千百三十六話 魔歯ソウメルとの戦いに<魔皇・無閃>の獲得
少し乗るか。
「俺の目的が、そのレイブルハースの勾玉だったとして、お前はそれを俺に渡すつもりがあるのか?」
魔歯ソウメルは下腹部の脚を前に動かして脚の表面に眼球を幾つか生み出し、積層した血濡れた魔法陣を発生させる。
更に、六眼の内の三眼に魔法陣を発生させながら、
「……ある。ここから退くと約束するならば、渡そう」
と魔眼系統を発動しながら発言。三眼の真上の魔法陣の周囲の視界が歪むが、鐘の音が響くと、直ぐに視界は元通り。
「退くわけないだろ」
俺がそう言うと、魔歯ソウメルは四角い頭部を震わせて、
「……な……」
と驚きつつ、下腹部の前に出ている脚の表面に発生させていた眼球の数を増やして積層した血濡れた魔法陣を更に幾つも生み出した。
魔歯ソウメルの白衣系の防護服が血濡れたように見える。
同時に、肩で息をし始めた魔歯ソウメルは六眼の内の二眼で超巨大な水槽の中にいる巨大な鮫を見ていた。
その僅かなやりとりの間にも黒虎ロロディーヌは躍動。
周囲の百足高魔族ハイデアンホザーと魔歯魔族トラガンを数十と倒していく。更に、超巨大な水槽の守りに入った魔歯魔族トラガンのエナメル質の肌が色違いの者たちに飛び掛かった相棒は、一体の頭部を喰らい、前足を振るって一度に二体をなぎ倒し、紅蓮の炎を吐いて三体を燃焼させ、背後の百足高魔族ハイデアンホザーには後ろ回し水面蹴りのような蹴りを喰らわせて吹き飛ばしていた。
続けて超巨大な水槽の回りに突入し、そこにいた百足高魔族ハイデアンホザーに近付いた。
その百足高魔族ハイデアンホザーは、他と違い、大きな鮫と魔法の鎖で繋がっている。その体にも触手骨剣が突き刺さる。
一瞬で体は蜂の巣と化す。
すると、超巨大な水槽と中にいる大きい鮫の体に刺さっていた硝子の杭の魔法の鎖が消えた。
硝子の杭の輝きも失われる。
と、硝子の杭の周りに発生していた魔法文字も消えていく。
大きな鮫の体が動いた。硝子の杭は刺さったままだが、生きていた。
同時にレイブルハースの勾玉と繋がっている魔線も太くなる。
魔歯ソウメルの六眼はそれぞれ瞳孔の散大と収縮を繰り返す。顔の表情筋の動きから焦りの感情を僅かに読み取れた。
が、魔歯ソウメルの顔はエナメル質で琺瑯気味。
普通の人族や魔族の顔ではないから、まったく異なる感情かも知れない。
その魔歯ソウメルは顔色を変えた。
黒虎に向け、
「あァァァ!! 私の計画が!!!!」
魔歯ソウメルは重機関銃型の上腕を黒虎に向けた。
急ぎ<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動――。
同時に切り札の<脳脊魔速>を発動――。
――前進し、魔歯ソウメルが頭上に浮かばせていたレイブルハースの勾玉を奪取し、素早くアイテムボックスに格納――。
戦闘型デバイスの真上にレイブルハースの勾玉が新しく浮かぶ。
小さいホログラフィ映像のガードナーマリオルスが喜ぶようにその周囲を回っていた。
魔歯ソウメルは加速性能を上昇させる<魔闘術>系統を強めて重ねてきた。
「……え、な! れ、レイブルハースの……くそがぁぁぁ!」
魔歯ソウメルは両上腕を俺に向ける。
歯を連射してきた。
即座に右に移動して避ける――。
魔歯ソウメルは、俺の<脳脊魔速>の加速に対応しながら俺を見て、
「……お前の急激な加速はどういう……お前は自分の戦闘能力を変化させることが可能なのか」
と聞いてきた。
一瞬で<脳脊魔速>の加速性能に追いつける速度上昇スキルを持つ魔歯ソウメルは、やはり、ここのボスで監督官なだけはある。
同時に、超巨大な水槽付近にいる動きが鈍ったように見える黒虎とアイコンタクト。蜃気楼的な橙色の魔力がその黒虎の体から出ていくさまは凄まじい。
<霊魔・開目>を意識。
<黒呪強瞑>を発動。
右手に魔槍杖バルドークを召喚。
そうして魔歯ソウメルに、
「あぁそうだ……」
と言いながら、魔槍杖バルドークに<血魔力>をたらふく吸わせる。
魔槍杖バルドークの表面に『呵々闇喰』の魔法文字が浮かぶ。
魔歯ソウメルは、
「チッ、大盗賊チキタタか恐王ノクターか、吸血神ルグナド辺りの加護か……」
「今さらだが、吸血神ルグナド様の加護はあるかも知れない」
「この地方に<筆頭従者長>か魔界騎士がいたということか……で、その魔槍杖、否、斧槍槌は神話級か? 良い武器に見える。勝利後は私が頂くとしよう。が、まずはレイブルハースの勾玉を返せ――」
魔歯ソウメルも<脳脊魔速>のようなスキルを使ったようだ。
<脳脊魔速>の加速中の俺も重ねるように<仙魔奇道の心得>を意識し、<仙魔・暈繝飛動>を発動。
<滔天仙正理大綱>を意識、発動。
<龍神・魔力纏>を発動――。
魔歯ソウメルは両下腕をドリル状の刃に変化させて前進してきた。下腹部の長い脚も此方に向ける。
脚からも鎌状の刃が飛び出ていた。その鎌刃を下から振り上げながら間合いを詰めてくる。
少しバックステップ。
――重心を下げた。
雷炎槍のシュリ師匠には悪いが、『魔槍雷飛流』を使うから許してもらうとして――魔人武王ガンジスの動きを想起――。
魔槍杖バルドークを振るいながら<雷飛>を発動――。
足下が爆ぜた感覚の後――。
一瞬で魔歯ソウメルの横を取ると同時に、魔槍杖バルドークの紅斧刃が魔歯ソウメルの長い脚と腹を切断――。
ピコーン※<魔皇・無閃>※スキル獲得※
「――うぎゃぁぁぁ」
魔歯ソウメルはまだ生きている。
魔歯ソウメルの上半身が斜めに上昇しつつ乱雑に回転していた。
が、まずは左手に無名無礼の魔槍を召喚。
目の前の魔歯ソウメルの下半身を――。
左手が握る無名無礼の魔槍で――。
右足の踏み込みから左手一本が槍と化す無名無礼の魔槍の<闇雷・一穿>で下半身を消し飛ばし、跳躍――。
身を捻りながら宙空に浮いている魔歯ソウメルの上半身目掛け、<星想潰力魔導>を喰らわせる。
四角い頭部が潰れ掛かり、
「ぐべぁ――ひぎゅ……」
という声のあと、潰れて一つの塊になった。
一瞬持ったのは、魔歯ソウメルが歯のように硬いからか?
念の為――両手の武器を消し、右手に神槍ガンジスを召喚。
神槍ガンジスに<血魔力>を込める。
そのまま、魔歯ソウメルだった塊に向け<血龍天牙衝>を実行。
※血龍天牙衝※
※血槍魔流技術系統:独自奥義※
※水槍流技術系統:最上位突き※
※水神流技術系統:最上位突き※
※神々の加護と光魔ルシヴァルの<血魔力>が龍の形で武器に宿る※
※奥義の質は数多あり、千差万別。が、<血龍天牙衝>は『一の槍から無限の枝(技)が生まれ風の哲理を内包した一の槍をもって万事を得る』という風槍流内観法極位の是非が問われ、巍巍たる風槍流の真髄が求められるであろう※
※酒豪の槍武神の戦神イシュルルも〝玄智山の四神闘技場〟を通じて未知の奥義を察して、新たな独自奥義を開拓した武術家を注視する※
――血の龍を纏う双月刃と蒼い纓が唸るようにごぉと音を立てた。
そのまま魔歯ソウメルの塊を穿ち、完全に滅した。
着地しつつ周囲を把握。
<脳脊魔速>はもう既に切れていた。
壇の上にいた魔歯魔族トラガン、百足高魔族ハイデアンホザーは全滅。固定されている寝台の上にいる魔族の方の中にはまだ生きている方がいる。その方々に向け、ポーションの蓋を外して投げてから、
――《水浄化》を発動。
――《水癒》も発動。
皆の治療を開始。
水神ノ血封書を出して、<水の神使>も意識。
<水血ノ混沌秘術>を意識。
<始祖ノ古血魔法>を意識。
続けて<水血ノ混百療>を実行。
寝台で傷が酷かった魔族たちはみるみるうちに傷が塞がっていった。
良かった。
「にゃおぉぉぉぉ~」
と、ロロディーヌの勝利の鳴き声が響く。
が、直ぐにその相棒は超巨大な水槽の前に移動していた。
硝子の杭が外れた大きい鮫のことは気になるよな。
奪ったレイブルハースの勾玉と関係しているのは確実だ。
相棒は黒虎から黒猫の姿に戻っている。
すると、壇の外の西と正面の戦いは終わったようで、闇雷精霊グィヴァたちも上がってきた。
続きは今週を予定。
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