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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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百十八話 車椅子に乗った美人なる冒険者

 

 更に進むと、ゴブリンと戦っていたであろうモンスターの死骸を見つけた。


 ゴミのように転がった死骸のもとへ駆け寄る。


 ――うへっ、くせぇ。臭いが鼻孔をつく。

 顔を背けるが、周囲も臭い……。

 臭いんじゃなくて、白糞と死骸が混ざって異臭になっていた。


 だが、我慢して、屈んで死骸を検視するように、拝見……。


 蝙蝠と蟻が合体したようなモンスター。

 名前通り、頭は黒い蝙蝠、脚腹は焦げ茶色の蟻に近い。

 これが蝙蝠蟻(バットアント)だろう。

 しかし、倒したのに死骸は放置。

 羽が折れて、頭には殴られたような痕があり陥没していた。

 胸が切り裂かれてあるから、魔石目当ての解体した痕跡か。


 死骸の陥没したところから黒い血が溢れていた。

 だが、他の部分の血は乾いている。

 倒されてそれなりに時間は経っているんだろう。


 この臭い死骸は放置だ。

 回収すれば依頼達成になるかもだが、やっぱ、俺が倒したいし。


 このまま進む。


 通路を進むほど地面に散らばる白糞が多い。

 クリーム色だった床面が色褪せ白糞により、やや汚い黄ばんだ色合いへ変色してきた。


 壁際にある光源も汚れて暗い。

 上からカラスの糞が垂れたように光源の幾何学模様を汚している。


 そんな汚い通路を進むが、魔素の反応はなし。

 蝙蝠蟻(バットアント)の死骸ばかりだ。

 全ての死骸からは魔石がきっちりと回収してある。


 しまったな。

 こりゃ確実に先を進む冒険者パーティがいる。


 だが、倒された死骸があるということは罠が無いということ。

 だから、少し移動速度をあげるか。


「ロロ、死骸が転がる通路の先を行くぞ。モンスターの気配があるとこまで移動だ」

「ンン、にゃお」


 黒猫(ロロ)は『わかったニャ』的に鳴くと、馬型サイズへ巨大化。

 触手を俺の腰に絡ませ持ち上げては、背中に乗せてくれた。


 そのまま、二つの触手の先端が俺の首筋にピタッと付く。

 黒猫(ロロ)と意識を共有。


 恒久スキル<神獣止水・翔>を改めて感じる。


 手綱の触手を掴み、通路を勢い良く駆けていく。


 この速度を維持すれば、立体機動も可能。

 黒猫(ロロ)の四肢と触手を使えば、壁や天井を足場にできる。


 俺と黒猫(ロロ)の合体技。

 この迷宮限定の独自な立体機動戦術。


 だが、騎乗から魔槍杖を振り上げたら天井にぶつかる。突くことを意識しよ。

 そんなことを考えながら、臭い通路を走り抜けていった。


 二つのY時路を通り抜け、十字路の一つを左折し通路を進む。


 相変わらず、死骸だらけな通路。


 この死骸は迷宮とかに取り込まれないのかな。

 屍食い、スライム、粘菌生物みたいなのが分解してくれるのだろうか。

 黒猫(ロロ)に騎乗しながらそんなことを考えていると、また十字路に出迎えられた。


 一旦、馬獅子型の黒猫(ロロディーヌ)を止めて、


 ど、れ、に、し、よ、う、か、な?


 上を選択。今度は真っ直ぐ進む。

 この通路も蝙蝠蟻(バットアント)の死骸が転がっていた。


「ロロ、そろそろ降りる」

「にゃ」


 馬獅子型黒猫(ロロディーヌ)は俺の声を聞いてストップ。


 地面に飛び降り、通路にあった死骸を確認。

 蝙蝠蟻(バットアント)の頭蓋に棒状の物で殴られた跡がしっかりと残っていた。その傷跡から黒血が溢れて流れている。乾いてない。


 指でその流れ出る血を触ってみた。

 ――冷たい。

 その指についた血を舐める。


 これ、倒されて数時間以内か?


 もうすぐ追い抜けるかも、この先を進む。


 曲がった通路や真っ直ぐな通路を走って進んだ。

 床に散らばる複数ある死骸をまた確認。


 通路を進むほど、床に落ちている死骸の血が温かくなり、どんどんと新しくなっていった。


 お、この先に魔素の反応だ。

 蝙蝠蟻(バットアント)の死骸を作った冒険者たちにやっと追い付いたか。


 複数の魔素反応だ。

 一つ、二つと、今までと違う反応もある。


 大きい魔素?

 この感じだと、モン部屋だと思うが……。


 走って向かう。


 そこは今までと違う、広い部屋の空間だった。

 部屋というより、空洞に近いか?

 広いから全貌は掴めない。少なくとも高さは二十メートル以上はある。

 幅は少なくとも五十メートル以上か?

 

 目測だから適当だが……。

 宙には蝙蝠蟻(バットアント)が飛び交い、地上には中型ゴブリンが複数群れている。


 更に、初めてみるモンスターが存在していた。

 見た目は、恐竜型かエイリアン型。


 そして、異彩を放っているのが……それらのモンスターと戦っている、車椅子に乗った独りの冒険者。


 えっと……車椅子?

 マジかよ? と、言葉を失う。

 てっきり、パーティで戦っているかと思っていた。

 

 俺と同じ個人だとは思いもしなかった。

 しかも、強い。

 車椅子を戦車のように動かして、丸みを帯びた車輪から飛び出た刃物で、ワーワーと群がる中型ゴブリンを引き裂いていく。


 群がるゴブリンたちが無残に吹き飛ぶ姿から、漫画太郎の作品を思い出した。


 車椅子を操る人物と、その車椅子からは魔力を感じた。

 あの車椅子は魔道具かな、ま、特殊な車椅子なことは確実か。


「ロロ、しばらく見学、指示が出るまで手を出すな」

「にゃ」

『閣下、あの冒険者、魔力操作が凄まじく洗練されています。魔力があまり漏れていませんので、内包している魔力が高いか判別できないほどです』

『ほぅ……』


 ヘルメと脳内会話をしていると、


「グガァァァァ」


 恐竜型モンスターが咆哮をあげる。

 車椅子の冒険者へ向けて突進を始めていた。


 更に、空洞の宙を飛ぶ蝙蝠蟻(バットアント)たちが一斉に車椅子の冒険者へ向けて飛び掛かっていく。


 これ、助けた方が良いんだろうか?


 俺のそんな心配をよそに、冒険者はロングの黒髪を揺らしながら、眉を寄せて敵を睨むと、全身から魔力を放出した。

 着ている黒ワンピースの表面から揺らめきをみせる紫色のオーラのような魔力を発生させる。


 一瞬にして、その紫の魔力は、円形に半径数メートル広がった。


 紫の魔力に包まれている両サイドの車輪部位が裂けるように蠢き、一つの細長い線のような穴が車輪の外側にできていた。

 その細長い線穴から、円月輪のような輪状の武器が宙へ飛び出しては、空から来る蝙蝠蟻たちと衝突。


 蝙蝠蟻たちの羽や頭を円月輪が真っ二つにしていく。


『なんと、驚きました。閣下が使う導魔術系の力でしょうか。それか、特異な魔力操作から生み出されている未知なる力かもしれません』


 宙を舞っている金属の円月輪も紫色のオーラ魔力に包まれているので遠隔操作をしているのか?


 そこで、突進してきた恐竜型モンスターが車椅子に乗る冒険者に近付く。


 恐竜型モンスターの両手には白銀の大爪が伸びていた。


 あの爪、両手の肘下から全部が一本爪になっている。

 幅は両手剣サイズほどはあるだろうか。

 白銀爪による鋭そうな一撃が、車椅子に乗る冒険者へ迫る。


 冒険者に焦る様子は見られない。


 彼女は車椅子を操りながら両腕の裾から黒い金属棒を伸ばし、恐竜型モンスターが振るう白銀爪の突きを防ぐ。

 魔力を帯びた黒い金属棒と白銀爪の衝突で大気に魔力光を帯びた火花が散った。


 車椅子に乗った女冒険者は強気だ。


 車椅子をくるっと回し車輪から飛び出た刃物で、恐竜型モンスターを攻撃。

 残像を残す速度の刃物が、恐竜型モンスターの足と衝突。

 刃物が足の甲に弾かれていく。

 硬質な音が響く中、恐竜型モンスターが出した白銀爪を、腕に持つ魔力の帯びた黒棒で、弾き上げることに成功する。


 そこで、車椅子に乗った冒険者はモンスターから距離を取っていた。


『素晴らしい。特殊な椅子を乗り近接もこなす魔術師でしょうか。脚が変ですが、閣下、彼女を部下にお勧めします』

『ヘルメは気が早いな……』

『そうでしょうか。閣下は、至高なお方なのですから、もっと一流の部下を増やさねばなりません』

『部下を増やしてなんとする?』

『それは……』


 ヘルメは思考するように黙った。


 恐竜型モンスターは、攻撃を弾かれたことが気に食わないらしい。

 凶悪そうな頭部を動かし、口を広げる。


「グォオオォォォォッ」


 また咆哮。白目の中心の青緑色に輝く瞳がギョロりと動く。

 と、いきなり恐竜型モンスターは跳躍。

 一回の跳躍で、車椅子に乗る女冒険者との間合いを詰めた。

 

 その勢いを以って左右の腕に生えた煌めく白銀爪で、女冒険者の全身を突き刺そうとする。

 車椅子に乗った冒険者は、突然、恐竜型モンスターに近寄られても、冷静に対処。

 両腕から伸びた黒棒で、爪の軌跡が残る白銀剣のような爪の突きを、左右に捌く。


 女冒険者の周囲に火花が散っていく。

 彼女の両手は車輪の部分に触れてない。


 あの紫魔力を纏った車椅子は自動で動くのか。

 恐竜型モンスターの鋭い攻撃を防いでいる黒色のトンファーは硬そうだ。


 死闘を演じている冒険者を助けるように、まだ空を舞う蝙蝠蟻(バットアント)へ向けて<鎖>を撃ち放つ――<鎖>は生きた銀蛇のように宙を舞うと、蝙蝠蟻(バットアント)の頭や腹を穿った。

 

 宙を跋扈する蝙蝠蟻(バットアント)をすべて撃ち落とした。

 んだが、車椅子の女冒険者と恐竜型モンスターは、まだ戦いを続けていた。


 あの車椅子の冒険者、頑張っているが、押されてる?

 少し悪い気がするが、顔をちゃんと拝見したい。


 回り込んで――見てみると……驚いた。

 すげぇ、美人さんじゃないか。

 毎日リンスをしてそうな、艶があるストレートロングな黒髪。

 くっきりとした紫色の双眸。

 肌も化粧をしていないと分かるが、雪のように白くて綺麗な肌。

 鼻梁も細く通り、唇は小さいアヒル口。


 僅かにあどけない感じが残るが……。

 動きが激しくなってきた。

 激しい連打戦の末、恐竜型モンスターと交差した彼女。


 鏡写しのように恐竜型モンスターと彼女は体を反転させた。

 白い爪剣と黒棒が互いに十字架を掲げるように衝突しあう。


 純粋に力比べとなった瞬間、彼女の華奢な細腕では限界だったのか、力負けして、車椅子ごと吹き飛ばされ美女が床へと転ぶ。


 恐竜怪物は莞爾(かんじ)として嗤う。


「――おいっ、大丈夫か? 助けはいるか?」

「……」


 話し掛けたが、無視された。

 黒髪の女は長髪を靡かせながらブレイクダンスをするように足を左右へ伸ばし回転。黒棒を使い、素早く立ち上がる。


 あ~、あれ、杖でもあるわけか。


 しかし、立って動けるのか?


 ――うはっ、女は手の袖から伸びている黒棒を松葉杖のように扱い、跳躍。嗤う恐竜型モンスターへ飛び蹴りを行っていた。


 白銀の爪と片足がぶつかり硬質な音を立てる。

 あの足、金属製?


 美人さんの足先をよく見たら、鉄槌のような形になっていた。

 そのまま、鋭い脚閃を虚空に残しながらの側転を行い、鉄槌を生かした足技の連撃を繰り出していく。


 おいおい、トンファー使いかと思いきや、カポエラ使いが真っ青な足技使いなのかよ。


 恐竜型モンスターは蹴り技を頭部にもろに喰らった衝撃で、ぐらついてる。

 彼女は彼女で、手に持つ黒棒を地面につけ体を支えながら、体の回転を維持していた。


『閣下、あの冒険者の魔力が凄まじく消費されています。きっと奥の手でしょう』

『なるほど、素早い分析ありがとう、スカウター・ヘルメ』

『なんですか、スカウターとは?』

『いや、気にするな――』


 脳内会話を止める。


 華麗な蹴り動作は続き、着ている長袖のロングワンピースの裾が破れ、下に装着している革鎧のタセットが捲れる。


 魅惑のクロッチからは黒いパンティも見えた。


 うん。思わず、凝視しましたとも。

 パンティ見学協会が一瞬で、作られたよ。


 しかし、蹴りの連撃は長く続いたが、恐竜型モンスターは最初にぐらついただけで、効いてなかった。

 強化外骨格のような鱗ボディは鉄槌の蹴りを受けても硬質な音を響かせるのみ。更には両手に生える白銀爪で、重そうな蹴り攻撃を難なく弾いているので、防御は硬い。


 黒髪美人の踵落としが防がれたところで、延髄蹴りを行うように恐竜型モンスターの首側面を蹴る。


 彼女は、その反動で距離を取った。


 離れた地点で、そのまま、片足の金属槌を地面に叩きつけ固定する。

 更に、両手に握る黒棒のトンファーな松葉杖の先端が少し平べったく変形し地面をついた。


 その三点で自身の体を支える形。


 そして、黒髪の女冒険者は反対の片足を水平に持ち上げ、まるで固定銃座のように恐竜型モンスターへ足先を向ける。


 恐竜型モンスターは、さっきの連撃で警戒したのか、突撃はしてこない。

 その場で苛つくように唸り声をあげてはイライラした感情を表すように尻から生えた長太い尻尾を上下に揺らしながら地面に何度も叩き付けていた。


 両手に生えた白銀爪も、悔しそうに地面へ叩きつけていく。

 白銀爪の先端により地面は簡単に抉られ、大きな弧線が地面に残っていた。


 俺はそんな狂暴そうなモンスターより、美人な冒険者のが気になる。


 片足を構えた美人な女。


 全身に魔力を纏っているその姿は、どこか珍妙で歪な感じだが、彼女は屹然たる様子で、恐竜モンスターを見ては、天使が微笑むような笑顔を浮かべていた。


 その瞬間、構えた片足の先が四方に割れて分裂しながら変形を繰り返す。

 最終的に金属製の円形カートリッジ付きのクロスボウへと形が変わり、そこから紫魔力を帯びた太いクロスボウの矢が連続で飛び出していく。


 うひょ、金属矢、ほんとに銃みたいだ。


 恐竜型モンスターは両腕の白銀の爪を振るい、太いクロスボウの金属矢を防ごうとした。

 が、三発、四発とクロスボウの矢を喰らう恐竜型モンスター。

 頭部と胴体に深々とクロスボウの矢が刺さっている。


 硬い外骨格を貫くクロスボウの矢は特殊な矢だ。

 特殊な矢が刺さった箇所からは、白い鮮血が迸る。

 恐竜型モンスターの体は血塗れ。

 鮮血淋漓たる光景を生み出していた。


 恐竜型モンスターはクロスボウの矢が自身の体に刺さったことが許せないようだ。

 怒りの形相を見せ、顎が外れるように口を広げた。

 

 口から生える牙が伸びていく。

 口内に魔力を集中。


 更に、足、尻尾へ魔力を集中させたのか、魔力が集結――。

 そして、


「ゴァアアァァァァァッ――」


 恐竜型モンスターは大咆哮。

 片足を上げている女冒険者へ向けて、怒りの咆哮と共に、白濁液の塊を口から飛ばしていた。


 女冒険者はクロスボウ型の義足を外し、横へ倒れ込むように、飛んできた白濁液を躱す。白濁液は床面にべちゃっと擬音を立て付着。


 粘り気がありそうな白い固形物。


 恐竜型モンスターは女冒険者が白濁液ブレスを躱す動きを想定していたのか、機敏な動きを見せてきた。


 筋骨隆々な二本の恐竜足で地面を凹ませるように地を蹴りダッシュ。横回転しながら巻いていた太い尻尾を、女冒険者の胴体へ向かわせる。

 白濁液を躱すために、体勢を崩していた女冒険者の腹に、太い尻尾が直撃していた。


 女冒険者の体は“く”の字になり吹っ飛ぶ。


 あちゃぁ、もろに腹へ食らったよ。


 不意を突かれたな。


 床に叩きつけられるように転がっていく、黒髪の美人さん。

 手に持っていた二本の黒棒トンファーも地面に落ちている。


 僅かに、体は動いているが……死んだか?


 恐竜型モンスターはそんな黒髪の美人さんへと止めを刺すように飛び上がって白銀の爪を伸ばす。


 ――しょうがない。


「ロロ、やるぞ」

「にゃおあ」


 <鎖>を発動。

 飛び上がってる恐竜型モンスターの足を貫き鎖を絡ませては、空中へ運ぶ。


 そこに黒猫(ロロ)が触手骨剣を伸ばし、鎖により空中に漂う恐竜モンスターへ衝突させていく。

 キィン、ガンッと、弾かれる鈍い衝突音が何回も響いた。


 やはり硬い鱗皮膚なんだな。

 恐竜型モンスターの表面には傷らしき物がない。

 黒猫(ロロ)の成長している触手骨剣を全て弾き続けている。


 俺の<鎖>だから貫いたのか。


 なら、魔槍杖はどうだ?


 宙で鎖にぶら下がったままの恐竜型モンスターは足で掻くようにもがく。

 あの口から粘液を飛ばされないように、鎖を操作。恐竜の頭を反対へ向けておく。


 そんな背中を向いてる恐竜型モンスターへと魔槍杖の矛を伸ばし、突きを連発。

 何度も硬い鱗の感触は得るが、矛は難なく恐竜型モンスターの背を貫きざっくりと腹まで突き破っていた。


 さすがは魔竜王バルドークからザガ&ボンが作り上げた特殊な魔槍杖。


 恐竜の背中に大きな穴を幾つも誕生させる。

 太い尻尾も貫いておく。穴を増やしてやった。


 穴だらけになりながらも、この恐竜型モンスターは生きている。

 虫の息といったところだが、タフだ。傷口からは白血が噴水のように迸っていた。


 更に、<刺突>を繰り出す。

 魔槍杖は紫一閃、疾風迅雷の螺旋流となり――。

 恐竜型モンスターの首元を貫き、穿ち、頭部を飛ばす。クロスボウの金属矢が刺さっている狂暴な怪獣顔の頭部が床上に転がった。


 頭部なしの恐竜型モンスターの胴体は、力なく空中で佇み、穿たれた首の断面から色褪せた白血が勢いよく噴出していく。


 暫くしてから、完全に動かなくなった。

 そこで宙に縫わせていた鎖を消し、首なし胴体を地面に落とす。


 周りにはモンスターと見られる魔素の反応はなし。


「ロロ、一応、周りを警戒。俺はあの女性を見る」

「にゃお」


 黒猫(ロロ)は元気よく鳴き、きょろきょろと首を回しゆっくりと歩き出す。


 慎重に動いている。

 ちゃんと現場を理解して、黒猫(ロロ)なりに見回りを行うつもりらしい。


 それよりも美人な女冒険者だ。

 魔素の反応があるので、生きていると分かるけど。


 床に倒れている女冒険者のもとへ急ぐ。


「おい、生きてるか?」


 肩を持ち揺らしながら話すが、反応はない。

 完全に気を失っている。


 腹に直撃していた……。

 打撲だろうけど、傷を見るか。


 切れて擦れている黒ワンピースの隙間から体を覗こうとするが下に革鎧を着ているので、確認できなかった。


『閣下、わたしの水を使いますか?』

『ううん、覚えた魔法を使う』

『わかりました』


 医者なら服を破って鎧も切って傷を確認するんだろうけど、ここには薬や魔法がある。

 素早く、アイテムボックスから回復薬ポーションを取り出し、女冒険者の頭の上に掛けていく。


 回復魔法も試す。


 中級:水属性の《水浄化ピュリファイウォーター

 上級:水属性の《水癒(ウォーター・キュア)


 回復系の魔法は二つ覚えている。


 まずは、回復を急ぐ。

 上級の水属性である《水癒(ウォーター・キュア)》を念じ、発動。


 光を帯びた透き通った水の塊が目の前に発生。


 その水の塊が一瞬で崩れると、シャワーのように細かい粒となり気を失っている黒髪の美人さんへと降り注ぐ。


 黒髪が濡れて顔から首筋に光る水滴が悩ましく垂れて沈む。

 光る水が服の内部へと浸透していく。


『閣下の水……』


 ヘルメは羨ましいのか、変な声質で呟いてくる。


 不思議と乾くのが速いようだ。

 もう髪や洋服は濡れていない。


 ポーションや魔法は効いたと思うが……。

 スースーと寝息が聞こえる。


 その間に転がっていた車椅子を元に戻し、散らばる蝙蝠蟻(バットアント)の死骸から魔石と、素材になる死骸、比較的傷が少ない物を選び、恐竜型モンスターの死骸も中魔石を取ってからアイテムボックスの中へ入れた。


 魔石はギルド分の十個を超えて二十個集まった。

 報酬上乗せにしようかと思ったけど、やっぱりアイテムボックスが先かな。


 エレニウムを十個納めちゃうか。


「オープン」


 アイテムボックスメニューを起動。


 メニューの中にある◆マークを押す。


 エレニウム総蓄量:50

 ―――――――――――――――――――――――――――


 必要なエレニウムストーン:100:未完了。

 報酬:格納庫+20:カレウドスコープ解放。

 必要なエレニウムストーン:200:未完了。

 報酬:格納庫+25:ディメンションスキャン機能搭載。

 必要なエレニウムストーン大:5:未完了。

 報酬:格納庫+30:フォド・ワン・カリーム・ガンセット解放。


 ??????

 ??????

 ??????

 ―――――――――――――――――――――――――――


 左の大型菱形マークに十個の中型魔石を放り込む。


 すると、


 エレニウム総蓄量:60

 ―――――――――――――――――――――――――――


 必要なエレニウムストーン:90:未完了。

 報酬:格納庫+20:カレウドスコープ解放。

 必要なエレニウムストーン:200:未完了。

 報酬:格納庫+25:ディメンションスキャン機能搭載。

 必要なエレニウムストーン大:5:未完了。

 報酬:格納庫+30:フォド・ワン・カリーム・ガンセット解放。


 ??????

 ??????

 ??????

 ―――――――――――――――――――――――――――


 よしよし、カレウドスコープ解放の必要数が九十になった。


 今日はエレニウムを納めるのはここまでにするかな。


 これから手にいれる魔石は報酬の上乗せに使おう。


 しかし、まだ、黒髪の美人さんは寝ている。

 こんなとこでずっと寝かせるわけには行かない……。

 とりあえず、車椅子に移してやるか。


 お姫様抱っこを行う。


 ――軽い、さすがに鉄槌義足からは少し重さを感じるが。


 もう片方の足はクロスボウ型の義足が外れてるので、膝下の足骨が剥き出し状態だった。


 見た目的には同情を誘う骨足だ。

 だけど、膝上からつるつるしてそうな綺麗な生足もある。

 でも、この剥き出しの太い骨、ん? 骨の表面に紋章が浮かんでる?


「……ん……な、何?」


 俺が足先に注目してると、その女冒険者が気が付いた。


 目をぱちくりとさせている。睫毛が女らしく少し長い。

 色彩は黒紫系。前髪は短く揃いロングな髪がサイドに流れているのが似合う。

 可愛い感じだが、やはり“美人”だ。

 さっきも思ったけど、絶対何かのシャンプーを使っているはず、あの小さい唇もキスして塞ぎたくなってきちゃうな……ちゅっと、ちゅちゅっとしたい。


「……起きたね。大丈夫かな?」

「……」


 ん、反応が……。

 まだどこか、怪我があるのか?

 さっき回復魔法をかけたのに。心配だ。


「目は覚めてるよね?」

「……はぃ……」


 なんだ、顔を赤くして、俯いて、声が小さいぞ……。


「ごめんなさい……」


 黒髪の美女は俺の心の声を聞いたように、小さい声で謝ってきた。


「とりあえず、その車椅子に乗せればいいかな?」

「……」


 彼女は黙って頷いてる。

 すると、紫の魔力が放たれ、車椅子に紫魔力が当たると、自動的に車椅子が前進。


 俺の目の前に移動していた。

 この子は遠隔操作可能な能力を持つのか。


『素晴らしい』


 ヘルメは褒めるが、俺は不思議に思う。

 そんな気持ちを抱きながら、車椅子の上に黒髪の美女を降ろしてやった。


「あなたが……アレを……銀ヴォルクを」


 黒髪の美女は俺を優しく見つめてから、地面に転がる恐竜型モンスターの頭に視線を移していた。


 あの恐竜型モンスターは、銀ヴォルクが名前なのか。


「あぁ、あそこに転がってる頭。狂暴なモンスターは確かに俺が倒した。それより個人で、こんな数相手に無謀じゃなかったのか?」

「……ごめんなさい。油断した。鉱山の奥に、銀ヴォルクは居ると知っていたけど、まさかここに……」


 彼女は上向きで俺を見つめて、謝る。

 そして、急に視線を下へ逸らし、眉を細めてから、また俺を見上げた。


「ん、無謀はその通り、感謝……している。でも、わたしなりに理由がある……」


 辿々しい喋り方だな……。

 でも、理由ね。


「そうなのか?」

「?」


 彼女は不思議そうな顔を浮かべて、俺を紫の瞳で見つめてくる。


「……知らない?」

「何をだ?」

「ん、わたし」


 知っていたら千里眼かよ。と、俺自身がツッコム。


「知るわけがないだろう。今、君を助けて会ったばっかりだ。それにこんな美人、一度見たら忘れないって……」

「……」


 彼女は“そんなことない”と強く主張するように、頭を左右に振って頬を赤く染めている。


 ロングな髪が左右に靡いていた。

 とりあえず、名前を聞くか。


「とりあえず、君の名前を教えてくれるかな?」


 彼女は小さくコクッと縦に頷く。


「ん、エヴァ」

「エヴァさんですね。では俺も、名はシュウヤ。シュウヤ・カガリです――」


 そこに見回りから帰ってきた黒猫(ロロ)が肩に乗っかる。


「っと、今、肩に来たのが、使い魔のロロディーヌ。略して、ロロ」

「ン、にゃ~」


 急に現れた黒猫に驚いたのか、エヴァと名乗った女冒険者は胸に手を当て、目を見張る。


「……」

「にゃお?」


 黒猫(ロロ)は顔を傾げて、車椅子に座る女冒険者を見ている。


 さて、もう依頼の品は全部揃ったし、迷宮の奥へ進めるとこまで進むつもりだったけど、一旦、帰ろうかな。

 エヴァにも聞いてみよ。


「エヴァさんはこれからどうするんだ? 俺はそろそろ帰ろうと思うんだが」

「……空洞の先、鉱山の手前に行く。錬魔鉱、採りたい」


 この空洞の先にそんな鉱石を採れる場所があるのか。

 彼女の紫の瞳は力強い。自己主張してくる。


 一人で進むつもりか。


 ここからじゃ、魔素の気配は感じられないけど、空洞の奥にはまだモンスターが潜んでる可能性はある。


 手助けしてあげるか。美人な女性だし。


「……へぇ、そんな鉱石が採れるんだ。まだ、さっきの銀ヴォルクが出るかも知れないし、ボディガードを兼ねて、その鉱石掘りに付き合ってあげようか?」


 軽くナンパ口調で話す。


「良いの? 嬉しい」

「いいぞ。行こう。あ、少し待った」


 そう気軽な調子で話しながら、床に落ちているクロスボウ型義足と黒棒のトンファー武器を拾い手渡してあげた。


「……ごめんなさい」

「いや、構わないさ。その武器、結構重いが使いこなしているんだな?」

「ん、重い。難点。けど、威力あるし、特別製」


 エヴァはそこで初めて流暢に言葉を話す。足にクロスボウ型義足を嵌め込むと魔力を通し、ギミックを足型に戻していた。


 そして、渡した黒棒トンファーを愛しそうに触っている。

 細い指でなぞった際に、黒棒の表面から赤紫のルーン紋様が浮かんでは消えていくのが見えた。

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