千百三十七話 大きな鮫の秘密と秘宝レイブルハースの繋がり
水神ノ血封書を仕舞う。
闇雷精霊グィヴァとフィナプルスとアイコンタクトし、
「御使い様、ここは私たちにお任せを」
グィヴァがそう言うと、フィナプルスも超巨大な水槽をチラッと見てから、
「はい、シュウヤ様は水槽の下へ急いでください。あ、中にいる非常に大きな魚類モンスターは異質な魔力を内包していますから、要注意です」
「あぁ」
超巨大な水槽は、天井の天空の水族館を超えている景観となっている【バードイン霊湖】にも通じている。
フィナプルスとグィヴァは周囲の死体の荷物を調べてから外に吹き飛ばしていた。
ここには魔歯ソウメルの私物が入っていそうな箱と重重棚に手術台と作業机がある。
そこには魔道具に秘薬類に宙に浮いている内臓類があった。
貴重な品があるかもしれないが、これらの回収の判断は皆に任せるとして、魔歯ソウメル本人が着ていた装備は、落ちて……はいないか。本体は潰すように倒したからな……。
と少し回りを見てから、二人に任せて超巨大な水槽に近付いた。
にしてもこの水槽、一つのビルぐらいの大きさはあるか?
百足高魔族ハイデアンホザーの体に繋がっていた魔法の鎖を通していた部分には凹凸が幾つもあって、水槽の中にアクセス可能な小さい魔法の膜と手動のレバー付きのバルブがある。ビールサーバー的に大きな鮫のエキスを吸い取って脂かなにかを抽出していたとか?
すると、黒猫が俺を見て、
「ンン、にゃ、にゃぅ~」
と少しいつもと違う鳴き声を発してムクッと体を持ち上げ、超巨大な水槽の硝子面に両前足を置く。中にいる大きな鮫を見た黒猫は、
「にゃ、にゃ~、にゃお~」
心配そうに鳴いていた。
その行動と鳴き声の質から……。
俺に対して、
『水槽の中にいる大きな鮫にも回復魔法をかけろにゃ~』
と言っているように感じた。
水槽の中にいる大きな鮫は、硝子の杭が刺さっていた孔からの出血が酷いが、複数の鰓孔を伸縮させながら背鰭と尻尾も微かに動かして泳ごうとしている。
硝子越しに通じるかもしれないが、凹凸部にある小さい魔法の膜に手を差し入れた。
魔法の膜は通り抜けられたから、そこから【バードイン霊湖】の水に向け、
《水流操作》――。
水槽の中の【バードイン霊湖】の水は操作できた。
そのまま――《水浄化》を発動。
綺麗な半透明の水球が水の中に出来上がる。見ているだけで癒やされる。
同時に《水癒》も連続発動。
水の中だから《水癒》の水の球体の視認はし難いが、ちゃんとできていた。
その大きな《水癒》の球体は弾けるように消える。
大きな鮫に《水癒》が降り注いだ。
すると、大きな鮫の見えている範囲の孔の傷が塞がっていった。
<水血ノ混百療>は後でいいかな。
孔の肉の繊維が瞬時に再生していく様は面白かった。
しかし、大きな鮫の体は大きすぎる。すべての治療はここからでは不可能だろう。
体長は五十メートルは有に超えている。
この大きな鮫は、【バードイン霊湖】と繋がっている水槽から外に出ようと思えば出られると思うが、この中に敢えて残っていると判断できた。
その目的は、俺が魔歯ソウメルから奪ったレイブルハースの勾玉だろう。
そのレイブルハースの勾玉を、この大きな鮫に返したら……。
今も【バードイン霊湖】で戦っている大きな鮫の動きに変化があって、戦わずに済むかも知れない。
そして、硝子越しに聞こえるか、または言語が通じるか不明だが……。
魔歯ソウメルから奪ったレイブルハースの勾玉を取り出した。
すると、大きな鮫は体を反転させる。俺に四眼、否、六眼を向けてきた。
血霊衛士と戦っている大きな鮫にそっくりだ。
が……よく見ると、此方のほうが少し厳ついか?
その大きな鮫に向け、
「……聞こえますか? この【バードイン霊湖】の秘宝レイブルハースの勾玉があなたの物でしたら、返却したいと思います」
大きな鮫は少し口を開く。すると、水槽の中が血で染まった。
《水癒》で塞がった傷以外の傷もかなり酷いのか?
「『……我ヲ癒ヤシ、勾玉マデモ返スダト……本当ニ、我ニソレヲ?』」
と、大きな鮫は思念と言葉を同時に響かせてきた。神意力を有している。
「はい、返します。そこの小さい魔法の膜から入れたいと思いますが、取れますか?」
「『大丈夫ダ……』」
頷いてから、レイブルハースの勾玉を、超巨大な水槽の凹凸部の小さい魔法の膜から差し入れた。
レイブルハースの勾玉は、大きな鮫の額と目される部分に自動的に移動すると、勾玉を中心とした冠を備えた兜に変化した。同時に大きな鮫の表面に魔法の膜のようなモノが生成されていく。大きな鮫は活力が漲ったと分かった。他の孔も塞がったかな?
大きな鮫は「『オォ……取リ戻セタ……』」と呟いた。
すると、ほぼ同時に【バードイン霊湖】で人魚たちと戦っている大きな鮫が動きを止めた。そのまま引き返す。やはりそうだったか。目の前にいる大きな鮫と同族か仲間、番いの可能性もあるか。
超巨大な水槽の中にいる大きな鮫は、俺を見て、
「『名ヲ聞コウ……』」
「シュウヤです。貴方様の名は?」
「『我ハレイブルハース……魔英雄シュウヤ、治療ト秘宝ヲアリガトウ。正式ニ、【バードイン霊湖】ヲ代表スル立場トシテ、礼ヲシタイノダガ』」
「礼はありがたいですが、ここではまだ戦いが続いている。そして、【バードイン霊湖】で騒乱が起きていますが、ご存じですか?」
「『知ッテイル。暴レテイルノハ、我ノ妻ノペマリラース。魔歯ソウメルの呪イハ解ケタ筈ダ。ソシテ、我ガ秘宝ヲ取リ戻シタコトヲ知レバ、直グニココニクル』」
レイブルハースがそう話していると――。
超巨大な水槽の真上、この広場の天井に、傷だらけの大きな鮫のペマリラースさんが現れた。血霊衛士を操作し傷つけていた相手だけに、少し萎縮してしまう。
ペマリラースさんは魔法の膜を突き抜けて此方まで来そうな勢いだった。
レイブルハースは『「妻ガ来タ。シュウヤ、後デ話ヲシヨウ――」』と発言し、超巨大な水槽を上昇していく。
続きは今週を予定。
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