千二百七話 <地母神キシュヌの血大刀>のスキルを獲得
古魔将アギュシュタンの大柄な体が横回転し、右腕が千切れながら吹き飛ぶ――。
更に古魔将アギュシュタンの体に風と雷の刃のような形の切り傷が無数に発生し、血飛沫を発しながら二回転――。
<魔雷ノ風穿>の威力は凄まじい。
古魔将アギュシュタンの千切れた血肉が塵状に魔力粒子となって俺に飛来し、<血魔力>を発した魔大刀シスーも真上に凄まじい勢いで回転していく。
その魔大刀シスーからも<血魔力>が飛来してきた。
その魔大刀の<血魔力>とアギュシュタンの魔力粒子を自然と吸い寄せる。
刹那――。
視界がいきなり反転――。
見知らぬ崖上を斜めから見下ろす視点となった。
見知らぬ崖上ではアギュシュタンと手勢が大柄の美人魔族と、その手勢と戦っていた。
大柄の美人魔族の斜め上空には、巨大な魔大刀を持つ女神のような存在がはっきりと浮いていた。巨大な八芒星のような魔法陣を背後に浮かばせている。
バビロニアの星座の意味にも見えた。
その女神のような存在は白色と紫色の長い髪。
額に髪飾りを備え、耳はエルフっぽく菱形の耳飾りを装備している。
額の端に二つの異物な角を生やしていた。
スリット入りのクロスドレスを着ているから鎖骨と豊かな乳房の上部分が見えていた。
アギュシュタンは大太刀を振るい<飛剣・柊返し>のような剣術スキルを繰り出しながら前進し、一度に数名を屠る。
更に、大太刀以外にも髪の毛を刃に変えて近付く槍衾をすべて防ぐと、跳ね返し、百八十度の方角に大太刀から魔刃を飛ばし、槍使いたちを大量に屠る。
あの魔刃のスキルは俺には出さなかった。
と、アギュシュタンは前進し、右半身を傾ける剣術からいきなり体を反転させる動きの剣術で、近付く魔剣師たちを次々に斬り伏せながら前進。
籠手のような防具で相手の剣を防ぎ、下段回し蹴りをも披露しては軽く跳躍しながら横回転斬りで、周囲の死体ごと近付く魔剣師の首を刎ねていた。
そのまま全身を使うように、崖上の敵を無双して倒しまくる。
大柄で美人な魔族が率いている手勢と隊長クラスを倒しきったアギュシュタン――。
背後の手勢に指示を飛ばすと、一人で大柄の美人魔族に突進。
大柄の美人魔族も魔刀、得物は、あれ? 魔大刀シスーか?
その魔大刀を持つ。あぁ、この時はアギュシュタンはまだ魔大刀シスーを持っていないのか。
アギュシュタンと美人魔族は、互いに叫ぶ。
――叫びがスキルか。衝撃波で、周囲の死体と背後にいたアギュシュタンの手勢たちも吹き飛びながら体が破裂していた。
と、美人魔族の頭上から、高らかな嗤い声が響く。
今の叫びの衝撃波のようなスキルは女神の効果か。
互いに吹き飛んで崖上が崩壊。
アギュシュタンと美人魔族は崩壊した岩と岩を両足で蹴り潰しながら、跳んで斬り合う。
宙空で、アギュシュタンと美人魔族が交差する度に、剣閃の煌めきが何度も起きる。
アギュシュタンの大太刀と美人魔族の魔大刀シスーが何度も衝突し合った。
互いに体に切り傷が増えていく。
百合以上は打ち合ったか?
そのまま二人は崖下の岩場に戦いが移行すると、突兀とした岩を互いに蹴り飛ばし、岩を利用した戦いに移行する。<超能力精神>のような衝撃波があるように見えたが、ここからでは分からない。更に岩場を滑り降りた二人は得物を衝突し合い互いの腹を蹴り合って吹き飛びながら森林地帯へと戦いは移った。
その森で、互いの前進。
二人は、二人の急所を正確に狙う。
魔大刀と魔大刀シスーが衝突し、滑るように斬り合う。
と互いの指が数本切断され飛ぶ。
片腕をも切断されて飛ぶが、指も腕も直ぐに回復していく二人。
続けて、<黒呪鸞鳥剣>と<蓬茨・水月夜烏剣>のような剣技が衝突。
一瞬で、周囲の木々と草花はすべて斬り刻まれた。
そこからまたも数百合は打ち合ったところで、アギュシュタンが<魔闘術>系統を強める。
下段突きから振り上げにフェイクを数度交えた剣術を披露。
続けて、右回しから左回しの一閃の連舞を繰り出すと、美人魔族は押された。
美人魔族を見守っていた魔神、女神のような存在は、焦ったように悲鳴を放つ。
アギュシュタンは体が一瞬硬直。
美人魔族はチャンスと判断し、魔大刀シスーごと体を前進させる。
鋭い突き技がアギュシュタンの頭部付近を穿つかと思われた。
が、アギュシュタンは<闘鮫霊功>か? のような<魔闘術>を纏うと動きが俄に加速する。そのままアギュシュタンの得物が美人魔族の首を捉えた。
クロスカウンターの突きが決まる。
アギュシュタンはそのまま横に移動し、大太刀を振るう。
刃毀れが激しかったが、強引に美人魔族の首を刎ねていた。
アギュシュタンは、攻撃を止めない流れるまま大太刀を返し、美人魔族の腹を両断。
が、美人魔族は女神の力で体が一瞬で回復。
美人魔族を回復させた女神は、笑うと、いきなり振り返って俺を見てきた。
え? これは記憶だと思うが、緑色の魔力を有した魔眼か。
『……定命の範疇の者が、我の因果律を引き寄せているとは……ん? なるほど……ただの定命の範疇ではないのだな――』
女神の思念が俺の心に直に響いてきた。
その間にも、下の戦いは続く。
アギュシュタンは美人魔族の回復を見越していたのか。
衝撃波のようなスキルを発しながら加速し魔大刀を振るいまくる。
連続した剣舞を繰り出した。
美人魔族の魔大刀シスーを弾くと、体と頭部を何度も斬り刻んだ。
更に髪を刃に変えながら、己の口をも武器にして美人魔族を喰らうように倒しきる。
倒された美人魔族を見守っていた女神のような存在は俺を睨む。
美人魔族が持っていた魔大刀シスーの中に吸い込まれるように消える。
ピコーン※<神譚ノ血刀式>※恒久スキル獲得※
ピコーン※<地母神キシュヌの血大刀>恒久スキル獲得※
ピコーン※<血印・血魔大刀キシュヌ>スキル獲得※
ピコーン※<血印・零式>スキル獲得※
おぉ、スキルを色々と獲得!
一気に視界は現実に戻った。
アギュシュタンは回転しながら兵舎にまで吹き飛ぶ勢いだったが液体のような髪の毛が集積すると、魔大刀シスーに絡んで、石畳にも突き刺さりまくる。
それらの髪の毛を緩衝材に古魔将アギュシュタンは<魔雷ノ風穿>の衝撃を殺すと魔大刀シスーを左手に引き戻し、体から<血魔力>と薄い金色と紺色の魔力を噴出させながら腰を捻って揃えた両足の爪先から石畳に着地していた。
イモリザの銀髪や、十本の黒い爪を地面に刺して衝撃を殺すやり方に似ている。
細かな髪の毛が大量に突き刺さっていた石畳は孔だらけとなっていた。
あの髪の毛も武器として使えると思うが俺には使わなかった。
アギュシュタンは象牙のような質感の髪の毛を収斂させてミディアムの長さにした。
アギュシュタンの後頭部に多い角は銀色が多いから髪の毛の色合いと被っていない。
そして、飛び道具的なのは、近距離から中距離にかけての<血魔力>の刃のみか。
古魔将アギュシュタンは剣術によほどの自信と誇りがあったんだと分かる。
立った古魔将アギュシュタンはゆっくりと頭部を此方に向けた。
笑顔を見せつつ左手が持つ魔大刀シスーをシュッと振って地面に突き刺した。
左腕を胸元に上げた。
と、右腕も動かしたつもりだったのか千切れかけた太い右腕を見る。
古魔将アギュシュタンは、そのあらぬ方向へと捻れ曲がって血飛沫を発していた右腕を凝視すると、瞬時に、右腕は捻れながら元通りの右腕へと再生させた。
更に全身から紺色と血色が混じる魔力を噴出させる。
と、再生させた右腕を胸元に上げて、左手と右手を合わせて拱手し、
「――参った! これで第五関門完了となる――」
と叫び、頭部を下げてきた。
ピコーン※<魔将アギュシュタン使役>※スキル獲得※
「了解」
魔槍杖バルドークを消した。
古の光闇武行師デファイアルの仮面を外す。
深呼吸するように<武行氣>と<魔闘術>系統を終わらせた。
<血脈冥想>を実行しつつ古魔将アギュシュタンを見据えた。
古魔将アギュシュタンは少しだけ歩いてから、片膝で地面を突き頭を垂れて、
「――我が主。見事な槍捌きでした。この古魔将アギュシュタン、正式にお仕え申す……」
と言うと、古魔将アギュシュタンは魔大刀シスーを引き寄せながら一瞬で〝髑髏の指環〟に戻り飛来――俺の眼前に浮いていた。
魔大刀シスーも内包しているのかな。
「「「おぉぉぉ」」」
「「「「ウォォォン!」」」」
「「陛下は強い!!!」」
「見に来たら器が大勝利!」
「はい!」
「でも古魔将アギュシュタンは指環に戻ってしまいました!」
皆が騒ぐ。
髑髏の指環の形状は先ほどより小さい。
双眸はないが、凹んでいる部分が双眸の位置だと分かる。
エナメルっぽさがある髪の毛と無数の角はしっかりと再現されていた。
大きさはミニチュア化したからこれなら髑髏の指環状態で、古魔将アギュシュタンを持ち歩いてでも平気か。
「閣下! 古魔将アギュシュタンを使役したのですね!」
皆に向け、
「おう、使役し装備となった。<魔将アギュシュタン使役>スキルと、<神譚ノ血刀式>の恒久スキルと<地母神キシュヌの血大刀>と、<血印・血魔大刀キシュヌ>と<血印・零式>などを得た」
「「「「おぉ」」」
「新しい血に関する剣術を!」
「ウォン、髑髏の指環をゲットした主が、またも進化した!」
「器の進化は底が知れないが、妾の<御剣導技>も覚えてほしいぞ!」
「ふふ、ここは魔界ですから仕方ありません」
「それに器様は古魔将アギュシュタンとの勝負を得て、知見を得て、自然と新しい剣術を獲得したんですから」
「うむ」
「私の血剣術とも異なるようですね……」
「……<地母神キシュヌの血太刀>とは、地母神キシュヌ様と関係があると思いますが、聞いたことない魔神様です」
「同じく、聞いたことがない神様です」
皆も同意見か静まる。シタンは沈黙。
ビュシエに視線が集まった。ビュシエは頷いて、
「古い魔神ですね。地母神と呼ばれていることもあり、吸血神ルグナド様の所領の土地に同じ名があります」
と発言。
「「おぉ」」
「そんな古い神様と陛下が……」
「閣下の探索すべき土地が増えました」
「ひとまずのシュウヤ様、古魔将アギュシュタンの使役、お見事です」
「おう、皆も今の戦いと新しい剣術は気になると思うが、まだ鑑定の品はあるから、ラムーのところに戻るか」
「「「はい」」」
続きは、今週。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。」1~20巻、発売中。
コミックス1巻~3巻




