千百三十話 宝物の回収と、げろげろ、げろげーろ
宝箱に入っている宝物を改めて凝視。
神話級の〝魔塔八蛇タイレムマクソンとバイラムの歯車〟。
伝説級の魔式・九連環。
階級が不明の魔蛙夢蔵右衛門とポー・ムラム。
伝説級のパムロールの蜘蛛籠。
伝説級の古の十層地獄の獄官魔王カイガトの魔札。
階級が不明の髑髏の指輪の〝古兵〟。
伝説級の死導のツルハシ。
伝説級のアグラトラの甲指。
神話級のボシアドの恩讐。
正直、〝魔塔八蛇タイレムマクソンとバイラムの歯車〟は、ミスティやエヴァに見せたい品だからもらいたい。
バイラムの歯車の崩壊を防げれば魔塔八蛇タイレムマクソンと契約できるかも知れないし、バイラムの歯車はミスティの新型魔導人形のゼクスの部品や素材になるかも知れない。
キサラとヘルメも予想していたが、アシュラムのような武器になる可能性もある。
魔神ルクサード様の眷属バイラムの復活もあるかもだ。
そもそも、どうして魔塔八蛇タイレムマクソンがバイラムの歯車の崩壊を防いでいるのか、その根本的な理由も気になる。
まぁ、それは魔力を通してからだろう。
だから、眷属たちやデラバイン族の将校たちへのプレゼントにできたら良いかなぁとは思うが、ヴァイスンさんとトクルさんは魔鋼族ルクサード・ベルマランだ。その二人は、当然支族の名にある魔神ルクサード様を信奉しているから、魔神ルクサード様の眷属バイラムの歯車は欲しいはずだ。そして、ジアトニクスさんは、アイテムを欲しがる皆に対して嫌われ役を買って出ていた。それは己の高い志の考えを俺に示すようだったな。そうして皆をいさめたが、そんな皆の中には、『貴重なアイテムを使いたい』または『使うのは俺だろ、私だろ』という強い気概を持っている方がいるかもしれない。
そして、元囚人の魔族たちは苦労していたようだから、同情するわけではないが、使えるという自信があるなら、その方に使ってほしい。
「……皆、宝箱に入っていたアイテムの鑑定結果を聞いて、考えることは多々あると思う。そして、自分はこのアイテムが使いたいんだ! という強い気概を持つ方はいるかな? あ、喰うとかは無しで、遠慮なく発言してくれていい」
「「「……」」」
皆、沈黙。【グラナダの道】の方々は反応が薄い。
息を呑むように唾を飲み込む方もいた。
数秒経っても沈黙が続く……。
髑髏の指輪の〝古兵〟を欲しがり騒いでいた元囚人の魔族たちだったが、意外だ。
まぁ、ギンさんは『〝噂に聞く進化する魔具〟』と発言し、そのギンさんの隣にいるビートンさんも『魔具もピンから切りまで、契約者の資質次第だろ』と発言していた。
己に自信があっても、神話級と伝説級のアイテムばかりだ。触れて呪われるといった展開はなくとも、契約の際に己が取り込まれるリスクがある以上は、躊躇するか。
ならば、俺が一旦預かるとしよう。
あ、ジアトニクスさんの忠告が効いたかな。
一部の魔族さんには救出されたことが何よりの僥倖といった雰囲気もあったし、俺に対して忠誠を誓っていた方もいた。
すると、テパ・ウゴさんが、
「「うふぁッをあはは! アイテム類は要らないが、シュウヤ様の愛は欲しいぞ! うふぁ~ッ」」
と、また野太い笑い声を二つの口から発して寄ってきた。直ぐに引くと、キサラが、
「――筋肉鎧は素敵ですが……」
とテパ・ウゴさんを褒めながら俺の左前に出てくれた。
続いて「ふふ」と笑ったヘルメ――。
俺の水の衣装的な状態のヘルメは、裾の一部を持ち上げて靡かせつつ、縁から水飛沫をテパ・ウゴさんに飛ばしていた。
それらの水飛沫は狭い範囲だが《水幕》的で、水のカーテンかオーロラのように見える。
当たったら大瀑布の空に舞うような水飛沫を体に浴びるような感覚を得られるかも知れない。
「「「おぉ」」」
「精霊様の水の外套が防御反応を起こして、先端が泡を吹いて水飛沫を発している!」
「それでいて、シュウヤ殿の水の羽衣なのも不思議だ」
「あぁ、常闇の水精霊ヘルメ様はシュウヤ殿の水の羽衣のような衣装防具でもあるってことか」
グラナダの道の面々と他の魔族たちが、俺とヘルメを見てそう語る。
液体ヘルメが俺の体を覆っている状態は、俺が水の羽衣を羽織っているようにも見えているようだ。
<精霊珠想>と<仙丹法・鯰想>を見たらもっと驚くかも知れない。
テパ・ウゴさんはヘルメの水飛沫を浴びて尻が光った。動きを止めて、
「「ふむむ、キサラ殿と精霊様、分かっている! ただ、どうしようもないぐらいに気持ちが高まってしまうのだ!」」
「……気持ちは分かりましたが、シュウヤ様は強烈なハグは望んでいないようです」
「「……ふむむ」」
「その分厚い鋼の胸筋と模様は素敵ですが」
「「なに! キサラも俺を愛しているのか!」」
「いえ、愛していません」
「「ふむむ、うぶははは!」」
とキサラに説得された感があったテパ・ウゴさんは野太い喜びの声を発してから、「「そんなことはワカッテイル!!」」と大声で叫ぶ。
そのまま両腕を上げて頭上に○を造り、「「が、シュウヤ様の愛を受けた同士の友だ!」」と発言。友達の輪か? 古代ユダヤ人の友好を示す挨拶?
キサラが「ふふ、はい、面白いですね、テパ・ウゴさん、よろしく……」と小声で言うと、テパ・ウゴさんは二つの頭でニコッと笑顔を作り、
「「うぶははは」」
と笑っていた。
面白い。同時にテパ・ウゴさんの分厚い胸筋がぷるっぷるっと震えていた。
思わずマッスルハンマーと呼びたくなるぐらいの胸筋だ。
「ふふ」
キサラは楽しそう。
だが、他の魔族たちは、テパ・ウゴさんの言動には笑わず、真面目にヘルメを注視し、
「先ほども驚いたが、精霊様はシュウヤ殿の水の羽衣や水の外套のように、体を自由に変化させることができるのだな」
「それでいて美しい頭部をシュウヤ殿の右肩や左肩の上に出現させては消していた。そして、半身だけをシュウヤ殿の水のマントのように変化させてもいた……不思議だ」
「あぁ、水の精霊様の力の一部なんだろう」
「シュウヤ殿は、ハルホンクという特別な竜頭の装甲を備えた防護服も装備している。精霊様も使いこなしているということだろう」
と【グラナダの道】の面々と他の魔族たちが語る。
魔族たちの感想を聞いた常闇の水精霊ヘルメは、右肩の背後に頭部を出現させたのか、右から、
「ふふ、テパ・ウゴは面白いですね。そして、魔族ちゃんたちは分かっていますね! 皆を神聖ルシヴァル大帝国の魔族連合部隊の特殊機関に任命します!」
とまた勝手に役割を作って任命していた。
その水の羽衣状態のヘルメは、一部の羽衣を持ち上げるように靡かせていく。
水の羽衣の先端は水飛沫となって細まっていた。魔布のようだ。
この間<魔布伸縮>を獲得したが、その魔布を少し意識している?
そして、この液体ヘルメの水の羽衣のような状態は結構なおふざけモードのはず。
だが、魔法防御や物理防御などもあると思うし、<精霊珠想>的と言える能力にも思えてきた。
さて、
「皆発言しないってことは、この宝箱のアイテムは俺がもらっていいのかな」
「「「はい」」」
「「「「当然だ!」」」」
「既にもらうもんはもらいましたから!」
「はいでしゅ!!」
「うん!」
「あぁ、シュウヤ殿たちが取ってくれ。そのほうが下手に揉めずに済むし、皆、メジラグ狩りに使用していた愛用の武器は持っているんだからな」
と発言したのは魔刀を見せていたアマジさん。
続いて、
「「「おうよ」」」
「「おう!」」
「「「「はい」」」」
「はい、でしゅ」
と一斉に元囚人の魔族たちが手元に武器を召喚。
エトアさんは、小さい拳を金属の鱗のようなモノが覆っていた。パイルバンカーやセスタスではないが、拳系の武器だろう。
やや遅れて、【グラナダの道】の面々も各自武器を手元に出現させる。
セブランさんが持つ魔杖の放射口からムラサメブレード・改のようなプラズマの光刃が伸びている。
キサラも仕込み魔杖を持つが、先ほどは使っていなかった。
そして、皆を見てから、
「了解した。では遠慮無く、まずは〝魔塔八蛇タイレムマクソンとバイラムの歯車〟をもらっておく。ハルホンク、喰わずに保管を頼む」
右腕を宝箱に向けた。
右手の袖口のハルホンクの防護服が伸びて、
「ングゥゥィィ――」
宝箱の中の〝魔塔八蛇タイレムマクソンとバイラムの歯車〟に絡み付く。魔布に絡み付かれたような感じの魔塔八蛇タイレムマクソンは大人しい。
ハルホンクは袖口から取り込まず、竜頭の装甲部に〝魔塔八蛇タイレムマクソンとバイラムの歯車〟を運び、付着させた。
蒼い魔竜王の蒼眼がぴかぴか光る。
と、肩の竜頭装甲は、〝魔塔八蛇タイレムマクソンとバイラムの歯車〟を吸い込むように取り込んだ。
「「おぉ」」
「右肩の竜頭装甲の口が、神話級の〝魔塔八蛇タイレムマクソンとバイラムの歯車〟を食べたように見えましたが……内部に取り込んだのですね」
ミューラー隊長のくぐもった声。
少し動揺しているような声だった。〝魔塔八蛇タイレムマクソンとバイラムの歯車〟は神話級だからな、しかも魔塔八蛇タイレムマクソンは生きている。
「ああ、ハルホンクの防護服は、実際に食べて防具に活かせもするが、アイテムボックスとしての機能もあるからな」
「「凄いアイテムだ……」」
「シュウヤ殿が持つのは神話級の装備ばかりなのだろう」
皆が褒めている間に――。
重そうな神話級のボシアドの恩讐。
伝説級の魔式・九連環。
伝説級のパムロールの蜘蛛籠。
伝説級の古の十層地獄の獄官魔王カイガトの魔札。
階級が不明の髑髏の指輪の〝古兵〟。
伝説級の死導のツルハシ。
伝説級のアグラトラの甲指。
を戦闘型デバイスのアイテムボックスと肩の竜頭装甲に格納していった。
最後に残ったのは、階級が不明の魔蛙夢蔵右衛門とポー・ムラム。
そのヒキガエル的な魔蛙のムクラウエモンとポーさんを見ながらも、血霊衛士と偵察用ドローンを意識――。
同じ階層を進ませている二体の血霊衛士と偵察用ドローンは上下に向かう階段を幾つか見つけたところで、一旦消す。
<分泌吸の匂手>は行わないが、消えたところに血の匂いのポイントは出来上がった。血霊衛士の光魔ルシヴァルの血の匂いは眷属ならいつでも辿れるだろうし、探索してマッピングを終えた匂い地図は既に頭に入っているから迷うこともない。
そして、ゼレナードの施設を思わせる下の階層で、今も戦いながら移動を続けている血霊衛士だが……上の階層にいる俺たちの行動に合わせて、百足高魔族ハイデアンホザーと魔歯魔族トラガンの連中を挟撃するように誘導させたいが――いかんせん狭い。
そして、死体を溶かすほどの<血鎖の饗宴>などの攻撃は血霊衛士には繰り出せないからな――切りがいいところで、下の階層の血霊衛士には消えてもらうとしよう。
【バードイン霊湖】で戦い続けている血霊衛士もそうだが、モンスターや魔族を倒しても、その魔素や魂の吸収効率は悪い。魔力の高まりも僅かだ。
本体の俺が近くにいれば魔素の吸収効率は跳ね上がると思うが……。
まぁ、便利な分、この制限は仕方がないだろう。
「げろげろ、げろげーろ」
「ンン」
ヒキガエルっぽいムクラが鳴いて、相棒が宝箱を覗くように反応している。
きっと鼻をふがふが動かして匂いを嗅ぎたいんだろう。臭くても癖になる、否、口臭だろうと、フェロモン的に匂いを体感したくなるのは獣の習性だ。
すると、そのムクラの頭部に煙のような素材で造った椅子に座っていたポー・ムラムさんが、立ち上がって、
「――黒い小童! アイテムボックスに回収しないとは、私とムクラと契約を結ぶ気になったようだな!!」
紳士的なおっさんは嬉しそうだ。
「はい、ポー・ムラムさんと魔蛙夢蔵右衛門に契約を結びたいと思いますが、ポーさんに魔力を送ればいいのですか?」
続きは、明日を予定。
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