千六十七話 闇雷精霊グィヴァと本契約に闇神アーディンとの稽古
2023年2月15日 15時37分 修正
2023年7月19日 20時52分 <血脈瞑想>→<血脈冥想>に修正
闇雷精霊の美しい頭部が実体になった。
体にはまだ半透明な部分が多い。
黒色と紫色の髪色にミディアムストレートの髪形か。
右耳の裏を通る髪は肩に掛かっていた。
そんな髪には黒い雷がバチバチと音を立てて走る。
黒い雷が髪を行き交う度、銀色の陰影が髪に走っていた。
非常に美しいコントラストを生んでいる。
耳の形はハーフエルフや人族に近い。
右の耳朶には朱色に輝く<血魔力>を有したピアスを嵌めている。
その闇雷精霊は俺を見て、
「アァ」
と微かな喘ぎ声に近い声を発しながら体を震わせると右腕が溶けてしまう。が、その失った腕の付け根から横へと黒い雷の放電がシュパパパッと放出されていた。
放電模様は大気に干渉しているように激しい。
その黒い放電が、周囲から風と魔力を吸い込み始める。
――俺自身も闇雷精霊へと吸引されかかるほどの勢いの風で、背後の闇神アーディン様の幻影も消えかかった刹那、闇雷精霊の体から黒い雷が迸り、雷の腕を生成するように右腕を模った。
次の瞬間――。
闇雷精霊は右腕を再生させた。
この異空間の魔力を体内に取り込んだらしい。
消えかかっていた闇神アーディン様の幻影は祭壇を覆い直す。
無言のままだ。闇雷精霊の行動は織り込み済みなのか。
レンブリアさんがいる背後から重低音が響いた。
レンブリアさんが片膝で床をついた?
そのレンブリアさんがいる背後は見ない。
目の前の闇雷精霊の体がまた震える。
と、肌に闇色と紫色が増えていく。
更に脇腹に刻まれていたルシヴァルの紋章樹が揺らぎながら胸の中心へと移動した。
幹が鳩尾に、根っこが臍と下腹部か。
双丘に、枝と葉が茂った紋章樹の屋根が出来上がる。
乳首の部分は銀色の実がぶら下がっている。
双丘には、<筆頭従者長>や<従者長>に<光魔騎士>の印もあった。
他の腹の部分には銀色の葉が零れ落ちている。
小さいが、確実にルシヴァルの紋章樹の模様だ。
その模様を胸に記した闇雷精霊の体から様々な動植物と魚に龍などの幻影が発生し始める。
この変化と幻影は……。
闇神アーディン様は、先ほど……『ドアルアルから昇華した闇雷ルグィの復活』と言っていたが……。
「この変化と幻影は、まだ闇雷精霊は復活を果たしていないのですか?」
と聞くと、闇神アーディン様の幻影が、
「『予想はある。が、分からぬと言っておこう。なにしろ、光魔ルシヴァル宗主の<血魔力>が入っての復活と昇華は、我も初めての経験だ、フハハ!』」
なんか楽しそうだ。
なるほどな、俺の血が入ったことで不透明さがあるが、ある程度読めているからこその厚意で行為。
感謝しないとな……。
「そうですか……俺の血が入ることで予想は困難に……」
「『うむ。普通は、闇精霊ドアルアルの塊に我の闇雷と黒雷が入ることで【闇雷の森】に息衝く闇雷精霊への昇華が可能となる。が……先ほども言ったように、光属性がある光魔ルシヴァルの<血魔力>は未知数。更に細かく見れば原初に吸血神ルグナドも関わっておるだろう? だから、我も分からぬし知らぬ! フッ、まさに、之を知るを之を知るとなせ。知らざるを知らずとなせ。これ知れるなり……』」
闇神アーディン様がそう思念と言葉を伝えてきた。
『論語集解』にも登場する言葉か。
そして、光魔ルシヴァルの俺が闇雷精霊の復活に手を貸したことで、闇神アーディン様も先の展開が読めないようだ。
しかし、口調といい性格もだが……。
やはり闇神アーディン様の性格は闇神リヴォグラフとは大きく異なる。
まさに『百聞は一見にしかず』。
魔界セブドラも様々だな。
すると、闇雷精霊の皮膚の表面が流体の抵抗を促す蓮のロータス効果がありそうな作りに変化。
胸に刻まれてあるルシヴァルの紋章樹の模様が煌めく。
先ほどの、ルシヴァルの紋章樹が胸の表面に移ったことも不思議だったが、そのルシヴァルの紋章樹の樹皮が振動しながら盛り上がった。
幹に洞が出来上がる。
洞の中には、螺旋状のマンデルブロ集合やトーラスの磁場のような形に黒い雷が集結していた。
そんな洞を持つ浮き彫り状のルシヴァルの紋章樹が心臓のように律動し、ドクッドクッと音も響かせてきた。
369Hzの周波数のような音も響く。
何かの『重ね合わせの原理』がありそうにも見えた。
その紋章樹の幹から銀色の葉脈や樹状突起に毛細血管のようなモノが大量に発生し、それらの葉脈や樹状突起に毛細血管のようなモノから黒い雷と<血魔力>が内臓類に伝搬していく。
闇雷精霊の体の表面と内部が煌めく。
半身が透けた波群瓢箪のリサナを思い出した。
半透明な部分に魔力の栄養が行き渡ったのか、闇雷精霊の体の大半が紫色と闇色に変化を遂げる。
と、その皮膚の表面に殻のようなモノを得た。
胸元も膨らむと、その胸を覆う胸甲が出来上がった。
乳房と乳首を隠す部分にはマンデルブロ集合の模様が施されている。
エレガントな鎧と防護服にパンティやスカートも生成された。
人族や魔族が着るような衣装となった。
肌の色も、闇色と紫色の部分が多かったが、大部分が人の肌のような色合いへと変化を遂げたから、今では普通の人族や魔族に見える。
その闇雷精霊が紺碧色の瞳で俺を見つめてきた。
キューティクルが保たれた長い睫毛は美しい。
紺碧色の瞳には麗しさがある。
少し潤んでいる?
鼻は高い。あ、微笑んだ。笑窪もある。
細い顎から続くEラインも美しい。
と、紺碧色の瞳に黒い雷が走った。
瞳を構成する虹彩の色合いに黒色と銀色のガラス玉が増えていく。黒い雷が激しく行き交い光芒が密となった。
まだ瞳の色合いは定まっていないようだ。
瞳の変化が激しい闇雷精霊は涼しげな表情を浮かべたまま降下してくると、俺の目の前で止まった。
その直後、闇雷精霊の鎧と防護服に衣装類が溶けるように放電を起こしながら消えてしまう。
その闇雷精霊は何事もなかったような素振り。
と思ったが、裸を見せるように両手を広げた。
胸のルシヴァルの紋章樹の模様も儚く消えてしまう。
ヘルメのように抱きついてくるのかと期待したが――。
その胸に縦の亀裂が走った。亀裂の走った皮膚は左右対称の動きで捲れて、あばら骨が露出。
そのあばら骨も波打ちながら孔雀の羽のように左右へと拡がった。
胸が御開帳――露出した内臓は人族とは異なる。
怖いが、ヘルメの時も胸が左右に開いていたな……。
その胸の中心には先ほど表面に現れていた洞を備えたルシヴァルの紋章樹があり、その洞の中には黒い雷が密集したような異質なモノがプカプカと浮いていた。
黒い雷が密集したようなモノは丸や菱形、立方体、正十二面体、細胞小器体などの様々な形へと次々に変わっていた。
変化は多岐に渡る。
その自由に形を変えている黒い雷が密集したモノには、目に見えない弓張り材や圧縮材に秘められた統一理論の法則性があるように見えた。
闇雷精霊の心臓、または闇雷精霊のコアと呼べばいいのだろうか。
その黒い雷が密集しているコアは風と魔力に共鳴したように振動が起きて放電が強まっている。
続けて、対称性のテンセグリティ構造に変化。
更にトポロジー風やカリフラワーのロマネスコ風に変化した。
そこから、トーラスで磁場を表現するような放電模様に変化し、うねうねとしたジュリア集合を立体的に表現したように変化する。
そうして様々に変化を遂げていく。
その変化が激しい闇雷精霊のコアと目されるモノは、中性子星のパルサーの如く急回転を行う。
その回転速度と合うようにコアの形がまた変化していく。
その変化と急回転を続ける勢いが面白い。
一瞬、神様が両手で轆轤台の上で回る粘土を陶芸職人のようにこねて、形を変えているように見えた。
神のような数次元上の存在が、魂をイメージして造る時にもそんな風に弄るのだろうか……。
と、黒い雷が密集している核的なモノが形をリアルタイムに変化させ続けている不思議な変化を眺めながら考えた。
ルシヴァルの紋章樹の樹皮から無数に伸びている枝はキラキラと煌めきを放ちながら闇雷精霊の内臓のような器官と繋がっていた。
ロータス効果がありそうだ。
それらの内臓的な器官類は無数の高分子樹脂の枝と融合しているようにも見えた。
それらを見ていると、ナ・パーム統合軍惑星同盟のエレクトロニクスバイオ技術で人工的に造られた人工内臓だと言われても納得してしまうかもだ。
俺の知る地球でも量子ドット技術、ナノテクノロジーの技術は発展していた。
CRISPR-Casなんて可愛いモノ。ゲノム編集ツールは様々に改良が施されていた。
RNAにDNAを弄るなんてレベルではなく、生命そのものを量子ドット技術やバイオ技術などで造り改造することが容易に可能だった。
脳チップのインプラントや遺伝子のトランスヒューマンの研究は進んで、血液脳関門を超えられるナノルーターも作成可能、人間の脳が優秀だからこそ、ミクロのアンテナで済む。
しらず知らずのうちに遺伝子ホロコーストが行える環境だったな……。
ナ・パーム統合軍惑星同盟の目に見えないナノ技術も相当に発展しているようだから不安はあるが、まぁ……アクセルマギナに期待しておくか。
そんなことを考えていると――。
そのコアと内臓を持つ闇雷精霊は胸が開いた状態で俺を見て、
「……貴方様の魔力を体に強く感じます」
と発言。
胸が開いた状態だからホラー映画顔負けの展開なんだが……。
不思議と恐怖感はない。
「あぁ、闇雷精霊の復活と聞いたが……」
「……復活は……まだです。今はこうして、喋ることだけ……貴方様と本契約を行えば、私は闇雷精霊の本領が果たせます……」
やはり、復活はまだだったか。
「……本領が発揮される本契約とは、闇雷精霊の貴女に、俺が名を付けることでもあるんだよな」
闇雷精霊は、
「……はい」
と微かな声で返事をしてくれた。
「貴方様にすべてを捧げます……」
「すべてか……まずは名乗っとこう。俺の名はシュウヤ。そして、君の名を決めたいが、暫し待ってくれ」
「……はい」
今回もヘルメの時と同じなのかな。
本契約に成功したらシンボルマークが俺の体に付くはず。
闇雷精霊の背後にある大きい祭壇には依然として闇神アーディン様の幻影が出現中だ。
先ほど吹き飛ばされて消えかかっていたからか、闇神アーディン様の幻影は魔槍を持ちながら巨大な玉座に座る幻影に変化していた。
俺たちを見下ろし、沈黙を続けている。
俺たちの背後にいるレンブリアさんも沈黙を続けていた。
少しプレッシャーのようなモノを感じた。
闇神アーディン様と、その眷属レンブリアさんは成り行きを見守るつもりだろう。
しかし、闇雷精霊の名前か。
過去にはルグィとあったようだが……。
ルグィと言えば、デルハウト。
『魔槍雷飛流の教えから、<闇雷の槍使い>としての誇りがある――』
とデルハウトが喋っていたことを思い出す。
だとすると、闇雷精霊を使役することで、デルハウトが得ている<武槍技>を獲得できるようになる?
個性の差で<魔槍技>が<武槍技>に名が変化しているだけかも知れないが。
さて、まずは彼女の名前を決めないとな。
どうするか……とりあえず、
「俺と本契約したら、どんなことになるんだ?」
「貴方様の体と精神が、私と融合します……」
「え? 俺の体と精神が貴女と融合? 俺が闇雷精霊の貴女を使役するわけではないのか?」
「それは、まだ……分かりません」
「俺と融合したら、今の貴女の意識が消えるとか?」
「……」
闇雷精霊は答えず。肯定なのか。
「『――槍使い、心情から、我らの厚意を断ってもいい。しかし、この機会を逃すと闇雷の属性を得られる機会は二度とないと心得よ。また、断った場合、その昇華したばかりの闇雷精霊は、そのままでは意識も形も留められないであろう』」
闇神アーディン様の幻影から思念と声が響いた。
闇雷の属性を俺が得られる……。
それは凄いが……祭壇を見上げるように、
「闇雷精霊は、このまま普通に復活はできないのですか?」
「『……普通とはなんだ?』」
怒ったような口調。
少しビビる。
元々が厳つい武人系の神様だから怖さがある。
自然と頭を垂れたくなる神様だからな。
が、嬉しさがあった。
神様と会話ができることに感謝の想いで、
「常闇の水精霊ヘルメのように意識を保った状態での本契約です……」
「『……【闇神寺院シャロアルの蓋】にいた水神アクレシスが絡んでいる闇と水の黄金比を持つ高位精霊か……闇はいいが……』」
「はい、そのヘルメです」
「『……ヘルメは普通ではない。そして、その常闇の水精霊ヘルメと槍使いが、どのような手段で本契約を結んだのかも我には分からぬ……だから、今回の闇雷精霊の復活に槍使いが絡む事象とは異なるだろう』」
と教えてくれた。
そして、闇雷精霊には、もう意識がある。
その意識を消すようなことはしたくない。
続けて闇神アーディン様は、
「『……槍使いが闇雷精霊との本契約を拒めば、闇雷精霊が周囲の魔素と槍使いと我の魔力を取り込んでいる影響もあって我には還元されず、闇雷精霊には〝死〟が待つのみ』」
「死……」
「『そうだ。しかも普通の死ではない。穢れを祓い源泉が復活を果たしたが……過去に魔王ザウバから受けた影響も関係する。それ故、瞑界シャロアルの神々に闇雷精霊の大半の魔素が捕らわれ魂も喰われてしまうだろう……そして、この事象は、我からの〝稽古に神変あり〟である……と同時に〝お前のためにもなるはずだ〟の答えの一つ。よくよく考えてから本契約を果たすか決めるのだな……』」
迫力のある語り。
神意力を含む語りと思念だから心に響いた。
目の前の闇雷精霊は闇神アーディン様の幻影に同調するように、
「はい、私は貴方様と闇神アーディン様の魔力で、今の状態をなんとか保っているのです……どうか、私を救う気持ちで、本契約をお願い致します」
闇雷精霊は開いたままの胸を突き出す。
左右に開いたままの肋骨が揺れている。
命乞い的なニュアンスだ。
勿論救えるなら救いたい。
が、逆に俺を慮って言った俺の行動を促すための言葉かも知れない。
他から強制、拘束、妨害などがない自由意志を持つのなら、その意識は奪いたくない。
しかし、俺が魔力を込めて契約しないと闇雷精霊は消えてしまうか。
「本契約を果たしたら、君の意識が消えず形も保たれる可能性もあるんだな?」
「……はい」
お? ならさっさと本契約をしてしまうか。
そして、嘘かもしれないが信じよう。
闇雷精霊のご開帳されている胸の内部にある小さいルシヴァルの紋章樹と洞に浮かんでいる黒い雷が密集しているモノを凝視。
「この胸のルシヴァルの紋章樹の洞に浮かぶのが、心臓部でコアなんだな?」
「そうです」
頷いた。
今も、そのコアのようなモノはリアルタイムに……。
丸と菱形と正二十面体などへと形を変化させていた。
時折バチバチと音を響かせて黒い稲妻を纏った動植物や龍の魔力の幻影を発生させている。
龍は<血道・九曜龍紋>か。動植物は四神が関係する?
「ハゥッ」
俺が見ていると、闇雷精霊は俺の表情から覚悟を悟ったのか、可愛い声を発して、コアのようなモノを洞から俺の前に誘導させてきた。
変化の激しい闇雷精霊のコアを少し見てから闇雷精霊を見る。
紺碧色の瞳は揺らいでいる。心配しているような印象だ。
安心させよう。
「不安にさせたのなら済まない。君の名はグィヴァ。グィヴァと本契約を行おう」
「はい!!」
「『フハハッ、そうでなくてはな!!』」
闇神アーディン様の嬉しそうな思念と声が響いた。
肩の竜頭装甲を意識。
防護服を薄着に変化させた。
まだ何かありそうだ。
俺は水属性だし、少し覚悟するか。
左手の掌にある<シュレゴス・ロードの魔印>が煌めく。
『主、我が皆の代わりに見守ろう』
『ありがとう、シュレ』
シュレゴス・ロードとの念話を終えてから、闇雷精霊に、
「黒い雷が密集しているコアに<血魔力>を込めればいいんだよな」
「はい!」
頷いた。
闇雷精霊の胸の黒い雷のコアへと――。
<血魔力>を込めた右腕を突き出した。
黒い雷が密集しているコアに右腕が触れる。
コアはスライム的でざらついた感触もあった。
その闇雷精霊の黒い雷が密集しているコアが俺の<血魔力>を吸うと、コアから雷鳴が轟く。
と、俺の指と手の甲から体内に入り込んできた。
一瞬で右腕が真っ黒と化した。<血魔力>を大量に失った。
――痛、痛ッ、痛みが体中に走る。
<魔闘術の仙極>――。
<性命双修>――。
<滔天内丹術>――。
<光魔血仙経>――。
<滔天魔経>――。
などのスキルと恒久スキルを意識して実行。
が、痛いのは変わらず。
電気ショック――ビリビリとしたモノが体中を駆け巡る。
続けて、胸が開いたままの闇雷精霊の体が一瞬で溶ける。
溶けた闇雷精霊は黒色と紫色と銀色が混じる電気を帯びた液体のようなモノに変化しつつ腕に絡み付いてきた。
その液体のようなモノは粘液染みた動きでうねりながら皮膚の内部に浸透してくると、体の内部に侵入してくる――。
――痛ッ、体のあちこちから連続的な痛みを味わった。
全身の骨が振動して痺れる――。
「――ングゥゥィィ!!」
『主――』
ハルホンクが気合い声を発した。
シュレが俺の体に魔力を送ってくれた。
が、今までにない体の内側から焼かれる感覚となった。
同時に丹田を中心に新たな灼熱の血管か神経のようなモノが体中に張り巡らされていると理解できた。
痛すぎて、どうにかなりそうだ。
……グラついて、視界がブレたが、なんとか耐えた。
急ぎ、その場で<闘気玄装>を強める。
続けて結跏趺坐を組んで<血脈冥想>を行った。
脳からα波を出すように、目を瞑り、集中していく。
禅を実践し、<瞑想>にふける――。
深呼吸しながら、心の襞を感じようと、丹田を意識。
水面に水滴が落ち――波紋が広がっていく。
丹田の奥に広がる海原のような感覚はよく解る。
その海原に得体の知れない感覚、否、熱く痺れる御魂を感じた。
これが闇雷の源か、それが一気に拡がった。
雷光、稲妻、電気、放電、雷属性の精霊たちのような姿があちこちに出現。
それが紫電のような霧に変化。
その紫電の霧は闇雷の稲妻となって一点に集約すると、闇神アーディン様に変化――。
『フハハ、そこにいるだろう、槍使い。姿を現せ――』
黒い雷が飛来――。
俺は見ているだけだったが、何故か俺に直撃し、激しい痛みを味わう。
と、<血脈冥想>を意識した途端、俺自身の幻影の体を得た。
右手に魔槍杖バルドークが出現。
闇神アーディン様は紫色の茨のような稲妻が絡む魔槍の穂先を向けてくる。
その穂先は笹穂槍と上鎌十文字槍に変化している。
柄の銀色と金色と漆黒色に紫色の模様から魔力が零れていく。
その闇神アーディン様は、
『よしよし、得物はそれでいいのだな?』
『はい、これは……ここは修業空間? 直に稽古を付けていただけると……』
『ハッ、知れたこと、行くぞ――』
幻影に見えないが、幻影の闇神アーディン様が俺に向かってきた。
<血道第三・開門>――。
<血液加速>を発動。
<血魔力>を纏いながら俺も向かった。
一瞬で槍圏内となった闇神アーディン様は魔槍を振るう。
俺も宙空から魔槍杖バルドークを振るった。
紅斧刃と笹穂槍の刃が衝突。
そこから紫電と紫色の火花が散った。
宙空から<豪閃>を繰り出すが、闇神アーディン様の魔槍の柄で防がれる。反撃の一閃が迫るが、その反撃の一閃を竜魔石で防ぐ。
素早く魔槍杖バルドークを左から押し出すように<龍豪閃>を繰り出した――。が、あっさりと魔槍の口金で<龍豪閃>を防いだ闇神アーディン様は、四眼を光らせる。
『第二開眼<魔靱・鳴神>――』
その思念の声が響いた刹那の間に下から蹴りが迫る。
最初の蹴りは見えたが、消え――。
「――げっ」
魔槍杖バルドークが薙ぎ払い系の攻撃で上向いてしまう。
即座に「ぐぉ――」と魔槍杖バルドークを持つ腕と「げぇぁ――」腹に連続蹴りを喰らいまくった。
吹き飛んだ。
稲妻のような海に突っ込んで全身が焼け焦げる感覚を味わう。
意識が飛んだが、これは幻影。
一瞬で、上鎌十文字魔槍を持つ闇神アーディン様が目の前に――。
『どうだ、死ぬ感覚は――』
『――癖になります――』
<刺突>を魔槍杖バルドークで防ぎながら<血道第五・開門>――。
<血霊兵装隊杖>を意識、展開。
続けて<滔天神働術>と<闘気玄装>を発動させながら、<血穿・炎狼牙>を発動――。
突き出した右手の魔槍杖バルドークから炎狼が飛び出るが、
『ハッ――無駄だ! <魔鳴・覇豪穿>――』
<血穿・炎狼牙>ごと体が穿たれ意識が飛ぶ。
と、また闇神アーディン様が目の前に、上鎌十文字魔槍を振るってくるタイミングとか――。
魔槍杖バルドークを傾け、その黒い雷を帯びた一閃を受けて弾いた。
即座に反撃の<刺突>――。
そこから、<龍神・魔力纏>を発動しつつ<攻燕赫穿>を発動。
『フハハ――』
四眼から怪光線が飛び出て<攻燕赫穿>から出た火炎の燕は消える。
が、即座に<火焔光背>を実行。
闇神アーディン様の魔力を吸いながら――。
『ぬお――』
<刺突>をおりまぜながら連続的に<龍異仙穿>を放つ。
闇神アーディン様は魔槍を斜に構えて連続突きを防ぐ。
続けて、<黒呪強瞑>を強めた。
そこから、<霊仙八式槍舞>を実行――。
が、突き、払い、突き、払いのコンボをすべて防がれると、
『甘い――!!』
魔槍の穂先を上鎌十文字魔槍から笹穂槍に変化させながら体が分裂した闇神アーディン様の動きが速すぎて追えなくなった。
間合いが掴めず――脇腹を抉られ、視界が飛ぶ。
あぁ、首を刎ねられた――。
と、一瞬で体に黒い雷を浴びながら、目の前に闇神アーディン様が再出現し、<刺突>らしき突き技を繰り出してきた。
その突き技を魔槍杖バルドークの柄で受けると、下段蹴り、それを石突の竜魔石で払いながら、側面から<龍豪閃>の反撃。
闇神アーディン様は背後にバックステップして余裕で避けてから前進し、<刺突>系のスキルを繰り出してきた。
と、消えたと思ったら、
『<魔靱・鳴神>――』
連続蹴りスキルか。
それをすべて防ぐ。
闇神アーディン様は笑いながら『なかなか――』と槍舞らしきスキルを繰り出してきた。一撃、二撃の<刺突>を受けたところで即座に<夜行ノ槍業・弐式>を実行――。
神速の勢いで魔槍杖バルドークを持ち上げた。
キィィィィンと甲高い金属音が響くと同時に紅斧刃が闇神アーディン様の三撃目の突きを弾く。
『ぬお!』
体勢が崩れた闇神アーディン様の懐に反撃の<夜行ノ槍業・弐式>の魔槍杖バルドークの突きが決まる。
流れるような連続突きが闇神アーディン様の手足を貫いた。
魔槍を弾く<夜行ノ槍業・弐式>――。
『ふはは、一度見たが、読み切れないとは――』
と発言した闇神アーディン様は、魔槍杖バルドークの突きを見ながら即座に手元に魔槍を戻し、その柄で紅矛の突きを弾くと、横に体がブレて消えた。
と、天、上に転移、そこから上鎌十文字魔槍を振り下ろしてきた。
<水月血闘法・鴉読>を実行――。
なんとか振り下ろしの攻撃を避けたが、背中に痛みを味わったところで、視界が暗転。
記憶が飛ぶほどの闇神アーディン様との修行は続く。
◇◇◇◇
と、闇神アーディン様が呵々と笑ったところで、急に消えた。
すると、幻影世界が薄れて、アキレス師匠の姿が見え隠れし、
『――何か掴んだか? それがシュウヤ、お主の魔力の源なのだ。この時、思い浮かんだ感覚が自分の属性であることが多い――』
というアキレス師匠の言葉を思い出す。
アキレス師匠の姿は見えないが……。
その刹那、心の内に新たな黒い雷、否、闇雷を得たと分かった……。
師匠、俺はまた成長したようです……感謝。
――心の内に闇雷を……雷属性か。
すると、脳内に鐘が響き渡り――。
視界は元通り――。
祭壇を見た直後――。
ピコーン※<闇雷精霊グィヴァとの絆>※恒久スキル獲得※
※<霊魔・開目>※恒久スキル獲得※
※<煌魔葉舞>※恒久スキル獲得※
※<煌魔・氣傑>※スキル獲得※
※<闇雷想腕>※スキル獲得※
※<闇雷蓮極浄花>※スキル獲得※
※<魔雷音・解>※恒久スキル獲得※
※<雷飛>※スキル獲得※
※<魔槍雷飛・解>※恒久スキル獲得※
※<魔槍雷飛・遣穿>※スキル獲得※
※<闇雷・一穿>※スキル獲得※
※<闇雷・飛閃>※スキル獲得※
※<魔雷ノ風穿>※スキル獲得※
※<魔雷ノ風閃>※スキル獲得※
※<闇神式・練迅>※スキル獲得※
※<闇神式・暗槍>※スキル獲得※
※<闇神式・暗剣>※スキル獲得※
※ <闇雷の槍使い>の条件が満たされました※
※<闇雷の槍使い>※戦闘職業を獲得※
おぉ、雷属性を得たのと闇神アーディン様からの稽古のお陰で色々とスキルを覚えた。
<闇神式・練迅>はトースン師匠が使っていた。
<魔槍技>の<悪愚槍・鬼神肺把衝>を覚えた幻影修行では、<闇神式・練迅>を覚えられなかったが……。
雷属性を得ることで、覚えられた。
魔軍夜行ノ槍業が揺れる。
『……使い手、意識がないように思えて心配したが、またも進化を果たしたようだな』
『……はい。<闇神式・練迅>を覚えられました』
『おぉぉ、雷属性を得たか! <闇神式・練迅>は鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼が活きる<魔闘術>系統。勿論、鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を使わずとも優秀な<魔闘術>系統だ。他と合わせて使うといい』
『はい!』
『……おめ……』
シュリ師匠の微かな思念も聞こえる。
期待に胸が高鳴ったような鼓動音も魔軍夜行ノ槍業から響いていたが、魔軍夜行ノ槍業の揺れは収まり、師匠たちの思念は聞こえなくなった。
シュリ師匠は、雷炎槍エフィルマゾルを取り戻し、自分の頭部と両腕も直ぐそこにある状態だ。
そのことで頭がいっぱいなのかも知れない。
本当なら、直ぐにでも飛び出して、自らの手で取り戻したいだろう。
レンブリアさんに話をしなくては、
「ングゥゥィィ、グィヴァ、イル、ゲンキ?」
『ふふ、はい』
脳内に響くグィヴァの念話。
同時に右目の視界に小さいグィヴァの姿が見えた。
おぉぉ――。
『おぉ、グィヴァか。外に出ることは可能か?』
『はい――』
右目から黒い雷が迸る。
祭壇の横の床に黒い雷が衝突すると、その床の真上で黒い雷が一瞬で女体化。
先ほど見えていた闇雷精霊グィヴァの姿となった。
常闇の水精霊ヘルメと似た速度での女体化だから凄まじい速度だ。
「『良きかな良きかな、闇雷精霊グィヴァ。真の復活だな』」
「はい! ありがとうございます。闇神アーディン様――」
闇雷精霊グィヴァは片膝で床を突く。
頭を下げた。
鷹揚に頷いた闇神アーディン様の幻影が俺を見て、
『「槍使いよ、フハハ、中々の使い手だ。そして、無事にデルハウトと同じ戦闘職業<闇雷の槍使い>を得たようだな?」』
「はい、ありがとうございます。これも闇神アーディン様のお陰です」
『「フッ、縁故だ……そして、我と本当に槍を交えたくば、【フヴェの谷】か、【神魔山シャドクシャリー】か、【シクルゼの谷】か、【天魔鏡の大墓場】か、【王魔の墓場群】に来るのだ」』
「……はい。いつかは向かうかも知れません」
『「ふむ……数千、否、数百……まぁ、気長に待とうか……では、我も忙しいのでな。レンブリア――シャロアルの闘柱大宝庫の後処理に、ここに通じた【闇神寺院シャロアルの蓋】がある【闇雷の森】にはバスティアンの本体がまだ眠ったままだ。そのことも任せたぞ。魔王ザウバが倒したようだが、どういうことか不明だが、闇精霊ドアルアルとは違い、バスティアンの体を取り逃がしている」』
「ハッ、委細はお任せを」
「『ふむ……ん? おぉ、ボシアドの使徒、戦斧極コトナゴトナが飛来してきたようだ! ではな、フハハハハ――!!!」』
と、闇神アーディン様の幻影は消えた。
一気に神意力のようなプレッシャーも消えた。
まさに武神だな、戦神ヴァイス様もこんな感じなんだろうか。
さて、
「グィヴァ、立ってくれ。そして、試したいことは多いが、後にする」
「はい」
そして、レンブリアさんを見て、単刀直入に、
「所用があるようですみませんが、あそこにある頭部と両腕を頂けませんでしょうか」
とお願いした。
レンブリアさんは、柱が並ぶところを見て数回頷いてから、
「はい、構いません。来てください。封印を解きます」
「了解しました」
グィヴァに視線を向けると、グィヴァは微笑んでから傍に来る。一緒にレンブリアさんに案内されるがまま、柱の一つの前に移動した。
魔軍夜行ノ槍業が揺れに揺れたが、今は我慢してもらう。
レンブリアさんは、両手の巨大な数珠を持ちつつ、
「ここの柱に封じられている頭部は、魔人武王ガンジスの弟子だったギガンホーが持っていた頭部と両腕。嘗ての魔城ルグファントの八怪卿の一人、雷炎槍のシュリの物ですな。ではこの封を解除します」
「はい、お願いします――」
続きは明日も予定。
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