千百四十五話 <魔槍雷飛・遣穿>の使用と十層地獄の王トトグディウスの依代の撃破
再度、<鎖>を斜め上空の片足魔族に向けた。
宙を劈くように直進した<鎖>は逃げ遅れた片足魔族の肉触手ごと体を貫くと漆黒の霧と歪んだ空間を穿ってから天井に突き刺さった。
<鎖>が突き抜けた漆黒の霧と歪んだ空間は、蒼白い炎を発して大気に混じるように儚く消えたが他の天井の真下の空間にまた漆黒の霧と歪んだ空間が出現してしまう。相棒の紅蓮の炎で漆黒の霧と歪んだ空間を消しても、消した分の歪んだ空間と漆黒の霧が他の天井の真下に生成されるから切りがない。
が、確実に片足魔族の数は少なくなった。
ヴィーネの光線の矢とヘルメの《氷槍》の連続射撃は並ではない。ピュリンもだ。彼女のアンチマテリアルライフル顔負けの<光邪ノ尖骨筒>のマズルブレーキから出る火花でも分かるが、大口径の骨の弾丸が当たればまず普通に死ねない。
同時に宙に点在し泳いでいる<魔骨魚>も片足魔族を狙い撃つ。
<魔骨魚>から射出された骨の弾丸は<光邪ノ雷連徹甲骨弾>と連動。
大口径の骨の弾丸と共鳴しているような稲妻が宙空を迸って繋がる。
ヴィーネの《雷鎖》的な印象だ。
大口径の骨の弾丸と<魔骨魚>から射出された骨の弾丸は、急激に軌道を変化させた。
跳弾のように曲がり、回避行動を取っていた片足魔族たちの体を捉え、次々に撃ち落としていく。と、大口径の骨の弾丸は、体にトゲトゲが多い片足魔族の体を潰すように突き抜けて、漆黒の霧と歪んだ空間も貫くと、天井と衝突し、一部の天井を破壊した。
天井の岩の破片が落下、下の戦場に降り注いでいく。
トゲトゲを体に多く有した片足魔族も大口径の骨の弾丸を喰らえば一溜まりもなく破壊されることが多い。今も、トゲトゲを体に有した片足魔族が虹色の螺旋状の杭刃をヴィーネに向けて射出した瞬間、その隙を突かれる形で、大口径の骨の弾丸がトゲトゲを体に有した片足魔族に衝突すると、その体は四方八方に飛び散るように一瞬で爆ぜた。
ヴィーネは虹色の螺旋状の杭刃を見ながら仰け反って避けて、そのまま一回転を行う。新体操選手のような動きだから魅了される。
そして、ピュリンの<光邪ノ尖骨筒>から射出される<光邪ノ雷連徹甲骨弾>の威力はグレネードランチャー的な破壊力と言えるか。
ピュリンの中にいるイモリザが遠隔から操作しているのか不明だが、<魔骨魚>からも雷属性を帯びた骨の弾丸が射出されて、的確に片足魔族を捉え、撃ち落としていく。
そこで、まだ生きているトゲトゲを体に有した片足魔族が動きを速めた。
肉ビラのような肉触手を四方八方に広げて、その花が咲いたような中心の気色悪い懸壅垂から虹色の螺旋状の杭刃をにゅるりと生み出し射出。
ピュリンが<光邪ノ尖骨筒>から撃ったばかりの大口径の骨の弾丸と、その虹色の螺旋状の杭刃が衝突、虹色の螺旋状は欠けて吹き飛び破損していくが完全に破壊されていない。
虹色の螺旋状の杭刃は頑丈だ。素材と考えたら結構貴重か?
と考えていると、ヴィーネが壁に刺さったままの虹色の螺旋状の杭刃を回収してくれていた。さすがヴィーネだ。
とそこに片足魔族の数が少なくなったのを見越してか、左の方に移動していた蝙蝠のモンスターと小型の岩石モンスターにドラゴンが争いながら寄ってくる。
直ぐに片足魔族を撃ちまくっているピュリンが<光邪ノ尖骨筒>のマズルブレーキのような銃口を左にズラした。早速その銃口が火を噴く。
――大口径の骨の弾丸が飛び出していくのは爽快だ。
大口径の骨の弾丸は蝙蝠のモンスターを貫き、一度に数匹の蝙蝠モンスターを爆発させていた。
ドラゴンは岩肌の飛龍タイプで、超巨大ではないが、恐竜のプテラノドンっぽい姿だ。
小型の岩石型のモンスターは相棒の紅蓮の炎に耐えたモンスターかも知れないから危険かも知れない。俺も<鎖>と《連氷蛇矢》を射出した。
蝙蝠のモンスターを<鎖>でぶち抜く。
腕の程の大きさの《連氷蛇矢》も――。
複数の蝙蝠のモンスターを貫いた。
魔法も<鎖>も効けば楽だ。
そして、闇烙・竜龍種々秘叢から巨大な闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスを出して一掃できるかな。
が、この【バードイン迷宮】と【バードイン霊湖】に繋がる巨大な洞窟に集結している敵勢力の背後には魔界の神々や諸侯が付いているはず。
グィヴァにも言ったが、手の内をすべて見せる訳にはいかない。
〝神魔高位特異現象増嵩〟などの称号効果やヴィーネが持つ翡翠の蛇弓の加護の影響もあるとは思うが、魔毒の女神ミセア様の幻影が現れたこともある。
そして〝魔神殺しの蒼き連柱〟を起こした俺だ。
俺の行動を神々や諸侯が注視しているのは確実。
と、ゼロコンマ数秒も経たせずに思考していると、俺たちに寄ってきたモンスターの一部が、魔獣の頭部の形を模った漆黒の霧と歪んだ空間に喰われていた。
更に、岩のような肌を持つドラゴンの頭部が漆黒の霧と歪んだ空間から出た巨大な山犬を思わせる大きな口に喰われる。
その下の宙空を飛翔していたトゲトゲが体に多い片足魔族が蠢く。
と、虹色の螺旋状の杭刃を射出し、それがドラゴンの体を貫いてヴィーネたちに向かった。ヴィーネとヘルメには勿論その虹色の螺旋状の杭刃は当たらない。ヴィーネの水のマントのような液体状のヘルメはヴィーネの背中に合わせるように実体化。
……あの漆黒の霧と歪んだ空間はヤヴァい存在か……。
『……先ほどの思念と言葉からして、歪んだ空間を生み出している存在は下の勢力たちよりも強大な敵と予測します。出ますか?』
『グィヴァは俺の秘策の一つだ。まだ出ないでいい』
『はい』
右目にいる闇雷精霊グィヴァにそう思念を返した。
と、左手の<シュレゴス・ロードの魔印>から桃色の魔力が少し出て、
『我もか』
『そうだ、使うかは分からない』
『ふむ。血仙人の主ならば、我を使う必要はない』
『おう』
シュレに思念を返しつつ、ヴィーネとヘルメの機動を見ながら<経脈自在>を意識、発動させる。
<黒呪強瞑>を発動――。
<闘気玄装>も発動――。
――<滔天仙正理大綱>を意識、発動。
――<滔天魔経>を意識し発動。
更に足下に<生活魔法>の水を撒きながら<水月血闘法>を発動した。
――<水の呼び声>を意識、発動――。
<霊魔・開目>を意識し発動――。
<煌魔葉舞>も意識し発動。
――<光魔血仙経>を意識して発動。
※光魔血仙経※
※光魔血仙経流:開祖※
※光魔血仙格闘技術系統※
※滔天仙流技術系統※
※戦神流命源活動技術系統:神仙技亜種※
※仙王流独自格闘術系統※
※仙王流独自<仙魔術>系統※
※<黒呪強瞑>技術系統※
※魔人格闘術技術系統※
※悪式格闘術技術系統※
※邪神独自格闘術技術系統※
※魔界セブドラ実戦幾千技法系統※
※光魔ルシヴァル血魔力時空属性系<血道第五・開門>により覚えた特殊独自スキル※
※<血道第五・開門>、<血脈冥想>、<滔天仙正理大綱>、<性命双修>、<闘気玄装>、<経脈自在>、<魔人武術の心得>、<水月血闘法>、大豊御酒、神韻縹渺希少戦闘職業、因果律超踏破希少戦闘職業、高水準の三叉魔神経網系統、魔装天狗流技術系統、義遊暗行流技術系統、九頭武龍神流<魔力纏>系統、<魔闘術>系技術、霊纏技術系統、<魔手太陰肺経>の一部、戦神イシュルルの加護が必須※
※血と水を活かした光魔血仙経流により、全般的な戦闘能力が上昇※
※眷属たちに己の生命力を譲渡する根源となる能力、<性命双修>と関係※
※使い手の内分泌、循環、神経、五臓六腑が活性化※
※己の魄と魂の氣が融合※
※生命力を眷属か関係者に譲る場合、使い手は膨大な痛みを感じることになるが、その謙譲とサクリファイスに『献身』は神々も注視するだろう※
※血仙人の証し※
体の経脈を巡る魔点穴が活性化。
体中の魔力を巡る流れは<四神相応>の効果もあり、丹田から円状に拡がっている。更に百会、百毫、上院、中院、水分、壇中、紫宮、石門、中極、関元などの魔点穴の内奥から外へと噴き上がるような<血魔力>と<魔闘術>系統の魔力をコントロールし、外に一切漏らさない。
続いて半透明の魔力が体を行き交う中<血道第四・開門>を意識――。
続けて血の面頬を思い浮かべた。
が、相棒を見て<霊血装・ルシヴァル>は取り止める。
少し棘的な尖っている所がある鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼も止めておくか。
その代わり、肩の竜頭装甲にがんばってもらうか。と考えた刹那――。
霧状の魔力粒子を噴出させた暗緑色のインナー装備と――。
シャドウストライクとヒトデの形の釦とベルトに――。
ルシホンクの魔除けを中心に嵌めた心臓部だけを覆った魔竜王製の胸甲が瞬く間に装着された――。
「わぁ~」
と顔を真っ赤にしたピュリンが嬉しそうな声を発した。
続けて頬を朱色に染めたミレイヴァルが、
「……陛下、素敵な衣装です」
と言ってくれた。
ミレイヴァルも気に入ってくれたようだ。
「はい……ルシホンクの魔除けと融合した魔竜王の胸当てに、あ、腹筋が一番素敵……」
頬を斑に朱に染めたキサラの言葉だ。
キサラは、目尻から頬にかけて蚯蚓腫れが皮膚に浮き上がっていた。
三人の美女は俺の股間も見ていた。
ふざけて腰を振りたくなったが自重した。
そして、ハルちゃんは何気にセンスがいいんだよな。
「ングゥゥィィ」
と、ハルホンクが俺の心の声に応えたようにいつもの声で応えてくれた。少し笑う。
さて、皆に、
「相棒とメト、空の敵を片付けるぞ。ミレイヴァルはそのまま十字路の背後を頼む。そして、キサラと同様にピュリンを守ってくれ。が、何事も状況次第だ」
「はい」
キサラがそう返事をしてくれた。
「にゃご!」
「にゃァごぉ!」
気合いのこもった二匹の声にピュリンが肩を揺らし、驚いていた。
そんな驚いていたピュリンだったが、それでもドラゴンの一匹を撃ち抜いて倒していた。
ここにクレインがいたら口笛を吹いただろう。
凄腕スナイパーのピュリンだ。
傍で<魔嘔>を歌いギターを弾いて紙人形たちを動かしているキサラは、ピュリンの撃った結果と相棒たちの声にも少し驚いていた。
「フォローはお任せを」
「続けてがんばります!」
皆の声に頷く。
十字路にいるミレイヴァルは聖槍シャルマッハを掲げていた。
ミレイヴァルは先ほど十字路の戦いの顛末を聞いていた。
ハイゴブリン、魔族トドグたちは十字路の左右に退いたが、そこから出戻って、ピュリンたちの背後からの奇襲があるかも知れないと、警戒しているんだろう。
そのギュヒガ・トドグ……槍使い同士の戦いだと言い訳しても自分の損得を顧みず弱い者のために力を貸す気性の持ち主を殺してしまったことは悔やまれる。
ま、これはたらればか。
先も考えたが、刹那刹那の判断。
死生命あり、業として受け入れていくしかない。
そして、魔族トドグの死生観が武士道のような感覚なら、己の命を懸けたギュヒガに対して、この思いもまた失礼だ。
前に出ながら相棒と銀灰虎とアイコンタクト。
「行くぞ――」
「にゃおぉ――」
「にゃァ――」
踊り場的な崖の上を走った。
触手を俺に向かわせていた黒狼は「ンン」と喉声を鳴らしつつ付いてくる。
俺に気持ちを伝えようとしたんだろう――。
悪いな相棒――。
銀灰虎も遅れて付いてきていると分かった。
崖上から跳躍――。
魑魅魍魎な怪物たちが犇めき合う巨大な洞窟世界に埋没してしまう気分になったが――。
心に火を灯す気概で足下に<導想魔手>を生成し、それを片足で蹴って高く跳ぶ。
同時に<鬼想魔手>を生成し、それを銀灰虎の落下地点に合うよう送る。
「ンンッ」
銀灰虎の可愛い喉声が背後から響いた。
そして、左上にいる体にトゲトゲが多い片足魔族が視界にチラつくが――。
蝙蝠モンスターに向かった。
右の宙空で飛行術を活かし戦うヴィーネは――。
漆黒の霧と歪んだ空間と、まだ生き残っているトゲトゲを体に有した片足魔族に向け――。
渋い構えの弓道でいう『会』のような状態から幾つも光線の矢を連射していた。
ヘルメは、そんなヴィーネの水の面紗となるように体を液体状にする機会を増やしてヴィーネの死角を守る。
ヴィーネの守りを担当していた。
なるほど――。
漆黒の霧と歪んだ空間はトゲトゲの多い片足魔族を生み出すし、蠢く対魔法系の障壁と同じ。
常闇の水精霊ヘルメも俺と本契約したことで光属性を有しているはずだが、闇属性と水属性が大半を占めているから、《氷槍》などは相性が悪いからいい判断だ。
そう思考しながら、もう一度<導想魔手>を生成し、それを蹴って高く跳ぶ。
ゼロコンマ数秒も経たせずに――。
丹田を中心に行き交う<魔闘術>系統の<龍神・魔力纏>――<黒呪強瞑>――<闘気玄装>――<水月血闘法>――などの魔力を練りながら<血魔力>を魔槍杖バルドークに送った。
蝙蝠モンスターは体中に複眼のような魔眼を擁しているが、俺の速度への対応は遅れている。
槍圏内となったところで――。
即座に紅斧刃を寝かせた状態の魔槍杖バルドークを振るった。
<魔雷ノ風閃>を発動――。
紅斧刃から暴風と紫電が周囲に迸る一閃が蝙蝠モンスターを蒸発させる。やや過剰な攻撃だった――。
魔槍杖バルドークを消す。
続けざま――。
トゲトゲが体に多い片足魔族と、巨大な山犬を思わせる頭部を模った漆黒の霧と歪んだ空間に向けて――。
<煉極短剣陣>で<武装魔霊・煉極レグサール>の無数の赤い短剣を向かわせた。
トゲトゲが体に多い片足魔族は肉触手のビラビラを蛸の手足のように動かし逃げようとするが――。
複数の赤い短剣の群れ、赤い短剣の網にも見える<煉極短剣陣>の範囲は広い。離脱は不可能――。
トゲトゲが体に多い片足魔族を赤い短剣の群れが次々に突き抜けていく。
体が一瞬で蜂の巣と化した。
――良し! 残り二匹。
<武装魔霊・煉極レグサール>の無数の赤い短剣は、そのまま巨大な山犬のような頭部を模した漆黒の霧と歪んだ空間を貫いて天井に突き刺さった。
漆黒の霧は直ぐに回復したように元通り。
歪んだ空間も<武装魔霊・煉極レグサール>の無数の赤い短剣が通り抜けた跡の孔を作っていたが、その孔の跡は消えるように元通り。
<武装魔霊・煉極レグサール>は赤い軌跡を宙に描きながら俺の体内に入るように消える。
漆黒の霧と歪な空間は、無数の歯牙を擁した獣の口と成って蝙蝠モンスターと小型の岩石モンスターを飲み込むように倒していた。
刹那、大きい黒狼となったロロディーヌは、
「にゃごぉぉ!!」
と盛大な紅蓮の炎を吐いた。狙い澄ましたような紅蓮の炎の大波は、ヴィーネとヘルメのちょうど真向かいに位置に向かう、そこに拡がっていた漆黒の霧と歪んだ空間を飲み込んだ。紅蓮の炎は漆黒の炎を蒸発させると天井の一部も溶かす。
まだ残っていた片足魔族も蒸発させたようだ。
さすが相棒! ナイスだ!
「『ヌゴォォォォ――』」
漆黒の霧を生み出している歪んだ空間から痛みの思念と声が轟いた。
一気に漆黒の霧と歪んだ空間が減った。
天井が蒼白い炎に飲まれたように見える勢いとなる。
熱風が此方まで届いた。肌がヒリヒリと痛む。
あ、ヘルメは大丈夫か? と見たら、ヴィーネの背後に移動していた。
右肩の露出していた部分が溶けつつ散っている。
ヘルメも相棒の炎でダメージを受けたか。
相棒には気を付けてほしいが、そうも言っていられないか。
<鬼想魔手>を足場にしている銀灰虎も銀色の炎を吹いて漆黒の霧を蒸発させる。歪んだ空間は揺らぐが、蒼白い炎を発したのは一部のみ。
すると、まだ残っていた漆黒の霧と歪んだ空間が、血濡れた片足魔族と血色の骨の玉座の幻影を発しながら――。
大きい黒狼から逃げるように右側へ移動した。
ヴィーネとヘルメの近くで漆黒の霧と歪んだ空間が異常な速度で集積し、漆黒と血色の稲妻が丸く集まった異空間のようなモノに変化。
その異空間のようなモノは漆黒と血色が混じる頭巾を被る髑髏騎士になった。
双眸は白目と黒目の二つのみだが、血が滴っている。
頭蓋骨と頭部の骨は兜にも見える。
頭蓋骨には真っ赤な皮膚も多いから、正確には髑髏とは言えないかな。
三本の腕に二本の足。
右側の上腕と下腕の手で、黄色の魔槍杖バルドークのような武器を持つ。
穂先は槌にも見えるが、黄色の長杖か?
左腕は一つだけだが<鬼想魔手>のような腕だ。
その左腕の六本の指からそれぞれ漆黒と血色の稲妻のような魔力が迸り、双眸と右上腕と下腕が持つ魔槍杖と繋がっている。
ヴィーネとヘルメが一斉に光線の矢と《氷槍》をそいつに飛ばす。
「『我に魔法とは、阿呆か?』」
と、頭巾を被る髑髏騎士が、黄色の魔槍杖のような武器を振るう。
両端から漆黒と血色の稲妻のようなモノが迸った一閃が光線の矢と《氷槍》を溶かしていた。
刹那、頭巾を被る髑髏騎士はヴィーネとヘルメに近付いた。
直ぐに魔槍杖バルドークを右手に再召喚し、<仙魔・龍水移>を発動し――。
頭巾を被る髑髏騎士の背後を取る――。
――<血龍仙閃>を繰り出した。
血龍魔仙族ホツラマの極位薙ぎ払い系スキルの血龍を纏うような紅斧刃が、頭巾を被る髑髏騎士の頭部を捉えた――と思ったが、頭蓋骨がぐわりと回り、此方を向きながら左腕の六本の指から出ていた漆黒と血色の稲妻が魔槍杖バルドークの血龍の一閃を防いできた。
が、漆黒と血色の稲妻は爆発、連鎖して六本の指が弾け飛んだ。
「『ぐぉ!?』」
頭巾を被る髑髏騎士は驚くまま体がブレて後退。
大きい左腕は連鎖爆発を起こしていたが、斬り捨て、直ぐに新たな大きい左腕を再生させていた。
ヘルメとヴィーネとアイコンタクト。
二人は飛翔し、頭巾を被る髑髏騎士の左右後方に移動した。
頭巾を被る髑髏騎士の前に旋回していた黒狼と<鬼想魔手>を足場にしている銀灰虎が移動すると、頭巾を被る髑髏騎士は動きを止めた。
目の前に環状の漆黒と血色の稲妻のような紋様と片足と血印が刻まれた臓器類に頭蓋骨のようなモノが多重に絡んでいる魔法陣を幾つか生成し、防御層を一瞬で造り上げた。
その頭巾を被る髑髏騎士に向け、足場用に生成し直した<導想魔手>を蹴って近付いた。
頭巾を被る髑髏騎士はホバリングをしながらゆっくりと回転。
右上腕と下腕が持つ魔槍杖を掲げ、俺に差し向けた。
「『お前たちは何者か……』」
直ぐに<導想魔手>を足下に生成し直し、そこに着地して動きを止める。
皆とアイコンタクトしつつ、頭巾を被る髑髏騎士の存在が気になるから、
「素直に名乗るとでも? お前こそ何なんだ」
「『……我は十層地獄の王トトグディウス』」
おぉ? 大物。
神意力は本物っぽいが……。
魔界セブドラの神絵巻に載っていた姿とは異なる。
「……十層地獄の王トトグディウスの依代か何かか?」
「『……お前――』」
と、十層地獄の王トトグディウスと名乗った頭巾を被る髑髏の騎士が前進し、黄色の魔槍杖を振るう。
同時に魔槍状の穂先から肉触手を擁した片足魔族が出現してくるのを見ながら――グィヴァに、
『闇雷精霊グィヴァ、<闇雷想腕>――』
<闇雷想腕>を発動してもらった。
『はい――』
右目から稲妻状の刃と腕のようなモノに変化している闇雷精霊グィヴァが飛び出た。
宙空にイナズマのマークを描くように撓り拡がる稲妻状の刃と腕のようなグィヴァが――魔槍杖から出た片足魔族を捉え、一瞬で蒸発させる。
更にイナズマ状のグィヴァは魔槍杖を持つ十層地獄の王トトグディウスへと降りかかるように襲い掛かった。
「『グァァ――』」
十層地獄の王トトグディウスと名乗った髑髏の騎士は、背中から漆黒の霧を放ちつつ、環状の漆黒と血色の稲妻のような紋様と片足と血印が刻まれた臓器類に頭蓋骨のようなモノが多重に絡んでいる魔法陣を展開させるが、<闇雷想腕>に触れると蒸発するように消える。続けざまに魔槍杖を持っていた上腕と下腕が溶けて、頭巾と頭蓋骨の一部も溶けながら後退。
魔槍杖は真っ赤になりながら落下していく。
髑髏の騎士を逃がさない――。
右側で闇雷精霊グィヴァが女体になるところを視認。
『魔槍雷飛流』を意識。
<魔槍雷飛・解>を続けて意識し、発動――。
<血液加速>を強めながら――。
<魔槍雷飛・遣穿>を繰り出した。
<雷飛>の爆発的な加速力で直進。
同時に稲妻のような暗い影のようなモノが、俺の直ぐ背後と真横から付いてきていると理解――。
それは今まで俺が槍で仕留めてきた者たちの一撃一撃が連鎖する幻影のようなモノか?
そのままノーモーションに近い機動のまま魔槍杖バルドークごと一直線に突き抜けた。
魔槍杖バルドークの穂先が十層地獄の王トトグディウスと名乗った髑髏の騎士を穿ちながら天井の一部も削り取りつつ直進し、落下して足下の<導想魔手>に着地。
振り返ると、十層地獄の王トトグディウスと名乗った髑髏の騎士は四半分の体と足首がない欠けた片足のみとなっていたが、まだ生きていた。
その残った小さい体と傷だらけの片足は、漆黒と血色に燃えつつ、連鎖爆発を起こしながら墜落していく。
「『……覚えておけ、光を扱う闇神アーディンの……闇雷の槍使いよ……』」
と思念と声が響くと、小さい体と欠けた片足は爆発し、最後に血印臓樹のような紋様と血印を発してから蒼白い炎に包まれ消えた。
よっしゃ!
しかし、魔槍杖バルドークごと稲妻になったような気分だ。
そして、これが<魔槍雷飛・遣穿>。
魔素も結構な量を吸収した。
しかし、本物の十層地獄の王トトグディウスではないだろうな。
「ご主人様、お見事!」
「閣下!! 十層地獄の王トトグディウスの討伐に成功!?」
ヘルメとヴィーネが傍に来ながらそう発言。
頭を振りながら、
「違うはず。魔力はかなり得たが、称号もスキル獲得もない。髑髏の騎士は依代だろう」
「では、血霊衛士か、他の魔族に十層地獄の王トトグディウスの精神が入り利用していたのでしょうか」
ヴィーネの言葉に頷いた。
「たぶんそうだろう」
『主、上ばかり気にしているが、左下から攻めてくる奴らがいるぞ』
と、思念で珍しく発言してきたシュレゴス・ロード。
左手の掌の<シュレゴス・ロードの魔印>からピンク色の蛸の足のような魔力が出ていた。
と、指摘を受けたように、左下から大量の魔素を察知。
うねった下り坂からレッサーデーモンが上がってきていた。
『了解した』
皆も下の動きに気付く。
レッサーデーモンの狙いはピュリンの火力潰しか?
それか、人族の見た目の俺たちだから単なる餌に見えたのかも知れない。
角が大きいレッサーデーモンは魔歯魔族トラガンたちと争っているから、レッサーデーモンの一部の暴走かな。
角が一回り大きいレッサーデーモンが率いるレッサーデーモンの目的は、多分だが、魔界王子テーバロンテの眷属と魔歯魔族トラガンの殲滅だろう。
そして、背後の十字架の奪取が目的と予想。
【バードイン迷宮】と【バードイン霊湖】の権益も欲しているのかも知れない。
相棒か銀灰虎に乗って下の連中を一騎掛けで蹴散らすのも手かな。
「皆、一旦キサラたちの下に戻ろう」
「「「はい」」」
「にゃ~」
「ンン」
皆で巨大な洞窟の出入り口に戻った。
<鬼想魔手>に乗っていた銀灰虎が飛び降りて着地。
<鬼想魔手>を消した。すると、キサラが、
「シュウヤ様、まだ距離がありますが、下からレッサーデーモンの部隊が……」
「あぁ」
「私が出ましょう」
キサラに続いてそう発言したのはミレイヴァル。
ミレイヴァルが傍に来る。
俺の二の腕に刻まれている<霊珠魔印>が少し輝いた気がした。ミレイヴァルは片膝で地面を突き頭を垂れる。
「――レッサーデーモンの部隊は私が対処したいと思いますが、いかかでしょうか」
「分かった、頼む」
「はい!」
ミレイヴァルは、再び聖槍シャルマッハを右手に召喚。
すると、銀灰虎が、
「にゃァ」
と鳴いて、頭部を下げているミレイヴァルに頭部をぶつけた。
鼻先から耳元までをミレイヴァルの頭部に当て擦る。
「あ――」
ミレイヴァルの黒髪が少し持ち上がって、
「メトちゃん……」
と嬉しげな言葉を漏らしたミレイヴァルは、銀灰虎の甘える勢いに負けたように頭部を上向けていた。銀灰虎は虎の見た目らしく息を荒くし、「にゃごぅ~」と鳴いてから微笑むミレイヴァルの頬をペロペロと舐めて隣に座る。
香箱座り的に体勢を低くした。
意味は『わたしの背中に乗れ』かな。
「ミレイヴァル、メトと共に出撃を頼む」
「はい」
立ったミレイヴァルは香箱座りのような銀灰虎を見て微笑む。
銀灰虎もミレイヴァルを見ていた。
「メトちゃん、乗せてもらいますね」
「ンン」
少し瞼を閉じて開く仕草を行った銀灰虎は喉声を僅かに鳴らす。あの喉を響かせるアンニュイさがある音は、毎回だがめちゃくちゃ可愛い。
体勢を低くした銀灰虎に片足を上げて跨がったミレイヴァル。ミレイヴァルの綺麗な太股が見えた。
「俺も少し様子を見てから空から加勢しよう」
「はい、閃皇槍流の槍技を活かします」
と銀灰虎は立ち上がる。
銀灰虎に乗ったミレイヴァルの姿はまさに騎士。
ミレイヴァルは光属性の強い光側の騎士だから凄く似合う。
そして、フィナプルスの夜会の中に取り込まれた時に、破迅槍流開祖のミレイヴァルと背中を合わせて槍使い同士のロンドを奏でたのを思い出した。
「にゃ、にゃお~」
「にゃァ」
黒狼とミレイヴァルを乗せた銀灰虎が何かを語る。
ミレイヴァルは、
「ロロ様に陛下! 一兵たりともここには登らせません!」
「おう」
「がんばってください」
ピュリンは<光邪ノ尖骨筒>を消している。
キサラも皆を鼓舞する<百鬼道ノ八十八>を止めて、
「わたしも空から挟撃を狙いますが、他の勢力もいますから、それを確認次第、下に向かいます」
「はい」
ミレイヴァルはキサラにそう答えてから戦場を見る。
銀灰虎も合わせて頭を下り坂に向けた。
ミレイヴァルの右手の甲には十字架が浮かんでいる。
十字架から染み出ているような魔線はキラキラと輝きながら俺の二の腕に刻まれている<霊珠魔印>と繋がっていた。
そんなミレイヴァルを乗せた銀灰虎は下り坂を駆け始めた。
レッサーデーモン部隊の前衛と衝突したミレイヴァルたち――。
早速聖槍シャルマッハの一閃が決まる。
前衛のレッサーデーモンたちの上半身が消し飛ぶ。
凄いなミレイヴァル。
すると、下の戦場から赤業魔ガニーナの眷属らしき者たちが、魔歯魔族トラガンを蹴散らしながらミレイヴァルと銀灰虎が躍動しているレッサーデーモン部隊の背後に向かい始める。
が、巻き角を持つ羊の頭にオットセイに似た体の魔族が、その赤業魔ガニーナの眷属らしき者たちの背後から突撃を開始して、魔歯魔族トラガンやレッサーデーモンの部隊にも攻撃を加えていく。
混沌の戦場に小さい混沌の戦場を作り出していた。
続きは今週を予定。
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