサイデイルと樹海の話は聞いていると思うが、興味深そうに話を聞いていた。
キッカは、
「ギルド秘鍵書の無償返還の件を初めて聞いた時、わたしは、驚きを通り越えて、光神か! とドミタスに叫んでいましたから……」
可愛いキッカが逆水平チョップ的なノリツッコミを入れる姿を想像してしまった。
キッカは話を続けて、
「アルゼの聖ギルド連盟の……涙を浮かべたファルファの語りは忘れられない。あの時は本当に感動しました。更に、秩序の神オリミール様も、宗主を気に入る理由もよく分かる……そして、ギルドカードの進化に聖ギルド連盟の本部から洗礼召喚状、塔烈中立都市セナアプアの緊急依頼のすべてを解決に導いたのは、宗主ですからね。先ほども、わたしたち家族が宗主の血と愛を求めて寄っても、嫌な顔をせずに、己の血と愛を分けてくださいましたし……優しくて……あぁ、今も自然と心が奮えてきます……」
キッカの眼が揺れていた。
マジな顔も美しい。その言葉に照れる。
皆と一緒に沙・羅・貂たちも頷いている。
そんな照れを隠すように、皆に、
「……我ながらゼレナードをよく倒せたもんだ、な? 相棒」
「にゃ~」
足下に来ていた黒猫に話を振ると、同意するように鳴いてくれた。
あの時、ゼレナードに強烈な紅蓮な炎を繰り出してくれた。
相棒がいてくれて本当に良かった。
そんな黒猫のつぶらな瞳には、俺が映っている。
可愛い。
共に、樹海の平和を、南マハハイム地方の平和を守るためがんばった。
さて、次の鑑定をラムーに頼むかな。
ラムーは俺たちが過去話で盛り上がっている最中に、魔力回復ポーションを飲んでくれていたから準備は万全だ。
そして、ラムーを含めた【グラナダの道】と【バードイン迷宮】の刑務所組に黒狼隊とデラバイン族の将校たちと兵士たちの一部には、セラのゼレナードとネドーの話は、なんのこっちゃって話だっただろう。
バーソロンもバルミュグの魔杖バーソロンで得ていた色々な出来事は、傍にいた護衛部隊の一部にしか話をしていなかったようだからな。
「……さて、ラムー。次の品の鑑定を頼むとして、〝青炎槍カラカン〟は、俺が使っていいかな」
「「はい!」」
「<天賦の魔才>を持つ閣下ですからね。当然です。覚えられるスキルも魅力的で他のスキルに応用が可能になるかも知れないですし」
「たしかに」
キサラたちの言葉に頷いた。
〝青炎槍カラカン〟を仕舞う。
続いて〝ゲヒュベリアンの念想送眼〟と無魔の手袋と夢追い袋を回収。
そして、〝茨の凍迅魔槍ハヴァギイ〟と〝仙王鼬族の人形〟と〝背が甲羅と融合している仙武人の人形〟を机に出した。
「ラムー、まずは、そこの仙王槍スーウィンの鑑定を頼む」
「はい」
霊魔宝箱鑑定杖を翳す。
先ほどと同じく霊魔宝箱鑑定杖から出た魔力が仙王槍スーウィンに当たる。
ラムーは頷いて、
「名は、〝仙王槍スーウィン〟階級は神話級。製作者は不明。神槍の曰くがあるようで、神界セウロスの白炎王山と仙鼬籬の森と三神山と八大龍王の争いに巻きこまれた理由から、仙王槍スーウィンとなったようですね……白蛇竜大神イン様を崇める仙王スーウィン家の秘宝として永く秘密の場所に保管されていた。魔力を通すと、穂先の切れ味が増す。アイテム破壊能力が上昇する。突き系統スキル全般が威力と速度が上昇し、仙剣・仙槍の秘奥譜『闘気玄装』と『玄智・明鬯組手』の効力が増える。<仙魔・桂馬歩法>とも相性が良いだろう。白炎王山に関係したスキル類を覚えることがあるようです。また、〝仙王槍スーウィンを最後に使いし者は、水の相即仗者であり水の即仗を持つ存在なり、と。その者、水を知り闇を知り光を知る、一即多、多即一を理解する希有な者、調和を齎す一即多、多即一を実行しえる……槍使い、まさに、水鏡の槍使いが最後の仙王槍スーウィンの使い手となるだろう〟と言葉がありました」
「「……」」
少し静まる。
「「「「「おぉ」」」」」
「神界セウロスの秘宝が、仙王槍スーウィン!!!」
続きは明日を予定しますが、スターフィールドに旅立つので無理かも知れない。
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コミックス1巻~3巻発売中。




