千二百話 シュリ師匠の歴史
雷炎槍エフィルマゾルを造ったのは魔界の古い神様だったとはな。しかもその眷属がシュリ師匠のお爺さんだったとは。
シュリ師匠は、俺と皆を見て、
「……あ、弟子の手前、師匠として、面目ない、ごめんね」
と発言。皆や俺から涙を隠そうと顔を背けた。
「気にせず、俺の胸を使ってください」
と背を向けたシュリ師匠に胸を向ける。
シュリ師匠は振り向く。
双眸は揺れながら涙を流す。
そして、その涙を払うように頭部を揺らし、笑みを浮かべたシュリ師匠は、
「……ふっ、まったく♪ 優しい弟子なんだから♪ 濡れちゃうでしょ! ……と、この体では感じちゃうことは無理か、ふふふ♪」
と、言いながら頭部を胸に寄せてくれた。
両腕を背中に回す。
そのシュリ師匠の魔力の体を抱くようにハグしてあげた。
「……弟子、何も聞かないの? いいのよ聞いても」
と少し顔を上げて、聞いてくる。
「はい。シュリ師匠のお爺様が、雷飛ヴァランと鑑定結果にありましたが……」
「うん。母さんは、稽古の時に口酸っぱくヴァラン爺様の名を挙げていた」
「へぇ、リィンカ師匠は、ヴァラン爺と稽古をして、雷炎槍流を学んでいたんですね」
「そう、母さんは厳しい稽古で、逃げたって聞いた」
「え」
「「「「え」」」」
と、皆も驚く。
<筆頭従者長>以外は緊張しているように沈黙を続けていた。魔軍夜行ノ槍業から出る機会は少ないというか、デラバイン族の将校と兵士たちはほぼ初見か。
シュリ師匠は笑顔となって、
「うん、わたしも母さん、師匠の実力は知っているから、お爺様の強さは想像できなかった。当時、母さんに笑いながらお爺様の話をしたら、母さんはマジな表情を浮かべて、『当時、逃げたわたしは<魔闘気>系統にはかなり自信があったんだけどねぇ……ヴァラン爺は<雷飛>を使用し一瞬で間合いを詰めて、背を向けていたわたしに向けて〝なにもかもが中途半端じゃな――〟と豪快に雷炎槍源流<雷炎豪刃把>を繰り出してきた。わたしは容手なく手足を切断されたのよ……直ぐに〝即蓬宝枝〟で手足は回復したけど……』と語っていたの。〝即蓬宝枝〟は、欠損だろうと直ぐに回復するマジックアイテム。しかも手足を強くする効果もあるとかで、だから、孫の手足をわざと斬ったとも後から聞いたわ」
「「「……」」」
「なんつう修業」
「凄まじい」
「「はい」」
「陛下のお師匠たちのお師匠なだけはある!」
「「あぁ」」
皆が話をしていく。
「更に、ヴァラン爺は<雷炎六穿>を繰り出して、『――ほれ、わしから逃げるからそうなる。次は首が飛ぶと思え……』と言いながらの<雷猫柳>を足下に喰らって転倒してしまったと言っていた。足が腫れて大変だったとも」
リィンカ大師匠を……凄いお爺さん大師匠だ。
雷炎神エフィルマゾル様の眷属なだけはあるのか。
「強烈ですね」
「うん。母さんは、防御槍譜の雷炎槍流『雷炎柵』の<雷炎柵>の稽古もかなりきつかったと言ってた」
「へぇ、聞かせてください」
「ふふ、うん。お爺様は鬼気迫る表情で『わしの雷炎槍流の源流はこんなものではないぞ!』と言いながら雷炎槍流<雷猫柳>と<雷払雲>の下段突きと下段払いの連続攻撃を母である師匠に繰り出した。下の防御を優先させる目的ね。よくある上下に振り分ける攻撃よ。でも、その対処は中々分かってても防げるものではない。大師匠と呼べるお爺様は……正眼突きの雷炎槍流<朧雷穿>の連続攻撃を繰り出した。母は正眼と下段の二択の判断に悩まされるまま何回も倒されたと語っていた」
凄い訓練だ。
ヴィーネは、
「師匠と弟子の訓練。それでいて家族……納得だ」
と地下都市ダウメザランの頃を思い出しているように語る。
魔導貴族アズマイルの妹と弟たちと生き残るためのサバイバルを行っていた。
「はい、魔界もセラも変わらない」
「ん」
「ですね」
キサラとエヴァとバーソロンも納得している。
ミレイヴァルは、
「精神も鍛えられそうです」
「……うん。〝即蓬宝枝〟があるからといって、孫の手足を斬るとか、尋常ではないお爺様。お陰で母、わたしの師匠は強くなれたから感謝だけど」
「感謝は感謝だと思うが、リィンカ師匠も不満が溜まりそうに思えるが」
「だとしても、母は『お爺様は魔雷王ベヴェアンの勢力と争いになった私を守るために体を張ってくれたのよ』と語っていた。『お爺様は、複数の魔矢を背に受け、片目と脳の一部を雷撃魔法で撃ち抜かれながらも前進し、頭部と体の傷を回復させながら魔雷王ベヴェアンの追撃に出て、私を守ってくださった』と聞いている。母は、『雷炎槍流の教えがあるのも、厳しいお爺様がいたからだ』と教えてくれた」
「そうだったんですね」
「うん」
暫し、沈黙が続く。
「でも、大師匠にあたるヴァランお爺様が、まさか、最大の仇である魔人武王ガンジスが愛用する<雷飛>が渾名だったとは知らなかった」
「俺は<雷飛>を数回使ってしまいました」
「いいの。<雷飛>に罪はない。仇が愛用していただけ。そして、雷炎槍エフィルマゾルだけど、わたしに遠慮なく使っていいんだからね」
「はい、使わせてもらう時は遠慮なく使わせていただきます」
「うん、雷炎槍流をもっと学んでもらうには、雷炎槍エフィルマゾルの柄、重さ、穂先の上下鎌十文字槍をもっと実感してもらわないと、馴染みの魔槍杖バルドークと神槍ガンジスとの感覚の違いを学ぶのも、槍の道なんだから」
ラ・ケラーダの想いで頷いた。
「はい!」
「ふふ、でも、優れた魔槍ばかりだからね、わたしが同じ立場ながら、どれを使うか凄く悩んでしまいそう」
「はい、迷います。ですが、結局は魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを使ってしまう。実戦では、その二本を使うことが多いです」
「そのようね、いつも魔槍杖バルドークばかり」
「……はい。風槍流の一槍を極めてこその二槍、三槍、四槍流だと思うので」
「……うん」
「あ、ですが、<血想槍>の発展には槍の数が物を言うので数は多いほどいい」
「うん、弟子が開祖の<血想槍>。<血想剣>もそうね。うん。だから、魔槍はできるだけ拾っておいたほうがいいわ」
「はい」
すると、
「「「……」」」
ヴィーネたちからひんやりとした空気感が伝わってきた。
シュリ師匠は超絶な美人さんだ。
体の造形は魔力の輪郭だけだが、スタイルも抜群。
それに加えて、少し二人だけの話になっていた。
嫉妬するのは当然か。
そのヴィーネに視線を向けると、白い目となって俺とシュリ師匠を見ていたヴィーネだったが、すたすたと歩いて俺の腕を握る。
「……シュリ師匠の歴史は、納得しました」
と言いながら微笑んでくれた。
ヴィーネの銀色の瞳には熱がある。
ヴァニラの匂いもいい。
「ん、皆の歴史は深いし、わたしも雷炎槍流を学びたくなった」
「「「はい!」」」
シュリ師匠は「ふふ、皆いいこね。<筆頭従者長>たち……」と淋しげに語ると……。
机の雷炎槍エフィルマゾルを掴む。
「ラムー鑑定をありがとう。そして、ほらっ」
と俺に雷炎槍エフィルマゾルを放りながら体が一瞬で魔力粒子状に散った。そのシュリ師匠の魔力粒子は魔軍夜行ノ槍業の奥義書の中へと吸い込まれるように消えた。
掴んでいた雷炎槍エフィルマゾルは戦闘型デバイスの中に入れた。
ヴィーネたちは頷いた。
さて、次は……。
穂先が六つの輝きを放っている魔槍斗宿ラキースだな。
ラムーに、
「魔槍斗宿ラキースの鑑定を頼む」
「はい」
続きは、今週を予定。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。」1巻~20巻発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




