千百七十九話 魔界王子テーバロンテの石像破壊
皆に向け、
「では話ができる百足高魔族ハイデアンホザーへと会いに行ってくる」
「にゃおぉ~」
「にゃァ」
黒猫と銀灰猫は俺の肩を叩くと、また降りた。
気まぐれだな。
デラバイン族たちは一斉に胸に手を当てて、
「「「はい!」」」
と軍人らしく返事をしてくれた。
頬の炎の印も仄かに輝く。
ラ・ケラーダの挨拶で返した。
「「ハッ」」
「「――」」
蜘蛛娘アキの部下、アチュードとベベルガも敬礼してくれた。
アチュードの細い腕がシュッと音を立てている。毛のようなモノの影響だろう。
ベベルガは鋼か岩にも見える体だが、関節部は柔らかいようだ。
蜘蛛娘アキも敬礼して、
「了解しました~」
気の抜けた声を寄越す。
デラバイン族の兵士たちとは対照的だ。
やや遅れて人造蜘蛛兵士たちも敬礼。
人造蜘蛛兵士たちはアキとお揃いの動作のまま動きをピタリと止めた。ロボット的だ。
一応は自律稼働を行える兵士と聞いているが、今回はたまたまかな。
「皆、休め――」
バーソロンの言葉が響く。
とデラバイン族の将校と兵士と魔傭兵のラジャガ戦団の兵士たちは一斉に『休め』の動きを取る。
人造蜘蛛兵士たちは蜘蛛娘アキと同じポーズで敬礼したままだ。
デラバイン族の兵士たちの『休め』の動きのモーションと魔傭兵ラジャガ戦団の魔傭兵の動きのモーションは少し異なっていた。
魔傭兵とデラバイン族軍の仕様の違いかな。
すると、周囲を楽しそうに走っていた魔皇獣咆ケーゼンベルスとコテツとケンとヨモギが動きを止めて、此方を見て、
「ウォン、ウォォォォォン! 主、我はここに残る! グラドと合流する!」
「「「ウォン、ウォォォン!」」」
とケーゼンベルスとコテツとケンとヨモギが遠吠え的に連呼する。
光魔騎士グラドは【古バーヴァイ族の集落跡】の防衛中かな。
「了解した。魔皇獣咆ケーゼンベルスと黒狼隊も自由だ。任務のようなモノがあるのなら、各自がんばってくれ」
魔皇獣咆ケーゼンベルスは豊かな胸元の毛並みを見せるように、上半身を張る。
と、体を一回り大きくさせた。立派な黒い狼というか大魔獣となる。
が、耳に嵌まっているアクセサリーが結構可愛い。
魔皇獣耳輪クリスセントラルだったかな。
そのケーゼンベルスが、
「――我に、そんなものはない!」
「「「ウォォン!」」」
コテツとケンとヨモギもケーゼンベルスに倣うように鳴いていた。
黒猫と銀灰猫が少し前に出て、
「にゃ~」
「ンン」
鳴いていたが、俺の足下から動かない。
すると、コテツとケンとヨモギの三匹はパパス、リューリュ、ツィクハルに身を寄せる。
パパスたちは黒狼に抱きついて首下を撫でていく。
コテツとケンとヨモギの黒狼たちは、狼らしさのある荒いゴロゴロと音を響かせる。
狼だからネコ目オオカミ科だと思うが、ゴロゴロと音を鳴らせるんだな。
頭部を、三人の片手の撫でる動きに合わせて前後させた。
コテツ、ケン、ヨモギは、頭部の動きを止めて三人の掌に頭部の体重を預けた。
そのまま気持ち良さそうに目を瞑る。
コテツとケンとヨモギの三匹はパパスとリューリュとツィクハルを信頼しているんだな。
三匹の黒い鼻が少しヒクヒクと動いている。
それがまた可愛い。すると、ヴィーネが、
「ふふ、癒やされますが、行かないのですか?」
「あぁ、百足高魔族ハイデアンホザーだな」
「はい。降伏した百足高魔族ハイデアンホザー。気になってました」
「わたしも行きます」
「私もです」
バーソロン、キサラ、話を黙って聞いていたキッカも続いた。
ビュシエも頷く。
ビュシエは<血魔力>を体から発しながら体を浮かせている。
魔力による飛行術ではないから、<血魔力>系の飛行術かな。
血道・なんとかだろう。
エヴァは、
「ん」
とビュシエと話をして頷き合う。
二人は兵舎のほうに腕を向けて「ん、シュウヤは大丈夫。ビュシエも一緒」と言うとビュシエは「はい」と発言。
「おう、皆も来い」
すると、ミレイヴァルが、
「陛下、わたしは城主の間の守護兵シタンに、<霊珠魔印>の契約主の陛下が、如何に光神ルロディス様と水神アクレシス様から愛されているのか、<光神の導き>を持つシュウヤ様が、どうして神界騎士団エラリエースを救ったのか、その意味を……重に説明をしてから自由にバーヴァイ城と平原などの散策をしたいです」
――なるほど。
ミレイヴァルなりにシタンと情報を共有するつもりだろう。
ミレイヴァルはセラでは光側の活動していたはずだ。
ルナ・ディーヴァとの会話も覚えている。
そして、昔のミレイヴァルは、
『……仲間か。そうなのだが……どういうことか覚えていない。いつも一緒に居た光の精霊ルナ・ディーヴァ。彼女のことは微かに覚えている。王子の顔も覚えている。王と王妃に貴族たち。更にわたしが破迅槍流の開祖として獲得した技と戦場の出来事はほぼ覚えているが……十字聖槍流に閃皇槍流の幾つかの技は忘れてしまった……破迅槍流の教え子たちの姿も思い出せない。切磋琢磨した仲間たちも、父と母に妹も……オカシイ……わたしは……』
と、混乱していたっけ。
ミレイヴァルにも辛い過去がある。
そして、アイテム状態より人状態で動けるんだからな、自由に楽しみたいと思うのは当然。瞳が綺麗な薄桃色のミレイヴァルを凝視して、
「分かった。何かあったら広場か城主の間に戻ってくれていい。基本何をするのも迷惑に成らない限り自由だ。楽しく過ごしてくれると俺も嬉しい」
「――ハッ、ありがたき幸せ」
微笑むミレイヴァルは顔色を厳しくした。
軍人然の雰囲気を醸し出しつつ綺麗な片足をスッと下げる。
片膝の頭で石畳を突いて頭を垂れた。
ゼルビア王国所属破迅団団長だったミレイヴァルは律義だ。
軍隊の規律の面では、俺と意見が大いに異なるとは思うが、彼女なりの行動規範を皆に示しているのかも知れない。
ミレイヴァルの行動から学ぶべきことは多い。
ミレイヴァルに感謝。
そのミレイヴァルは立ち上がると満面の笑みとなって、身を翻す。
銀灰猫に『どこいくにゃ~』と脹ら脛に猫パンチされていたが、「わたしは上にいくぞ」と、語りつつ足早に大ホールの出入り口に向かう。
「ンン」
と、喉声を鳴らした銀灰猫は付いていかないようだ。
エヴァは少し俺の手を引っ張る。牢屋に案内するつもりだろう。
「あぁ」
と、返事をしつつ、バーソロンに視線を向け、
「バーソロン、後で<筆頭従者長>に迎えようと思うから、それ用の部屋を頼む」
「「「おぉ」」」
デラバイン族の兵士たちから歓声が上がる。
バーソロンは朱色と黒色が混じる瞳が輝き、
「おぉぉ、は、はい! 既に準備万全です! デラバイン族の王の間と地続きの寝室があります!」
嬉しそうな声を発した。
その声音には女としての色があった。
「分かった。では、後で王の間と地続きの寝室に向かう」
「――は、はいぃ! あ、わたしも降伏した百足高魔族ハイデアンホザーがいる牢屋にもご案内します!」
バーソロンは早口で言いながら忙しなく腕を動かす。
落ち着かない態度のまま身を捻って競歩を宙空で行う動作で寄ってきた。
乙女走り的な宙空走りが面白く、可愛い。
と、そのバーソロンの髪留めが少し緩むと、黒と赤が混じる黒髪の一部が肩に降りて靡いた。然り気無い髪の靡きだが、いい匂いが漂ってきそうだし、魅惑的だった。
「バーソロン、そう焦るな、大丈夫だ」
「――ふふ、あ、はい!」
バーソロンは少し跳躍して喜ぶように返事をしてくれた。
しかし、デラバイン族の一部の兵士たちの顔色は変化している。
バーソロンの城主、上官としての今までの態度と、今俺に示している態度が異なるのは皆も知っていると思うが、一部の兵士たちは慣れていないようだ。
将校のキョウカ、ドサチ、ベン、ターチベル、デン、パパス、リューリュ、ツィクハルは顔を見合わせてから少し乾いた笑顔を見せる。
やはり、普段のバーソロンと今の態度は雲泥の差か。
エヴァとヴィーネとキサラとビュシエとキッカは気にせず、微笑んでいた。
「では、皆、百足高魔族ハイデアンホザーに会ってくる」
「ん、行こう」
エヴァが浮遊しながら先を進む。
エヴァは後ろ姿も素敵だ。
ワンピース系の【天凜の月】の最高幹部衣装の上から魔法のポンチョを羽織っているように見えるムントミーの衣服は素敵だ。
そして、紫色の魔力が、その衣裳と体の節々から放出されていく。その軌跡が美しい。
金属の足の滑らかそうな鋼の表面に紫色の魔力が少し吸い込まれているようにも見えた。
――エヴァを見ながら追い掛けた。
そのエヴァは魔式・九連環の環の一つを浮かばせて体の回りに一周させる。他の八つの環は左右の腕に装着していた。
魔式・九連環は防御にも使えるのかな。お洒落だ。
ハルホンクが取り込んだ光輪防具のように見えた。
そんなエヴァの背後から、
「籠手の装備ですか。魔式・九連環は応用性が高くて、かなり戦いに使えそうな印象です」
と、言いながらバーソロンが続いた。
「ん、実際に防御に使えるか分からないけど」
そんな二人を見ながら俺、ヴィーネ、キサラ、ビュシエ、キッカが続いた。
右目には闇雷精霊グィヴァがいる。
『♪』
視界の端に浮かぶ妖精のようなグィヴァは踊っていた。
小さい両手で、糸まきまき~と前後させくるくるまわして、腰を左右に揺らし、両手を広げるとパッと火花を周囲に作る。隠し芸のようなことを行っている。
ヘルメとはまた違う動作をするグィヴァは面白い。
楽しい気分になりながら――。
石畳を歩いて大ホールの出入り口に直進。
幅広い出入り口で天井はアーチ状。
大ホールの中に積まれてある極大魔石を確認。
その極大魔石の前には盾持ちのデラバイン族の守護兵たちがいた。
俺たちが近付いてくると分かると、重騎士たちは盾を置いて、一斉に敬礼を始めた。
中で寛いでいた多数の兵士たちも慌てて大ホールの中を走り始めた。
大ホールの中には、机と椅子が無数にある。
簡易的な食料庫もあるから兵士たちのたまり場でもあったようだ。
大ホールにいるデラバイン族の兵士たちの大半は外の兵士たちとは異なり重装備。
オセべリア王国の第二王子の屋敷内にいた兵士たちを思い出す。
ハルバードが似合いそうな重騎士たち。
極大魔石は貴重だからな。その守りのための兵だろう。
バーヴァイ城の内部に盗みに入る猛者がいるんだろうか。
魔界王子テーバロンテが滅した情報が出回っているだろうし、いないと思うが。
勇気ある盗賊がいたら会ってみたい。
が、いないよな。と、ペルネーテの武術街の屋敷で過ごした頃も似たことを考えていたなぁ。
――エヴァは大ホールの中にいる兵士たちに会釈し中に入らず素通り。
本丸の建物沿いを進む。ここはまだ広場の範疇の石畳だ。直ぐ近くに外側の芝生のエリアが見えている。
皆で、その石畳と芝生の上を歩いて本丸の建物沿いを進む。
――バーヴァイ城をゆっくり散歩するツアーもいいもんだ。
このバーヴァイ城本丸の建材、壁はコンクリートっぽい。
石畳を修復していた素材もモルタルのような液体だった。
俺の知る地球もコンクリート素材は建材として優秀。
火山灰を使用したとされる古代のローマン・コンクリートは有名だった。
イスラエルの南ガレリア地方、イフタフの遺跡もコンクリートが使われていた。
紀元前七千年前に使われた石灰岩を焼いた粉や石灰岩の砂などを床に敷き詰めて使っていたと覚えている。
バーヴァイ城の本丸の外壁から古代地球の建築物などに思いを馳せていると、
「ンンン――」
「あ、ロロちゃん」
相棒がエヴァを追い越して見えなくなった。
振り向いたエヴァが、
「ん、ロロちゃん、牢屋の場所は分かっているの?」
と、少し困ったような表情を浮かべている。
可愛い。
「分かっていると思いたい」
「ロロ様は魔皇獣咆ケーゼンベルスとバーヴァイ城のいたるところに、尿を振り撒いていましたから、たぶん分かっているはずです」
バーソロンがマジ顔で語るから、吹いた。
「陛下?」
「あぁ、すまん、相棒とケーゼンベルスの縄張り宣言だな……相棒とケーゼンベルスに代わって謝ろう。バーヴァイ城を臭くしてしまって申し訳ない……」
と心から謝罪した。
「「ふふ」」
ヴィーネとキサラは笑っていたが、飼い主としての責任だからな……。
「あ、い、いえ! 大丈夫です。魔力もありましたし、バーヴァイ城を守るための結界的な意味もあるようです」
「え?」
そんな効果があったのか。
前にバルミントは尿で金属に変化を加えていたが……。
「ん、臭いかも知れないけど、ロロちゃんとケーゼンベルスは凄い!」
「ふふ、ロロ様と銀灰猫はご主人様と一緒に成長していると分かる」
冗談だと分かる雰囲気で語ったヴィーネの言葉に頷く。
と、皆でそんなたわいもない会話をしながら笑いつつ進む。
庭園側となった。
空から目立っていた魔界王子テーバロンテの巨大な像はぶち壊したくなる。
が、だれもしない。と思ったら――。
「にゃごぉぉぉ」
巨大な魔界王子テーバロンテの像を睨む巨大な神獣ロロディーヌが対峙していた。
グリフォン型の神獣は中々の迫力だが、石像の魔界王子テーバロンテも負けていない。開いた口から複数の口が出ているし、垂れている唾まで、見事に再現されていた。
少し怒っているような神獣ロロディーヌは気合い十分。
ダイナミックに前足を振るう。
前足の爪が大きな魔界王子テーバロンテの像を斜めにぶった切った。
切断された魔界王子テーバロンテの上半身側がズ、ズズンッと重低音を響かせながら此方側に倒れてきてしまったがな――。
これは予想外。
「ンンン――」
「にゃァ」
神獣は直ぐに無数の触手を体から放出。
銀灰猫も銀灰虎に変身。
倒れ掛かってきた上半身側の像を触手骨剣が砕きまくる。
が、まだ魔界王子テーバロンテの上半身の石像だった石の幾つかが此方側に迫る。
「俺が対処する――」
「「はい!」」
<血道第三・開門>――。
<血液加速>――。
<闘気玄装>を発動――。
<霊魔・開目>を発動。
右手に魔槍杖バルドークを召喚。
左手に神槍ガンジスを召喚。
雷式ラ・ドオラを想起したが、これが俺の無意識の応えか。
続いて<勁力槍>を発動――。
両手の槍がズシリと重く感じるがまま跳躍――。
高く上がったところで<導想魔手>を生成し、それを踏む瞬間<雷飛>――。
ドッと破裂音が響いた一瞬で――。
城の本丸側、此方側に倒れ迫った魔界王子テーバロンテの上半身側の一部と近付いた刹那――。
右手が握る魔槍杖バルドークで<雷炎穿>を繰り出す――。
雷炎を纏う嵐雲の穂先が魔界王子テーバロンテの上半身の石材を貫いた。ドッと音を発して石材が散る。
続けて<導想魔手>を<雷飛>で蹴る。
転移するが如く首部分の石像に近付いて左手を振るう。
神槍ガンジスで<闇雷・飛閃>を繰り出した。
首部分の石像を分断――分断した石像を凝視――。
幾重に分かれた石材すべてを破壊しよう――。
足下に<導想魔手>を生成し、それを蹴り<仙魔・桂馬歩法>を実行――。
転移するようにゼロコンマ数秒も経たせず石材に移動し、石材を<湖月魔蹴>で破壊。
次の石材も<蓬莱無陀蹴>で蹴り潰し破壊。
後、残るは巨大な頭部のみ、昇竜の如く跳躍――。
下から魔界王子テーバロンテの頭部の石材に近付く。
視界に埋まる魔界王子テーバロンテの頭部の首――。
魔界王子テーバロンテをぶっ倒した記憶が蘇りながら魔槍杖バルドークで<魔雷ノ風穿>を繰り出した。
※魔雷ノ風穿※
※魔槍雷飛流技術系統:武槍技※
※魔槍雷飛流技術系統:極位突き※
※雷炎槍流系統:上位突き※
※闇雷槍武術系統:上位突き※
※風槍流技術系統:最上位突き※
※豪槍流技術系統:上位突き※
※悪愚槍流技術系統:上位突き※
※塔魂魔槍流技術系統:上位突き※
※女帝槍流技術系統:上位突き※
※獄魔槍流技術系統:上位槍突貫※
※魔竜王槍流技術系統:上位突き※
※豪槍流技術系統:上位突き※
※独自二槍流技術系統:上位突き※
※独自三槍流技術系統:上位亜種突き※
※独自四槍流技術系統:上位突き※
※太古の闇に通じる槍の極位突き※
※闇神アーディンの愛用突き※
※様々な槍武術の突き技を得た者が獲得できる『武槍技』※
※『魔槍技』と似ているが異なる※
※闇と雷が強いが、風属性を得たようにも見えるだろう※
※風をも穿つ魔雷の武槍技※
魔界王子テーバロンテの首ごと頭部の石材を嵐雲の穂先を有した魔槍杖バルドークごと俺が突き抜ける――自身が風になった感覚を抱いた直後――。
魔界王子テーバロンテの頭部の石像は完全に消えていた。
『御使い様、見事な槍捌き!』
<魔闘術>系統を消しながら相棒たちの位置を確認して降りた。
「――お見事です」
「「はい」」
「にゃおぉ~」
「ンン」
神獣が耳を凹ませながら近付いてきた。
ごめんなさいモードのまま黒猫に変化する。
「ロロ、テーバロンテは俺も嫌いだ。怒ってないから大丈夫」
「にゃ~」
と、笑顔を見せたようにつぶらな黒い瞳を見せる黒猫は俺の足頭部を寄せてきた。
「さ、他の像もあるが、牢屋の場所に行こう」
「「「はい」」」
「ん、こっち」
本丸の建物沿いから城壁に移る。
そのまま城壁と長屋とカーテンウォール沿いを歩いた。
少し地下に入ったところに大きい牢屋が幾つかあった。
門番のデラバイン族の兵士が挨拶してくれたから、ラ・ケラーダの挨拶で返す。
廊下を少し進む。エヴァは、
「ん、ここ」
と足を止めた。
大きい牢屋の奥にいた百足高魔族ハイデアンホザーがだるい動作で起き上がる。
見た目は胸元に歩脚を要した俺たちが戦ってきた相手なだけに、自然と構えてしまう。
「にゃご」
「にゃァごぉ」
黒猫と銀灰猫も俺たち同じく警戒したか。
イカ耳となっていたが、と、警戒を解いた。
牢屋の鉄格子前にきた百足高魔族ハイデアンホザーは、
「エヴァ。見知らぬ者も多い……」
「ん、ペミュラス。貴女に会いたいって」
「またか。言語の事か? 全滅した我の部隊と上官たちと、魔族の首級のことなどか? 何を語ればいい……」
「ん」
と、エヴァは俺に頭部を向けた。
続きは今週。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。




