千二百三話 白蛇仙人ブショウの考察と魔人の彫像三体の鑑定
2023年8月26日 10時47分 最後少し修正
ラムーとミューラー隊長たちは俺を見て「「おぉ」」と少し声を発した。
ラムーは、
「シュウヤ様は、この人形に魂が封じられている白蛇仙人ブショウと知り合いだったのですね」
「いや、直接的な知り合いではない」
「そうですか。箏の魔弦楽器デジャと魔凱闇大鐘レドアインは、魔界セブドラの諸侯の魔界奇人レドアインの秘宝? なのでしょうか」
「秘宝かは分からないが、たぶんそうだと思う」
皆が頷いた。
〝白蛇仙人ブショウの魂人形〟を見ながら、
「……魔界奇人レドアインと協力した白蛇仙人ブショウは、玄智山ごと、神々の体を己の体に取り込もうと狙ったようだからな」
「「……」」
皆が黙る。
キサラが、
「諸侯と手を組んだ白蛇仙人ブショウ……玄智の森を取り込もうと狙った?」
「そうかもだ」
「なるほど、シュウヤ様が白蛇仙人ブショウを悪人と考える由縁ですね」
「あぁ、悪人ってのは断片的な情報、ただの推察だ」
ヴィーネは頷いて、
「ご主人様の推察が当たっていれば、己の欲が肥大化した存在が白蛇仙人ブショウ……魔界の諸侯と協力して、白蛇竜大神イン様を乗っ取ろうとしたことになる」
と発言。
「あぁ、武王院を作った一人と言われているが、白王院とも関わりがあるかもだ」
エヴァたちは頷いた。
そして、ヴィーネが、
「ご主人様は、エンビヤのことを、よく語ってくれましたから覚えています。白王院の連中は自己顕示欲のまま、己の心の矮小さを隠すように、謎の上から目線で物を語る不届き者が多かったと。それだけで飽き足らず、分諍い、争い、憎しみを次々に生み出していったとも」
「あぁ、それの類いなら十分にありえる話」
皆が頷いた。
「……白蛇仙人ブショウの行動原理ですが、鬼魔人傷場から魔界セブドラに渡り、魔界奇人レドアインや魔界の神々の思惑に絡んだ手段で取り引きをしては、玄智の森に戻り、力、欲望、復讐などに魅入られまま鬼魔人たちを利用し、仙王ノ神滝に四神柱などを有した玄智山の力を削ぐ目的か、そのすべてを狙い玄智の森の白蛇竜大神イン様の力を体内に取り込もうと、行動をしていた可能性がある?」
「そうだ」
「ん、白蛇仙人ブショウと魔界奇人レドアインは手を組んで、神界セウロスから分離した玄智の森だから、取り込めると思った?」
頷いた。
「ん、白蛇竜大神イン様の白蛇聖水インパワルと、玄智聖水を生み出している植物の女神様や大地の神ガイア様をも上回れるような実力があったとしたら、白蛇仙人ブショウはかなり強い」
「だな。が、その悪側の予想はあくまでも推察の一つ。まだまだ〝保留〟だ……まったく逆かも知れない」
「「はい」」
「ん」
皆が頷く。
キサラは、
「悪側だった場合、神界セウロスの神々を、己の体内に取り込む……まさに大胆不敵です」
「そうだな……そして、玄智の森を救うため、個人的に白蛇竜大神イン様を救うためなどの理由で、神の力を体に取り込む必要性があったのなら分かるが……【神水ノ神韻儀】が行われる前だからな。仙王の隠韻洞の地底湖の底には傷付いた武王龍神イゾルデがいた。そんな状態のイゾルデを無視し、白蛇竜大神イン様の白蛇聖水インパワル、水神アクレシス様の聖水レシスホロン、アクレシスの清水などが合わさった玄智聖水に、植物の女神サデュラと大地の神ガイアの土などが構成しているだろう仙王の隠韻洞がある玄智の森を狙うのは、どうにも善人には思えない。更に、神の取り込みに失敗した白蛇仙人ブショウは白蛇大鐘に変化したが、それはある種の、玄智の森の仙武人&鬼魔人&仙妖魔たちへの見せしめでもあるんだと思う。実際、仙王の隠韻洞の天蓋のような天井にある白蛇大鐘には、玄智聖水が当たりまくって、よく鐘の音が響いていたんだ」
「……鐘の音……あらゆる意味で納得感がでます」
ヴィーネの言葉に頷いた。
俺の胸元をチラッと見ている。
キサラは、<光の授印>が効いた時に、俺の脳内に響く鐘の音はもう知っている。
頷いた。
「「……」」
皆、それぞれに思案気な表情を浮かべていた。
蒼い視線を上げたキサラが、
「では光神ルロディス様、白蛇竜大神イン様、水神アクレシス様、植物の女神サデュラ様、大地の神ガイア様などの、天罰の影響もあって白蛇仙人ブショウの体は白蛇大鐘に封印されている?」
と聞いてきた。
頷いて、
「そうかも知れない。そして、魂はこの〝白蛇仙人ブショウの魂人形〟の中か……」
と発言した後、皆は頷いて静まった。
ラムーは、
「……納得です。この白蛇仙人ブショウの人形には呪いなど怖い印象はありませんし、その理由が正しいように思います」
と発言。
キサラとヴィーネも頷いて、机の白蛇仙人ブショウの人形を凝視。
そして、キサラは直ぐに見上げ、
「……玄智聖水が衝突している白蛇大鐘は、今も尚浄化を受けている状況……では、その白蛇仙人ブショウの人形の中にある魂も浄化はされている? 鬼魔人が集結している場所にあったと聞いているので違うかもですが……浄化されているのでしたら、人質か、交渉の素材で保管されていた? だから呪いなどがないのでしょうか」
「あぁ、それはあるかもだ……」
と再び、白蛇仙人ブショウの人形を凝視。
キサラは続けて、
「白蛇仙人ブショウは、武王院開祖の一人で仙剣・仙槍の秘奥譜『闘気玄装』と『玄智・明鬯組手』を開発した偉大な面もあったので、白蛇竜大神イン様や水神アクレシス様に植物の女神サデュラ様と大地の神ガイア様も、白蛇仙人ブショウの完全なる滅殺は望んでいなかった?」
「たしかに……」
相棒のサデュラの葉を集めに【魔境の大森林】に突入した時にサデュラの森には、
『わしは罪深き古代エルフの生き残り。植物の神サデュラと大地の神ガイアに罰せられ、この地の守護者となった罪エルフだ。この祝福された地を延々と守るように厳命された、な。ホレッ――』
心臓が無いことより、あそこが、翠の葉だったことは衝撃だった。
そんな罪エルフの爺さんがいたからな。
今もいるはず……。
そのことを思い出して、
「……神界セウロスの神々は長い目で魂を見てくれている? だから罰を与える傾向にあると思う」
と、発言すると皆が頷いた。
ヴィーネも少し腰を屈めながら「永遠のような刻をかけ魂を鍛える……神界の神々らしい考えです……」と呟きながら、机に片手の掌を置く姿勢で白蛇仙人ブショウの人形を凝視していく。
長い足とくびれた腰が魅惑的。
銀色の髪が一つに纏まっているポニーテールが似合う。
銀色の髪を纏めている糸は、ユニーク級のゴールドタイタンの糸だ。
ヴィーネは迷宮都市ペルネーテで入手して以来、ずっと使い続けてくれている……嬉しいし、思い出が詰まっているゴールドタイタンの糸 だ。
そして、言わずもがな長い耳が魅力的だ。
そのヴィーネは俺の視線に気付いた。
横目でチラッと俺を見てから首筋に少しだけ蒸気のような<血魔力>が出た。
俺だから分かるが、<筆頭従者長>としての汗、女のフェロモン的な<血魔力>だ。その血の匂いと香水が混じった匂いは<筆頭従者長>たちにも伝播するのか頬を朱に染めつつ、それぞれに<血魔力>を発して、俺たちだけで、ムワワンとした雰囲気となるが、周囲はまったく気付いていない。これはこれで罪な光魔ルシヴァルだ。
と、そんな空気を払うようにヴィーネが腕を振るう。
皆が注視した。
「……<光の授印>と<光神の導き>を持つご主人様は玄智の森を救った! ですから、この白蛇仙人ブショウの魂が封じられていた人形を鬼魔人の手から取り戻したのは光神ルロディス様の導きかも知れません」
と、そのヴィーネの言葉に頷いた。
周囲は、ざわざわざわざわ、と、ざわついて静まった。
デラバイン族も【グラナダの道】も魔傭兵ラジャガ戦団も皆が魔族だからな。
諸侯云々ってより、神界セウロス側は天敵となる間柄だ。
更に、俺は師匠たちも語っていたが光側に傾いていると思われるふしがある。
光神ルロディス様の眷属側だと思われても仕方がない。
すると、エラリエースが前に出て神剣ピナ・ナブリナをザッと持ち上げた。
柄巻を両手で持っている姿は騎士スタイル。
そのエラリエースが、柄巻越しに俺を見て、
「本当に神印を持つ御方に相応しい」
と発言した。
頬を赤らめるエラリエースは、
「……キサラ様とビュシエ様と話を重ねたこともあり、先ほどのホフマンの件は知りませんでしたが、千年王国の話には驚きを覚えています。その千年王国は神界騎士団の古文書にも名がありましたから……あ、ですから、やはりシュウヤ様は闇と光の運び手であり、救世主なのだと強く思うようになりました。ですから、元【見守る者】の高位〝捌き手〟の一人として、この命をシュウヤ様に捧げたいと思います。どこまでも付いていきたい想いです……よろしくお願いします……」
正直に自分の気持ちを話してくれた。
熱い言葉を聞けて嬉しくなった。
「おうよ、エラリエース。こちらこそよろしく頼む」
「ありがとうございます。陛下――」
片膝で地面を突くエラリエース。
「ふふ、エラリエースの眷属化をアチたちよりも先にしますか! そして、光魔ルシヴァルのブラッドクリスタル量産体制を築き上げましょう」
ブラッドクリスタルの量産体制か。
できるものなのか分からないが、エラリエースは今もブラッドクリスタルを一瞬で作っては隣にきたヴィーネに見せていたから、できるんだろう。
「……ブラッドクリスタルはいいが、アチたちの後だ」
「は、はい!」
ヘルメ立ちを崩したヘルメは体勢を立て直す。
横に回転しては宙空を飛翔して沙・羅・貂たちと踊りを始めた。
「楽しそうな踊りです」
「「はい」」
エラリエースたちは笑顔となった。
堕光使エラリエースとも呼ばれていたが、【見守る者】の高位〝捌き手〟でありながら神界騎士団第三部隊長で魔界セブドラを調査、監視、情報伝達を担っていた優秀な存在だ。
だが、神界にはメイラさんという姉がいる。
光魔ルシヴァルとなれば……。
と、大柄のキスマリが強者のオーラを放ちながらエラリエースに近付く、
「エラリエース、もう何度も宣言しているが、主がいる前だ。もう一度言う、我はお前が神界騎士だろうと関係なく認めてやろう!」
「あ、はい! ありがとうございます!」
エラリエースは頬を赤らめた。
「うむ! 敬語はいらんぞ、その今度、代わりに我と勝負するのだ」
「え、でも……前に……」
「前は前、あれは認めん!」
「……」
もう勝負したのか。
エラリエースは不安気となって俺を見る。
「キスマリの勝負とはあくまでも模擬戦の範疇だ」
「わ、分かりました! キスマリ、よろしく頼みます」
「分かった!」
と、キスマリとエラリエースは笑顔のまま握手している。
そのキスマリは片腕を戻すと、四腕で独自の挨拶を繰り返す。
少し筋肉アピールか? おっぱいプルルン的な動きもある。
エラリエースは挙動不審となった。
見た目は、ザ・神界騎士とザ・魔界騎士の構図なだけに、なんともシュール。
しかし、キスマリの独特な動作は……。
『六眼トゥヴァン族』の文化的な挨拶の仕方は分からない。
そこに「エラリエース、わたしも~♪」
「我らも!」
「はい!」
「――」
蜘蛛娘アキたちとアチュードとベベルガも加わると、
「では、皆さんと、模擬戦という形でお願いします!」
「はい♪ ブラッドクリスタルは有りで勝負です♪」
エラリエースたちと蜘蛛娘アキたちは会話に夢中となっていく。
さて皆に、
「この〝白蛇仙人ブショウの魂人形〟は戦闘型デバイスに入れておく。皆もいいかな」
「「はい!」」
ではラムーに向け、
「次の品も頼む」
「はい」
先ほどと同じく――。
霊魔宝箱鑑定杖から出た魔力が、〝鬼魔人像の、魔人の彫像三体〟と衝突。
直ぐにラムーは頷いた。
「名はスフォルツァンドの魔人像、ドアスマレアの魔人像、ルビィルの魔人像。階級はすべてユニーク級。通称、鬼魔人の像。それぞれ魂がまだ残っているようです。持っていると、これらの魔人、魔族たちの種族との交渉能力が上昇、魔力が微上昇するようです。他の像と組み合わせて設置すると〝鬼魔人方陣〟という魔方陣が作動する仕掛けがあったようですね。そして、単体のスフォルツァンドの魔人像ですが、牙魔族ヒュッターが一族の名でした。魔族魔界王子ライランに故郷を滅ぼされた後、洗脳されて、長らく魔界王子ライランの下で軍人として生活していたようですね。ドレスマレアの出は魔族バージデラン。ルビィルは魔族リルドバルグです。皆、魔界王子ライランの軍人だったようです」
「三体は軍人……魔界王子ライランか。魔界王子テーバロンテと同盟相手だ」
「……血沼の幻の誓いか」
と、発言したのはミューラー隊長とイスラだ。
イスラは今まで俺たちとの会話にあまり割り込んでこなかったが、魔界王子ライランと魔界王子テーバロンテの繋がりの大本を知っているようだ。
続きは今週。
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