千二百八話 妖艶な血の交換とコツェンツアの魔槍を再度鑑定
ヴィーネは、「ご主人様――」と小走りに寄ってきた。
俺の〝古魔将アギュシュタンの髑髏指環〟を凝視。
「髑髏の指環の形状ですが、双眸のない頭部の飾りが随分と小さくなりましたね」
「あぁ、ナックル的に使えるかな――」
冗談を言いながらヴィーネが見やすいように〝古魔将アギュシュタンの髑髏指環〟を嵌めている指を向ける。
「ふふ、触っても?」
「おう」
ヴィーネは俺の掌を指でなぞり触りながら〝古魔将アギュシュタンの髑髏指環〟の表面を触りまくる。
「ふふ、ざらざらして、滑らかな部分が鋼鉄的です。たしかにこれは拳の武器に使えるかも知れない」
「あの、わたしも触ってみたいです」
「了解」
キサラも傍に来ると沙・羅・貂たちも寄ってくる。
「妾もじゃ」
「わたしも触りたいです」
「はい、わたしも!」
「ん、わたしも」
「いいぞ」
キサラとエヴァと沙・羅・貂とビュシエが、俺の掌を奪い合うように〝古魔将アギュシュタンの髑髏指環〟を触っていく。
が、もはや〝古魔将アギュシュタンの髑髏指環〟はどうでもいいように、俺の手と腕と体の奪い合いになった。
エヴァが少しリードし、右手首の戦闘型デバイスを触る。
そのまま俺の右手を持ち上げて胸元に頬を寄せると抱きついてきた。
「……ん、アギュシュタンの首切りのスキルを見た時、怖かったけど、シュウヤなら勝つと分かってた」
と語るエヴァは、最初は皆と同じくふざけている部分もあったと思うが、真面目な表情となっていた。
心配かけたな、と思いながら、
「あぁ、魔大刀シスーって名の魔大刀も特別だった」
「ん」
エヴァの笑顔に癒やされる。
すると、
「――ご主人様、先ほど、体に無数の傷を受けていました、調べないといけません」
「はい、他にも傷があるかもです?」
「あるに違いない!」
「古魔将アギュシュタンは見知らぬ血剣術を扱っていたからな!」
「はい!」
「ですね!」
「ん!」
「はい!」
とヴィーネとキサラと沙・羅・貂とキッカとエヴァが、俺の腕を交互に引っ張っては抱きつきを繰り返してくる。
バニラの匂いと<血魔力>を寄越すヴィーネは積極的だ。
先ほどからして、少し興奮していたからな――。
ヴィーネは俺の首筋を少し噛むと、一人で「アァァ……」といってしまう。
そんなヴィーネを抱きしめてあげると、ヴィーネは失神しかかってストンと乙女座りとなって、体を痙攣させる。女の匂いを漂わせてきた。
ヴィーネの右手が俺の大事なところを触ってきたが、キサラが弾く。
そんなキサラを抱きしめながら<血魔力>を送ると今度はキサラが「アァァ」と微かな喘ぎ声を発しながら俺の首筋に犬歯を立ててきた。
ビュシエも「陛下の血――」と反対側の首を噛まれた。
もう、おっぱいサンドイッチどころではない。
キッカも小さいハート型の穴が空いた衣装が押し潰れんばかりの勢いで、俺を抱きしめてくる。
眼は少し充血していた。
そのキッカに<血魔力>を含んだキスをプレゼントするとキッカは、
「ぁぁ、宗主の熱い<血魔力>は……<血道・魔脈>を……超える……アァァ……」
と恍惚としは表情のまま呟いて倒れ掛かる。
背中を支えてあげると、
キッカは「ぁん」と体をブルッと震わせて濃厚な女の匂いを漂わせてきた。
もう、顔が真っ赤なキッカだったが、恥ずかしそうに己の顔を俺の胸で隠すように預けてきた。
そんな調子で皆と、なんどもえっちなスキンシップをしていると、薄着のハルホンクの防具服だから、ダイレクトに感じて、おっきが止まらない。
『ふふふ、妖艶な血の交換ですが、皆の純粋な愛の鼓動がわたしの心を奮わせます! あん、ぁぁ……御使い様の素敵な一物が興奮状態に~羨ましい血の交換です♪』
「はい、そこまで、閣下の腕と大事な部分が取れてしまいます!」
とヘルメが笑いながら止めてくれた。
妖艶な雰囲気となっていた皆はヘルメの言葉を聞いてから、「「「は、はい!」」」と返事をしながら自重してくれた。
「わ、分かりました~」
「と、取れないと思いますが、分かりました~」
皆を注意したヘルメだったが、デラバイン族の兵士たちに見えないように《水幕》を展開してくれていた気が利く精霊ちゃんだ。
「ん、精霊様、ありがと。バーソロンに血文字を送る」
「は、はい。少し興奮してしまいました。では、わたしはサシィに血文字を送ります――」
「ここで褥の儀式を……」
一回強く抱きしめただけな沙だったが、何か勘違いをしては、スキルを発動したのか、透き通った衣が重なったような布団を石畳に用意していた。
「あぁ、もう、沙! ここでは褥はしませんよ!」
「はい、ふふ、沙の気持ちは分かりますが、まだ、鑑定の品が残っているんです。先に行きましょう」
「わ、分かってる!」
沙は少し恥ずかしそうな表情を浮かべて、浮遊しつつ石畳から芝生が拡がる場所に出ては、ラムーたちがいる兵舎に向かう。羅と貂も
「器様、先に戻ります。それと先の抱擁と按摩は気持ち良かったです、嬉しかった……」
「貂、火照っているのは分かりますが、沙が凄い顔付きで睨んでますよ?」
「あ、ふふ、では」
「ふふ、器様、先に行きますね」
「おう、羅も気持ち良かった」
「……ぁ、はい――」
恥ずかしそうな羅が可愛かった。
と沙・羅・貂たちは先に戻る。
一方、相棒と銀灰猫はケーゼンベルスと黒狼隊たちと遊ぶように会話をしていた。光魔騎士ファトラと光魔騎士グラドはデラバイン族の兵士たちと共に俺に向けて敬礼を取り続けてくれていた。
「皆、稽古の中断させて悪かった。俺たちは、残りの品の鑑定をやってもらいに兵舎に戻るから、訓練を再開してくれ」
「「「「はい!」」」」
デラバイン族の兵士たちの気合い声に頷いた。
「ウォン! 主、我も鑑定の品を見たいぞ、先に行く!」
「おう」
黒猫たちを残して、魔皇獣咆ケーゼンベルスは駆けていく。
リューリュにケンなど黒狼隊は残ったままだが、自由だな。
ヴィーネとキサラは黒狼隊の三人に、兵舎の食堂にいる霊魔宝箱鑑定杖を持つラムーのことや、アイテムの鑑定結果の内容を伝えていく。
シタンに視線を向けると、そのシタンは面頬を動かし、
「主、最優先事項ノ〝魔ノ扉ノ鏡ノ守リ〟ノ任務ニ戻ル!」
と気合い溢れる渋い声で発言。
魔豪大剣ビララフを右手から消す。
と自動的に魔豪大剣ビララフがシタンの背中に装着されていた。
そのシタンと背後の本丸建物を見上げながら、
「了解した、引き続き魔の扉の鏡の守護と城主の間の近辺の防衛を頼む。そして、アギュシュタンに対して割り込む動きはいい動きだった。城の外でも内でも、異変を感じたら出て対処していい。そのまま見知らぬ敵に対処してくれ」
「ハッ! 恐悦至極!! デハッ!」
「おう」
シタンは踵を返すと跳躍して飛行を開始。
飛行しながら己の周囲に火の玉を出現させつつ本丸建物の高い位置で壁際を沿うように旋回を始めて城主の間に向かった。
侍風のシタンの姿を見て光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスと会いたくなった。
ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡をゼメタスとアドモスの骨盾に格納できるか挑戦してもらうのもありだが……グルガンヌ地方での活動の最中にいきなり呼びつけるのもなぁ。
「ンン、にゃ~」
「にゃ~」
相棒と銀灰猫はシタンの飛行を少し追い掛けた。
が、二匹は直ぐに反転し、石畳の上を猫まっしぐらと勢い良く走る。
俺たちを越えて兵舎の魔塔のほうへと走っていった。
魔皇獣咆ケーゼンベルスの後を追ったかな。
魔獣アモパムとイモリザはここに来ていない。
イモリザなら来ていてもおかしくなかったが、アモパムこと、ちゅいちゃんは、デラバイン族の厨宰と庖丁師の方々が披露していた煮物の汁を一生懸命吸っていたからな。
「ん、ロロちゃんたち速い! シュウヤ、わたしたちも戻ろう」
「おう、行こうか」
「「「はい!」」」
皆と一緒に歩き出す。
エヴァは魔導車椅子に座りながらスイスイと移動していく。
そのエヴァと、ビュシエ、ヴィーネ、キッカ、キサラ、沙・羅・貂たちは歩きのペースで、俺が獲得した<魔将アギュシュタン使役>スキル、<神譚ノ血刀式>の恒久スキル、<地母神キシュヌの血大刀>、<血印・血魔大刀キシュヌ>、<血印・零式>のスキルとマイナーな地母神について語り合っていた。
すると、ヴィーネが、ビュシエの隣に移動し、
「ビュシエ、アギュシュタンの鑑定結果から沈黙が多いが、地母神キシュヌと吸血神ルグナド様と、他の<筆頭従者長>との間で、何か諍いがあるのか?」
と指摘してきた。
ヴィーネは皆が気になっていたことを代表したつもりかな。
一気に周囲の会話が止まり、皆がビュシエを注目していく。
そういえば、先ほどもビュシエの語りには皆も注目していた。
吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>、女帝だった存在だ。
それでいて魔王ビュシエ・エイヴィハンでもあるんだからな。
自然とリスペクトするし、超絶の美人さんだから、見ているだけで癒やされる。
<血魔力>で造り上げた眼鏡を消したビュシエは俺をチラッと見てから〝古魔将アギュシュタンの髑髏指環〟を見て、
「……地母神キシュヌとの関係は分かりません。あったとしてもルグナド様とササ・モモの間だけかと思います。それと……<筆頭従者長>ササ・モモですが諍いといいますか……血の姉妹でしたから、諍いの範疇ではないのですが、少々……その、はい……」
何か含みを持たせる。
途中からヴィーネではなく俺を凝視してきた。
俺とササ・モモの事柄か?
「どうした?」
と聞くと、先ほどのエッチな<血魔力>の交換を思い出したのか、頬を斑に朱色に染める。
「あ、い、いえ」
「ん、ササ・モモは美人?」
「……はい……」
「「「なるほど」」」
ヴィーネたちはビュシエが何を言おうとしているのか気付いたようだ。
ヴィーネは、
「吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>ササ・モモは現在も生きて精力的に活動中ということですね」
「はい、強いですから生きているはずです」
「「「「……」」」」
その後皆はアイコンタクト。
鋭い眼で俺を一瞬見ては頷き合う。
キサラも蒼い目は綺麗だが、鋭いと黒魔女教団の魔女としての怖さを出すから少しびびる。
その皆は何事もなかったようにスタスタと先を歩き始めた。
するとヴィーネが、
「ご主人様、鑑定の品、まだ出していないのもありますよね、さ、行きましょう」
と話を切り替えてきた。涼しげな空気感が流れる。
「おう」
皆、吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>のササ・モモと、俺が仲良くなることを警戒したか。
古魔将アギュシュタンを通して、ササ・モモと仲良くなるフラグが立ったと判断したようだ。
鋭い<筆頭従者長>たち。
が、先を歩くビュシエに、
「アギュシュタンは客将扱いでササ・モモの配下として軍に参加していたと、で、魔大刀シスーのことを聞かせてくれ」
「……はい、ヴェルマラフノを討伐など戦果を上げたアギュシュタンに、ササ・モモは、〝魔大刀シスー〟と〝ヴェルマラフノ右血腕〟を授けたようですね。吸血神ルグナド様の許可も得ていたと思います。吸血神ルグナド様も【血大刀キシュヌの地】を豪族ヴェルマラフノから奪い返せたことを喜んでいた。そして、吸血神ルグナド様はササ・モモに【血大刀キシュヌの地】を任せていました。個人的に地母神キシュヌについて何か命令を出していたかもです。しかし、わたしにはわたしの任務がありましたから、聞いていないですね」
「そっか」
「……はい」
俺に地母神キシュヌが語りかけてきたのは、魔大刀シスーの<血魔力>を吸収したからだろう。
アギュシュタンが持つ魔大刀シスーの内部に地母神キシュヌは宿っているようだな。
地母神は、ここは魔界セブドラだが、セラと同じ荒神や呪神の範疇なんだろうか。
そんなことを考えながら、バーソロンと【グラナダの道】の面々がいる魔塔の前に到着。
そこにいた馬魔獣ベイルが、グラドと俺に向け、
「ブブゥゥ――」
と鳴きながら頭部を寄せてくれた。
馬魔獣ベイルの鼻息は荒いが、つぶらな目目が可愛い。
大きな鼻を俺の頬に寄せてくれた。
馬魔獣ベイルからの鼻キスは嬉しかった。
「ベイル、ありがとう」
「ブブゥゥ~」
と、喉を震わせるような息を発して応えてくれた。
可愛い馬魔獣ベイルだ――。
馬魔獣ベイルの首下を撫でてあげた。
グラドにアイコンタクトすると、彼は黙ったまま会釈。
俺も頷きを返してから、馬魔獣ベイルをポンと優しく叩いてから、先に魔塔の中に入る。タイルっぽい床の食堂から地続きの廊下に足を踏み入れた。
背後から光魔騎士ファトラと光魔騎士グラドも続く。
直ぐ背後にヴィーネたちも続いた。
廊下から直ぐに開けた食堂となる。
机は先ほど退かされているから広い。
皆の笑い声と熱気に溢れた魔素が俺たちを駆け抜けた。
そこの中心にいるバーソロンとミューラー隊長たちが、一斉に胸元に籠手の金属部位を当てて金属音を打ち鳴らす。
蜘蛛娘アキたちも真似をするように胸元に手を当てていく。
更に少し前に出て、
「陛下、お帰りなさい!」
「主様♪ 〝古魔将アギュシュタンの髑髏指環〟を装備している♪」
「「おぉ」」
「シュウヤ様、古魔将アギュシュタンの使役おめでとうございます」
「「「おめでとうございます!」」」
「「バーソロン様から聞きました!」」
「陛下なら、楽に契約はできると思ってましたぜ」
「あぁ!」
【グラナダの道】と【バードイン迷宮】の刑務所組とロズコたちに魔傭兵ラジャガ戦団の皆が、元気な声を発して祝福してくれた。
「おう、ただいまだ」
と言いながらミジャイとハイタッチ。
ミジャイはヘルメとヴィーネとキサラともハイタッチをしていく。
「おぉぉ、美人さんの眷属軍団とのハイタッチは楽しい!!!」
と、ミジャイは大興奮して叫ぶと、仲間の魔傭兵ラジャガ戦団にダイブしている。
ロックコンサートのノッている客に見えた。魔傭兵ラジャガ戦団の皆はスルーはしないで、受け止めてあげていた。優しい連中だ。
皆で笑いながらバーソロンたちがいる机に向かう。
鑑定済みと鑑定前のアイテムが置いてある机の周囲に将校たち、アチ、ターチベル、デン、ドサチ、ベイア、キョウカ、ベンが仁王立ち。結構な迫力だ。
「ンン、にゃぉ~」
「にゃ、にゃ~」
厨房の前にいる相棒たちは、餌は食べずに、猫じゃらし的なアイテムで遊んでいた。
「ちゅぃちゃんです♪」
「ふふ、茶色の毛毛で、汁を吸い取るなんて面白いです♪」
「イモリザ殿、魔獣アモパムこと、ちゅいちゃんは、食事をゆっくりと取ることが多いのです。そのまま静観して様子を見守りましょう」
「はーい♪」
ポーさんは魔獣の先生と化している。
イモリザと魔獣アモパムもいるが、アモパムは、毛でまだ汁を吸っている最中だった。
さて、
「ラムー。次の品の鑑定を頼むとして、コツェンツアの魔槍を頼む。一応結果は分かっているが、源左の土地に【コツェンツアの碑石】があるからな、それ関係の何かが出るかもと思っての鑑定だ」
「はい」
霊魔宝箱鑑定杖に魔力を込めたラムー。
一瞬で、霊魔宝箱鑑定杖から出た魔力が当たるとコツェンツアの魔槍が光を帯びた。
ラムーは頷く。
「真っ赤な大身槍ですね、名は、コツェンツアの魔槍、伝説級。アクアンという古代ドワーフの鍛冶屋が魔人コツェンツアから狭重赤鋼という金属を受け取り、その金属を元に鍛え上げられた逸品。流離いの稀人の血を引く魔人コツェンツアは狭重赤鋼を【源左サシィの槍斧ヶ丘】で入手したようです」
「へぇ、だから【源左サシィの槍斧ヶ丘】に【コツェンツアの碑石】があったのか」
「ん、凄い、歴史を解明した」
「はい、ラムーと霊魔宝箱鑑定杖は、豹獣人のキズユル爺のアイテム鑑定人のレベルを超えている」
「「「おぉ」」」
「「【グラナダの道】!」」
「ラムーは、シュウヤ様に早速恩を返せているから、少し羨ましいが、我らの誇りだな」
「「あぁ」」
ラムーは【グラナダの道】の面々に褒められて満更でもないのか、後頭部を掻くようなポーズを取った。籠手と後頭部の金属面が擦れて金属音が響く。
小気味良い金属音を聞ききながら、【グラナダの道】の絆を感じられて幸せな気分となった。
続きは明日かも。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。」1巻~20巻発売中
コミックス1巻~3巻発売中。




