千百七十四話 魔式・九連環と古式の使用
エヴァは魔式・九連環の環を伸ばす。
九つの環を連ねて、棍か槍のような形状に変化させた。
よく見ると――。
環と環の間には樹のような鋼と細かな白色の魔鋼の花柄金属が環と環を繋ぎと止めていた。
見事な機構だ。
蜘蛛の糸よりも細い繊維質の白い鋼の群れは白皇鋼だと思うが、どうやって造ったんだろう。
俺の知る地球科学でも蜘蛛の糸の繊維は様々に研究され応用されていたなぁ。
穂先の環の形は、三日月状に湾曲した刃か。
形状は『西遊記』の沙悟浄が使用していた降妖宝杖の武器に似ている。
『水滸伝』の魯智深が使用していた武器にも似ていた。
「武器の形状も変化が可能とは……製作者が魔界八賢師タリマラなだけはあるようです」
「はい、魔界八賢師タリマラが製作した伝説級は特別だと分かります」
ヴィーネとキサラの発言。
「あぁ、かなりのお宝武器か」
と俺も唸るような声を出して槍状の魔式・九連環を凝視。
エヴァは俺にウィンクして、
「ん、棍を想像したら槍になった。これならシュウヤも使えると思う――」
槍状の魔式・九連環を、左手の掌の中で回し始めた。
槍形態の魔式・九連環を細い両手に持ちながら、柄を右、左と動かして、ぐわりぐわわりと楽しそうに回していく。
「エヴァに合う」
「ん、そう?」
「あぁ」
フェンロン流棒術の達人と呼べるエヴァなら十分活用できるだろう。
右手一本で重さを見るような仕種を取る。
ワンピース系の【天凜の月】の最高幹部衣装とムントミーの衣服が合う。
と、槍状の穂先で宙空に円を描くように魔式・九連環を動かした。
動いている魔式・九連環の柄越しに俺を見てくる紫色の瞳は真剣だ。
だが、あの眼と真剣さが、正直可愛すぎる。
少し笑みを見せたエヴァは正面を向いた。
俺に横顔を見せながら前進。
ウィンドー・シート側の床を左足で踏み込む。
悩ましい腰を僅かに捻りながら左の太股を前に出して、魔式・九連環を持つ右腕を捻るように前へと突き出した。
槍状の魔式・九連環で<刺突>のような突き技を出した。風が少し発生している。
風槍流の<刺突>だろう。
エヴァは昔からちょくちょく俺の槍を突き出す動きを真似していたからなぁ。
風槍流の動きも似ているから嬉しくなった。
そのエヴァは右腕を引きながら魔式・九連環を振るい、左手の逆手に持ち替えながら下から上へと月刃を振り上げる。
張ったワンピース系の衣装越しに隠れ巨乳がぷにょんと音を出すような動きで顕わになった。
おっぱいの膨らみは、素晴らしい。
合掌したくなった。
エヴァは、槍状の魔式・九連環を右手と左手で交互に持ち替えながら回転させてから宙空に放った。
慣性で落ちる前の槍状の魔式・九連環の柄を、少し浮遊したエヴァは、真上に上げた左手で掴む。
と、右の爪先から着地。
金属の足だから少し金属音が響いた。
同時にエヴァが傍にいてくれると分かる音でもあるからテンションが上がった。
エヴァは槍状の魔式・九連環を真横にした。
一指し指から中指と薬指を徐々に離し開く。
と、また一指し指と中指と薬指を閉じて、柄を握り直しつつ、握り手の位置を調整していた。
握り手の調整は槍使いや棍使いの胆だからな。
薬指と小指と掌の押さえは重要。
アキレス師匠に、小指の動かし方、握り方で説教された覚えがある。
エヴァは槍状の魔式・九連環の感触を確かめるように握り手をまた緩めつつ槍状の魔式・九連環を前に伸ばした。
スッと掌の中を滑るように出た槍状の魔式・九連環が伸びたようにも見える。
フェンロン流棒術。
動きは槍使いっぽい。
「ん、<刺突>――」
と可愛い声でスキル名を言うと――。
右足を前に出す踏み込みから左手が持つ魔式・九連環を前方に突き出した。
「見事な<刺突>だ」
「ん、ありがと」
エヴァは礼を言って微笑む。
槍状の魔式・九連環を引いてリラックスしたエヴァが可愛い。
「ん、次は――」
魔式・九連環の槍を崩した。
九つの環を足下に垂らしつつ<血魔力>を紫色の魔力を体から放ちながら両足の金属の足の裏を滑らせる機動で前に移動。
足裏の杭で床を削るように音が響く。
と、足下から火花が散る。
そのまま半身の姿勢で動きを止めてから魔力を魔式・九連環に通した。
すると、九つの環の内二つの環だけが大きくなった。それを重ねて円盤の武器に変化させる。
「ん、巧くできた」
「槍状といい、魔式・九連環は想像通りに操作が可能なのか」
「ん、基本、環の形は維持されている範囲だと思うけど、可能みたい」
エヴァは魔式・九連環の円盤武器となった二つの環を操作。
六つの環の中を通り抜けて、最後の七つの環に引っ掛かる形で円盤武器がぶら下がった。
「九つの環は、知恵の輪のような……」
「ん、うん――」
エヴァは七つの環が連なっている魔式・九連環を持ち上げるように引いた。
七つの環にぶら下がっている円盤武器をヨーヨーでも扱うように回していく。
七つの環の形状が輝いて間延びした。
「「おぉ」」
「七つの環が<ルクスの炎紐>のような炎の紐に見えます。そして、円盤部分は鉄球ハンマーのように扱える?」
バーソロンの言葉に「んっ」と微かな声を発したエヴァは頷いた。
七つの連なっている環の間を二つの重なっている円盤状の環が上下に行き交う。
ヨーヨーの技を見ている気分だ。
エヴァは七つの環と円盤に紫色の魔力と<血魔力>を多く通した。
と七つの環と二つの環は分離――。
「「「おぉ」」」
一つ一つの環がエヴァの周囲に浮かんでいた。
「サージロンの球と同じように扱えるのですね」
「ん、別個に見えるけど、魔線と未知の鋼の効果で繋がってる。あ、スキルの<魔式・九連環>を獲得した!!」
「え! 凄い」
「「おぉ」」」
皆が驚いた。
目の前でエヴァが成長するとは。
「ん、やった!」
「にゃ~」
喜んだエヴァは少し浮遊した。
エヴァの動きと声に反応した銀灰猫が両前足を上げる。
普段は餌くれポーズだと思うが、肉球をエヴァに見せているようにも見えた。
エヴァは、紫色の魔力の<念導力>か、その<魔式・九連環>で一つ一つの魔式・九連環を自由自在に操作していく。
小さくした九つの環を両指に嵌めるように扱い、それらを飛ばすエヴァが凄い。
「チャクラムのように扱えるのか」
「ん!」
魔式・九連環はサージロンの球と同じく<念導力>でも操作可能で、合計九つの環を分離させて個別で使用も可能か。
再び九つの環を纏めてぶら下げる。
と環の一つを大きくさせた。
大きい環の中に手首を通す。
と、手首を回した。
大きい環を起点に八つの環がぐるぐると回る。
魔式・九連環を回していった。
手首に巻き付きそうだが、平気のようだ。
フラフープ的な機動も可能な魔式・九連環は面白いな。
エヴァは、魔式・九連環を元の九つの環が連なった武器に戻して、
「それはエヴァにプレゼントしよう」
「ん、ありがと。でもいいの? 貴重なお宝の一つ。わたしはここで百足高魔族ハイデアンホザーとお話をしていただけ……」
「いいさ。その留守番こそ、結構辛いものだからな」
「ん、シュウヤは優しいから大好き」
「……はは」
「嫉妬しますが、認めます」
「「はい……」」
「嫉妬は当然ですが、魔式・九連環はエヴァに合うと思います」
少し俺をジッと見ていたヴィーネとキサラにバーソロンとミレイヴァルがそう発言。
「ん、魔式・九連環を大切に使わせてもらう。でも、ヌベファ金剛トンファーとサージロンの球もちゃんと使うから」
「おう」
ヌベファ金剛トンファーとサージロンの球は強力だからな。
では〝古兵〟に魔力を通すか。
「では、これに魔力を通すとしよう」
「はい、どのような存在か楽しみです」
「「「はい」」」
「ん」
「髑髏の指輪ですから、やはり……」
ミレイヴァル、バーソロン、ヴィーネ、エヴァ、キッカは興味津々だ。
皆の顔色を見ながら――。
指輪状の髑髏の指輪に<血魔力>を込めた。
すると、髑髏の口元が上下にカツカツ音を響かせる。
「ウォォ!」
「「「え!?」」」
と音を発してから髑髏の表面が溶けて剥がれる。
黒光りした髑髏に変化を遂げた。
と、髑髏の眼窩から光が発生。
更に髑髏は繊維状のモノと粘液のようなモノを噴出し消える。
繊維状のモノと粘液のようなモノは床で融合しつつ自然と黒と白っぽい光を発して持ち上がる。
と、片膝を床に突けたまま人型を模った。
双眸は赤黒い。武者のような面は厳つい。
面頬のような頭部か。
黒の甲冑を着ている。
甲冑の間から銅色と鋼色の地肌が見えていた。
背には魔大剣を付けている。
「……」
ピコーン※<古兵・剣冑師鐔>※スキル獲得※
「……人型に変化を使役に成功ですか?」
「古兵と契約を?」
「おう、成功だ。<古兵・剣冑師鐔>というスキルを獲得した」
「「おぉ~」」
「にゃお~」
「古兵・剣冑師鐔……喋れるのでしょうか」
「分からないが……」
<古兵・剣冑師鐔>立ってくれ――。
思念で命令すると、黒い武者は立ち上がる。
無言なままだが、大柄で、背に装着しているだろう魔大剣の柄が渋い。
ゼメタスとアドモスのような存在か。
続きは明日
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