千百三十二話 <天賦の魔才>と<魔法真紋・魔蛙・夢蔵右衛門・使役>
相棒は興味深そうに魔蛙ムクラウエモンの匂いを嗅いでいる。
「にゃ~」
「ポーさんと魔蛙のムクラ、改めてよろしく。そして、魔法真紋の一部の塵のような魔力は大気と混じるように消え、残りは俺たちが吸収したような感じだったが……」
と言うと、ポーさんは浮かびながら俺の顔色を見るように凝視。
「……ふむ。その通り、違和感は特にないのですな?」
「ないな」
「にゃ~」
「納得です。ムクラが急かす理由。まさに魔公最高級の<魔才華>、または<天賦の魔才>の持ち主のようですな……私かムクラを意識すれば……魔法紋か魔法真紋の……使役の実感を得られるはずです」
<天賦の魔才>はたしかに……魔法紋か魔法真紋か。
ポーさんは少し緊張しているような言い方だった。
俺は別段なんともないが、結構なことを成し遂げたんだろうか。
「げろげろ、げろげーろ」
魔蛙のムクラもポーさんの言葉を後押しするように鳴いていた。
頷いて、そのムクラとポーさんを凝視して――。
魔力を送るように意識した瞬間――体から魔力と塵が出る。
――塵? 先ほど吸収したばかりの塵が、目の前で小さい巻物に変化。
燃やした紙を逆再生しているような印象だった、凄い。
更に俺の体から出た魔力がムクラとポーさんに繋がった。
ムクラウエモンはプルルッと体を振動させる。
白銀の皮膚の表面に薄らと魔法の鎧のような部位が出現していく。
そのムクラウエモンは、相棒をチラッと見て、
「――げろげろ、げろげーろ!」
と鳴いて走る。
「にゃ」
相棒は珍しく追い掛けない。
ムクラウエモンは、少し離れた位置で動きを止めると振り返る。
そのまま此方にピンク色の舌をカメレオンの如く伸ばした。
あれは武器になりそうだ。狙いは宙に浮く巻物か。
ムクラウエモンは長いピンク色の舌で巻物を捕らえると舌を収斂させ、口を拡げて巻物を飲み込むと一気に巨大化――ここまで大きくなるのか。
天井に白銀の色が多い頭部をぶつけたムクラウエモンは、「げろげろッ」と鳴いて姿を縮めた。最終的に黒猫の黒馬や黒虎の大きさぐらいにまで小さくなった。
「「「おぉ」」」
「ムクラウエモンが大きくなった!!」
続いて、ポーさんも大人の大きさに変化。
ポーさんは「おぉ……」と両手を見ていた。
「「「おぉ」」」
ピコーン※<魔法真紋・魔蛙夢蔵右衛門・使役>※スキル獲得※
※<魔法真紋・魔公爵ポー・ムラム・使役>※スキル獲得※
おぉ、スキルを獲得。ポーさんは黒に白髪が混じるオールバック気味の髪形。
耳は人族と似ているが、耳朶だけが、渦を巻いている。
少し可愛らしいアクセサリーに見えた。
額の左右にシンメトリーの小さい角が生えていた。
角の尖端にはピアスの装具と白銀と黒の輪が嵌まっている。
白銀と黒の輪はそれぞれに炎を発していた。
カルードより歳は上で結構なイケオジで、紳士服が似合う。
胸には蛙のワッペンが付いていた。アドゥムブラリのお父さんやお爺さんと言われても納得できる印象だ。そのポーさんはムクラウエモンを見上げて涙目となった。
片目からツゥと涙を流すポーさんは哀愁を醸し出すと俺を見てハッとした表情を浮かべてから直ぐに片膝の頭で床を突いた。
そして、
「主……魔法真紋のスキルを……?」
「獲得した」
「……おぉ、道理であっさりと私たちを、お見事です……」
口調からして、ポーさんは嬉しそうと分かる。
魔蛙ムクラウエモンも近付いてきて、
「――主、俺の予想通り! 早速使いこなしてくれて嬉しいぜ!」
え、言葉が理解できた。
げろげろ、げろげーろという鳴き声だが……。
「……よかったが、ムクラウエモンの言葉が理解できたんだが」
「そりゃ当然だろう。主は、黒魔幻大蛙把系統の中でも使役が難しい俺の使役に成功したんだからな」
「魔蛙ムクラウエモンは黒魔幻大蛙把系統のモンスターってことか?」
「そうだぜ、主」
すると、ポーさんが、
「主、ムクラと私は小さくなることも、大きくなることも可能です」
「了解した」
「シュウヤ様、わたしには、ムクラウエモンの鳴き声は、げろげろ、げろげーろにしか聞こえません」
「わたしもです」
キサラとヘルメがそう言ってきた。
「「あぁ」」
「「俺もだ」」
「私もです!」
「はい、げろげろと、いっさむ? という感じの鳴き声だけですぜ」
「はい、でしゅ」
「「あぁ、俺も!」」
「俺もです。げろげろ、げろげーろしか……」
皆もそう言う。
ミューラー隊長もイスラさんも頷いた。
ミジャイが、
「陛下、魔蛙ムクラウエモンの言語を理解できるようになったのですね」
「おう、スキルを獲得したお陰だ」
「はい」
ムクラとポーさんに、
「【極門覇魔大塔グリべサル】などに付いては後で聞くが、【バードイン迷宮】の宝箱に入っていた理由は?」
魔蛙ムクラウエモンは、
「魔界の神々や諸侯の中で【極門覇魔大塔グリべサル】が気に入らないやつらがいたんだ。その結果、魔界大戦に巻きこまれた。吹き飛んだ地で俺とポーは……幻獣大魔事典パジースを扱う魔大公ペルスウェールや、幻魔百鬼夜行書を持つ戦公バフハールの戦いに巻きこまれて、魔法紋の書に嵌められた。力を抑制された俺たちは死なずに済んで、紆余曲折……後、更なる悲劇が……」
ムクラウエモンは大きな双眸に涙を溜める。
「はい、魔公同士の争いの結果、最終的に、私とムクラウエモンは、魔界王子テーバロンテが繰り出した魔法の水か網のようなモノに絡め取られたのです。その時、時間が遅くなる<時魔神パルパディ>のスキルを喰らって逃げられず……」
「そっか。ならば、姿を大きくしていたように、今は戦える?」
「はい、<鋭魔角輪魔刀>――」
と、ポーさんは角の先端にある装具の輪に指を掛けて引っ張ると、その輪は一瞬で魔刀のような武器に変化。刀身は白と黒の炎で燃えている。
そのポーさんは、
「近接から遠距離まで、ムクラも色々なスキルが使えます」
「おうよ、主の指示通り戦うぜ、ここにいる魔族たちは主の部下なんだろう?」
「部下や仲間は数人、後は一時的な仲間だ」
「了解した」
とムクラウエモンが喋るが、皆には「げろげろ、げろげーろ」としか聞こえていないはず。
とりあえず、状況を説明しておくか……魔蛙ムクラウエモンとポーさんに、
「ポーさんとムクラウエモン。俺たちは、ここの階層の下にいるだろう魔界王子テーバロンテの眷属魔歯ソウメルを討伐する予定なんだ。その下の階層は狭い。部屋ごとに百足高魔族ハイデアンホザーに魔歯魔族トラガンがいる。血霊衛士という俺の眷属的な遠隔操作が可能な存在も下にはいるが、それは直に消す予定だ」
「はい」
「承知した」
「ムクラは指示があるまで、ロロのような大きさで動いてくれ」
「にゃ~」
黒猫は前足を上げた。
それを見たムクラウエモンは「了解!」と返事をしてから、ぎょろっとした目で相棒を凝視すると、姿を更に小さくしてくれた。
「ポーさんは、【グラナダの道】の皆と囚われていた魔族たちのフォローを頼む」
「分かりました」
続きは今週を予定。
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