千百八十八話 談笑とビュシエの苦しみ
「黒い鍵~でも、使者様のお宝はまだあるはず~」
「おう」
イモリザに返事をしていると霊魔宝箱鑑定杖を持ったラムーが傍に来る。
「にゃ~」
「にゃァ」
と黒豹と銀灰猫が、黒猫と銀灰猫に変化してイモリザの足下を抜けて駆けた。
「あう~」
イモリザはワンピースを捲るようにスカートの端を持ちながら、己の股の下を覗いて、背後を見ていた。長い銀髪が逆さまに垂れていて可愛い。
黒豹と銀灰猫は厨房のほうに消える。
俺には分からないが魔魚か魔鳥の臭いを察知したか?
すると、吹き抜けの上のほうにいたフィナプルスの気配を察知した。
吹き抜けの二階にいる魔族たちと宙空に浮遊しながら会話をしていたフィナプルスは俺に気付いて此方に手を振ってくれた。そのフィナプルスに手を振った。
フィナプルスは二階で休んでいる魔族たちにも笑顔を振り撒き会話をしつつ、俺にも挨拶をするように背の広げた両翼を活かした機動で後方宙返りを行う。
二階にいる魔族たちから歓声が響いた。
魔歯ソウメルから魔手術を受けていた魔族たちだろう。
ここからでは見えないが、魔素からして、体がつぎはぎ状の魔族たちも二階の寝台か、その付近で寛いでいると分かる。
下から、フィナプルスの飛行をまじまじと拝見。
白い翼の一枚一枚は薄い羽だが重なればフカフカな白い翼となる。
翼の全体はもっこりとした羽毛で被われていた。
柔らかく、いい匂いが漂うこともある白い翼は、最高級の抱き心地。
そのフィナプルスは白い雨覆羽の中に小翼羽を引き込む。
白い翼の一部を格納させた。
その翼を格納する動きは、前肢が飛翔用に発達した鳥類そのもの。
否、美観的にそれ以上か。
白鳥や大鷹が、翼を畳ませる時の動作以上に、白い大きな翼が畳まれる機動は洗練されて見えた。
それら白い両翼は薄らと黄金色の魔力を帯びている。
フィナプルスは、風切り羽の角度を少し上向かせたまま風を孕むようにふんわりとした機動でラムーたちがいる食堂を見渡すように飛行してから、俺の頭上で止まった。
慣性もなく止まる挙動はいつも凄い。
そこに、沙・羅・貂たちが、俺の頭上を越えてフィナプルスに近付いた。
「――フィナプルス! 妾と、また宙空模擬戦をしようではないか!」
「フィナプルスちゃんの翼は綺麗です~」
「はい、白い翼には薄い黄金色の魔力が合う。素敵です」
「ふふ、今は休憩中ですし、シュウヤ様の用事があるのでは?」
「器は、黒い鍵の鑑定だ。冥界シャロアルのアイテムだろう。が、一先ず――」
と沙・羅・貂たちとフィナプルスはハイタッチ。
バーソロンとの一戦とイチャイチャをしている間に、訓練を重ねていたようだ。
仲の良い四人は踊りながら宙空に螺旋状の魔線を描くようにくるくると回りつつ真下の床に着地。
フィナプルスは、
「シュウヤ様、鑑定があるようですが、一先ずはバーソロンの<筆頭従者長>おめでとうございます。そして、この魔塔の内装は綺麗です。あ、二階にも宿舎があります」
「おう、そのようだ」
とハイタッチ。ついで、「器~さっきの続きのちゅーをするのだ!」とか言って寄ってきた沙・羅・貂たちをハイタッチするフェイントから、直にハグからキスを頬に行う。
「――ぬぁ!?」
「「はぅ」」
三人は、その場でへなへなと脱力し、乙女座りを行う。
沙と羅と貂は頭部と首筋と鎖骨付近を斑に赤く染めている。
体の上部あたりから湯気のような魔力が出ていた。
「……妾にこんなキスをしてくれる器は、ほんとうに器なのか……否、もしや、冥界シャロアルに行くとかいっておるから頭に霞みがかかったのか? あぁ……でもちゅっとした器と力強く抱きしめてくれた器は、ほんもの……ぐふふ」
沙が一人ブツブツと語る。
暫く沙はこれで大人しくなるだろう。
「ふふ、羅と貂が可愛らしいです。そして、強気な沙がタジタジな光景は面白い」
「はい、少し羨ましいですが」
とヴィーネとキサラが発言。
「……」
ビュシエは全身から<血魔力>を発していたが、俺の視線を感じるとニコニコとした笑顔を浮かべて、
「嫉妬はしていますが、別段に怒ってはいません……キサラと同じく羨ましいです」
と<血魔力>を霧散させる。
ヴィーネが、
「ビュシエ、わたしも同じ気持ちだ。しかし、ご主人様も男。そしてスキンシップの一環だ」
「はい、わたしたちが夜の時に奮闘すればいいのです。それにちゃんと気持ち良くしてくれますから、気を失うのが嫌なぐらいに……」
「は、はい、それはたしかに……うふ」
「ん、シュウヤは離れていてもちゃんと皆のことを考えてくれている」
エヴァの言葉に、ビュシエ、キサラ、ヴィーネが言葉に頷いた。
ヴィーネの銀色の眼に熱が籠もっていく。
よ、夜はがんばらないとな……。
すると、灰色の鋼の兜が渋いミューラー隊長が、
「ははは、シュウヤ様たちは相変わらず、元気に溢れている!」
「「ははは」」
とミューラー隊長と【グラナダの道】の皆が笑う。
ラムーもくぐもった声だが、笑っていた。
「よう、ミューラー隊長と【グラナダの道】の皆、ラムーに、この鍵の鑑定をお願いしたところだ」
「はい!」
「了解しましたぞ」
「「「「「ハッ!」」」」」
「「「はい!」」」
ミューラー隊長はラムーを見て、
「ラムーの霊魔宝箱鑑定杖は優秀ですからな」
「おう、ソフィーを助けた時に、この、歪な黒い鍵を入手したんだ」
「ソフィー……魔物使いデビスランのような方と聞いています」
「薬師でもあるとか」
「はい」
ミューラー隊長はソフィーの名を聞いていたか。
【グラナダの道】の面々は、俺の右手が持っている黒い歪な鍵を凝視していく。
魔線の動きも見ては数回頷いていた。
「他にも鑑定してもらう品もある。後、この品もラムーに渡しておこう――」
とラムーとの間合いを零とした。ラムーは、
「え……」
鋼鉄の兜越しに、くぐもった声で驚いていると分かるような声を発していた。
そのラムーは、霊魔宝箱鑑定杖を手元から消す。
〝魔導のブドウ〟を渡した。
「……魔導のブドウ! 食べたら魔力がかなり増幅される。幻の食材百二十九品の一つ!」
「おう、鑑定に関しての報酬と考えてくれ。それと、個人的な配慮もある」
「個人的な配慮、凄く嬉しいです。そして、ありがとうございます!」
ラムーの声はくぐもっているが、明らかに嬉しそうな女性の声だと理解できた。
懐に魔導のブドウを仕舞うラムーの姿が可愛い。
単純に嬉しい。ラムーはどんな顔なんだろう……。
見たいが、それは魔鋼族ベルマランの掟もあるだろうからな……。
とか考えていると、横と背後から……。
ヴィーネたちの冷たい魔力の雰囲気が感じた。
この辺りは沙たちの余裕がある空気感とは少々異なる。
キョウカもだが、新しい女性に俺がアプローチの雰囲気を出すと、直ぐにそれなりの対処して、封じ込めてくる。
もう慣れっこだと思うが<筆頭従者長>たちのハーレム殺しの扱いは上手い。
すると、ミューラー隊長が、
「ひとまず、周囲の机を整理しましょう。皆――」
ナイスタイミングで声を発した。
直ぐに厳つい体格のヴァイスンが、
「おうよ、周囲に退かすんだな!」
「そうだ」
「「「了解!」」」
「にゃぁ」
「にゃァ~」
「私も手伝おう」
「ゲロゲロ~」
「わたしも運びます~」
ミューラー隊長、バスラート、ヴァイスン、モイロ、トクルなどの魔鋼族ベルマランたちと、ポーさんとファウナさんたちが素早く机を退かし始める。
と、そこに「「ンンン」」厨房から戻ってきた相棒と銀灰猫が現れた。
口にアジのような魚を咥えている。
【源左サシィの槍斧ヶ丘】経由の品か?
【メイジナの大街】から仕入れた品かな。バーヴァイ平原にも川があるから川魚かも知れない。黒猫と銀灰猫は少し広くなった食堂を駆けていく。
すると、相棒たちの姿を見た、ファウナさんとエプロン姿に包丁を持っていたフーに似た金髪の魔族さんが、
「あぁ~アジの魔魚!」
「ロロちゃんとメトちゃんは嗅覚ありすぎます~」
と発言していた。
「ロロちゃんとメトちゃん~、お魚咥えて♪ どこ行くの~♪ てってっててってぇ~♪ ててて~ててて~♪ 愉快なぁ、ロロちゃんメトちゃん~♪」
イモリザが楽しそうにどこかで聞いたような歌を歌う。
近くにいるエラリエースと光魔騎士ファトラも、
「ふふ、楽しそうな歌です。あ、私たちも、この机をそこの横に運びましょう」
と、机を俺の前にまで運んでくれた。
机を退かし終えた【グラナダの道】の魔鋼族ベルマランの面々は俺たちに歩み寄る。
その中の一人の霊魔宝箱鑑定杖を持つラムーをチラッと見てから、
「皆、ありがとう。ラムーに、この黒くて歪な鍵の鑑定を頼む。そして、その前に、エラリエースとファトラが運んでくれた机の上に鑑定してもらうアイテムを出すとしよう」
肩の竜頭装甲を意識しながら戦闘型デバイスから――。
〝不可測の血布〟
〝神魔光邪杖アザビュース〟
〝堕天の十字架〟
〝迷宮核〟
〝古の光闇武行師デファイアルの仮面〟
〝霊湖水晶の外套〟
〝レイブルハースとペマリラースの護符〟
〝霊湖の水念瓶〟
〝レイブルハースの呼び声〟
魔魁三王ブカシュナが持っていた――。
〝青白い炎の魔槍〟
魔商人の――。
〝フニュアンの宝箱〟
悪神デサロビアの大眷属が寄越した――。
〝ゲヒュベリアンの念想送眼〟
〝仙人人形〟
〝鬼魔人像〟
〝仙王槍スーウィン〟
〝夢追い袋〟
を机に出現させる。
黒い鍵を浮かばせてつつ、
その〝夢追い袋〟から――。
〝コツェンツアの魔槍〟
〝髑髏の指環〟
を出して机に置いた。
無魔の手袋が装備している手で、黒い鍵を掴む。
更に、
〝四眼を持つ魔族の頭部〟
〝小箱〟
〝柄巻〟
〝歪な勾玉〟
〝装身具〟
〝魔宝石〟
などをハルホンクと戦闘型デバイスから意識して取り出す。
エラリエースとファトラに「机をありがとう」と礼を言いながら――長方形の台の上に置いた。
「ふふ、とんでもない」
「はい」
同時に肩の竜頭装甲の片目に嵌まっている蒼眼がピカピカと輝いた。
「「「おぉ~」」」
「「お宝の山か!」」
「すげぇ」
「シュウヤ様は、お宝の山か!」
「あぁ、そして、ハルホンク様と戦闘型デバイスは超絶優秀なアイテムボックスだ……」
「ングゥゥィィ!」
と、魔族の誰かが発言した言葉にハルホンクが反応。
右肩の竜頭装甲の表面に波のような魔力が走ると表面の艶が良くなった。
「前にも増して右肩のハルホンク殿が光を帯びた! まさか、バーソロンを<筆頭従者長>に迎えたことで、光魔ルシヴァルの能力と共に身に着けているハルホンクがパワーアップを!?」
「あぁ、ありえる。神話級の〝魔塔八蛇タイレムマクソンとバイラムの歯車〟を食べるように回収していたからな」
「あぁ、あれは実は食べていたのかも知れないぞ」
「ングゥゥィィ、ハルホンク、ぴかぴか、光ル、ゾォイ!」
「「おぉ」」
ハルホンクに反応する鋼の甲冑軍団こと【グラナダの道】が面白い。
更にロズコとアマジさん、ビートンさん、ジアトニクスさん、エトアが、
「が、このお宝はやはりすげぇよ」
「あぁ、綺麗な外套は透けている? 見る角度によって魔力の紋様が変化している」
「……まさに、偉大なる我らの指導者が持つべきアイテム……」
「凄いアイテムの数々です」
と発言。のっぽで、頭が特徴的なジアトニクスさんたちを見ながら、
「レイブルハースからの報酬は、俺も気になっていた。かなりの品だと思う」
ジアトニクスさんは、
「はい。このお宝のこともさることながら、アチ様と皆様から、魔界騎士ド・ドラグネスが、〝列強魔軍地図〟をシュウヤ様に献上した話と、魔将オオクワたち、鬼魔人と仙妖魔の軍と玄智の森の救出に関する事象を色々と聞きましたから、これらの品を持つのも納得ですぞ……」
「あぁ、聞いたか」
と、俺が言うと、ジアトニクスさんは深く頷く。目が輝いていた。
「はい、まさに、導きし者!」
「「導きし者!」」
と、エトアさんの言葉に一部の魔族たちが連呼した。
鬼魔人と仙妖魔たちも同じ言葉を言っていたな。
導きし者! は、魔族の伝承か何かか。
「シュウヤ様の行動理念は素敵すぎるからな、納得だ」
「あぁ! お宝もだが、大厖魔街異獣ボベルファの話を聞いた時は感動したぞ、俺は」
「私もだ……悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの勢力からこの地域を守ろうとしていることにも感銘をうけた」
そこに、ミューラー隊長も
「うむ。そんな状況最中でありながら、伝説のイスラの探索と奪還に協力してくださった。更には、我らの【無窮のグラナダ】の故郷を目指すのも去るのも自由だと言ってくれたのだからな……懐が深い。まさに偉大な魔英雄様だ!」
と強く発言。
「「あぁ!」」
「「侠気溢れる方だ!」」
「そして、大厖魔街異獣ボベルファとミトリミトン様との繋がりも凄すぎる」
「……まさに神界と魔界を救う御方……キサラ様は、闇と光の運び手がシュウヤ様なのです。と語りながら色々とシュウヤ様の過去を教えてくれたが、まさにその通りだろう……」
「「「「あぁ」」」」
魔傭兵の【グラナダの道】の魔鋼族ベルマランの面々と刑務所で長く強制労働されていた魔族たちが盛り上がる。
そして、【グラナダの道】の面々だけが、一斉に鋼の胸元に腕の鋼を当てた。
重低音となった金属音を数度響かせる。
この魔塔は教会やモスクに劇場にあるような吹き抜けの造りだからか、響きまくる。
しかも建物の壁に魔力の筋が振動音に合わせて光を帯びていた。
振動波の周波数が、固有振動数としてエネルギーとなったのかな。
ここの壁は振動をエネルギー源することか可能で、一種の蓄電池なんだろうか。
「ふふ、皆の興奮も分かりますが、品を注目しましょう」
とヘルメの言葉に続いて、
「そうですね、<血魔力>が豊富な布は気になります。あとは、迷宮核も」
「ふふ、迷宮核~♪」
背後にいた蜘蛛娘アキが反応していた。
ビュシエも前に出て数々のアイテムを凝視しては、
「迷宮核は素敵な色合いです。魔族の頭部と小箱と柄巻と歪な勾玉と装身具と魔宝石などは、マーマインのハザルハードと<従者長>カーマトラたちの……。そして、その杖は、ヴィーネたちが語っていた枢密顧問官ベートルマトゥルが持っていた代物でしょうか。そして、不思議なアイテムボックスの袋と、〝古兵〟を生み出したような髑髏の指環が気になります」
と発言。ビュシエの発言に皆が少し静まりながら頷いた。
ヘルメが、
「今、閣下が装備している進化した闇の獄骨騎はシンプルな指輪ですが、昔の闇の獄骨騎は……このような髑髏の指環でしたからね」
と、机に置いた髑髏の指環を差して語る。
ヴィーネが、
「はい、また光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスや<古兵・剣冑師鐔>のシタンのような存在と契約が可能に?」
と発言し、キサラは、
「その髑髏の指環は、白い貴婦人こと、ゼレナードが所有していたアイテムの一つです。神界セウロス側か、盛大な呪いの品か……どちらかと思います」
たしかに。
皆も納得顔だが、ゼレナードを知る数のほうが少ない。
【グラナダの道】の魔鋼族ベルマランたちに、ファウナとエトナにのっぽなジアトニクスなどは勿論、『ゼレナード?』『なんのこっちゃ』という印象だろう。
すると、エヴァがビュシエに何かを言うように「ん」と言った。
ビュシエは微笑む。
「大丈夫です。昔は昔」
「ん」
と語るビュシエの双眸は少し揺らいでいるように見えた。
エヴァは優し気に傍に寄るだけだが、それだけで十分気持ちは伝わった。俺も心が温まるが、ビュシエの横に移動した。
「シュウヤ様……」
と、ビュシエは俺の胸に己の頭部を傾ける。
そんなビュシエの細い肩を少し抱くようにして、「あぁ、今は今だ」とボソッと言うと、「うふ、シュウヤ様……は、優しい……心がとけちゃう」と耳元で熱い吐息をかけてくれた。
そんなビュシエを見やると、片方の瞳の奥に……。
失った片腕を反対の手で押さえながらハザルハードという名のマーマインの魔君主を悔しそうに睨んでいる姿が見えたような気がした。
ビュシエは、ハザルハードを倒した時、片腕だけで、俺たちを【吸血神ルグナドの碑石】に誘った。そして、【吸血神ルグナドの碑石】では、吸霊胃無アングストラと戦ったんだよな……。
そのビュシエの苦しみを和らげるつもりで抱きしめを強めたが、ビュシエは「……嬉しいですが、皆がいるので」と発言して自ら体を離した。
そして、皆を見る。
「……皆の中には知らない者もいると思うから説明しとく。今ビュシエが語ったハザルハードはマーマインの親玉で大将。そいつは【源左サシィの槍斧ヶ丘】の内部に干渉していたんだ。源左の者をマーマインへの裏切りに導いていた。実際、源左の者に多数の裏切り者が出た。背乗りのようなことを行っていた。魔銃など源左の文化をパクっていた。それだけでなく、魔皇ローグバンドや愚王バンサントに吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>だったビュシエの片腕を取り込んでいた存在がハザルハード。かなりの強敵だった」
「……はい」
「少し聞きました。かなりの強敵がハザルハード。マーマイン連中……」
「スライムのような姿の吸霊胃無アングストラも聞くかぎり、ヤヴァいぞ」
「「あぁ」」
「……それらを倒したシュウヤ様は【ローグバント山脈】をも支配化に置いたことになるノカ?」
「広大な【ローグバント山脈】だが、そうかんがえると凄い御方だ……【源左サシィの槍斧ヶ丘】と【ケーゼンベルスの魔樹海】といい、かなりの領域……しかも、その地域を支配する魔族はデラバイン族と同盟を結んだと聞いています。バーヴァイ地方は安泰です」
魔族と【グラナダの道】たちが語る。
キサラを見ると頷く。白絹のような髪が揺れる。
「はい、ビュシエたちも一緒に、シュウヤ様が行った偉業を、色々と皆に語りました」
「あぁ、そのようだ。ありがとう」
「ふふ、当然です」
キサラの笑みに魅了された。
そのキサラはビュシエとエラリエースと光魔騎士ファトラを見て、
「……少し前に、ビュシエが語りましたが、ハザルハードや枢密顧問官ベートルマトゥルなどのことを総合して考えますと……吸血神ルグナド様の眷属たちが持つ<血魔力>や、不死系種族系の能力は、様々な魔族に利用されているようですね」
キサラの言葉に皆が頷いた。
ビュシエとエラリエースもそれぞれに目を合わせて会釈をするように頷いている。
「はい、前に言ったように色々と研究されている」
「<血魔力>のブラッドマジックか」
俺の言葉に、
「……」
エラリエースは黙ったまま頷く。
神剣ピナ・ナブリナの柄を握っていた。
エラリエースは<血魔力>系の能力で体を弄られていた。
お陰でブラッドクリスタルの生成が可能になったが……。
ビュシエは、
「はい。吸血神ルグナド様と<筆頭従者長>に<筆頭従者>と<従者長>の眷属たちが扱う<血魔力>は強力ですから」
と言うと、頷いたエラリエースが、
「……古代から各魔族たち、神界騎士団からも研究対象です」
と発言。
そのエラリエースは神界騎士団に所属していた。
皆はエラリエースを凝視。各自に憎しみはないと思いたいが、難しいか。
静かになった。ビュシエは、
「……色々と応用されているのは事実です」
と肯定。光魔騎士ファトラも、
「光属性と闇属性が強力なアイテムは、魔界側と神界側の争いに利用できますからね」
と発言した。魔界王子テーバロンテに魔皇バードインは倒されたと思うが、その時も同じようなことがあったのかも知れないな。あの闇商人フニュアンは、下水道の奥から、どこに転移したのやらだ。
そして、魔界王子テーバロンテは魔界セブドラの各地に枢密院、最高諮問機関の枢密顧問官たちを送っていた。その中の一人の枢密顧問官ベートルマトゥルは、魔歯ソウメルもいたし、その知見を多いに共有できる上層部的な立場だったに違いない。
吸血神ルグナド様や眷属たちと似た<血魔力>を扱えたんだからな。
魔歯ソウメルもだが、その独自の<血魔力>を使い、レイブルハースとペマリラースの体を利用していた。
レイブルハースは、レイブルハースの勾玉という秘宝があるからこそ利用できたんだと思うが……。
ビュシエは俺を見て、
「はい、水神アクレシスには吸血神ルグナド様も……」
と俺を見るビュシエ。
<始祖ノ古血魔法>のことを言いたいのか?
ビュシエ復活の際に覚えた恒久スキル……。
※始祖ノ古血魔法※
※水神アクレシスが封じていた吸血神ルグナドの恒久スキル※
※水神ノ血封書が大本、シュウヤが光魔ルシヴァルの<血魔力>を使い開放※
※これから無数の血を吸い、血道を学ぶと、古血魔法を独自に覚えることがある※
※古血魔法の書を入手すると確実に<始祖ノ古血魔法>系統を覚えるだろう※
吸血神ルグナド様が封じられた恒久スキルを覚えてしまったんだよな。水神ノ血封書とかどんだけなアイテムだよ。
水神ノ血封書が入っていた魔塔ゲルハットの宝物庫もヤヴァいな。
ヴィーネは、
「水神ノ血封書のことですね」
「ん、それを聞くと魔塔ゲルハットの宝物庫は凄い。お宝がいっぱい入ってた」
「あぁ」
「にゃァ~」
魔魚を食べ終わっていた銀灰猫もエヴァに返事をした。
「では、ラムー、鑑定を頼もうか。休憩のところ悪いが……」
「ふふ、気にせず。では、シュウヤ様が持つ黒い歪な鍵から霊魔宝箱鑑定杖を使います」
早速、ラムーは霊魔宝箱鑑定杖を掲げる。
灰銀色の水晶の飾りが輝いて、そこから魔力が照射された。
続きは明日。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」
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