千百八十六話 怪物との戦いと霊薬研ソフィーの死守
人型の黒い液体は甲高い噎び泣くような不気味な声を響かせる。
<水神の呼び声>を意識し発動――。
――<滔天仙正理大綱>を発動。
――<滔天神働術>を発動。
――<経脈自在>を発動。
――<仙魔・暈繝飛動>を発動。
――<龍神・魔力纏>を発動。
それらの<魔闘術>系統を冷静に整える。
更に<鬼想魔手>と<導想魔手>で背後にいるソフィーを強引に――。
「きゃ」
と【魔鳥獣&幻獣・霊薬総合研所】の出入り口付近に運ばせた――。
目の前の人型のどす黒い液体は、<水血ノ混百療>の効果か、焼け爛れどろりどろりと溶けて、真下の蒼い魔鳥トチュにかかってしまう。
だが、<水血ノ混百療>の<血魔力>に触れたのか、どす黒い液体は蒼白い光を発して蒸発し消えた。
蒼い魔鳥トチュは翼を動かして飛ぼうとしている。
意識を取り戻したようだ。
どす黒い溶けた液体は<水血ノ混百療>を帯びた蒼い魔鳥と俺の水神ノ血封書から逃げるように後方の上と斜め下へと粘菌染みた動きで分岐し成長していく。
<血魔力>から逃げたように、あの怪物は光属性に耐性はあるようだが、弱い。
そして、<水血ノ混百療>の回復効果でダメージを受けたようだ。
と、ゼロコンマ数秒で下側のどす黒い溶けた液体は床を浸食するように拡がった。
その床に拡がったどす黒い繊維質のようなモノは、足か、手か、体のようなモノへと変化し、何かの怪物へと床を這うように急拡大していく。
怪物が床に拡がった影響で薬棚の箪笥と床が震動したように揺れた。
これ以上拡大はさせない――。
全身から<血魔力>を放出させる。
足下の<血魔力>を【魔鳥獣&幻獣・霊薬総合研所】に浸透させつつ――。
<血液加速>を発動――。
そのまま前進。
足か不明な、怪物のどす黒い肉塊の体へと白蛇竜小神ゲン様の短槍を突き出す――。
<白蛇竜異穿>を繰り出した。
白蛇竜小神ゲン様の短槍の矛が怪物のどす黒い体の一部をぶち抜く――。
ずにゅりと貫いた感触を得た。
白蛇竜小神ゲン様の短槍に貫かれたどす黒い塊は繊維質が膨れる。と、蒼白い閃光とどす黒い炎を発して爆ぜて、溶けるように消える。
が、上方に伸びていたどす黒い繊維質のような怪物は口のようなモノに変化しながら、キャットウォークを進む。広げた口で魔鳥を飲み込んでしまった。
「あぁぁ、パチューが! 皆、逃げて――」
魔鳥たちは既に多く逃げているが、怖がって動けない魔鳥もいた。
怪物は体から繊維質の触手と四肢のようなモノを生み出して利用する。
と、飛ばし収斂させたりまた伸ばしたりとを繰り返し、天井を這うように移動。
隅っこに蜘蛛の巣でも造るように、触手を飛ばしまくって、その隅っこに移動すると、気色悪い体から無数の触手を生み出し伸ばす。
その触手で他の魔鳥を狙った。
俄に、作業台を蹴ってキャットウォーク側に近付いた。
そのまま動けない魔鳥たちを守るように移動し、魔鳥を狙う触手に向け<豪閃>を実行。
キャットウォークを斬らず――。
怪物が繰り出した触手だけを白蛇竜小神ゲン様の短槍で切断に成功。
が、他の触手が、梟のような魔鳥に向かう。
俄にソフィーを守らせていた<導想魔手>を消し――。
新たに背に造った<導想魔手>で己の背中を突き出すように俺自身を右の宙空に押しだしながら天井を突き刺すように右足を斜めに出した。
――間一髪、梟のような魔鳥の一匹を救う。
が、痛い――。
怪物が伸ばしていた触手の先端は鋭い刃となっていて、右足の一部を貫かれた。
ハルホンクの防護服のズボン部分は貫かれていないが、軽装だったからな――。
そして、右足を貫かれ痛いが――。
右足を貫いた触手は俺の<血魔力>を浴びて溶けるように散っていた。
助けた梟のような魔鳥は「ギュキュラァァ」と鳴きながら外に出てくれた。
よし、他の魔鳥たちも外に逃げられていた。
「今のは魔鳥はポチョムキンです。ありがとうございます、シュウヤ様!!!」
下からのソフィーの声を聞きながら血魔剣を消してキャットウォークに左手を引っ掛けぶら下がりながら、
「――おう、というか、安全のため廊下に出ててくれ――」
「でも、わたしもここで!」
足下に<導想魔手>を生成。
怪物が繰り出してきた触手を見ながら――。
キャットウォークから手を離し、身を捻りながら、飛来してきた触手目掛けて白蛇竜小神ゲン様の短槍で<血穿>を繰り出した。
白蛇竜小神ゲン様の短槍で触手を穿つと、触手は先端から一気に消えていく。
触手の根元付近で蒸発音を響かせていた怪物は触手を途中で切り離しているようだ。
どす黒い怪物の本体は黒い粘液状の物と赤黒い眼球の群れが集積している。
その怪物はどす黒い体を得ては、赤黒い眼球をぶつぶつと体から生み出していく。
気色悪い。赤黒い眼球の下部は細い管でどす黒い体と繋がっていた。
ソフィーは、作業台の端にあった羊皮紙や葉っぱの一部を回収。
廊下のほうに走って戻る。
と、隙を見て室内に突入し飛来する触手の刃を避けた。
大切な物だと思われる品物をポーチ状のアイテムボックスに仕舞う作業を繰り返していく。
ソフィーにとって大事な仕事場で素材が多いか。
隙を見て蒼い魔鳥トチュがいる箱を掴んで、ソフィーのほうに放り投げた。
どす黒い怪物から触手が迫るが、白蛇竜小神ゲン様の短槍の<血穿>で、防ぐように触手を貫いて対処。
「トチュは助けました、ありがとう!!!」
「あぁ、部屋や素材も大事と思うが、廊下に」
「分かりました!」
その間にも、霊薬研の天井の隅っこは、どす黒い怪物に占領される形となった。
右手の武器を白蛇竜小神ゲン様の短槍から鋼の柄巻に変化させて<血魔力>を通す。
ムラサメブレード・改を起動――。
ブゥゥゥンと鋼の柄巻の放射口から青緑色の光刃が伸びた。
天井の左隅っこにいるどす黒い怪物は、粘菌染みた動きで、鮫のような白い歯牙がビッシリと生え揃っているような口の集合体と、真っ赤な眼球の集合体と、黄緑色の触手の集合体が合わさったような異質な怪物へと変形を繰り返す。
最終的に身も身の毛もよだつ怪物となった。
――その怪物は、俺の布石に気付いていない。
怪物はピボット系の動きで複数の赤黒い眼球の群れと――。
白い歯牙を有した口の器官を斜め下に向けてくる。
「我ヲ、溶カストハ、生意気ナ、水ト血ダ!」
と、どこに口があるのか分からないが、不気味に喋ってきた。
少し興味が出たから、
「お前は何だ?」
「ア? 我ガ聞イテイル、ソノ水ト血、魔界ト神界ノ犬ノ能力カ?」
「犬ではない。で、お前はなんだと聞いている。そして、なぜ蒼い魔鳥トチュに取り憑いていた」
「下郎ガ、我ノ贄共ッ――」
怪物は複数の赤黒い眼球をぐわりと動かす。
赤黒い眼球の下部は細まった管のような器官で、どす黒い体と繋がっていた。
その下から黄緑色の触手の多数生み出して、触手を伸ばしてきた。
左手が持つ血魔剣に<血魔力>を通す――。
右手が持つムラサメブレード・改を横に寝かした。
床を蹴って作業台に気を付けながら――。
少し浮遊しつつ<血外魔道・暁十字剣>を実行――。
血魔剣とムラサメブレード・改を下から斜め上へとコンパクトに振るい抜く。
最初の黄緑色の触手をザザッと切断――。
続けて、他の黄緑色の触手に目掛けて血魔剣で袈裟懸けを仕掛ける。
宙空を赤く斬るような袈裟斬りが決まり、黄緑色の触手を切断。
更に下から斜め上に向かうムラサメブレード・改の逆袈裟斬りが他の黄緑色の触手に決まった。
そして、他の黄緑色の触手がハルホンクの防護服に触れる刹那――。
<超翼剣・間燕>を実行――。
血魔剣のブレードとムラサメブレード・改の横の斬撃が、黄緑色の触手を真っ二つ。
次々に飛来してくる黄緑色の触手を切断しまくる――。
と、薬棚の一部と柳ごおりのチェストを切断してしまった。
「――ナ!? 神界ノ槍デハナク、異質ナ血ト青緑ノ剣技ダト!?」
複数の赤黒い眼球の下に細い口の器官がパクパクと動いていた。
ファスナーのような口の端から、どす黒い唾が垂れている。
臭そうな魔息も出ていた。
<導想魔手>を足下に生成し着地、そして、
「それ以上臭い言葉は喋るな――」
と言ってから<導想魔手>を蹴って直進し、怪物がいる隅っこに向かう。
怪物は「ハッ、潰シテヤロウ!」と複数の口を広げる。
斜め下から直進してくる俺に向け複数の口を突き出してきた。
それら複数の口内には、無数の鮫のような白い歯牙がビッシリと生え揃っている。
奥にはツブツブ状の卑猥な物があった。
逆に、すべての口を潰すようにぶった斬ろうか――。
<鬼神・飛陽戦舞>を実行――。
ブゥゥゥンと音を響かせる血魔剣の袈裟斬りが――。
一つの口を捉える、中身の白い歯牙ごと豪快に真っ二つ。
続けざまに<鬼神・飛陽戦舞>のムラサメブレード・改の青緑の光刃が他の口を真横に切断。
旋回機動の血魔剣の薙ぎ払いの撫で斬りが、他の口と中身の歯牙を豪快に切断――。
更に回り横に一回転後の<鬼神・飛陽戦舞>のムラサメブレード・改の青緑色のブレードが他の口を捉え両断し、次の口も血魔剣の真っ赤なブレードが白い歯牙と喉ちんこごと斜めに切断。
赤と青緑の<鬼神・飛陽戦舞>の剣舞が決まる。
怪物が突き出してきた複数の口を次々に切断していった。
<鬼神・飛陽戦舞>の剣舞を怪物に見せるように直進していく。
怪物の本体に近付いた。
「――何ダ、ソノ剣舞アァァァ――」
今頃か――。
赤黒い眼球の群れを切断。
どす黒い唾を出していた本体の口ごと怪物のすべてを切断した。
蒼い魔鳥トチュに取り憑いていたであろう怪物を倒したか?
が、斬った残骸が宙空に集積しつつ、一部が黒い閃光を発して黒い気体に変化。
一部が黒い塊となった。
黒い気体はヘルメの<精霊珠想>のような動きで俺に近付いてくる。
両手の武器を消す。
黒い気体を吸い込んだらヤヴァいが、布石を実行――。
天井を巡っていた<血魔力>が一斉に<血鎖の饗宴>に変化。
天井と壁の一部から血鎖が黒い塊に伸びていく。
同時に――<白炎仙手>を実行――。
ゼロコンマ数秒の間にスキルと恒久スキルを実行――。
体から白銀色に燃焼している魔力が大噴出――。
その白銀色に燃焼している魔力の中には無数の小さい龍の形をした魔力もある。
それら小さい龍と白銀の炎の魔力は、小さい円を幾つも描きながら白銀に燃焼している防御層を俺の回りに構築し、その表面から<白炎仙手>の白銀の炎の手刀が無数に飛び出ていった。
白銀の炎の手刀の群れが黒い気体を貫き、黒い塊をも貫いていく。
<白炎仙手>に貫かれた黒い気体と黒い液体は蒼い火末のようなモノを発生させた。
<血鎖の饗宴>の血鎖も黒い塊を貫いて<白炎仙手>と正面衝突。
ドッとした激しい火花が散った。
黒い気体と黒い塊は<血鎖の饗宴>と<白炎仙手>の完全なる圧殺により完全に消滅した。と、思ったが、黒い塊は、小型の歪な黒い鍵に変化して落下し、金属音が響いた。
素早く<血魔力>と<血鎖の饗宴>を終わらせる。
小型の歪な黒い鍵は魔力を有して、魔線がバーヴァイ城のどこかに伸びていた。
呪いはないと思うが、一応、無魔の手袋を取り出し装備してから、その鍵を拾った。
歪な鍵に魔力はまだ送らない。
鍵の模様は、貝殻か? 髑髏か? 鍵から出ている魔線はどこに続いているんだろう。
もしかして冥界シャロアルだったりして……。
「シュウヤ様、助けて頂いてありがとう!」
「おう、魔鳥は一匹犠牲になってしまったが」
「あ……はい。でも、他の魔鳥は助かりました。そして、シュウヤ様がここにいなかったら、わたしは死んでいたと思います」
「ピュゥ」
蒼い魔鳥トチュがソフィーの手に頭部を寄せていた。
「そうかも知れないな。次から元気のなくなった魔鳥を発見したら、直ぐにアチ、いや、バーソロンか、ケーゼンベルスか、俺たち光魔ルシヴァルの眷属たちに報告したほうがいいだろう」
「はい」
ソフィーは俺が持つ歪な鍵を見てきた。
続きは、今週。
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