千百八十七話 光魔騎士グラドと馬魔獣ベイルに恩賞
「その黒い鍵はトチュに悪さしていた存在が持っていた鍵ですよね……」
と、怯えながら語る。
「あぁ、無魔の手袋が特別だから呪われずに済んでいる黒い鍵かも知れない。だから呪いがあるのなら捨てるかハルホンクに喰わせるかの二択。だが、この鍵から魔線が出ているのは見えているかな? この魔線がどこに続いているか気になるからな」
「はい、見えています」
「魔線が冥界シャロアルに続いているのなら俺には好都合なんだ。実はこれから地下に向かう予定でもある。だが、地下に向かう前に休憩してもらう予定だったが、ラムーに、この鍵の鑑定をしてもらうとしよう」
「え、ラムー?」
あぁ、知らんよな。
「ラムーは魔鋼族ベルマランという名の魔族。全身が鋼の甲冑装備の魔族。【グラナダの道】という組織に所属していた。その【グラナダの道】たちとは魔傭兵ラジャガ戦団のメンバー救出に向かう途中で【バードイン迷宮】で出合った。そのまま共闘の流れから仲間となった。そんなバードイン迷宮では、魔界王子テーバロンテと、その眷属たちに苦しめられていた魔族たちが多くいて、その方々の一部を救って、俺たちの勢力に加わった」
「そうでしたか。新しい戦力がバーヴァイ族に増えたのですね。私はここからあまり外に出ないので、知りませんでした」
「おう。そのラムーと助けた魔族の方々は、ここに連れてきたばかり。ソフィーが知らなくて当然。それに働く部署が異なれば知らないままでいることはあると思うからな」
「はい」
「魔界王子テーバロンテが健在だった頃には、百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンが、この城には多かったようだからな。尚更だろう」
ソフィーは頷いて、
「その百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンには苦しめられました……」
とパワハラ、モラハラでもあったのか?
静かに頷いた。
「あ、でも、仕事で言ったら、今のほうが仕事は忙しいので、余計にアチ様やターチベルとデンたちとも会うことも少なくなりました。でも、チチルとはよく会います」
チチルはこの魔塔の全体的な世話かな。
ピンポイントの花模様が可愛い上着が似合うソフィーを見ながら、
「そっか、機会があれば、新しい戦力となる予定の魔族たちと交流を試みるといいかもだ。では外に出る、またな」
「はい! 皆と私を助けて頂いて本当にありがとうございました!」
「おう」
と、お辞儀をしたソフィーに笑顔を向けてから薬棚を眺めつつ身を翻す。
横に開いたままの出入り口から廊下に出た。
廊下の壁には【魔鳥獣&幻獣・霊薬総合研所】の文字が彫られてある。
気付かなかった――。
左に向かい階段の踊り場から幅広な螺旋状の階段を下りていく。
黒い歪な鍵から出ている魔線は下に続いていた。
この黒い歪の鍵から出ている魔線が地下へと続いているのなら……。
本当に冥界シャロアルの何処かの鍵ということになるが……。
一階の踊り場のホールに着いた。そこにいたデラバイン族の兵士たちから一斉に敬礼を受けた。敬礼を返しながら――右のアーチ状の出入り口から外に出た。
芝生と寄せ敷石の地面を歩きながら――。
無魔の手袋で持つ黒い歪な鍵を凝視。
これ、<導想魔手>か<鬼想魔手>に持たせるのもありか?
が、<導想魔手>は魔技系の<導魔術>だ。
<鬼想魔手>も魔技三種などが関係しているから、直に握ったら、俺が呪われるかも知れない。余計なことはせず、無魔の手袋に持たせたままのほうがいいか――。
と考えながらヴィーネたちに、
『バーソロンがいた魔塔で霊薬研のソフィーと出会った。そのソフィーのことは皆、知っていたか?』
と血文字で聞いたら直ぐに、
『知っていますが会ったことがないです。幻獣や鳥の魔獣、鳥系のモンスターを扱える薬師がソフィーと、デラバイン族の兵士たちが言っていました』
と、ヴィーネが返してくれた。
『はい、同じことは聞きました。ヴィーネと同じく話をしたことはありません』
『知りません』
『名は聞いたことがあります。幻獣などを扱う存在で、ポーション造りが上手いとも』
キサラは知っていて、キッカは知らない。
ビュシエは知っていた。
『ん、盗賊ギルドのような鳥魔獣を扱った伝令役も多いと、アチたちに聞いた』
エヴァは聞いたか。伝令役は納得だ。
フクロウとカラスが多かったような印象だが、伝書鳩のような存在もいた。
皆に、
『そっか、そのソフィーがいる【魔鳥獣&幻獣・霊薬総合研所】に入ってソフィーと会った。で、具合の悪かった蒼い魔鳥トチュを回復魔法と<水血ノ混百療>で救ったんだが、そのトチュの中に潜んで呪っていたのか、不明な闇側のモノが<水血ノ混百療>に反応し、溶けながら外に出てきたんだ。そいつは黒い怪物となって俺たちに襲い掛かってきた。で、倒した』
『『なんと!』』
『まぁ……そんなことが』
『ん、驚き』
『魔鳥トチュは呪われていた?』
『呪いかは不明だが、毒されていたことは事実だろう。それで、魔鳥トチュの中にいた存在を倒した後に、歪な黒い鍵が出現したんだ。その鍵を無魔の手袋で掴んだまま広場に向かっている最中だ。因みに、魔線はバーヴァイ城の地下に続いているようだ』
『……ひとまずの鑑定が必要ですね。神魔光邪杖アザビュースに、ついでに髑髏の指環なども調べてもらいましょう』
『おう、そのつもりで、広場経由でラムーさんがいるところに向かう予定だった。そして、もう聞いていると思うが、バーソロンの準備ができ次第、このバーヴァイ族の地下に向かう』
『『『はい』』』
『ん』
皆と血文字を交換しながら――。
足早に本丸の大ホールと隣接している広場に向かった。
――広場には黒豹と銀灰虎と――。
「ンン――」
「にゃァ――」
とヴィーネ、キサラ、ヘルメ、ビュシエ、ミレイヴァル、キスマリ、エヴァ、蜘蛛娘アキ、グラド、アチ、沙、羅、貂がいる。
その皆と離れた大広場の庭園側ではアチュードとベベルガと人造蜘蛛兵士たち、キョウカ、ドサチ、ベン、ターチベル、デンのデラバインの将校と、デラバインの兵士、ミジャイと魔傭兵ラジャガ戦団の兵士が種族の垣根を超えて得意な武器同士が組んで中隊と小隊規模分かれての訓練と談話をしていた。
軍の動きにはコミュニケーションが大事だからな。
感心していると、両足の脛に相棒と銀灰猫から優し気な猫パンチを受けまくる。
爪が出ていない挨拶だと分かるが、如何せん、黒豹と銀灰猫は少し大きいバージョンだ。肉球は柔らかいが、分厚いから、
「相棒と銀灰猫、肉厚な肉球ちゃんは嬉しいが、少し痛い」
「にゃ~」
「にゃぁ、にゃ~」
と、肉球パンチを止めた二匹は、頭部を脛にぶつけてくる。
可愛い黒豹と銀灰猫の頭部を撫でたくなったが、せずに皆を見ていく。
――ロズコの姿はない。
愛玩モンスター魔獣アモパムを肩に乗せたイモリザもない。
魔女フィナプルスもいない。
指示した通り【グラナダの道】の面々と光魔騎士ファトラとエラリエースとポーさんと魔蛙ムクラウエモンと他の魔族と同じく魔塔のような施設の中で休養してくれているようだ。
食堂と宿舎が素敵のようで楽しみだ。
そして、魔皇獣咆ケーゼンベルスもここにはいない。
その魔皇獣咆ケーゼンベルスの魔素の反応はシタンがいる位置だ。
城主の間でシタンと会話中かな。
ツィクハル、パパス、リューリュの黒狼隊の反応はどこにもないからバーヴァイ城から外に出ているのかな。
<古兵・剣冑師鐔>のシタンは城主の間だろう。
そんな皆を見ながら――。
互いの装備を見せ合い団欒しているヴィーネたちの傍に走り寄った。
「「ンン――」」
黒豹と銀灰猫も走ってついてくる。
俺の動きを把握しているアチュードたちが一斉に訓練を止めた。
揃った動きで敬礼してくる。
武術家然とした槍使いキョウカの動きが気になったが――。
ラ・ケラーダの挨拶を送るだけにした。
光魔騎士グラドと閃光のミレイヴァルは石畳に片膝を突けている頭を垂れてくれていた。
ベイルは両前足の膝頭をグラドのように床に突けて頭を垂れていた。
「――皆、ただいまだ。グラドとベイルもひさしぶり。頭をあげてくれ」
「陛下!」
「――はい!」
「ヒヒーン」
「「ンン」」
光魔騎士グラドと閃光のミレイヴァルとベイルは元気よく返事をして立ち上がったが、黒豹と銀灰猫に頭部を舐められていく。
グラドは、
「……仲間になった百足高魔族ハイデアンホザーのペミュラスに、【古バーヴァイ族の集落跡】での探索には同行すると、話をつけました」
「了解した。で、グラドにプレゼントがある」
「え?」
黒い歪な鍵に気を付けつつ――。
〝魔導のブドウ〟を二つ取り出してグラドに渡した。
「枢密顧問官ト・カシダマを討ち取った恩賞だと思っていい」
「おぉ、ありがとうございます」
「食べれば魔力が増える」
「はい、早速、ベイルと一緒に戴きます」
「おう」
「ブブゥバァゥ~ヒヒーン」
ベイルは一瞬で魔導のブドウを食べる。
「「にゃァ」」
「ングゥゥィィ」
と、黒豹と銀灰猫が両前足を上げて餌くれモードとなった。
肩の竜頭装甲もアピールしているし。
「ハルホンクは前に喰っただろ。そのお陰で、俺も魔力の値がかなり増えた」
「ウマカッチャンダッタ、ゾォイ!」
「おう。そのお陰で、バーソロンの<筆頭従者長>に活きた。では、ロロとメトにも〝魔導のブドウ〟をあげよう――」
「ンン、にゃぉぉぉぉ」
「にァァァ」
と、〝魔導のブドウ〟をがっつくように食べる二匹。
さて、皆に向け、
「早速だが、黒い鍵などの鑑定を、ラムーに頼むとする」
「はい、閣下、ミューラー隊長たちがいる魔塔は此方ですよ~」
「御使い様、右目に戻ります~」
「了解した」
「はい!」
と、一瞬で闇雷精霊グィヴァは右目に帰還した。
雷光を浴びた気分となる速度だった。
「ん、兵舎はこっち」
「はい、行きましょう」
「「「はい」」」
先に向かうヘルメとエヴァとヴィーネたち。
ヴィーネの銀髪が舞うように靡く後ろ姿は、いつ見ても魅了される。
が、まだここに残る皆に向け、
「キョウカとミジャイたちは、このまま軍の訓練を続けてくれ」
「「「ハッ」」」
「「はい!」」
キョウカ、ドサチ、ベン、ターチベル、デンのデラバイン族の将校たちは気合い溢れる返事をしながら腕で胸を叩く。ザッとした動きが渋い。
そして、ミジャイと魔傭兵ラジャガ戦団の皆が、
「「「「「イエッサー!」」」」」
「「「「承知」」」」
と、各自ドレッドヘアを大きく揺らしながら、デラバイン族に負けないぐらいの勢いで返事をしてくれた。
一方、アチュードとベベルガは普通に敬礼をしつつ、
「「了解しました!」」
と、返事をした。
喋れない人造蜘蛛兵士は腕を交差させて、
「「「――!」」」
ザッとした軍隊らしい挙動で一斉に返事をしてくれた。
魔傭兵ラジャガ戦団とデラバイン族の兵士も、人造蜘蛛兵士たちに負けじと腕を一斉に掲げてザッとした音を響かせてきた。
兵士たちの動きが面白い。
「じゃ」
と、言ってから、ヴィーネたちを追った。
魔塔と魔塔の間で「ンン、にゃ~」と黒豹が待っていてくれた。その黒豹とアイコンタクトしつつ駆けた。
そのまま【グラナダの道】たちがいる魔塔へと向かう。
ヴィーネとエヴァとビュシエは<血魔力>を放出してくれていた。
途中で分泌吸の匂手を交ぜる豪快なフェロモン祭りには、少し血に酔いしれる気分となってハイになる。
背後から光魔騎士グラドの気配を察知。
馬魔獣ベイルは速い。
そして、皆が休んでいる兵舎を兼ねた大きい魔塔はバーヴァイ城の中でも大きいほうだ。バーソロンを<筆頭従者長>にした魔塔のほうが小さいか。
その前にいたエヴァの前で止まり、
「ん、この魔塔。行こう」
「おう」
と、エヴァに手を握られて一緒に開かれたある出入り口を潜って魔塔の中に入った。光魔騎士グラドもベイルから降りると、ヴィーネたちの背後についた。
幅広な廊下は一直線に広い食堂に地続きで繋がっている。
と、広場の一角で休んでいたミューラー隊長とエラリエースと光魔騎士ファトラが俺たちに気付く。
「「「――シュウヤ様!」」」
三人が座っていた椅子が背後に倒れた。
エラリエースと光魔騎士ファトラの体調は心配する必要はないと分かる。
食堂にいる皆が一斉に出入り口から現れた俺たちを凝視し、
「「「「おぉ」」」」
「「「シュウヤ様たちだぁ」」」
ドッとした音を響かせながら皆が歩み寄ってくる。
【グラナダの道】のラムーさんは……左からか。
が、直ぐにボクっ娘のエトアさんとジアトニクスさんが目の前に。
更にロズコが、
「陛下、バーソロン様を<筆頭従者長>に! めでたい!」
と言いながら傍に寄ってきた。
アマジさん、ビートンさん、ギンさん、ピエールさん、ヒビィさんも続く。
メトマさん、パデフィンさん、ポンガ・ポンラさん、
と、ミューラー隊長たちとイスラさんが寄ってくる。
続けて、
「あ、使者様~」
「「おぉ、愛しのシュウヤ様!!」」
「テパ・ウゴ、使者様と言ったでしょう!」
「「うぬ? 使者様シュウヤ様だな!」」
「うん!」
「主!」
「げろげろ、げろげーろ!」
イモリザとテパ・ウゴが奥でコントを行う。
ポーさんとムクラウエモンも寄ってきた。
エプロン姿に包丁を持っていたフーに似た金髪の魔族さんとファウナさんが遅れて奥から現れる。
「皆、自由に。で休憩中に悪いが、ラムーさんに鑑定を頼みたくてきた」
「え、あ、分かりました」
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