千百六十話 レイブルハースからの四つの褒美
エラリエースの血と魔力、多分<血魔力>を得ていた不可測の血布を戦闘型デバイスのアイテムボックスに仕舞った。
レガトゥスさん以外の神界騎士団の軽戦士たちはハイゴブリンの部隊と激突し、鬱憤を払うように倒していく。
そこに分散しながら撤退中だった赤業魔ガニーナの魔族たちも争いに加わった。
続いて少数の魔歯魔族トラガンたちと、羊の頭と体がオットセイと似た魔族たちの部隊も争いに加わる。
レッサーデーモンの部隊も混じると、もう混沌。
魔界VS神界な場面は多数あるが、他の魔族同士の乱戦も多い。無理して争わず戦力を維持しながら退けばいいと思うが……。
信奉する神々の影響か信条か。
率いているのは眷属か大眷属、魔族たちは退くことが許されない兵士なのか?
敵対する魔族を殺して、殺した魔族の魔力を得るためだろうか。憎しみと差別と本能か?
首級で魔石が得られる魔族軍の制度もあるのかな。
声を掛けて『少数の神界騎士団を倒そうぜ』と連携を持ちかける魔族がいてもおかしくないが……本当にいるかもな。
しかし、魔界王子テーバロンテの眷属の魔歯ソウメルとベートルマトゥルはもういない。少数派だった百足高魔族ハイデアンホザーと百足魔族デアンホザーは全滅、大軍だった魔歯魔族トラガンも少数のみ。
窪地の焦点だった堕天の十字架と堕光使エラリエースに迷宮核も俺がゲットした。
だから、下の魔族たちは俺と相棒たちへと総攻撃を仕掛けてもおかしくない。が、それは皆無。
残りの魔歯魔族トラガンたちも俺たちを狙ってこない。
俺たちの存在が脅威となった証拠か。
皆も勝利を祝っていたが下の魔族たちの気配を感じていたのかな。
強力なスキル、武術、魔法を持つ俺たちと争っても無駄だと考えるか。
魔毒の女神ミセア様の幻影効果もあるかもな。
十層地獄の王トトグディウスの依代を破った効果もあるかもか。
悪神デサロビアの大眷属のゲヒュベリアンと交渉効果もあるかな。
死皇パミューラの魔族レンデロミュたちを屠ったこともあるだろう。
と考えながらレガトゥスさんから預かった神剣を握ったまま――。
相棒が突入したであろう窪地の左奥に向かう。
足下に生成した<導想魔手>を蹴って宙空を進んだ。
すると、巨大洞窟の天井の一部に亀裂が走り天井に稲妻が起きた。
稲妻の動きに沿うように天井が割れて、割れた岩が落下――その岩を避けながら進む。天井全体が崩壊したわけではないから、天井に震動でも起きたか?
と、疑問に思いながら落下が続く岩を避けて前進した。
すると、爆発音が前方から轟いてきた。
相棒の神獣が進んでいる洞穴の中で水蒸気爆発かガス爆発でも発生したか?
皆を乗せた相棒は気配りができる良い子だから大丈夫と分かるが……。
空を飛ぶと楽しくなって調子に乗ることがある神獣だからな、少し心配だ。
相棒が突入した巨大な洞穴は天井から地続きの横壁にあった。
巨大な神獣ロロディーヌの大きさに似合う大きな洞穴。
大きな洞穴の幅は……数百メートルは楽に超えているか。
背後の窪地とバードインの大墳墓があった巨大洞窟よりは狭いが――。
その大きな洞穴からゴォォォッとした重低音が響いてきた。
大きな洞穴の縁は真っ赤。
ここからだと【バードイン迷宮】の名残は見えない。
――熱風も発生していた。
煮えているような音も響きまくり、溶岩的な真っ赤に燃えた岩肌は熱そうだ。熱を帯びた岩の塊も飛び交っていた。
洞穴手前の天井付近の空間は蜃気楼のような空気層が発生し揺らいでいた。
――あの空域の温度は高そうだ。
が、その蜃気楼のような空気層は突風的な冷たい風をびゅうと受けて霧散した。相棒が造り上げた洞穴の温度が急激に低くなっている?
熱波はいきなり弱まった印象で蜃気楼は消えていた。
すると、相棒が造り上げた大きな洞穴から大量の水飛沫が弾け飛んできた。水蒸気爆発とかではない――。
明らかな大量な水――。
魚などモンスターが大量に落下していた。
――【バードイン霊湖】の水か。
窪地の一部地域にも死んだ魚が積まれる勢いだった。
太刀魚に似たノコギリ刃の角と細長い胴体に二本の脚と蛇の尾を持つメジラグも大量に落下していく。
未だに熱は感じられるが――。
肩の竜頭装甲を意識――。
「ハルホンク、衣装を変更だ」
「ングゥゥィィ!」
魔法のケープとミスランの法衣と魔法のケープの素材を使うか。
瞬く間に素っ裸となる。
刹那、肩の竜頭装甲の口から吐き出された漆黒を基調とした衣装素材が全身に展開された。
イモリザなら『キュピーン』と発言するだろう変身時間――。
瞬間的に魔法防御力に特化した衣装に変更した。
新衣装で<導想魔手>を蹴って巨大な洞窟に近付いた。
温度は下がり、水気に満ちた空気感となる。
相棒が造り上げた洞穴の岩肌は赤くない。
そのまま洞穴の中に突入――。
と、大量の水飛沫を浴びるがまま水飛沫ゾーンを抜けた――。
おぉぉ――轟音が響く。
上下左右の【バードイン迷宮】だった岩肌が巨大な滝と化していた。
超絶な絶景だ。感動を覚える。
天国までの道を連想させるほどの大瀑布――。
岩と岩の間からドバドバと迸る水量は膨大で放出されている。
洞穴を埋めるほどの勢いだ。宙を散る煌めく水飛沫が大きな波に見えるほどだった。
そして、周囲の岩から噴出している水は普通の水ではない濃厚な魔素が内包された【バードイン霊湖】の水だろう。水の色合いは神秘的。
ヘルメが喜びそうな色合いだ。
そして、相棒の紅蓮の炎が造り上げたにしては古びた岩が多い……海中植物らしき茎の根が至る所に伸びていた。
岩にはモンスターのようなモノが貼り付いている。
写真に撮りたくなるような景色を堪能しながら<導想魔手>を蹴散らすように上昇していると、岩肌が水飛沫を弾いている【バードイン迷宮】の通路だった穴が至るところに見えてきた。
通路だったではないのか、あの通路も【バードイン迷宮】の一部。
【バードイン霊湖】から流れた水によって湖の一部と化している迷宮通路の部分もあった。
しかし――洞穴の左右に断崖から見えている迷宮通路の表面は切断された金太郎飴の表面的だ。勿論、その模様は金太郎ではなく【バードイン迷宮】の四角系の通路だが――。
苔が丘のような形となっている出っ張った岩場は自然だ。
外に晒されて数千年は経っていそうな通路もあるから、ここの洞穴は古くから存在したのか。過去に【バードイン迷宮】を縦に貫いた一撃を誰かが放った影響の名残か。
相棒の紅蓮の炎は地下の巨大洞窟の天井の表面をぶち抜いただけってことだろう。
【バードイン霊湖】から流れ落ちてくる水の量と明るさが増した。
地上は近い――。
足下の<導想魔手>を蹴って四方の大きな瀑布の水飛沫を浴びながら地上に出た――。
出たところはサファイヤブルーの湖――。
神秘的な色合いの【バードイン霊湖】か!
皆を乗せている相棒は佳景のいい湖面の上で低空飛行を行い楽しんでいた。
俺が出てきたところは古めかしい大きな洞穴。
やや楕円形か――。
突兀の岩がある以外は斜面の稜線と地続きな【バードイン霊湖】から大量の水が【バードイン迷宮】へと流れ落ちている。その水の勢いはナイアガラの滝を連想させる。
大瀑布になるのも分かる。
突兀の岩には蔓か蔦の植物が大量に絡んでいた。
場所的に入り江に近いか。
そして、【バードイン霊湖】の少し先の湖面では、人魚たちが湖面の上でスケートを行うように走っている。
常闇の水精霊ヘルメ的な機動で楽しそう。
「ンン、にゃお~」
神獣が、その人魚たちに挨拶するように鳴いていた。
【バードイン霊湖】の湖面を走っている人魚たちは、飛んでいるロロディーヌを楽しそうに見上げている。
彼女たちに敵対する意思はない。
血霊衛士の対応とは大きく異なる。
スタイルの良い人魚たちは武器を消していた。
その人魚たちは俺にも手を振ってくれている。
美人さんばかり。
髪の色は金色で肌は白っぽい。
乳房は、鮫の模様が付いた貝殻のブラジャーが多い。
次点で鮫と魚の形をした貝殻のブラジャーが多いか。
植物の素材のブラジャーもいる。
【バードイン霊湖】で見た鋼の装甲が付いた衣服は着ていない。鮫の紋章も付けていない。下半身の魚の錦鱗は非常に美しい。
楽器を弾いて歌う人魚さんもいた。
リュート、琴、太鼓、マラカス、シンバルのような様々な楽器を持つ人魚たちが奏でるリズムは思わず、俺も踊りたくなった。
ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ、と――。
歌声はシャナを彷彿とさせる美しい音色だ――。
謡と拍子のリズムがいい音楽に合わせて、周囲の人魚さんと魚たちが楽しそうに踊る。
ここは人魚天国か!
他にも頭部の魚の顔が大きい人型の方がいた。
前にも見たが、人族のように足が生えている人魚もいた。
人魚といいセラにもいる魚人さんタイプか。
魅惑的な人魚たちを見ながら神獣に乗り込もうと【バードイン霊湖】に飛び込むようなイメージで前進――。
すると、足下の【バードイン霊湖】の水面の真下に、二つの巨大な魔素を察知した。
レイブルハースとペマリラースだ。
一応<闘気玄装>を発動。
<血液加速>を強めて、少し先にいる神獣に近付きつつ、下のレイブルハースとペマリラースに備えた。
大きな鮫のレイブルハースとペマリラースは――。
【バードイン霊湖】の湖面から巨大な鯨が餌を求めるが如く、口を広げながら飛び出てきた。
大きな鮫のレイブルハースは頭部に冠を被り、魔法の衣を身に纏っている。
ペマリラースも魔法の衣を身に着けている。
宙空で巨体をくねらせるレイブルハースとペマリラースの二体の動きは力強い。
大きな鮫ってより、大きいシャチにも見える。
神秘的な水飛沫が周囲に散った。
水飛沫の形が様々な生物たちを模りながら消えていく。
「にゃご!」
レイブルハースとペマリラースは凄まじい迫力だ。
少しビビる。神獣ロロディーヌも驚いて、口を広げたまま両翼を広げていた。
ヴィーネたちが乗っている頭部の様子はここからではあまり見えないが、足下の揺れは凄まじいだろう、アトラクションのような動きを体感しているはず。
レイブルハースとペマリラースは落下せずに浮いたままだ。
神獣ロロディーヌの頭部と胴体がレイブルハースとペマリラース越しに見えるが……。
その相棒の姿が威風堂々。
改めて感嘆な想いを得た。
頭部はネコ科と魔獣系。
胴体と両翼はドラゴンにも見える。
漆黒のドラゴン的、まさに神獣竜ロロディーヌ。
その頭部に乗っている皆が小人に見える。
「閣下、レイブルハースとペマリラースが!」
「ご主人様、こちらに――」
「シュウヤ様――」
「御使い様~」
「使者様~巨大な滝にレイブルハースとペマリラースですよ♪」
相棒の頭部に乗る皆に返事をしようとした刹那――。
手前にいるレイブルハースとペマリラースが、
「「『『我らだけでなくこの地方の名を取り戻してくれた魔英雄シュウヤ! 約定を果たそう――』』」」
と、レイブルハースとペマリラースの頭部から魔線が迸る。
キサラのダモアヌンの魔槍から出ることがあるフィラメント状の線にも見えた。
無数の魔線は【バードイン霊湖】の湖面と衝突。
湖面の一部は四角系のクリスタル状の地となった。
そこには四つのアイテムが浮いていた。
一つは、クリスタル状の瓶か。法螺貝のような見た目の瓶には、綺麗な液体が入っている。
二つは、サファイヤブルーの大きな鮫の小像。
三つは、小さいレイブルハースとペマリラースがサファイヤブルーの魔宝石のような宝を支えるペンダント。
四つは、水に濡れているクリスタル状の素材にも見えるマント。
模様は銀色と金色の魔印。魔印の真上には波紋のような模様が浮いている。
「『すべてがシュウヤの物だ。受けとるがいい――』」
「『受けとるがいい――』」
「ありがとうございます――」
と、クリスタル状の地に立つ。
「この瓶は……」
と、クリスタル状の法螺貝にも見える瓶に指を当てた。
中身の液体の色はサファイヤブルー。
「『それは〝霊湖の水念瓶〟。この【レイブルハース霊湖】の液体が入っている。『水』、『霊湖の水よ』、『吹き荒れよ』などのフレーズを発したり念じたりすると、霊湖の水念瓶から大量の【レイブルハース霊湖】の水が水念として放出されるだろう。出し切っても自然と溜まる。霊湖の水念瓶には様々な効果があるが、使えば分かるだろう』」
「はい。〝霊湖の水念瓶〟……そして、ここは【バードイン霊湖】ではなく【レイブルハース霊湖】が正しい名だったのですね」
「『そうだ』」
「『そうよ、貴方のお陰です……』」
ペマリラースの言葉と思念は優しい。
頷いた。霊湖の水念瓶を仕舞う。
次はサファイヤブルーの大きな鮫の小像。
「『それは〝レイブルハースの呼び声〟小像だが、我の粘体がお前を守る。倒されても自然に小像に戻るだろう。〝霊湖の水念瓶〟と連携するが、それはシュウヤの才覚によるだろう』」
「『ふふ、魔英雄シュウヤなら、使いこなせるはずです。すべての品が何回でも使用可能です。あるモノは訓練が必要になるかもですが、がんばってくださいね』」
ペマリラースも説明してくれた。
「分かりました。ありがとうございます――」
レイブルハースの呼び声を仕舞う。
次は、小さいレイブルハースとペマリラースがサファイヤブルーの魔宝石のような宝を支えるペンダントか。
「『それは〝我と妻の護符〟だ。装備している者が傷を負った場合、傷が自動的に回復する。最初に魔力を送り一日身に付けると、正式な使い手として認識する』」
「分かりました。仕舞います」
レイブルハースとペマリラースの護符を仕舞う。
戦闘型デバイスのアイテムボックスにnewが増えた。
「次のは……」
水に濡れているクリスタル状の素材にも見えるマント。
模様は銀色と金色の魔印。
魔印の真上には波紋のような模様が浮いている。
「『それは、〝霊湖水晶の外套〟と呼ばれていたが、我らよりも古い外套。だれも身に着けられず。それ故、効果は分からぬ』」
「そうですか、貴重な物をありがとうございます。仕舞わせてもらいます」
〝霊湖水晶の外套〟を戦闘型デバイスのアイテムボックスに入れた。
レイブルハースとペマリラースに、
「礼として〝霊湖の水念瓶〟〝レイブルハースの呼び声〟〝レイブルハースとペマリラースの護符〟〝霊湖水晶の外套〟の貴重なアイテムを四個も頂けるとは嬉しいです」
「『我らも喜んでくれて誇りに思う』」
「『はい』」
「『では、シュウヤ、我は、妻と共に霊湖宮殿の建て直しをはかる」』
「はい」
「『うむ。【レイブルハース霊湖】の掃除もしなくては、あ、シュウヤ、またここに来てくれると嬉しいのだが』」
「正直いつ来られるか、分かりませんが、行けたらここに来ようと思います」
「『分かった。では、然らば――』」
「『然らばです――』
レイブルハースとペマリラースは揃った動きで頭部から【レイブルハース霊湖】の湖面の中に突入し、尻尾が湖面に当たって盛大に水飛沫を発した。
レイブルハースとペマリラースの姿は見えなくなった。
霊湖は凄く深いからな。
「ンン、にゃお~」
神獣ロロディーヌが寄ってくる。
その大きい頭部に跳び乗った。黒い頭髪の毛毛が柔らかい――。
直ぐに足下の頭皮の間から触手が伸びて首に付着してきた。
更に足下の黒毛も持ち上がり、運転席のような位置となった。
傍にいるキサラが、
「シュウヤ様、神界騎士団とはどのような、あ、褒美のアイテムはどれも優秀そうなアイテムですね」
「あぁ、レガトゥスさんと合わせて、ことなきを得た。この神剣も預かった。これは後で試すが、今は先を急ぐかな」
「にゃァ」
銀灰猫が肩に乗ってきた。
そのまま相棒の触手の一つに神剣を預けて、ヴィーネに――。
――フィナプルスに――。
――キサラと――ヘルメと――グィヴァと――ミレイヴァルと抱き合う。
皆のおっぱいの感触を得て凄まじい活力を得た。
――イモリザたち「はぅあ~♪」ともハグをしながら頭部と背中に乗っているエラリエースと魔族の方々を確認――。
エラリエースは相棒の触手が持つ鞘入りの神剣を見てハッとした表情を浮かべている。
【バードイン城】に戻りながら神剣について聞くか。
鞘入りの神剣を相棒の触手から――。
と、肉球の吸着が少し強かった。
「ンン」
と悪戯心が出た神獣に負けじと強く鞘入りの神剣を引っ張り、無事に回収できた。
【グラナダの道】と元囚人の魔族たち、傷だらけの魔族たち、二体の大柄な魔族もちゃんといる。そうしてから、
「【恐煉の大地】を経由して【バードイン城】に戻ろうか」
「悪業将軍ガイヴァーがいた城♪」
「はい。後回しにしていた絵画のアイテムがありました」
「生成り色の魔力を放つ風景画が納まっている額縁が示した部屋を調べるのですね」
「そうだ」
続きは、今週を予定。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。




