千百五十八話 神魔光邪杖アザビュースの確認と皆と合流
装着していた聖魔術師ネヴィルの仮面を消す。
白銀の衣装も消えると、肩の竜頭装甲から自動的に暗緑色の防護服が展開された。頭上に浮いたままの血の錫杖を見ながら<魔闘術>系統もすべて消した。
《氷命体鋼》を消す。
続けて肩の竜頭装甲を意識。
少し前はルシホンクのアミュレットだったが、牛白熊の素材と魔竜王バルドークの素材を活かすとしよう――。
左胸だけを覆う胸甲と魔竜王の肉と皮を活かした防護服に変化させた。
さて、闇雷精霊グィヴァは――。
皆の下へと敵の誘導に成功したようだ。
二体の死皇パミューラの眷属は皆の集中砲火を浴びて倒されていた。
エラリエースはヘルメと銀灰猫が守っている。
お、ツアンが出現していた。
光るククリ刀のような武器を光る糸で操るスタイルで戦ったようだ。
イモリザとピュリンばかり活躍していたからな。
と、天井の一部が崩れた。
【バードイン迷宮】の崩落と陥没は窪地のあちこちで起きていた。
が、無傷なところは多い。
完全には【バードイン迷宮】も崩落はしないかもな。
【バードイン霊湖】の水がもっと大量に流れてこない限りは……。
ヴィーネも皆を見ながら、
「ご主人様、窪地の崩落の原因は<空穿・螺旋壊槍>でしょうか」
「あぁ、魔皇バードインを倒す途中で、迷宮核らしき立方体を獲得している。崩落の原因は多分それが原因だろう」
「そういうことでしたか。地下広場の天井は【バードイン霊湖】だったので、ここにもその【バードイン霊湖】の水が大量に流入してくるのでしょうか」
「多分としか言えないな、ここは入り組んだ地形のようだし」
「はい、見えないところでの崩壊の進行は速いかも知れません……」
頷いた。ヴィーネの予想が当たるかも知れないし、早いところ撤収しておきたい。
――フィナプルスたちはまだか。
「ンン」
と、黒豹の喉声に釣られた。
相棒は山猫のような黒猫の姿に変身している。少し興奮している?
触手の肉球に神魔光邪杖アザビュースを吸着させていた。
黒猫に神魔光邪杖アザビュースで遊ぶのは止めて、と言おうとした時、
「にゃおお~」
「え!?」
触手を震動させて自身の橙色の魔力を神魔光邪杖アザビュースに伝播させる。
すると、神魔光邪杖アザビュースから光の分厚い刃を発生し、それが地面と衝突。
地面には教皇用十字架の形を刻まれていた。
黒猫は「にゃご!?」と驚いていた。
イカ耳となって尻尾を膨らませている黒猫さんが面白い。
神魔光邪杖アザビュースを放って逃げてきた。
その黒猫を見ると、イカ耳のまま『申し訳にゃい、にゃりお』といった感じでつぶらな黒い瞳で、俺とヴィーネを見てくる。
くっ、かわいすぎ。
と、腹を晒すようにゴロニャンコをしてきた。
ふっくらとした毛毛の間からピンク色の地肌と乳首さんが見えている。
その腹の誘惑に負けた――。
「――はは、悪戯は許そう」
と言いながら片膝で床を突いて黒猫さんのお腹さんを触る――。
柔らかい黒毛を指と指で梳いて――。
ふさふさしている黒毛を息で吹きかけてピンク色の乳首さんを余計に露出させていく。
息吹で、黒毛が揺れに揺れて、桃色な地肌と、薄い桃色の乳首さんがよく見えた。
手で毛を退かせば直ぐだが、なぜか口から「ふーふー」と吐いて息吹で黒い毛を退かしていた。ヴィーネから「ふふ、はは」と何回か笑われたが、面白いんだから仕方ない。
と、そんな黒猫の腹を撫で撫でしてから立ち上がる。
黒猫は俺の片手を追うように両前足を前に伸ばして触ろうとしてきたが、届かない。頭部を横に捻りながら片耳と背中を地面で擦る仕種を取った。
『もっとあそんで』『もっとなでて』かな? 可愛い黒猫だ。
微笑んでいたヴィーネに、
「相棒が扱えたように神魔光邪杖アザビュースには、俺が触っても大丈夫と分かったが……」
「そうでしょうか。触れば、邪神セル・ヴァイパーのように邪神アザビュースがご主人様に接触を試みてくるかもです。ここは魔界ですが……」
「……邪界ヘルローネにはルリゼゼたちも転移しているからな……」
「はい。魔界セブドラは冥界シャロアルにも通じている。狭間が薄い場所のどこかでは邪界ヘルローネにも転移しやすい場所があり、そこから思念が通じやすくなっている可能性など考えられます」
頷いた。
「危険かもしれないが、邪神セル・ヴァイパーと同じく触ってみる――」
と相棒が放った神魔光邪杖アザビュースを拾った。
反応は特になし。
「反応はない。魔力を通すとどうなるかな」
「止めておいたほうが無難かと。ロロ様は大丈夫でしたが、ご主人様の場合は<邪王の樹>を持ちますので。鑑定を先にしましょう」
「そうかもだが……挑戦したい」
俺がだだをこねると、ヴィーネはジッと俺を叱るように見てから、
「……危険だと思います。でもご主人様ですからね」
と、途中から微笑んで語ってくれた。愛しいヴィーネから許可も得たところで、
「おう、んじゃ挑戦~」
神魔光邪杖アザビュースに魔力を通すと――少し魔力を吸われた。
その神魔光邪杖アザビュースの柄の表面にルーンのような魔法文字が幾つか浮かぶ。
柄から魔法の文字は宙空にも浮かぶ。
相棒の時にはなかった現象だ。
その魔法の文字が幾つか重なり、ブレた。
「『お前――我――アザビュース――杖を――』」
念話と声が神魔光邪杖アザビュースから響く。
同時に鐘の音が響き、バチバチッとした音も響く。
魔法の文字は霧散して消えていた。鐘の音も消える。
俺の精神に作用しようとしたのを、エクストラスキル<光の授印>が防いだようだ。
※光の授印※
※魂に光の授印を刻むことで体の一部分に十字のシンボルマークがつく※
※光属性の攻撃の吸収&無効化を行う。精神耐性も向上。深層精神汚染を防ぎ、自動発動後は鐘の音を鳴らし浄化を促す。自分自身が成長してから、ある一定の条件下で固有光属性スキルを覚える※
すると、神魔光邪杖アザビュースの環状の飾りから光の分厚い刃が飛び出て、地面と衝突した。地面には教皇用十字架の形が刻まれていた。
「――得体の知れない念話と声が邪神アザビュース? あ、ご主人様、平気ですか?」
「大丈夫だったが、ヴィーネの予想通りの展開だった」
試しにもう一度魔力を込めた。
神魔光邪杖アザビュースから光の分厚い刃が飛び出て、地面と衝突。
地面に教皇用十字架の形が刻まれた。
「……光の刃は楽に飛ばせるようですね」
「おう。念話と声は邪神アザビュースで間違いないだろう。俺に接触を試みたようだが、失敗していた。そして、魔力を通せば光の分厚い刃が出せるようになる」
「はい、やはり危険でした……」
ヴィーネは俺を責めるような視線と言い方だった。
が、俺が笑顔を見せると、「もう……」と少しレベッカっぽく頬を膨らませる。
結構珍しい反応だ。そして、先ほどと同じく直ぐに微笑んでくれた。
愛のある視線は毎回だが、少し照れる。
「さて――」
神魔光邪杖アザビュースを戦闘型デバイスのアイテムボックスにしまう――。
戦闘型デバイスのアイテムボックスには、迷宮核new と、古の光闇武行師デファイアルの仮面newとあった。
興味深い聖魔術師の仮面だが、確認は後だ。
神界セウロス側の神界騎士団の方々は他の魔族たちと激闘中。
身なりからして魔族の軽戦士にしか見えない者が多い。
ユイのような女性剣士、剣を扱う技術が高いから剣師だろう。
大太刀系の神刀と呼ぶべき業物を振るう黒髪の女性。
メイラさんが神界騎士団のリーダーかと思ったが強者はいる。
皆、【見守る者】の高位〝捌き手〟たちなんだろうか。
それともレガトゥスさんと同僚の【ヴェナリア特務機関】か?
【見守る者】ではない神界騎士団だけの方もいるのかな。
神界騎士団の特殊部隊が【見守る者】なんだろうか。
そして、あの軽戦士集団は、魔族と〝堕光使エラリエース〟討伐任務遂行のために臨時に編成されたタスクフォースかな。
メイラさんとレガトゥスさんは、各自それぞれに信奉する神々が異なる。
メイラさんは光神ルロディス様と戦神ビィルフエイト様の眷属と語っていた。
レガトゥスさんは、戦神ヴェナリア様に認められたと語っていたから直の眷属ではないのかも知れない。そのレガトゥスさんは、俺とも戦いを辞さない覚悟を見せていた。
【ヴェナリア特務機関】とは戦神ヴェナリア様を信奉している機関は当然として、神界セウロスの先鋭化された組織だろう。俗にタカ派かもな。
力で物事を解決しようとする。
この推察が当たっていれば【ヴェナリア特務機関】は戦神教団の樹海支部的なメンバーが多いことになる。
ベートルマトゥルとの戦いでは称号の<戦神イシュルルの加護>を意識したが、レガトゥスさんたちの勢力に通じるかどうか。
光属性の<攻燕赫穿>は見せていないが、それよりも高度な<戦神震戈・零>は繰り出したからある程度は神界セウロス側にも、俺たちは神界側の一面もあるんだぞって的なアピールにはなった思うが、任務は任務で割り切っているタイプかも知れない。
エラリエースの討伐を諦めないタイプだとしたら、エラリエースを譲れと言ってくるかも知れない。が、俺はエラリエースの涙を見ている以上、彼女は渡せない。
堕天の十字架から出た触手が脊髄に突き刺さっていたし、枢密顧問官ベートルマトゥルに長く拷問を受け続けていたエラリエース。
レガトゥスさんにエラリエースを殺させるわけにはいかない。
そして、エラリエースは精神力が強まるスキルを持つ可能性が高いから平気かも知れないが光神ルロディス様に顔向けできないと己の死を望む、なんて考えがあったらヤヴァい。堕天の十字架と不可測の血布での拷問も、エラリエースに死んでもらっては困るやり方だった。
レガトゥスさんは、
『……俺は戦神ヴェナリア様から認められた【ヴェナリア特務機関】の一員。同時に【見守る者】の高位〝捌き手〟の一人。浴に言えば神界戦士であり神界騎士の一人で合っているだろう。そして、今回の使命は戦神ヴェナリア様も集う神界騎士団からの命令だったんだ』
と、語っていた。
その神界の【見守る者】たちのタスクフォースの面々は体から時々戦神の幻影を体から出している方がいる。
放射口からプラズマの刃を出している魔杖を持つ神界戦士か神界騎士もいた。
魔杖は鋼の柄巻のムラサメブレード・改を思わせる。
光刃は蒼色で綺麗だ。
銀河騎士マスターの一人にも見えてくる。
メイラさんが持つのは神槍。
朱色の穂先に銀色の螻蛄首で柄はクリスタルのような素材。
見るからに神界セウロス側の神槍だと分かる。
穂先の形は異なるが聖槍シャルマッハのような印象があった。
レガトゥスさんの今の武器はバスタードソードのような神剣。
神槍は使っていない。神剣の剣身から薄い赤色の炎が出ている。
炎神エンフリートを思い出すが、戦神ヴェナリア様の炎なのかな。
戦神ラマドシュラー様も橙色の炎を放つ。
更に、時折手裏剣のような遠距離攻撃を放つが光属性らしい輝きを発していた。
良く見たら神界騎士や戦士と分かる武器を使っている。
魔歯魔族トラガンの残党を一通り倒すとレッサーデーモンの本隊の背後を突く。
更にイケメンな頭部を持つハイゴブリンの魔族たちと、羊の頭と体がオットセイと似た魔族たちとも衝突し倒しまくると、窪地の地面の崩落を見て各自指示を飛ばし飛行術で上昇していった。
メイラさんたちを見ているとヘルメたちが来た。
「閣下、赤業魔ガニーナの眷属たちを多数屠りました。拘束具に縛られながらも、鎖を振り回す大柄な人型魔族と戦いを始めたので、退きました。そして、グィヴァとキサラは死皇パミューラの眷属の髑髏の戦士を倒していましたよ」
「おう」
「「はい」」
キサラとミレイヴァルに支えられているエラリエースは涙を流している。
エラリエースは俺を見て、
「シュウヤさん、ご無事で、そして、枢密顧問官ベートルマトゥルをよくぞ倒してくださいました……」
「あぁ、エラリエースは動けるんだな?」
「はい」
そこに見知った複数の魔素を感知――。
「ンン、にゃ」
「にゃァ」
相棒と銀灰猫が早速反応し、見上げていた。
巨大洞窟の出入り口の前の崖上にポーさん、魔蛙ムクラウエモン、ミジャイ、ロズコの元囚人の魔族たちとイスラさんに【グラナダの道】の面々がいた。
フィナプルスとキッカとリサナは浮いている。
「では、撤収しよう。【見守る者】たちには悪いが【バードイン迷宮】から出る。レイブルハースとペマリラースがどうなったか気になるが」
「レイブルハースはご主人様に礼がしたいと言っていました」
「あぁ、ま、ここから出てからだな」
「はい」
ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡は使った転移もあるが、今は、キッカに、
『今、そっちに向かう。地上に戻るぞ』
『はい』
「皆、皆がいる上に向かう――」
「「「「「はい」」」」」
「了解しました」
「承知しましたぜ」
「ンン――」
黒猫は一瞬で体を大きなグリフォンのような姿に変化させた。
「「――きゃ」」と、
触手をヘルメと俺以外に絡ませると、一瞬で、皆を己の頭部と背に乗せる。
銀灰猫も運ばれながら相棒は飛翔を開始。
「――にゃァ」
銀灰猫は楽しそうな声を発しながら、相棒の頭部に収斂されて移動していた。
ヘルメと俺も跳躍――。
ヘルメは飛翔――。
俺は<導想魔手>を蹴って飛翔するように高く跳んでは連続的に<導想魔手>と<鬼想魔手>を足場にして宙空を駆け上がる。
神獣ロロディーヌを越えたところで、跳躍し――。
相棒の頭部に向け、背面跳びの姿勢で着地――。
黒毛のソファに包まれた――。
そして、柔らかい感触を背に得ながら――。
相棒の頭部から出ている触手に引っ張られ押し出される形で、起き上がった。
相棒の頭部に着地したヘルメとハイタッチ。
ヴィーネとキサラともハイタッチ。
直ぐにエラリエースの傍に移動した。
エラリエースは怯えたままジッとしている。
――無理もない。
ヘルメはエラリエースに、
「ロロ様は、神獣ちゃんですから、動物とドラゴンにも姿が変化できるのです」
「は、はい」
と、説明している間にも、崖の上に到着。
「「「おぉぉ、大きいロロ様ァァァ」」」
「「「神獣様ァァァ」」」
「「シュウヤ様!」」
「「「「シュウヤ殿!」」」」
「「シュウヤさん!」」
「「「皆さん!」」」
「「「良かったぁ~」」」
「「メトちゃん~」」
相棒の頭部の端に移動し、皆に手を振り、
「皆、ご苦労さん。初めての方はこんにちは。いきなりですが、とりあえず地上に戻ることにしましょう。実は【バードイン迷宮】の崩落は始まっている」
「「「え?」」」
「「なんと……」」
「ご主人様の言う通り、詳しい話は後ほど!」
相棒の頭部の端に立つヴィーネがそう発言。
すると、神獣が、
「ンンン――」
と、皆に触手を絡ませると、体の幅を大きくさせる。
皆を次々に乗せてきた。
ポーさんも乗ってきた。肩には小さい魔蛙のムクラウエモンが一緒だ。
神獣ロロディーヌはホバリング状態から直進し、壁を蹴って高く飛翔。
普通に地上に戻るつもりはないようだ。
続きは今週。
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