千九十一話 蜘蛛娘アキの部下アチュードとベベルガ
クエマとソロボにハンカイも柵を越えてきた。
ムーは柵越しに訓練を見学していたサナとヒナから野菜ジュースをもらっている。
その蜘蛛娘アキは、
「主様、部下の紹介の前に成長したわたしを見てください!」
と体から魔力を放出させた。
「おう」
目の前の蜘蛛娘アキの金色の髪が長くなっていた。
目も人族と似た二つの目に変化している。
<神剣・三叉法具サラテン>の羅を思わせる双眸だ。
「髪が長くなって、眼球が人族っぽく変化している」
「はい! 進化は他にもあります!」
蜘蛛娘アキは、そう言ってから敬礼を行う。
目の数を減らすことが進化の一つなのか、偽装能力かな。
すると、複数の歩脚が畳まれながら体の中に収斂された。
複数の太い歩脚が二つの長細い歩脚に変化を遂げる。
スカート状の防具に変化はないが、腰の横幅も細くなった。
蜘蛛の上顎と触肢の鋏角と口器も人族っぽく変化。
普通の魔族の女性にしか見えない。
一対の鋏角を南無南無とするように擦っているのは可愛い。
その蜘蛛娘アキに、
「脚と目の数が減ったことが進化なのか?」
「はい、今まで通り、複数の脚や八つの複眼にわけることも可能です――」
二つの複眼が細胞分裂したように八つに分かれた。
八つに分かれゆく姿はリアル過ぎて怖い。
まるで細胞から内臓が作成されていくような光景だった。
その蜘蛛娘アキは瞬時に八つを二つの複眼に融合させた。
腰の幅も大きいスカートのように膨らむと、一瞬で蜘蛛らしい八つの脚となった。そして、瞬時に二つの脚に戻した。
その蜘蛛娘アキは、
「では主様、わたしの部下、【八蜘蛛ノ小迷宮】の一階層を守るベベルガと最下層を守るアチュードを紹介します。他の者は喋れない一般兵士で、肉壁要員です」
「おう」
ベベルガは人型で、鉱石と鋼が多いが蜘蛛らしい毛もある。
四腕と二足で、顔は四角く全体的にゴツゴツしている。
四腕の指の数は三本のみだが、太い。
アチュードの方は二腕と二足。
紫色が混じる黒髪でショートカット。
アイカラーは紫が濃く、切れ長の双眸だ。
ヘルメのような瞳で結構美しい。
蜘蛛らしい上顎と触肢と口器は、蜘蛛娘アキと似ている。
肌の色合いも人族の部分が多く、所々に蜘蛛っぽさが混じる。
膨よかな胸元を覆うのは蜘蛛娘らしい皮膚鎧のコスチューム。
指の数は五本でこれまた人族っぽい。
甲から肘にかけて、蜘蛛っぽい毛が生えている。
「大主様、ベベルガです。よろしくお願いします――」
「大主様、アチュードといいます。よろしくお願いします――」
両者は頭を下げてから、片膝で地面を突いて、また頭を垂れてきた。
「よろしく、立ってくれ」
「「ハッ」」
ゴツいベベルガと妖艶なアチュードが立った。
アチュードだが……【八蜘蛛ノ小迷宮】に侵入してきた女性冒険者ではないだろうな……蜘蛛娘アキが、その女性冒険者の体と魂を喰らったことで生み出したとかだったら……俺はその大本、魔王的な存在になってしまったことになる……が、そうだとしても今さらか。
そして、蜘蛛娘アキに向け、
「ベベルガとアチュードだが、蜘蛛娘アキが生んだのか?」
「はい、しかし、色々と条件が重なった結果かと。クナさんから頂いたトレビルの魔薬を飲んで、スゥンさんから、『すべてを滅し、すべての宝を頂く。が、命はかけない』という言葉と共に迷宮核の半分をもらいました。その迷宮核の半分を飲もうとしたら、クナさんに止められて――」
『ふふ♪ 素晴らしい禿のスゥンちゃん! 墓掘り人の副隊長なだけはある。ヴァーレンティンといい、地下の秘宝は色々と持っているようですね。そして、その迷宮核の半分ですが、それを蜘蛛娘アキちゃんが飲んで【八蜘蛛ノ小迷宮】と一体化しても、魔力と魂を糧にした魔石を生むには、相当な時間が掛かりますよ? そして、このまま【八蜘蛛ノ小迷宮】が拡大しては、シュウヤ様とキッシュのサイデイルに迷惑を掛ける結果にもなりかねません。ですから、わたしがその迷宮核の半分を別の形にして活かしましょう、どうですか?』
「と言われて、『はい、主様たちに迷惑は掛けられない! クナさんに任せます』と言いました。するとクナさんは」
『ふふ、分かりました。しかし、アキちゃん、死ぬ覚悟はおありですか?』
「と聞いてきたので、『はい、強くなるならいいです』と答えました。そうしたらクナさんは」
『……ふふ♪ イイ覚悟です。では、その迷宮核の半分をください』
「という流れでわたしは迷宮核の半分をクナさんに渡したのです。クナさんは、マハ・ティカルの魔机と朱雀ノ星宿を使い、秘薬タジガルを迷宮核の半分にかけて、<錬金術・解>を用いたと言っていましたが、きっと他にも色々なアイテムとスキルを用いてくれたはずです。そうしてできた黄土色の液体をもらい、直ぐに飲みました。そうしたら、お腹が膨れて死ぬかと思いましたが、一気にベベルガとアチュードが生まれたんです。その後、下半身の歩脚の変形が色々と可能になって、気付いたら人型に変身出来ていました。後、喋ることはできませんが、人造蜘蛛兵士を造れるようになったのです」
人造蜘蛛兵士たちか。
一斉に敬礼してくれた。
<光魔・血霊衛士>とは異なるが、まぁ傀儡兵的なノリか。
「……おぉぉ、それは見たかった。が、スゥンは、迷宮核の半分という秘宝クラスのアイテムを蜘蛛娘アキにプレゼントしたのか。そのスゥンに礼を言いたい。まだキッシュのところかな」
ハンカイ、クエマ、ソロボ、シュヘリア、サナ&ヒナに視線を向けた。
シュヘリアが、
「ヴァーレンティンたちと樹海東の探索&警邏チームです。帰りは夜かと」
「今は昼だからまだ掛かるか。帰ってきたら、アキへのプレゼントをありがとうと伝えておいてくれ」
「ハッ」
「それで蜘蛛娘アキ、【八蜘蛛ノ小迷宮】だが、畳んでもらうぞ」
「あ、はい! ナイトホークの大群にめちゃくちゃにされて逃げたところでしたから、丁度よかった!」
「そのナイトホークってのは、たしか地底の怪獣的なモンスターとか血文字で聞いたが、クエマとソロボ?」
「はい、二つの槍のような長柄を六本腕で持つ大柄の魔族、モンスターでしょう。言語は理解できません。王鬼系統かハイオーガ系統と推測します。少数ですが、ホブゴブリン、ハイコブリン、グレートゴブリン、ゴブリン・テルカ、ゴブリン・ヤンカーを従えていました」
「はい、小隊規模ですが強かったですね。守護者級となったわたしたちが迎え撃ち、その時は全滅させましたが」
「へぇ、クエマとソロボが出た後に、蜘蛛娘アキたちはそのナイトホークが率いる精鋭ゴブリンに敗れたのか」
と言いながら、蜘蛛娘アキたちを見た。
蜘蛛娘アキは、
「はい、【八蜘蛛ノ小迷宮】を放棄しても追ってきたので、左のハイム川に多い穀物地帯にわざと誘導し、人族の軍を利用して逃げました」
「「……」」
<血道第五・開門>を意識。
<光魔・血霊衛士>を一体生成し――。
<血霊兵装隊杖>を装備。
「「「「おぉぉぉ」」」」
「……っ」
ムーが驚いてソロボの背後に隠れてしまったが、構わず、蜘蛛娘アキに、
「――それはマズイだろう。蜘蛛娘アキ、注意しとくが、人族の冒険者は喰らうなよ? まぁ、一方的に仕掛けてきたのならいいが……オセべリア王国や近隣の国の人族に魔族、コミュニケーションが可能な者たちと争うのは禁止だ。部下のベベルガとアチュードもいいな?」
「――ひゃ、ひゃぃ!!」
「「――ハイ!!」」
蜘蛛娘アキとベベルガとアチュードはその場で、地面に両手をついて土下座スタイルで頭を下げていた。
「なすりつけるなら敵対している勢力にしろ。では、頭をあげてくれ」
「「はいっ」」
「分かりました!」
「後、蜘蛛娘アキ、魔界セブドラにくるか?」
「あ、行きます! お願いしようとしていたのです。女王キッシュさんやシュヘリアにも叱られてしまい……」
「はい、陛下が嫌うことをしてしまったようですから」
シュヘリアがそう発言。
「あぁ、が、過ぎたことだ。過ちは学んで反省すれば次に活かせるだろう。な?」
「はい!」
「よし、では、ルマルディを起こしてから、セナアプアに戻るか。そして、古代ベイオズマの魔法書の古代の竜言語魔法書があるから、俺が読むか蜘蛛娘アキが読めるか挑戦するのもありだな」
「「おぉ」」
「たしか、ラメラカンセスの呪いが掛かっているとか……」
クエマがそう発言。
頷いた。
俺は<蜘蛛王の微因子>を持つ。
称号:ラメラカンセスの蜘蛛王位継承権とセンビカンセスの蜘蛛王位継承権も獲得している。
ステータスには、
※センビカンセスの蜘蛛王位継承権※
※蜘蛛王ライオガの微因子をエクストラスキル<鎖の因子>系統の<霊呪網鎖>が捕らえたことによる極めて希有な連鎖が起因※
※<魔蜘蛛煉獄者>と<蜘蛛王の微因子>が必須※
※八蜘蛛王の子孫の蜘蛛種センビカンセスの因子を得たモノが得られる極めて稀な称号※
とあった。
ラメラカンセスの蜘蛛王位継承権は説明が出なかったから、多少の不安があるが……。
そう思考しつつ、光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装の<血霊兵装隊杖>を解除。
ソロボの横で、ジッと俺を見ているムーを見て、
「ムー、こっちにこい」
「……」
寄ってきたムーに、
「ムー、今後も槍をしっかり学び、女王キッシュの言うことをよく聞いて元気に過ごすと約束できるか?」
ムーはコクコクと頷く。
そして、小さい手で持つ樹槍を持ち上げた。
「……っ」
いい気概だ。
「よし、風槍流の槍使いムーに、これをプレゼントしよう――」
〝闇速ベルトボックス〟を出して渡した。
ムーは〝闇速ベルトボックス〟を不思議そうに見ている。
「……」
「アイテムボックスだ。大きさ的にまだ無理かも知れないが、まぁそこはドココやクナに言えば調整は可能かもしれない」
「……っ」
ムーは〝闇速ベルトボックス〟を腰に回す。
と、自然と〝闇速ベルトボックス〟はムーに合わせて縮んで嵌まる。バックルの白銀の模様が煌めいた。
「おぉ~、装備できたか。似合うぞムー」
ムーは凄く嬉しそうな表情を浮かべて、片方の目から涙を流す。
そして、跳躍すると、義足から糸が溢れて義足が落ちてしまった。
そのまま俺を見たムーは、何かを言おうとして、
「……っ……」
倒れそうになったから、急いで前に出てムーを抱いて支えてあげた。
ムーは俺の太股に頭部を擦り当てながら、
「ぁ……師……ぁり……が……」
と、無理に喋ろうとするムーの銀髪を撫でて、
「はは、ムー。気持ちは分かる。これからもがんばるんだぞ」
「……っ」
コクコクと頷くムー。
「「「ふふ」」」
「がはは、師匠と弟子か。まったく、ほっこりとさせよって」
ハンカイがそう発言。
ムーは恥ずかしかったのか、ケンケンで俺から離れると、落ちた義足を拾って、素早く糸を使いはめ直していた。
さて、セナアプアに戻って用事を片付けないとな。そして魔界側に戦力を送らないと。
続きは今週を予定。
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