千百六十七話 不気味な地下道
黒猫と銀灰猫が下水の臭いを嗅いでいる。
地下道の入り口に近付くと、直ぐにアンモニアと鉄分に腐卵臭などが臭ってきた。
天井まで三メートルあるかないか。
横幅は三十メートルぐらいか?
右手に雷式ラ・ドオラを召喚。
顔色を悪くしたエトアさんが、
「……シュウヤさんは、ボクが必要と……」
「あぁ、罠か鍵が掛かった扉と宝箱があるかな? と考えた。神話級のボシアドの恩讐と魔界王子テーバロンテの掛毛氈などの貴重なアイテムの入手はエトアさんたちがいたお陰だからな。だが、戦いの予感がある。戻りたかったら戻っていい」
少女的な魔族のエトアさんは一瞬、動きを止める。
不安気にジアトニクスさんがいる方向をチラッと見てから俺を見て、
「だ、大丈夫でしゅ……」
と、語る。
黒髪を操作できるのか、少し縮んだような印象を受ける。
黒髪の長さからして、マルアと似ているんだよな。
仙妖魔の血筋かも知れない。
そのことは言わず、
「ジアトニクスさんにも付いてきてもらうべきだったかな」
「……だ、大丈夫でしゅ! ジアトニクスとの約束に、『外に出る機会は必ず訪れる。その時は後悔しないように、できることは挑戦するべきだ。私やロズコに鋼の魔族がいなくても、エトアは十分強いんだからな』と言われて、わたしは、『はいでしゅ、約束でしゅ!』と約束していたんでしゅ!」
だからか。
小さい腕の微かなジェスチャーが可愛い。
貫頭衣のような衣服だが、エトアさんの体に似合うアイテムが入手できたらあげておきたい。
「……了解、戦闘なら俺とヴィーネにキッカがスペシャリストだから、安心していい」
「は、はいでしゅ!」
「エトアの背後はわたしが担当しましょう。この臨時パーティでは後衛担当を担います」
ヴィーネは翡翠の蛇弓を掲げる。
光る翡翠の蛇弓は角灯代わりになるな。
「では、私はエトアの前衛を担当しつつ、この地下道攻略臨時パーティの強襲前衛ということで?」
キッカがそう語る。ニヤッとしていた。
ヴィーネも微笑む。
既にそれなりに組んでいる二人なだけに少し疎外感を得た。
気にせず、
「おう。頼む。俺は相棒とメトと一緒に前衛かな。では、その前衛として――」
〝フニュアンの絵画と秘密の額縁〟を掲げながら階段状の道を下る。
冷たい風と生暖かい風を体に感じた。
魔界セブドラの地下に跳梁跋扈するクリーチャーたちを想起する。
足首までいかない下水道か。
下水設備が整っているのは魔皇バードインが人型だったからか?
魔皇バードインにはちゃんとした人型の尻があり、そこからうんちをしたんだろうか。魔皇のうんこは貴重なのかも知れない。
と、考えたら笑ってしまう。
「「「……」」」
ヴィーネとキッカとエトアが笑った俺を見る。
皆に済まんと謝りつつ相棒の姿を見て誤魔化した。
……あ、〝フニュアンの絵画と秘密の額縁〟の小人魔族が魔皇バードインと繋がりがある? 魔界王子テーバロンテの眷属って線もあるか? それとも……。
「「ギャァォォォ――」」
「「ゲァォォォ」」
「「ボボボボボボゥゥゥ――」」
と、前方から悲鳴的な声と死体を引きずるような水音も響いてきた。
更に〝フニュアンの絵画と秘密の額縁〟の絵柄が様々な形のクリチャーがいる地下道に変化している。
「今の声は、ご主人様……」
「あぁ、四方の警戒を怠るな」
「宗主、〝フニュアンの絵画と秘密の額縁〟が罠だと思いますが、このまま?」
とキッカが語る。
〝フニュアンの絵画と秘密の額縁〟の小人風の魔族は不満そうな態度を示す。
「おう、進む」
「ンン、にゃ~」
「にゃァ~」
「は、はい」
「「はい」」
少し進むと……。
無数の武器が散乱。
更に、干からびた魔族の体の部位と生々しい臓腑の一部などが転がっていた。死骸は、古いのは魔界王子テーバロンテの眷属類。
百足魔族デアンホザーたちと分かる。
このバードイン城は魔界王子テーバロンテ領だった。
が、悪神ギュラゼルバンの勢力に蹂躙されていた。
このバードイン城地下道でも同じように百足魔族デアンホザーなどの兵士などは倒されているはずだからな、古い死体に斧槍のような鎌腕があるのは分かるが、魔族の新鮮な血を有した死体は分からないな……。
悪神ギュラゼルバンの勢力のバードイン殲滅部隊は髑髏の騎士たちだ。
死体はゴツゴツとした鋼のような残骸のはずだが、これらの死体は妙に肉々しい……先ほど俺が倒したガングリフは、その悪神ギュラゼルバンの勢力の駆逐を狙っていたようだったが……。
「ンン――」
「ンン、にゃァ」
「相棒とメト、ソレで遊ぶな、肉球が臭くなるぞ」
「「ンン」」
二匹は尻尾を左右に振りながら喉声のみの返事をしてから後退してくれた。
キッカとエトアの傍に寄る。
なんだかんだいって、エトアの守りを優先するあたりはお利口な神獣様と異界軍事貴族様だな。
と掌握察を強めつつ迷宮を歩いているような感覚で下水道を進む。
「……ふふ、イノセントアームズとしてご主人様と迷宮を入った時を思い出します」
「あぁ」
地下道の前方から寒気と共に魔素が増えてきた。
冷たい水を足首に得ながら地下道を進んだ。
頭上に〝フニュアンの絵画と秘密の額縁〟を移動させる。
「……周囲の魔族とモンスターの死体、しかも散らかし具合からして前方の魔素の気配は確実にモンスター系の魔族」
右後方にいるキッカが語る。
キッカは右手に魔剣・月華忌憚を持つ。
銀色と銅色の細工模様が美しい鞘の中に剣身は入ったままだ。
キッカは魔剣・月華忌憚の鞘を活かした<血瞑・柄目喰>などの血剣術を扱う魔剣師。<血道第三・開門>も扱えるから頼りになる。
そのキッカが、
「中庭にいたガングリフから逃げた魔界王子テーバロンテが用意していたモンスター類でしょうか」
「ありえますね。わたしは、フニュアンの絵画と秘密の額縁が怪しいと思いますが」
キッカは、インテリジェンスアイテムに騙された経験でもあるのか、
そのキッカに頷きながら、
「ここをテリトリーにしている別個の力を持つ存在とかな。SAN値が削られるとかな」
「……冥界の出入り口……?」
「ないとは言えないから、なんとも」
続きは今週。
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