千二百四話 セナアプアに現れる幻の血沼の真実と、古魔将アギュシュタンとの邂逅
2023年8月27日 1時21分 修正
ラムーとミューラー隊長に、
「血沼の幻の誓いとは?」
と聞くと、ヴィーネたちも机の鑑定の品ではなくラムーたちを注視した。
ラムーはミューラー隊長を見るとミューラー隊長は頷いて俺に視線を向け、
「魔界王子ライランと魔界王子テーバロンテが行ったとされる密約の名です」
「北のライランの諸勢力は同盟関係になる場合が多いと聞いたことがありますが、密約があったのですね」
「バーソロンは知らなかったのか」
「はい、わたしたちが担当していたのは【バーヴァイ平原】と隣接している悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの領域の軍隊が相手です。背には魔皇獣咆ケーゼンベルスの【ケーゼンベルスの魔樹海】もありました。【ケーゼンベルスの魔樹海】を越えてのマーマインと源左の【ローグバント山脈】と【源左サシィの槍斧ヶ丘】の戦力もありますが、それはあまり眼中になかった。そして【メイジナの大街】と【サネハダ街道街】にいる大魔商のデン・マッハ、ゲンナイ・ヒラガ、パイルド・モトハなどの闇商人や魔商人とも呼ばれている闇商人連合との付き合いもありました」
バーソロンの語りに、デラバイン族の将校たちが一斉に敬礼を行う。
やや遅れて、デラバイン族の兵士たちも続いた。
渋い動きだ。
ビュシエは、
「私も聞いたことがある。魔界王子同士の同盟は随分と前からです。魔界王子が揃った時の連携攻撃はかなり凶悪と聞きました。あの暴虐の王ボシアド様と闇神リヴォグラフ様を直に撃退したとのことです」
「……ライランとテーバロンテと同時に戦っていたら、俺は負けていたかも知れないな」
と俺が発言すると、一部の者たちから動揺したような声が走った。
ビュシエも驚いたように瞳孔を散大させて収縮させる。
<血魔力>を体から発し、眼鏡のような物を装備した。
前にも見せていた眼鏡は似合う。
正直、血魔力の眼鏡を装備したビュシエは可愛いぞ……。
ビュシエは冷静な表情となって、
「……<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を持つ陛下ですから、対処は可能なはず」
と発言。
すると、ヴィーネが、
「だから、陽夏と厳冬の四十五日にセナアプアの下界に、魔界王子テーバロンテと魔界王子ライランの幻の血沼が出現する理由ですね」
と発言。皆が、頷いた。
「ん、セナアプアに現れる幻の血沼の真実」
エヴァの言葉に頷いた。
皆に向け〝列強魔軍地図〟を出す。
<導想魔手>に持たせ広げた〝列強魔軍地図〟に手を向けた。
――人差し指で【ライランの血沼】を差し、
「……魔界王子同士の密約、同盟を誓い合った怖い場所は【ライランの血沼】で言うとどこだろう。因みに俺が最初に魔界セブドラに来た場所は、この辺り……」
アラ、魔将オオクワ、獄猿双剣のトモン、香華魔槍のジェンナ、ザンクワは元気にしているかな。玄智の森にいた通称鬼魔人たちを魔界セブドラに離脱させたことを思い出しながら鬼魔人傷場があった場所に指を当てた。
「嘗て、この荒野、丘に鬼魔人傷場があったんだ……ライランの血沼の範囲に当たる南の荒野か……で、北には【ブラックヘイブン城】があるんだが、この荒野のちょい北辺りで、神々同士の争いも見たんだった。それが苛烈のなんの……」
かくかくしかじかと、吸血神ルグナド様の眷属たちを一気に蘇らせる血の光景など、神々の争いをデラバイン族と【グラナダの道】と魔傭兵ラジャガ戦団の皆に伝えていく。
「「「「おぉ」」」」
「「「すげぇ、まさに神と神の争いは魔神大戦だ」」」
「ライランの土地は悲惨なことなっただろうな……」
皆が感心してくれた。
そのままライランの血沼の土地についてコミュニケーションを図った。
そうしてから、ラムーとミューラー隊長とイスラたちに視線を向け、
「で、血沼の幻の誓い、密約を行った場所なんだが」
「正確には、分かりません。密約のことはテーバロンテの連中と戦っている時に聞いた程度。話を振っておいてすみませんが、ライランの所領が多い北方には、我らは行ったことがないのです」
ミューラー隊長の発言に頷いた。
イスラとラムーに視線を向けるとイスラが、
「魔界王子ライランの所領で知っているのは、その〝列強魔軍地図〟に載っている地名の【ライランの血沼】ぐらいでした。〝列強魔軍地図〟のお陰で、この近隣も……ライランの所領と分かります」
と発言。皆が頷いた。
〝列強魔軍地図〟による戦術共有ができるのは大きい。
どうせなら、〝列強魔軍地図〟の上に人口比率とか、モンスター分布図とか、天気予報とか、UIで出てくれれば最高の〝列強魔軍地図〟になるんだが……。
〝列強魔軍地図〟の魔改造を頼める方は霊薬研ソフィーに行ってもだめか。クナとミスティなどの意見も必要か。
ラムーも頷いて、
「広い【ライランの血沼】ですから……密約が行われた場所はこの【魔神血沼】か、【血沼地下祭壇】か……無難に、このライランの本拠地【ライランの血沼城】で行われたかもですね……」
と〝列強魔軍地図〟を指で差して予想してくれた。
「ま、ありきたりなら、本拠地の【ライランの血沼城】で正解だろう」
「「「「はい」」」」
【グラナダの道】の面々が中心に返事をしてくれた。
ヴィーネたちは、机に拡げ置かれてある〝列強魔軍地図〟と鑑定待ちのアイテム類を交互に見ていた。
ミューラー隊長に、
「……放浪が長かった【グラナダの道】が北を避けていた理由には、故郷を目指し同胞を集めつつイスラを取り戻しながらも、魔界王子テーバロンテを倒したい目的もあった?」
「はい、本音を言えば。ですが、イスラを探すことを最優先にしていましたから、ですからライランの所領が多い【キスバル大平原】からの北方には進んだことないのです」
【グラナダの道】の面々が頷く。
大半が【キスバル大平原】から北は行ったことがないようだ。
ミューラー隊長は、
「〝列強魔軍地図〟で言うと……我らはここを中心に活動していた。と、言えまする……」
ミューラー隊長が渋い口調で喋りながら〝列強魔軍地図〟の【レムリア平原】を指さした。籠手の金属音が渋い。
「【レムリア平原】か」
「はい、レムリア平原は魔翼の花嫁レンシサが支配する地域です。そして、【レンコデの街】でも長く活動をしていました。〝大閭蒼楼院〟の元締め、鴇母レムリアには世話になりました」
「へぇ」
前にバスラートたちの会話に登場してきた名だな。
鴇母レムリアにミューラー隊長は犠牲を払ったとか言っていたが、どんな犠牲なんだろう。
「それで密約の〝血沼の幻の誓い〟は魔界王子テーバロンテと魔界王子ライランの勢力に効果があるのかな」
「そのはず。ライランとテーバロンテが揃うと、ライランとテーバロンテにすべての味方の能力が全般的に上昇するようです」
「更に、ビュシエ様が仰っていましたが、ライランの<魔界王子・覇翔爆牙>とテーバロンテの<魔界王子・波動鏡猛執>が合わさると……ライランの血沼を活かした凄まじい範囲次元攻撃となるようです。上級神クラスの魔神を飲み込むように倒し、闇神アーディン様や闇神リヴォグラフ様にダメージを与えたこともあると聞きました」
「はい、ライランの血沼を活かした範囲次元攻撃の影響で、狭間を超えて、セラにまで影響が及ぶようになったと聞いています」
「へぇ」
塔烈中立都市セナアプアの下界は大丈夫なのか……。
「「……」」
「狭間の干渉を受けずに、セラに影響を及ぼせるほどの攻撃……」
「戦った時、ライランと組んだ状態ではないテーバロンテで良かった」
「「「はい」」」
「ですね……」
イモリザ以外の皆が厳しい顔色となった。
魔人の像を凝視していく。
スフォルツァンドの魔人像。
スフォルツァンドさんの魂が入っているのか。
魔族の名は牙魔族ヒュッター。
大厖魔街異獣ボベルファに乗っている方々の中に、牙魔族ヒュッターの方はいたんだろうか。
ドアスマレアの魔人像。
ドアスマレアさんの魂が入っている
魔族バージデラン。どこかで聞いた覚えがある。
ルビィルの魔人像。
ルビィルさんの魂が入っている。
そして、魔族リルドバルグか。
玄智の森で助けたザンクワと同じ魔族。
アドオミと鬼羅仙たちを倒す時にザンクワは近くにいた。
ザンクワ、獄猿双剣のトモン、香華魔槍のジェンナ、魔将オオクワ、射手のアラ、副官ディエ、ヘイバトたち、鬼魔人たちは元気だろうか。
魔軍夜行ノ槍業の八人の師匠たちは反応しない。
「ラムー、鑑定をありがとう。持っているだけで魔力が微上昇し、魔界王子ライランの勢力圏内の魔族たちとの交渉能力が上昇ってことか」
「ん、他の像と組み合わせて設置と言ったけど、三つの魔人像だけでは、魔方陣は作動しないの?」
エヴァが聞いていた。
「鑑定に出ていた情報は先ほど言った内容のみ。置き方と魔力に、魔方陣系統を知る方なら〝鬼魔人方陣〟の応用が可能かもです」
「ん」
魔法陣にも、魔方陣ってのがあるようだからな。
魔方陣のほうは、魔法印字よりも、神聖幾何学との関係が深いような印象を覚える。
そして、像を回収した場所は、玄智の森の鬼羅仙洞窟。
アドオミが使っていた像もあった。破壊されたのもあったな。
そのことではなく、
「魔界王子ライランが蹂躙してきた魔族たちと交渉能力上昇と魔力が微上昇か。バーソロンに預けるのも手だが、俺が預かるとする。いいかな」
「「「はい」」」
皆も頷いた。
三体の魔人像を戦闘型デバイスに仕舞った。
「次は〝髑髏の指環〟を頼む」
「はい、では早速――」
ラムーは髑髏の指環に向け霊魔宝箱鑑定杖を突き出すように向けた。
霊魔宝箱鑑定杖の灰色の水晶が光る。
と、そこから灰色の魔力が飛び出て、机に置いてある髑髏の指環と衝突。
髑髏の指環の表面が怪しく輝いた。
ラムーは霊魔宝箱鑑定杖を下げて頷くと、
「名は、〝古魔将アギュシュタンの髑髏指環〟、階級は不明。魔具の一つ。通称、〝目隠し鬼〟。魔力を込めると、魔力を込めた存在が体に切り傷を負い魔力もかなり吸われるようです。第二種危険指定アイテム類。そして、古魔将アギュシュタンとのコンタクトが可能となり、条件が合えば、その古魔将アギュシュタンと契約が可能となります。契約できれば髑髏指環の形態に戻ることも可能のようです」
魔軍夜行ノ槍業が少し震える。
『カカカッ、あの、古魔将アギュシュタンと関わっていようとは! 〝目隠し鬼〟は大魔刀を扱う魔界騎士、確実な強者だった存在』
飛怪槍のグラド師匠が珍しく興奮している。
『頭目が喜ぶ相手か、弟子はこんなものを持っていたのか……』
獄魔槍のグルド師匠が少しびびっている?
『〝目隠し鬼〟噂で聞いたことある。宵闇の女王レブラ、吸血神ルグナド、闇神リヴォグラフ、時魔神パルパディ、狂神獣センシバル、魔皇ラプンツィルなどに仕えたことがある魔界騎士ってより、古代の魔界戦士ね』
先ほどぶりで嬉しいが、雷炎槍のシュリ師匠も念話からして緊張感を得ていると分かる。古魔将アギュシュタンとはそれほどの存在か。
『……魔城ルグファントのゴーリキーの酒場で、槍使いドフトラから聞いたことがあるぜ。独特の<血魔力>を有した大魔刀の刀技を扱い、魔界大戦ではかなりの数の敵を屠ったと』
最後に妙神槍のソー師匠が念話を寄越した。
「「「おぉ」」」
「第二種危険指定アイテム類だが、契約できれば新たな戦力となる!」
「古魔将アギュシュタン……聞いたことがないが、強そうな印象だ」
「はい、でしゅ! シュウヤ様のアイテムは色々あって楽しいです!」
「あぁ、セラで入手されたアイテムだと思うが、これほどの品を……階級が出ていないが、階級で測れないマジックアイテムと予測する……シュウヤ様に助けて頂けて、我々は幸せだ」
渋いジアトニクスが迫力をもって語る。
「はい」
「あぁ」
【バードイン迷宮】の刑務所組のアマジ、ギン、ビートン、エトアも興奮しつつ語っていく。
「――まさに闇の獄骨騎!」
「おぉ、器がゼレナードのところから回収した品か!」
「「はい――」」
宙空で飛翔するように遊んでいたヘルメとフィナプルスと沙・羅・貂たちも寄ってきた。
「白き貴婦人ゼレナードが、扱えきれない代物、かなりの品か」
「はい、白き貴婦人ゼレナードは、大魔術師ゼレナードでもあったし、怪物と同化していたとんでもない相手ですからね」
「古魔将アギュシュタンは、アドホックを連れていたゼレナードと契約できなかった。その条件が気になります」
「はい、気になりますが、古魔将アギュシュタン殿と契約できたら、光魔沸夜叉将軍ゼメタスやアドモスに城主の間を守る<古兵・剣冑師鐔>のシタンのような存在となる?」
「はい、今のゼメタスとアドモスと同等ぐらいの存在だとしたら……」
ヴィーネ、キサラ、ミレイヴァル、フィナプルスの発言に頷いた。
キサラはダモアヌンの魔槍を右手に出して、フィナプルスは黄金のレイピアを抜いていた。
魔界四九三書を知る二人は、この古魔将アギュシュタンの髑髏指環から危機感を得たってことか?
ホログラム状のアクセルマギナとガードナーマリオルスも興味があるように腕を差して小躍りしている。
緊張感を生むようなBGMを掛けてきた。
「ンン、にゃぁ~、にゃご!」
「ンン、にゃァ、にゃごぉ~」
「ちゅぃちゃんです♪」
「ふふ、イモちゃんですよ♪ 美味しいですね~♪」
『楽しそうです~』
相棒たちとイモリザは珍しく寄ってこない。
グィヴァも交ざりたいような雰囲気で右の視界に現れていた。
デラバイン族の厨宰と庖丁師の方々から次々と魔魚料理をもらって大興奮状態だった。
黒猫と銀灰猫は必死だ。
ごはんを食べている時は、獣の習性がでるからなぁ。
だれも取らないのに、なぜか、器の焼き魚を咥えて、端っこに持っていって唸り声を発して食べているし。
その点、魔獣アモパムは大人しい。
丸い体を構成している茶色の毛を細い糸のように伸ばして、煮物の煮っ転がしのような料理を触っている。食べているのか? 汁を吸っているのか分からないが……。
すると、逆さま姿勢のヘルメの顔が目の前に出現。
可愛いが、ドアップだから、少し驚く。
そのヘルメは可愛い双眸で瞬きを繰り返してから、
「閣下! 痛みを味わいますが、〝古魔将アギュシュタンの髑髏指環〟に挑戦しますか?」
と〝古魔将アギュシュタンの髑髏指環〟のことを指摘してきた。
「挑戦しようか。<古兵・剣冑師鐔>のような存在ならば頼もしい味方となりえる」
「ハイ!」
嬉しそうなヘルメは、その場で一回転。
俺の近くに着地して反転するような動きから、抱きついてきた。
そのヘルメの背中を撫でてあげてから体を離す。
ヘルメは、俺に笑顔を向けたまま後退。
優し気に右腕を俺へと伸ばす。
右手が弛緩し、指先がゆらりと動きながら、俺を差すようにも見えた。
指の動きと連動するようにしなやかな腰の動きは、白鳥の湖を踊る踊り子にも見えてくる。
「ふふ~」
『わぁ~、素敵~』
と、ヘルメは踊りながら背を机に付けた。
と思ったら胴体が机に入ったように机を通る。
ヘルメの悩ましい上半身が鑑定用の品に見える。
同時に下半身は机の下に見えているから不思議だ。
そのまま鑑定済みと鑑定前の品を両手で触るような仕種をしながら、机を越えていた。
「「「おぉ~」」」
ヘルメは体を液体化できると分かっているが、マジックショーを見ているような気分だった。常闇の水精霊ヘルメの挙動に、近くにいたロズコたちは歓声を発していく。
ヘルメを見ていると心が躍る。
が、気を引き締めて――。
古魔将アギュシュタンの髑髏指環を凝視した。
すると、キサラが、
「ラムー、その〝古魔将アギュシュタンの髑髏指環〟の条件とは……」
と聞いていた。
ラムーは少し頭部を傾げて、
「鑑定はこれ以上はでません。コンタクト次第かと思います」
「そうですよね……シュウヤ様は乗り気のようですが、少々心配です」
と語るキサラはヴィーネに視線を向けた。
キサラの表情からはヴィーネに『ヴィーネもシュウヤ様に注意をするようなことを言うようにお願いします』と言ったニュアンスがあるとは分かる。
ヴィーネはキサラに『分かっている。が、』と視線を強めて俺を見る。
カッと見開いた銀色の眼には俺が写っている。
そのヴィーネは、
「鑑定に呪いは無かったのだ。傷を受けるのはたしかに嫌だが……強い存在と契約を結べるチャンスならば……挑戦も有りだと思うぞ」
とキサラに言うように、俺を見ながら語る。
キサラは溜め息。
「それは、はい……」
と、語る。
キサラは俺を見ると、微笑む。
俺も微笑みを返すと、蒼い眼が少し揺らいで、強くニコッとしてくれた。
惚れているが、惚れてしまう。
キサラは、心配だが納得したようだ。
光魔騎士ファトラとバーソロンと光魔騎士グラドは沈黙。
俺を注視している。皆に向け、
「では、古魔将アギュシュタンの髑髏指環に魔力を送る」
「「「はい」」」
古魔将アギュシュタン髑髏指環を右手で取り――。
右手の掌の手相を見るように、その古魔将アギュシュタンを凝視ながら髑髏指環へと魔力を送った。
古魔将アギュシュタンの髑髏指環がピキッ、ピキキキッ、ピキッと壊れる?
罅が入りまくって、
『……ほぉ、我をいきなり目覚めさせるとは、何者だ。が、まぶたが重い……あぁぁ、我は……そうだった。ん? 今の我の思考はいつぶりだ。ん? 我は我ゾ……ん? あぁ、我を起こす者が出たのか、……新たな主人の……あぁ、第一と第二の関門も突破か……』
と、古魔将アギュシュタンの髑髏指環から思念が響いてきた。
しかし、なんか混乱中なのか?
しかも、古魔将アギュシュタンの髑髏指環の口の動きは念話と合っている。
『ほぉ~中々どうして、ふははは』
と、呵々と嗤い声が響いてきた。
髑髏の眼窩の奥に赤黒い炎が灯る。
その赤黒い炎の瞳が煌めくと古魔将アギュシュタン髑髏指環は俺の魔力を吸い取ってきた。
痛ッ、痛い――。
自然と全身に切り傷を負う。
古の光闇武行師デファイアルの仮面の装備とハルホンクの防護服を合わせた衣装だが、関係ないようだ。
古魔将アギュシュタンの髑髏指環は髑髏の表面に漆黒の血肉のような繊維質が生まれていく。
頭部の左右にはシンメトリーな象牙質の角が生えた。
後頭部にも角は生えた。絹のような髪も一気に生え伸びて宙に靡く。結構美しい髪だ。
角の根元と皮膚は繋がっている。エナメルのような色合いの繊維質は眼窩と頭部を埋め尽くす。
普通なら双眸がある位置に目がない。紺色と肌色の皮膚が覆っている。
皮膚は剛と柔の特性を併せ持っていそう。歯並びの良い鋭い歯牙を複数要した口と顎もある。
造形はエイリアン風クリーチャーにも見えるが、人に近い。どこか凜々しさがある。
そして、古魔将アギュシュタンは頭部を模したであろう指環の形状は崩れていない。
「閣下!!」
「やはり闇の獄骨騎的の指輪……」
「ん、シュウヤ……傷は大丈夫?」
「ご主人様、傷は一瞬で消えましたが痛々しかった……」
「「「……はい」」」
「大丈夫だ」
「ん、髑髏の指輪は目がない魔族?」
「……あぁ、結構な魔力を吸われた」
すると、古魔将アギュシュタンの髑髏指環は溶けた。
床に溶けたような紺色と白色の魔力は、大柄の人型を模る。
頭部には指環の形状だった時と同じく双眸がない。
右腕には大魔刀を持ち<血魔力>を発していた。
大柄の魔族は周囲を見るように頭部を左右に動かし、俺を見て、頭部の動きを止める。
「ふむ、我をここまで形成した存在は初めてか……名を聞こう」
「俺はシュウヤです」
「シュウヤか。最後の第五関門として、我と勝負してもらう。我に勝てば、我の正式な主として認めてやろう」
「勝負か……」
「我を見て、周囲と同じく臆したか?」
「いや、それはない。戦いとなれば外でとなるが」
「ふ、いいだろう。得物は自由、四肢の内一つでも失ったら勝負は終了とする。それでもいいか?」
「いい」
「ならば、そこの外に先に向かう――」
と古魔将アギュシュタンは<血魔力>のような魔力を全身から発して、魔塔から外に出ていた。
続きは明日を予定。
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コミックス1巻~3巻発売中。




