千百七十八話 広場での会話にビュシエ・エイヴィハン
2023年8月1日 21時47分 少し追加
ラムーたちには休憩してもらうとしよう。
霊魔宝箱鑑定杖を持つラムーに鑑定の仕事を頼みたいが、今は休む時期だ。
伝説のマカラ族のイスラとゆっくりと話をしたいだろうしな。
そのラムーたち【グラナダの道】の面々たちのことではなく先ほど契約したばかりの新人のことを説明しておくか。
すると、黒狼隊たちが兵舎のほうから走り寄ってきた。
「「陛下ァァァ」」
「お帰りなさいませぇ~」
「「「ウォォォォン!」」」
パパス、リューリュ、ツィクハルは元気そうだ。
パパスの黒い狼コテツ。
リューリュの黒い狼ケン。
ツィクハルの黒い狼ヨモギ。
三匹も走ってきた。
魔皇獣咆ケーゼンベルスが少し前に出て三匹とリューリュたちを出迎える。
「よう、黒狼隊。ビュシエから血文字で聞いていると思うが、悪神ギュラゼルバンの大眷属悪業将軍ガイヴァーを【バードイン城】で倒した後、皆で【バードイン迷宮】に向かい、その中にいた【グラナダの道】と共闘し魔傭兵のラジャガ戦団のロズコと刑務所の中に囚われていた方々と神界騎士団のエラリエースを助けた」
「「「はい!」」」
「エラリエース……神界騎士団の女性を助けたと聞いている」
「あぁ、神界騎士団とは……大丈夫なのか」
「……ほぼすべての魔族と敵対関係にある神界セウロス側の主要な存在たちだ……」
デラバイン族の兵士たちの一部がそう発言。
ヴィーネが、
「おまえたちを救ったご主人様は、魔皇帝である前に、光魔ルシヴァルの宗主様だ。神界と魔界の存在に区別は付けない。仲良くなれば手を握り愛を送る。敵対すれば戦う。基本、友好的ならば差別なく接する方なのだ」
「「は、はい!」」
「「「――ウォン!」」」
――コテツとケンとヨモギが抱きついてきた。
「おぉ」
と、勢いに押された。
三匹は尻尾を揺らしながら頭部を突き出すように両前足を上げて、跳躍してくる。胸元に両前足の少し硬さのある肉球がビシバシと当たった。
コテツとケンとヨモギは何回も跳躍してくる。
三匹の鼻先が顎に当たって少し痛かった。
が、あはは、可愛い~ぎゅっと三匹をそれぞれ強く抱きしめた。
柔らかい肉体と毛の感触がタマラナイ――。
――ふかふかとした毛並みと毛先が唇に当たりまくる。
「「「「ウォォン、ウォン、ウォォォン!」」」
「ングゥゥィィ!」
興奮したコテツとケンとヨモギは頭部と尻尾を揺らしながらハルホンクの防護服の一部を噛み付いていた。
ハルホンクが声を発して喜んだのかな。
そこに黒猫と銀灰猫が寄ってきた。
相棒も抱きついてくるのかと思ったら、
「ンン、にゃ~」
「にゃァ?」
黒猫と銀灰猫はもぞもぞとコテツとケンとヨモギのお尻の臭いを嗅ぎ始める。
それぞれ臭いチェックモードにスイッチが入った。
三匹の黒狼の菊門を順番に嗅ぐ二匹の構図が面白い。
三匹は菊門の※をダイレクトに嗅がれて、『何があった!』的な顔色となっては後ろ脚と震わせる。尻尾を上げながら、
「キャン」
「ワンッ」
「ワォォン」
と、可愛い声を発していた。
「にゃ?」
「ンン、にゃァ?」
と鳴いた黒猫と銀灰猫。
フレーメン反応を起こして鼻袋を膨らませている。
再び三匹の臭いを嗅ぐ。
コテツとヨモギとケンの菊門の臭いは、違いがあるようだ。
黒猫の鼻の大きさが少し変化していた。
銀灰猫は少し黒っぽい小鼻ちゃんが可愛い。
コテツとケンとヨモギは、数回お尻の臭いを嗅がれてから離れた。
しかし、フガフガ具合が異なるとは……。
神獣と異界軍事貴族独特の嗅覚スキルか何かで、コテツ、ケン、ヨモギの持病を発見したのだろうか。
幸い、心配しているような面ではないと分かるが……。
ケーゼンベルス種か、黒狼種、狼族独特の腸に住む共生細菌的な細菌を見つけたとか? 腸内細菌は脳や体に影響を深く与えていることは俺の知る人間たちの間では当たり前だったが……。
健康な善玉菌の多い人のうんちを悪玉菌の多い腸の中に移植するって話もあったぐらいだ。
そして、ピロリ菌も胃潰瘍、十二指腸潰瘍、慢性胃炎、胃癌との関連が指摘されているが、実は悪ではない研究結果もあった。
研究結果は金と権力で、いかようにも変化をするから、何事も絶対はないと半信半疑だったが……。
などと無駄に考察してしまう。病気があるのなら心配だ。
ケーゼンベルスを見ると黒狼の姿で黒猫と銀灰猫の菊門を嗅いでいた。
はは、面白い。
黒猫と銀灰猫はイカ耳となった。
「「ンン」」
と鳴いて、ケーゼンベルスから直ぐに逃げたが、その逃げ方が少し面白かった。すると、「「「ウォン!」」」と鳴いたコテツ、ケン、ヨモギの三匹は俺から離れてケーゼンベルスの菊門の臭いをフガフガと嗅いでいく。
ケーゼンベルスは振り返りながら、
「ウォォン――我の臭いは芳しいだろう!!」
コテツとケンとヨモギに頭部を寄せる。
コテツとケンとヨモギは嬉しそうに「「「ウォン!」」」と鳴いてケーゼンベルスと戯れ始めた。
「「「ふふ」」」
「ふふ、皆可愛いですね」
「はい……何か優しい気持ちになります」
「幸せですね」
「「あぁ」」
「「はい」」
「「……」」」
「これほどケーゼンベルス種たちと仲良くできるとは……」
「「たしかに」」
「これもシュウヤ様のお陰だ」
「「はい」」
「素敵なことです」
「ふふ、お尻の嗅ぎ合いですよ?」
「はい、自然なことですし、鼻の動きが可愛いじゃないですか」
「ふふ、はい。でも、ロロちゃん様ともメトちゃんは、コテツとケンとヨモギのお尻を入念に嗅いでましたが、何かあるのでしょうか」
とリューリュが俺に聞いてきた。
「分からない。三匹の健康を心配しているだけならいいんだが」
「はい、そうですよね」
「三匹独自の腸内細菌を見つけたか、ワイン的にうんちが芳しいとか?」
と、自分で言っていて笑った。
「芳しい……」
「……ぷ、あはは」
「ワインって……ははは」
「ふふ、ありえますね。でも本当に健康を心配しているのなら、心配です」
ヴィーネの言葉に頷いた。
黒猫と銀灰猫はゴロニャンコモードで、もうお尻を嗅ぐモードではない。
二匹が石畳に己の背中を擦りつつゆっくりと腹を晒す。
俺に向けて前足を伸ばす仕種がなんとも……。
微笑ましくて肉球ちゃんを握りたくなったが……我慢して、
「……さて、話がそれた。リューリュ、パパス、ツィクハルと、キョウカと、皆、先ほどの続きをするがいいかな」
「は、はい!」
キョウカは自分の名を呼ばれるとは思っていなかったらしく少し驚いている。
「「「はい!」」」
「「はい、お願いします!」」
「陛下直々のお言葉だ!!」
「「「あぁ」」」
「「「ありがたい!!」」
デラバイン族の兵士と魔傭兵のラジャガ戦団の方々は気合い十分となって背中に両手を回し胸を張る姿勢となった。
軍隊の動きだから格好いい。
と一人の冒険者気分で見てしまう。
一応、対面を意識しようか……。
俺なりにキリリ顔で皆を見た。
バーソロンと目が合うと頬を朱に染める。
ビュシエを見ると唇に<血魔力>を溜めて、そのまま唇だけでキスしてくれた。うぉぉぉ……。
あぁ、キリリ顔が一瞬で崩壊。
……ヴィーネたちを見て落ち着く。
さて、
「……【バードイン迷宮】魔界王子テーバロンテの眷属、魔歯ソウメルを倒し、レイブルハースとペマリラースの夫婦を救った」
「「「はい」」」
「……続けて、魔歯魔族トラガンの大軍が魔歯ソウメルがいた地下広場の内部に階段から流入してきたんだ。そいつらを倒すために階段を上がって着いた先が【バードイン迷宮】の巨大洞窟だった。巨大洞窟の中心は小山で周囲は窪地。そこでは複数の勢力が争っていた」
「「「……」」」
キサラとヴィーネとミレイヴァルは頷く。
ヴィーネが、
「魔歯魔族トラガンの大軍と各勢力も大軍でした」
頷く。続いてキサラが、
「はい、多腕魔王シーヌギュフナン、死皇パミューラ、赤業魔ガニーナ、悪神デサロビアの腹心、大眷属のゲヒュベリアン、十層地獄の王トトグディウス、魔毒の女神ミセア様の幻影、ハイゴブリン、頭部が無い大柄の騎士、羊の頭で体がオットセイに似た魔族、神界騎士団たち……が、争い合う現場でした」
「「「凄まじい乱戦!」」」
「「「はい!」」」
「戦争を制覇した!」
皆は感嘆。
キョウカとリューリュにデラバイン族たちも各自、顔を見合わせて、
「「あぁ!」」
「なんという経験だ、ロズコもよく生きられたな」
「おう。俺はフィナプルス様とアクセルマギナ様たちと一緒に地下広場側だったからな」
「あぁ、魔手術台が多かったところか」
「そうだ……刑務所で働かされていた俺を含めた魔族たちは運が良かった」
ロズコの重い言葉に皆が沈黙。
体がつぎはぎ状の魔族たち……魔手術を体に受けた魔族たち。
実験体一号と二号……ここで休んで元気に過ごしてほしい方々だ。
ヴィーネは、
「……ご主人様と、キサラとわたしとミレイヴァルとピュリンと常闇の水精霊ヘルメ様と闇雷精霊グィヴァ様も窪地では大活躍されていました」
その言葉に頷く。
「そして、小山に陣を構えていた枢密顧問官ベートルマトゥルと最初は交渉を試みた。エラリエースがいたからな」
「ベートルマトゥルとは魔歯ソウメルよりも強かったのですか?」
ツィクハルが聞いてきた。
頷いて、
「強かったが倒せた。因みに、そのベートルマトゥルは魔界王子テーバロンテの枢密院、最高諮問機関の一人で、他にも枢密顧問官はいるようだ」
「なんと……」
パパスが驚く。
バーソロンが、
「魔界王子テーバロンテの最高諮問機関。最高級の幹部たち枢密顧問官は魔界の神々の勢力に潜ることが多い。特に、吸血神ルグナド様の勢力に手を出していると聞いたぐらいです。吸血神ルグナド様に潜り込んでいる一派と……」
頷いた。
「ベートルマトゥルは魔界王子テーバロンテに対して忠誠度が低かった。単に、テーバロンテが死んだことが原因かもだが」
バーソロンは頷き、
「はい」
そのバーソロンに、
「他の、枢密顧問官たちは知らないのか?」
「知りません。ベートルマトゥルという存在も知らなかったんです」
「では、四大支城の城主よりも上か」
「はい、枢密顧問官の存在は雲の上、親衛隊長や右将軍、左将軍よりも上だと思います。謎の集団でした。吸血神ルグナド様に潜り込んでいる一派以外はまったく聞いたことがない」
隠密集団、秘密結社。的な印象だ。
バーソロンの言葉に、デラバイン族の皆が頷く。
百足魔族デアンホザーと百足高魔族ハイデアンホザーなどのほうが、ここでは身分は上だったような印象だから当然か。
キサラは俺を見て、
「では、枢密院、最高諮問機関の本部がある場所は、【百足大迷宮】、【デアンホザーの地】、【デアンホザーの百足宮殿】、【傷場】、【テーバロンテの王婆旧宮】辺りでしょうか」
と聞いてきた。
「可能性でいったら高いと思うが……」
「【バードイン城】にそれらしき場所は……」
バーソロンも分からないか。
「ないと思うが……フニュアンの絵画と秘密の額縁があって、ガングリフがいたぐらいだからな」
「……」
バーソロンは顎に手を当てて考える。
【バードイン城】にはまだ秘密があるのか?
バーソロンは、
「本部のような存在もあるかとどうか。ベートルマトゥルが研究していた【バードイン迷宮】が本部だったのかも知れません」
「「「なるほど」」」
キサラとヴィーネと俺がハモった。
「ん」
とエヴァが微笑むと、皆が笑った。
皆に、
「枢密顧問官は、魔界王子テーバロンテの眷属だったことを忘れて、魔界セブドラを放浪している可能性もあるわけか」
「あるかもです」
「そう考えると、無理に追う必要はないですね」
キサラの言葉に頷いた。
魔界セブドラは広いからな。
「あぁ、枢密顧問官が任務を帯びていた土地の中で、魔界王子テーバロンテの気配を消していけば、だれにも分からないだろうしな」
「「はい」」
「また、それが可能なほどの存在が枢密顧問官かも知れません」
「ベートルマトゥルは光属性、神界騎士団エラリエースを実験に利用し、魔皇バードインの復活などを利用など、知能が高かったからな。ありえる」
「「はい」」
「「「「……」」」」
デラバイン族の将校と兵士と魔傭兵のラジャガ戦団の皆は緊張した顔色となって黙って話を聞いていた。
ビュシエは、
「枢密顧問官ベートルマトゥルの一派は優秀ですね。ルグナド様の<血魔力>を研究し、己の物にしていた。更には、エラリエースの光属性と闇属性の融合にも挑戦して一部は成功していたようですから。そして、それがブラッドクリスタルの件に繋がる」
と語る。皆が神妙な顔付きとなった。
エラリエースの件だろうな。
是非の処遇について、俺に一任しているとは思うが……。
エラリエースは【見守る者】の高位〝捌き手〟の一人で神界騎士団の第三部隊長だった存在だ。
エラリエースを心から信じられる存在は少ないかもな。
ビュシエは、
「……シュウヤ様、エラリエースは貴重ですね」
「あぁ」
「光魔ルシヴァル並みとは言いませんが、光と闇を活かせるブラッドクリスタルの製造が可能なエラリエースです。<血魔力>系統が使えない存在もブラッドクリスタルを触媒に血道系と<血魔力>、独自のブラッドマジックが使えるようになる」
「「おぉ」」
ビュシエの言葉で皆がエラリエースに対する考えが変わった印象だ。
さすがは元吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>ビュシエ・エイヴィハン。
魔王ビュシエ・エイヴィハンだっただけはある。優しい。
俺ものった。
「……光魔ルシヴァルではない存在もブラッドクリスタルを源にすれば、光属性と闇属性を活かした<血魔力>系統の攻撃が可能となるんだな」
と言うと皆の顔付きは先ほどとは大きく異なる。
ヴィーネ、エヴァ、キサラ、バーソロンもニコッとしていく。
「はい。光魔ルシヴァルのように完全な調和は無理だと思いますが」
ビュシエの発言に皆が頷いた。
ビュシエに、
「吸血神ルグナド様の<血魔力>を研究する諸勢力は多いのかな」
「はい。古代から無数にありました……」
「無数……了解した」
……<血鎖の饗宴>のような能力を持つ敵がいたらヤヴァすぎる……。
ビュシエ以外の皆も同じことを思ったのか、少し顔色を悪くした。
ビュシエは当然という顔付きだ。
キサラは、
「ブラッドクリスタルで光の耐性を得られるのなら闇が濃い他の魔界の諸勢力には、極めて貴重な研究がブラッドクリスタルということになります」
「ん、窪地の争いにも納得できる」
「はい」
たしかに……。
争い合う理由は他にも色々とあると思うが……主な要因。
「はい、先ほどと被りますが、ブラッドクリスタルの研究は古代より争いの原因にはなります」
皆が頷く。
「ただし、エラリエースを実験に使った光属性と闇属性の<血魔力>のブラッドマジックの研究は、まだまだ不透明で失敗続きだったはず。ですが特別な血道系統……<血魔力>のブラッドマジックは多岐に渡ります。ですから、私が知らない間にブラッドマジックが進化している可能性は非常に高いでしょう。同時に吸血神ルグナド様のブラッドマジックも天井知らず」
吸血神ルグナド様の戦闘は見ているから分かる。
『我の血の支配を抜けし罪人よ、我の血の一端を見て、恐れ慄くがいい……<血道第八・開門>――<血霊回生>』――』
死んだ吸血神ルグナド様の眷属たちが、一斉に復活していた。
あれは凄まじいのなんの……。
恐怖感を得ながら、そのことではなく、
「……他の吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>が光属性と闇属性を融合させている可能性もある?」
「エラリエースを見ているので、ない。とは断言できません」
「そりゃそうだな」
「では、光魔ルシヴァルのおかぶを奪うような存在がいると……」
「……はい。あくまでも可能性ですが、ないとは言えません」
ヴィーネとキサラは頷く。
少し歯がゆいか。
「ご主人様は、何事にも絶対はないと、よく言われていたが……」
「はい……」
「……吸血神ルグナド様は勿論ですが、高度な<血魔力>を活かしたブラッドマジックは光属性を上回ることも可能ですから、光属性を取り込むことはあまり考えないかもです。勿論、光属性が闇属性を駆逐することが大半ですが……」
神界側と争っているんだから、そりゃそうか。
「<血魔力>ならではの、光属性を退ける何かがあるのか」
「はい、スキルや称号に単純な魔力量で属性を覆せることがあります」
「へぇ」
皆、ビュシエの言葉に感心。
納得顔を浮かべたりと、色々だ。
そのまま、少し時間が流れたところで細かな窪地の戦いについてを語る。
「……凄まじい。キサラ様も言われていたが、悪神デサロビアの大眷属、ゲヒュベリアンと交渉を……」
「戦いと交渉、駆け引き……すべてが高度すぎる」
「「あぁ」」
「窪地の戦いは激戦の連続だったと……改めて理解した」
「神界騎士団の連中も魔界セブドラに潜入していた強者たちを集めたような印象だ」
「あぁ、ロズコと団長は見たんだろう?」
「俺とロズコは、窪地の戦いの最初は見ていない」
「あぁ、巨大洞窟の窪地の戦争は見てないと言ったほうがいいだろ。最後の神獣ロロディーヌ様に乗りながら巨大な洞窟と窪地はしっかりと見た。激戦だったと分かる。しかも、シュウヤ様が勝利して【バードイン迷宮】の崩壊が始まっているのに、他の魔族たちはまだ争い合っていたからな。赤業魔ガニーナや多腕魔王シーヌギュフナンなどの一部魔族は撤退していたようだが……」
と、魔傭兵のラジャガ戦団とデラバイン族の兵士たちが語っていく。
暫し、皆の会話に合わせて情報を伝えていった。
一部のデラバイン族の兵士たちから、
「陛下はなんでも教えてくれる! ありがとう!」
「――情報共有は嬉しいです! 陛下や皆のことを強く信頼できます!」
「あぁ、本当に俺たち一兵卒にまで、ここまで丁寧に説明してくれるなんて……」
「あぁ……感動だ」
と、騒ぎになりそうだったから、暫く間をあけてから、
「総じて【レイブルハースの霊湖】を救ったことになった俺は、褒美を得た。それと【バードイン城】で、ガングリフという強者と戦い城の一部を破壊してしまった。そして、その破壊が大きい【バードイン城】に、魔の扉の鏡は残したままだ。何れは【バードイン城】に戻るかも知れない。そして、バーヴァイ城の城主の間に新しくシタンと言う名の守護兵を置くことにした。シタンは俺が使役した魔界騎士と似た存在だ」
少し間が空く。
「シタン殿を配下に……了解しました」
「「「「ハイッ」」」」
「シタン殿を使役したのですね」
「分かりました!」
「そうだ。シタンの大本は【バードイン迷宮】で入手したアイテムの一つで、見た目は髑髏の指輪だった。その髑髏の指輪を、魔鋼族ベルマランのラムーさんが持つ霊魔宝箱鑑定杖で鑑定したところ、名は〝古兵〟と出たんだ。〝古兵〟に魔力を込めると、その古兵か、古兵にちなんだ存在と契約が可能と分かった。そうして、先ほど、〝古兵〟に魔力を込めると契約できた。その〝古兵〟の正式名は、<古兵・剣冑師鐔>という名前だった。で、その〝古兵〟の<古兵・剣冑師鐔>は過去、色々な名で呼ばれていたようだ。その名の中にシタンという名があったから、俺たちはシタンと呼ぶことに決めたんだ。シタンは、<イブルの魔闘気>という名の未知の<魔闘術>系統を覚えている。俺たちは、まだシタンの実力を見ていないが、たぶん、その未知の<イブルの魔闘気>を見たら学びたくなるぐらいの<魔闘術>系統の質だと思う。ということで、そのシタンは、城主の間の魔の扉の鏡の防衛のため残ってもらっている」
「「「「はい」」」」
「「「了解しました!」」」
「「シタン殿ですな」」
「シタン殿が新しく仲間に!!」
デラバイン族の兵士と魔傭兵のラジャガ戦団たちが発言していく。
「おう。そもそもが、バーヴァイ城の魔の扉の鏡は、俺がアイテムボックスにしまったほうがいいのかも知れないが……で、最初はミレイヴァルに魔の扉の鏡の防御を兼ねて、城主の間の守護兵をやってもらおうかなぁ~と皆で話をしていたんだ」
「「はい」」
そうして、暫く団欒。
皆に、
「ヘルメとアチたちが傍にいるエラリエースと光魔騎士ファトラに【グラナダの道】の面々と助けた魔族たちのことだが……皆、慣れない環境で戸惑っている者も多いかも知れない。だから、休んでもらおうと思う。皆も優しくしてあげてくれ」
「……はい!」
「――ウォン! 良い判断だ。魔樹を狩る時、源左の者も休むことが多かった」
「ンン――」
「ン、にゃァ、にゃ~」
「そうですよね、はい」
「……ふふ、優しい」
「ん、大賛成」
ヴィーネ、キサラ、ミレイヴァル、エヴァは見つめ合いながら頷く。
バーソロンも頷いて、
「……はい。休んでもらいましょう! そして、今さらですが、魔界王子テーバロンテたちが憎い!」
「ん」
実験体一号と二号と、つぎはぎの状の体となっている魔族たちは見ると、そう思う。キサラとヴィーネもミレイヴァルも同じ思いか
「……枢密顧問官ベートルマトゥルとテーバロンテと百足高魔族ハイデアンホザーから、魔手術を受けていた魔族たちの身を思うと……」
キサラの言葉に頷いた。
バーソロンは胸元に手を当てて、少し苦しそうな表情を浮かべていた。
すると、エヴァが直ぐに、
「ん、バーソロン、大丈夫」
「はい」
優しいエヴァがいると気持ちが安らぐ。
そして、バビロアの蠱物を受けながらも心を保ち続けたバーソロンだ。
デラバイン族たちの一部から裏切り者と呼ばれても屈しなかった強い女性だが、弱者のことをちゃんと考えられる偉い女性だ。
と、黒猫と銀灰猫は俺の肩に乗ってくる。
相棒と銀灰猫の頭部の感触を頬に受けて、鼻キスを首筋に受けて幸せ感を得た。くすぐったいが、我慢……。
俺の手を握ったエヴァに牢屋にいると思う百足高魔族ハイデアンホザーのことを……
「ん、【テーバロンテの王婆旧宮】には、秘密が多いって言ってた。牢屋に行ってみる?」
「あぁ、行こう」
続きは今週。
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