千二十九話 <無式・紅光一槍>獲得とバシュウとハザルハードと激戦
2022年12月14日 16:50 修正
ハザルハードは魔槍に魔力を込めると紺碧の瞳にも魔力が溜まる。
網膜にマーマイン文字が生まれて、その文字が時計回りに回転を始めた。
虹彩と瞼に眼球そのものが蠢く。
と、顔と体のトゲトゲを有した鱗の一部が捲れて縮む。その鱗が縮れて撓む度に、ハザルハードの顔と体は筋肉繊維と骨を覗かせていた。
同時に体の鰭と鰓も幅が太くなり伸びた。
その撓み縮んだ鱗はウェーブしつつ伸びて筋肉繊維を隠すように付着。
新たな鱗皮膚として再生された。
更にすべての鱗皮膚が光を帯びると、骨牙のようなトゲトゲの突起物が鱗皮膚に増えていく。
鱗の地肌が鎧のように見える。
これも<魔闘気>の一種だろうか。
同時に瞳が縦に細まる。
シェイプシフトをするように両生類のエイリアン風の瞳に変化を遂げた。
その一対の瞳から緑色の網膜の形をした魔力が出る。
魔力で形成されている網膜だが、結構リアルだ。
その緑色の網膜の内部には、多重の円と八角形の魔法陣が刻まれている。
双眸の上に、新たな網膜か。
ハザルハードが四眼になったような印象を抱く。
眼球といえば悪神デサロビアだが、ハザルハードは悪神デサロビアを信奉しているのか?
それとも悪神デサロビア系統の眷属から奪った魔眼だろうか。
四眼となったハザルハードは俺と黒豹を睨む。
魔槍の穂先を傾けた。
ハザルハードの攻撃はないが、黒豹は全身の毛を逆立てて横歩きを行う。
通称『やんのかステップ』だ。
尻尾の膨らみといい可愛さがあるが、真剣だ。
「愚王バンサント様に魔皇ローグバント様のお力を弾くとは」
そうハザルハードが呟く。
続けて、バシュウが、
「ハザルハード様の<愚王・魔眼重>に<魔皇・緑秘眼>を弾く……。シュウヤが、<異界弾き>、<異能耐性>、<精神耐性>などの高度なスキルを豊富に持つ証拠……」
と発言。
四眼のハザルハードは頷く。
「鑑定能力を有した二つの魔眼は<愚王・魔眼重>と<魔皇・緑秘眼>か。名的に愚王バンサント様と魔皇ローグバント様から授かったスキルか?」
「……そうとも言える」
ハザルハードは肯定。
【ローグバント山脈】には【愚王バンサントの洞窟】と【魔皇ローグバントの庵】の地名があるから、その地を漁り、秘宝を得てスキルを獲得したかもだ。
それか、マーマイン独自の儀式で獲得したか。
マーマイン戦士の幻影が、愚王バンサントか?
それか魔皇ローグバントってことか?
先の結界名といい、ハザルハードも神格を有しているが……。
それ以上の上級神が愚王バンサントと魔皇ローグバントか?
外で今も沙・羅・貂と戦っているマーマイン戦士の幻影はハザルハードの<召喚闘法>のようなスキルの効果だろうか。
そして、魔杖バーソロンのように、あの魔杖にバンサントやローグバントの意識が入っているんだろうか。
ヘルメの精霊的な指摘がほしいところだ。
『閣下、あの魔杖の回りに精霊ちゃんが蠢いています!』
と言ったような情報を寄越してくれるヘルメはいない。
【源左サシィの槍斧ヶ丘】の右場左場の山か窪地の戦いで、バーソロンと共にマーマインの軍を倒していることだろう。
少し寂しさを覚える。
ヘルメとの何気ない思念会話で俺はリラックスできていた。
バシュウは俺を見て、
「そのような能力を持つ存在に、血の甲冑を装備できる<血魔力>を扱う存在は……吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>か、魔界騎士を従えている諸侯クラス……」
と発言。
ハザルハードも、
「一見は源左の者で魔侯爵級程度に見えるが、内実は大きく異なる」
「はい、<魔闘気>系統などが優れる故の魔力量の変化でしょう」
バシュウとハザルハードは俺をそう分析している。たしかに、この天守閣にきてから<闘気玄装>などに<血魔力>も少し抑え気味。
が、<血霊兵装隊杖>の光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装だから迫力は十分か。
ハザルハードは魔杖を少し動かす。
ハザルハードの体と魔杖から放出されている魔線は、ハザルハードの頭上に浮いている巨大なオベリスクと、周囲の巨大なオベリスクの群れと繋がっている。
そのオベリスクの先端に嵌まっている魔宝石に集積された膨大な魔力は円く膨らみながらテスラコイルの放電現象のように拡がって、テラスと出格子の間から外へ出て、灰色の砦を守るマーマイン戦士の幻影と繋がっていた。
今も、その外の巨大なマーマイン戦士の幻影は沙・羅・貂へ斬馬刀と大きい魔斧を振り降ろして魔刃を繰り出している。
ところが、その巨大なマーマイン戦士の幻影は急激にハザルハードの体へ吸引され消えると、ハザルハードの体に新たな半透明な魔法鎧と二つの腕が生み出された。
そのハザルハードの半透明な腕には、斬馬刀と魔斧が握られている。
繋がっている複数の魔線から血液のようなエネルギーが半透明な鎧と腕に流れていた。
巨大化が可能な<召喚憑依>か<召喚闘法>ということだろう。
では、巨大なマーマイン戦士の幻影と戦っていた沙・羅・貂もここに飛来してくるか、皆が戦っている下の戦場に向かうかもしれないな。
マーマインの軍の中には、将軍などの将校もいるだろう。
兵士の数も多いからな。
ま、魔皇獣咆ケーゼンベルスと光魔沸夜叉将軍と魔王アドゥムブラリがいるから大丈夫だとは思うが。
四本腕となったハザルハードは俺を凝視し、
「バシュウが言うように、マーマインを害する黒髪シュウヤ! お前は吸血神ルグナドの<筆頭従者長>か、魔界騎士か?」
攻撃しそうな雰囲気を醸し出して、そんなことを聞いてくる。
どっちでもいいと思うが……。
素直に、
「違う。俺は吸血鬼系だが、吸血神ルグナド様と関係はない。しかし、そんなことをマーマインたちが知ってどうするんだ? お前たちは吸血神ルグナド様と何か関係があるのか?」
そう聞き返した。
ハザルハードは紺碧の瞳から発していた二つの魔眼を消す。
両生類のような瞳で俺を凝視し、
「怪夜種族や怪魔種族の吸血鬼系統でありながら、吸血神ルグナドと関係がないだと?」
そう疑問気に聞いてくる。
巨大なオベリスクを飛ばしてきそうな雰囲気だが……。
バシュウが、
「はい、ありえない、嘘でしょう。これほどの<血魔力>を有した存在が吸血神ルグナド様と関係がないわけがない。その<血魔力>を有した魔眼能力で、源左サシィを虜にし、魔皇獣咆ケーゼンベルスの使役にも成功したはずです」
そう言ってくる。
俺は、
「魔眼は吸血鬼繋がりで持っている。しかし、サシィとケーゼンベルスと同盟を結べたのは、交渉の結果だ。そもそも支配ではない同盟交渉。魔界王子テーバロンテが倒れた今、サシィもケーゼンベルスもバーソロンを擁するデラバイン族と同盟を組むのは当然の流れ。そして、悪神ギュラゼルバンや恐王ノクターの諸勢力が、この地域に乱入してくるのは時間の問題な状況もある」
と簡潔に言うと、ハザルハードは頷く。
バシュウはハザルハードに、
「だとしても、シュウヤは諸侯クラスの力を持つ吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>か、魔界騎士の可能性であるほうが高いです。吸血神ルグナド様が魔神殺しの現象を察知し、【ローグバント山脈】の碑石の異変を知ったか。或いは、己の名前が記された碑石自体を初めて知ったのか……ですから、眷属ではなくとも、【ローグバント山脈】の探索任務を任された諸侯のような力を有した魔界騎士がシュウヤと推測します」
バシュウがそう発言。
ハザルハードは、バシュウに頷くと視線を強める。
俺を睨みながら、
「なるほど、シュウヤの狙いはビュシエの秘宝か……」
そう発言。
ビュシエの秘宝?
それをハザルハードが持つ?
バシュウは、
「はい、そう考えるほうが自然。もう一つの可能性は、吸血神ルグナド様から単独行動を許されている大眷属がシュウヤかと。そのシュウヤが、魔神殺しの現象を見て、この地方を注視し、優秀な魔地図か遠隔透視などのスキルで、この【ローグバント山脈】とビュシエの名を発見した可能性があります」
バシュウがそう推測するのも的外れではない。
俺もバシュウやハザルハードだったら、俺の行動原理からそういうプロファイリングを行うだろう。
ハザルハードは頷いて、
「ふむ……」
納得顔のハザルハードは相棒を見て、
「その漆黒の魔獣は、神獣と聞いているが?」
そう発言すると、バシュウはハザルハードに頭部を下げつつ、
「それはシュウヤの語りです。魔皇獣咆ケーゼンベルスも神獣のようなものですから、あまり意味がないかと」
バシュウがそう言うから、俺は、
「吸血神ルグナド様の眷属が、神獣を使役できるもんなのか?」
と聞き返す。バシュウは、
「できているから、今そこに神獣を連れているんだろうが!」
と怒ったように語る。
「にゃごぅ……」
と黒豹が怒りを顕わに出して尻尾で床を強く叩いた。更に「ガルルルゥ」と獣の声を発して威嚇した。
ロロディーヌは黒女王のような雰囲気を醸し出す。
バシュウとハザルハードを見ながらゆったりとした動きで横に歩いた。
……こうしている間にも砦の下の階層は燃えているが、二人とも余裕だな。
さすがに砦の炎上には気付いていると思うから、砦と部下を失っても構わないって思考か。
俺たちに勝つための秘策を実行するには時間が掛かると予想。だからこそのこの会話。
ハザルハードの奥の手は魔杖かな――。
右手首の<鎖の因子>マークから<鎖>を射出――。
ティアドロップの先端をハザルハードの頭部に直進させた。
ハザルハードは嗤うと、
「ハッ、不意打ちのつもりか?」
と魔槍を上げて<鎖>を弾く。
叩かれた<鎖>は斜め下の床に突き刺さった。
直ぐに<鎖>を消す。
ハザルハードの反応速度は極めて高い。
と、バシュウが右手に抜き身の大太刀を召喚。
その大太刀から紫と漆黒の魔力を発している。
そして、ハザルハードの巨大なオベリスクは微かに動いたが、オベリスクからの攻撃はまだない。
先端のダイヤモンドのような魔宝石には濃密な魔力が集まっている。何かの召喚か……?
ま、時間稼ぎだとしても、あえて乗ろう。
ビュシエの秘宝のことが気になる。
相棒もそれは理解しているのか、触手を繰り出さない。
「もう一度言うが、俺は吸血神ルグナド様とは関係がない。寧ろ、怒られる側だと思う。で、その吸血神ルグナドの碑石にビュシエの秘宝とはなんなんだ?」
そう聞くと、バシュウは片眉を下げて、顔を醜くさせながら、
「……しらばっくれるな、マーマイン殺し! お前はビュシエ・ラヴァレ・エイヴィハン・ルグナドと血の繋がりを持つからここに来たのだろう!」
怒りながら大太刀の切っ先を向けてくる。
そして、狙い通り、ビュシエの情報を引き出せた。
「落ち着け……<血魔力>は共通しているが、吸血神ルグナド様の眷属ではないと言っているだろう。それで、ビュシエ・ラヴァレ・エイヴィハン・ルグナド……それは魔界側の吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>の一人か?」
「……当たり前だ」
「本当にビュシエ・ラヴァレ・エイヴィハン・ルグナドを知らぬのか?」
ハザルハードはそう聞いてきた。
俺は頷いて、
「知らない。魔界の神々に誓おう」
と答えた。
前、トースン師匠の幻影修業の最中に、吸血神ルグナド様の眷属らしき存在は見た覚えがある……。
だから魔界セブドラ側にも<筆頭従者長>がいることは、これで確定か。
何気に重要な情報だ。
惑星セラのオセべリア王国の王都に近い位置にあるとされる【大墳墓の血法院】を根城にしているヴァルマスク家たちは、このことを知っているんだろうか。
ハザルハードは、
「バシュウ、<血魔力>の因果律は、どう考えてもオカシイが……シュウヤの言葉に嘘はないように思える。どう思う?」
そう聞いていた。
バシュウは、
「嘘ではなくても、源左側のシュウヤに変わりありません。わたしたちの敵です」
「そんな在り来たりなことはいいだろ。で、吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>のビュシエの秘宝だが、ハザルハードとバシュウの手に落ちているのか?」
「「……」」
直球過ぎたか。
ハザルハードは顔色を悪くした。
だとしたら、俺を吸血神ルグナド様の眷属だと考えて、ビュシエの秘宝を奪い返されまいと警戒しているのか?
それとも、吸血神ルグナド様のスキルか何かで碑石には封印が施されているから、ハザルハードたちはまだビュシエの秘宝の奪取ができていないとか?
「ハザルハード様、用心を」
「ふむ……」
「しかし、魔界王子テーバロンテの討伐を行ったと鬼姫サシィに語ったようですが、本当にこの男が倒したかどうかも怪しい……」
「それはそうだな。我らは見ていない……」
ハザルハードはそう発言。
バシュウは俺を見て、
「はい。シュウヤは、魔界王子テーバロンテという上級神が消えた混沌を利用している、洗脳、魅了、交渉術などのスキルにも精通した強者かもしれないです」
そう推測している。
魔界王子テーバロンテを俺が倒したことを信じていないのならそう思うのも当然だが、俺には交渉術や洗脳のスキルなんてない。
「それより、バシュウに質問がある。上笠の役職だったバシュウは、いつ位から【源左サシィの槍斧ヶ丘】に潜入していたんだ?」
俺がそう聞くと、バシュウはハザルハードに視線を向ける。
ハザルハードは、顎先をクイッと動かして『喋っていい』と意思表示。
バシュウは胸に手を当て、会釈してから、俺に、
「……何十年も前だ。鬼姫サシィが生まれるよりも前になる」
と言ってきた。
そのバシュウに、
「残地諜者で、アンダーカバーの任務をずっと続けていたわけか。では、タチバナとのやりとりもヤラセか? タチバナもお前たち側に情報や物資を流していた源左側の人間で、今後のマーマインのための、マッチポンプの偽旗作戦用の人間か?」
俺がそう予想すると、バシュウの瞳が散大し収縮。
恐怖を覚えたか?
「……」
ハザルハードは片頬を上げてニヤリとした。
「……ほぉ、誰一人気付かないと思っていたが……タチバナのことを指摘してくるとは、鋭い洞察力だな……バシュウ、シュウヤが源左サシィに接触したのは短い間だったのだろう?」
「……はい」
「タチバナは、我らには諸刃の保険でしかないが、そう考えられる思考力は並みではない……」
タチバナは俺を睨んでいた。
あの視線にはサシィとの関係への嫉妬などもあったと思うが……。
「多少考えれば幾らでも予想はできるだろう。バシュウの仕込みを考える側に立って考えれば、保険を用意しておくのは常套手段。それに、ただ黙って御上の言うことを信じる羊ではないからな」
「フッ」
「もう少し深く聞く。タチバナも源左を裏切っていたが、諸刃の保険ということは、源左の偽情報をリークし、マーマインを誘い出して潰すのも行っていたのがタチバナってことか?」
「その通り」
「……どこでそれを知ったのだ」
バシュウは言葉を震わせて聞く。
「今も語ったが、単なる一つの予想に過ぎない。では、タチバナは時折、本当の源左の情報をバシュウなどに対価と引き換えに流していたんだな」
「ふはは、そうだ」
「……」
ハザルハードは面白がっている。
バシュウは視線が厳しくなるばかり。
最初の上笠連長の皆との会合の場で見せていた表情とは雲泥の差。
<紫心魔功>を持つエヴァがいても、あの時にバシュウに触れる機会なんてなかっただろうし、バシュウの裏切りには気付けなかっただろう。
そして、タチバナは上笠としての利権を確保するためバシュウやマーマインを利用して暗躍していたってことだろう。
俺たちとの同盟を嫌がった理由の一つに、上笠のタチバナが持つ利権が、俺たちと仲良くなることで失うからと考えていたが、それもビンゴだったってことか。
更にタチバナの思考を読むと、さすがに源左の一族は大事ってことかな。
要注意ではあるが……。
現時点では、サシィへの忠誠は本当かもしれない。
「……ハザルハード様、このシュウヤは危険です」
「危険だが、光魔ルシヴァルは優秀そうだ。我の帝国には良い人材になりえる。シュウヤ、我の部下にならないか?」
「ならない」
「なっ、ハザルハード様の誘いを断るとは……」
「なんで俺が部下になるんだよ。この天守閣に攻め込んで、部下になりまーすという展開にはさすがにならんだろ、笑えるぞ」
「ンン、にゃお~」
相棒もそうだにゃ~というように鳴く。
さて、ビュシエの秘宝に関する情報とタチバナの情報も聞けた。
同時に、こいつらの時間稼ぎもそろそろ頃合いだろう。
その思いで、
「バシュウとハザルハード、そろそろ時間稼ぎは仕舞いだ。とっとと戦うとしようか。それとも降伏か? だとしたら、死んでいったマーマイン兵士たちが泣くと思うが……」
「ハッ、何が降伏だ! 本質を捉える第六感が優れているようだが、それがお前の油断に繋がっていると思い知るがいい――」
バシュウはそう発言すると前傾姿勢で前進してきた。
紫と漆黒の魔力を放つ大太刀の切っ先を見せている。
「にゃご」
相棒が気合いの鳴き声を発しながら触手を繰り出し、バシュウに向かわせた。
バシュウは、触手から飛び出た骨剣を下に傾けた大太刀の刃で防ぐ。
甲高い音が響くが、黒豹は触手骨剣で大太刀ごとバシュウを押す。
後退し足を止めたバシュウは、「なんの!」と言いながら、少し体勢を上向かせると、相棒の触手骨剣を大太刀で持ち上げるように払った。
バシュウは直ぐに後退。
相棒は触手を首下に収斂させた。
首に触手が収斂される動きは掃除機の電源コードが収納される動きと似ている。
バシュウの持つ大太刀の反った刀身にはマーマイン文字が刻まれていた。
あの大太刀を造り上げた鍛冶屋がマーマインにもいるんだろうか。源左の大太刀に独自にマーマインの鍛冶屋が加工を施した?
それとも魔界の神の一柱かもしれないバンサントからの賜物?
相棒はバシュウに追撃しない。
バシュウとハザルハードも攻撃して来ない。
その二人に向け、
「油断はしていない。情報を得るには手っ取り早かったってだけだ」
「……チッ、分かっててノッタと、我らを愚弄するつもりか」
「なんで愚弄になる。そんな思考は一欠片もない。俺には情報が必要だった。それだけだ」
「……そうだとしても、ハザルハード様の誘いを断りやがって、自分の立場が分かっていないようだな」
「よく分かっているさ。デラバイン族と源左の一族とケーゼンベルスの大同盟を維持発展するために動いているのが今の俺だ。ヘルメがいたら『私たちは神聖ルシヴァル大帝国です!』と言いそうだが」
「……あぁ? その顔が、我らを愚弄しているのだ!」
そうかもな。
バシュウは凶悪な面を作る。
怒ったか。人族と似た部分が多い額に怒りの筋ができたように見えた。
ハザルハードは納得したような表情を浮かべて、
「……大同盟か」
と呟く。ハザルハードは雰囲気からして、ヤヴァいクラスの強さと分かる。
バシュウは、
「ハザルハード様、お任せを」
「……うむ」
そのハザルハードと頷き合った。
バシュウは睨みを強めると、大太刀の刃先を俺に向け直し、
「お前たちは俺が倒す――」
そう宣言。と、黒豹が一歩前に出て、
「ガルルゥ」
唸り声を発し威嚇。前足の爪が床に喰い込む。
が、突撃はしない。直ぐにでもバシュウへ飛び掛かってもおかしくない状況だが、黒豹は荒ぶる獣の心を抑えてくれている。
《氷命体鋼》を発動させる。
そして、バシュウとハザルハードに向け、
「……突っ込んでこないのか? 分かっていると思うが、もうこの砦の下の階層は燃え始めているぞ?」
そう告げると、バシュウとハザルハードは視線を合わせた。
ハザルハードは俺に視線を向け、
「燃えていることは知っている」
「そんなことで動揺はしない!」
ハザルハードとバシュウはそう語る。
ハザルハードは再び、多重の円と八角形の魔法陣を擁した魔眼を生み出す。
四眼で俺を見て、
「シュウヤは水系統の大魔術師でもあるようだな」
ハザルハードはそう言うと、魔杖を俺に向かって翳す。
と、右手に持つ魔槍から波動のような魔力を放出させた。
その波動か衝撃波のようなモノが飛来。
いきなりの遠距離攻撃か――。
即座に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒を召喚――。
波動か衝撃波のようなモノを大きな駒で防ぐ――粘り気のある衝撃波――。
後退を余儀なくされた。
「ははは、<愚王衝波>を受けきる存在を見るのは久しいぞ!」
そう高らかに嗤いながら発言したハザルハードは宙空に浮かぶ。
そのハザルハードは全身の魔力を高めて、
「――語りといい、すべての能力が高いと分かる。勘もいい! が、この【ローグバント山脈】の一部は我らの領域! そして、我はお前の大同盟は認めない! 他の勢力と同じく、尽く滅しようぞ――」
そう宣言した。
魔杖と魔線で繋がっているすべてのオベリスクが上昇を始めた。
――牽制に左手首の<鎖の因子>から<鎖>を伸ばす。
――<鎖>は<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒の表面を這い右端から飛び出て宙に弧を描きながら浮かぶハザルハードへ向かう――。
が、一つの巨大なオベリスクが衝突し、<鎖>は防がれた。
その<鎖>を操作せず消す――。
「ハザルハード様の邪魔をするな!」
バシュウがそう叫びながら突っ込んできた。
相棒が前進し、
「――にゃご!」
と気合いを込めた触手骨剣をバシュウに直進させる。
バシュウは「またか!」と言いながら大太刀の刀身を傾け、触手骨剣を弾く――。
バシュウは大太刀の刃の角度を変えた。
その刀身で相棒の骨剣を数度弾くと、床を蹴り、俺たちに体の正面を向けながら斜め横に跳ぶ。
軽快な動きのバシュウへと追撃の《氷矢》を数十と撃った。
バシュウは大太刀で左逆袈裟から右逆袈裟の水車斬りを連発――。
《氷矢》をすべて斬りつつ相棒の触手骨剣も弾く。
刹那、巨大なオベリスクの向きが変化した。
ハザルハードが<導魔術>系統で操っているんだろう。
と、その先端に嵌まっているダイヤモンドを思わせる魔宝石から無数の白光の稲妻が飛来してくる。
不意打ち――。
即座に、その白光の稲妻を魔槍杖バルドークと<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒で防ぐ。
大きな駒を盾に利用しながら横へとステップを踏んで避けた。
ドドッという雷鳴が遅れて響く。
「我らのハザルハード様はすべてを統べる偉大な存在! ひれ伏すがいい――」
バシュウがそう発言。
その間にも、再び飛来してきた白光の稲妻を<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒で防ぐ。
「ンン――」
相棒も、オベリスクから依然として飛来してくる白光の稲妻を跳ぶ方向に気を付けながら避け続けていた。
白光の稲妻は、天守閣の壁や床に擬宝珠の柱と連続的に衝突。
床と壁の燃焼が始まる。
擬宝珠の柱は倒れた。
「うははは――」
俺たちの様子を見たバシュウが喜んでいる?
そのバシュウを見たら、体の鰭に避雷針の如く白光の稲妻を受け続けて、動きが加速していた。
白光の稲妻は、ハザルハードの援護魔法でもあるのか。
バシュウは稲妻の魔力を得て加速しつつ大太刀の切っ先を俺と相棒に向けながら、稲妻を蓄えているようにも見える煌びやかな鰭から大量の骨牙を発してきた。
――飛び道具の骨牙は白光の稲妻を抜けてくる。
骨牙はハザルハードの白光の稲妻の影響を受けるどころか恩恵を得ている?
バシュウはトゲトゲ状の鱗刃も体から射出し始める。
「喰らえ――」
その骨牙と鱗刃の連射攻撃を――。
大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で防ぐ。
――衝撃が凄まじいが、防ぐだけなら余裕だ。
「チッ、なんて防御力を持つ召喚物だ。その『八咫角』に『魔界九槍卿』と『風槍流』は、シュウヤの持つ称号か!」
そう聞くように叫んできたバシュウは、体から骨牙と鱗刃を繰り出し続けると――右に移動。
そのバシュウ目掛け、左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出した。
バシュウは横に素早く動いて<鎖>の先端を避ける。
直ぐに<鎖>のティアドロップの先端を左へ動かし、その避けたバシュウの頭部へと向かわせる――。
バシュウは頭部に迫った<鎖>を下から斬るように大太刀を少し上げた。
刃で<鎖>を器用に上に弾く。と、体中に生えている鰭の角度を調整。
その鰭から、再び無数の骨牙を俺たちに繰り出してきた。
骨牙によって<鎖>は持ち上がり続けていくから消去。そして、百八十度の視界を埋める勢いの骨牙を見ながら<黒呪強瞑>を発動――同時に<血魔力>を体から発した。頭上の血の錫杖から振動が起きる。
鐶から音が響いた。
更に<武装紅玉・アムシャビス>を強く意識――。
<武装魔霊・煉極レグサール>を使う――。
目の前に出現した真っ赤な煉極大剣レグサールが血の錫杖と魔線で繋がる。
ほぼ同時に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒を少し右上に移動させ、前方に空きスペースを作りつつ<煉極短剣陣>を用いた――。
真っ赤な煉極大剣レグサールは一瞬で点々とした血飛沫状になってバシュウに向かう。
その血飛沫が変化した無数の赤い短剣が――バシュウが繰り出した骨牙と鱗刃を正確に貫き、迎撃した。そのまま無数の赤い短剣の<煉極短剣陣>が宙空を突進――。
「くそが、なんだ、その赤い短剣の群れは――」
バシュウは大太刀を振るいまくりながら後退しつつ<煉極短剣陣>の赤い短剣を斬っていく。
が、<煉極短剣陣>の勢いは止まらない。
バシュウは大太刀で∞の軌跡を宙空に描くように振るうが、<煉極短剣陣>の赤い短剣全ては対処できず――。
次々と、バシュウの体に赤い短剣が突き刺さっていく。
「グアァァ――」
バシュウは体から血飛沫を発しつつ螺旋回転しながら吹き飛ぶ。そのまま天守閣の岩壁と衝突したが、倒れない。
赤い短剣は血のような点々とした魔力粒子となって<武装魔霊・煉極レグサール>の幻影を発して戻ってきた。
バシュウはハザルハードの操作する無数のオベリスクから放たれている白光の稲妻を体に浴びて鰭が輝くと、傷が回復した。
「ハザルハード様、ありがとうございます――」
礼を言いつつも、体から骨牙を繰り出してくる。
その骨牙を<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で防ぐ。
右手の魔槍杖バルドークで追撃に出ようとしたが――。
ハザルハードの周囲に浮かんでいるオベリスクの群れから、次々と白光の稲妻が飛来してきた。相棒にも白光の稲妻が向かう。
「――相棒、遠距離攻撃がキツイなら、俺のところに来い――」
「ンン、にゃお~」
黒豹が左側から俺の背後に回り込んでくる。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の大きな駒で、白光の稲妻と骨牙の遠距離攻撃を防いだ。衝撃と音が凄まじい。
反撃に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の角度を変えつつ――。
相棒と共に横へ走りながらバシュウに向けて<鎖>を射出――。
黒豹は右前に出た。
白光の稲妻を避けながらも――。
バシュウに向け触手骨剣を繰り出しているのが見えた。
バシュウは大太刀で、俺の<鎖>と黒豹の触手骨剣を弾く。
と、体から鱗の形状の細かな魔力を放出させた。
――独自の<魔闘気>か。
バシュウの体がブレると一気に加速する。
黒豹が白光の稲妻を避けつつ連続的にバシュウに向けて繰り出している触手骨剣を余裕の間で避け始めた。
触手骨剣が突き刺さった床は剥がれる。
バシュウと黒豹の足場がなくなるようにも見えた。
すると、白光の稲妻の遠距離攻撃が急激に減る。
さすがに魔力切れか? と思ったが、四角柱のオベリスクの先端部にあるダイヤモンドのような魔宝石の魔力は更に高まっていた。
遠距離攻撃を少し抑えたハザルハードは複数の巨大なオベリスクを従えながら灰色の砦の天守閣を突き抜ける――天井の崩壊が始まった。
が、その崩落が始まった途端、バシュウは嬉しそうな表情を浮かべて、
「はははは――成った! 魔皇ローグバンド様に愚王バンサント様の力を得たハザルハード様は無敵だ!!!」
そう叫ぶ。
天井の素材は、木材と針金に分厚い石材も使われているが、それらが落下。
俺と相棒にバシュウにも落下してくる。
黒豹は、バシュウへの攻撃を止めて、無数の触手骨剣で乙の字を宙空に作るが如く――己の体を守るように触手骨剣を展開させながら、「ンン――」と鳴いて俺の傍に寄ってきた。
そんな相棒の近くに巨大な瓦礫が落下してきた。
相棒なら大丈夫だと思うが――。
相棒を守るように<血鎖の饗宴>を斜め上に展開させる――。
無数の血鎖の群れで、巨大な瓦礫を溶かすように粉砕した。
一方、笑っていたバシュウは、背中の鰭を伸ばし上下に拡大させる。
一瞬で鰭は両腕と背中と両足だけを覆う外骨格と骨の翼のような物を造り上げた。
第二の体的な外骨格と骨の翼で落下してきた瓦礫を防ぐのかと思ったが――骨の翼から煌びやかな魔力が宙空に展開される。
その骨の翼から迸る魔力で落下してきた瓦礫を砕くように燃焼させた。
体の背後に分厚い外骨格と魔力を放つ骨の翼を得たバシュウはハザルハードの下に向かうように飛翔していく。
「ンン、にゃ」
相棒の声に合わせて<血鎖の饗宴>を終わらせた。
即座に黒豹は姿を大きい黒猫に変化させると、空に向け「にゃごぁぁぁ」と紅蓮の炎を吐いた。
黒猫の四肢が踏む床が崩れたが、黒猫は素早く横に移動して、空に紅蓮の炎を吐き続けた。
バシュウとハザルハードに相棒の紅蓮の炎が向かう。
ハザルハードは目にも留まらぬ速度で真上に飛翔――。
巨大なオベリスクを従えているハザルハードは迫力がある。
二つの腕と半透明な腕を動かしながら――。
足下の宙空の、□と◇を合わせた八角形の隅の位置に巨大なオベリスクを並べた。そのオベリスクの先端に嵌まるダイヤモンドのような魔宝石から魔力が迸る。魔宝石同士が魔力で繋がった刹那、宙空に巨大な八角魔法陣が生成された。魔法陣に描かれている魔法文字は少し理解できたが、神々の力を自分に作用させるスペシャルなモノか――。
――<古代魔法>の類いだ。
ハザルハードは、その八角魔法陣で紅蓮の炎を防ぐ。
バシュウは骨の翼から放出した煌びやかな魔力で自らを包み紅蓮の炎を防ぐ。
「ロロ、空に出る」
「にゃ」
大きい黒猫のロロディーヌは、口の中に炎を吸い込むように収斂させた。
左手に神槍ガンジスを召喚――。
崩落が激しい天守閣の床を蹴って高々と跳躍を行う。
バシュウに斜め下から近付いた。
<柔鬼紅刃>の効果で紅斧刃になっていた穂先を嵐雲に似た穂先に戻す。
すると、<血想槍>で操っているようにも見える血の錫杖から<血魔力>が俺の周囲に散った。
その血は右手の魔槍杖バルドークが唸り声を発して吸い寄せていった。
――<血道第四・開門>を意識。
――<霊血装・ルシヴァル>。
――<武装紅玉・アムシャビス>。
――<魔闘術の仙極>。
――<ルシヴァル紋章樹ノ纏>。
――<龍神・魔力纏>。
――<経脈自在>。
――<滔天内丹術>。
――<ザイムの闇炎>。
――<空の篝火>。
などのスキルと恒久スキルを発動――。
<空の篝火>の効果で目映い紅の光が前方に発生。
バシュウは双眸の色合いが変化。
「ぬぁぁ――」と奇声を発して、骨の翼を拡げながら両手持ちの大太刀の切っ先を差し向けてきた。
<水雅・魔連穿>を発動――。
※水雅・魔連穿※
※水槍流技術系統:烈槍級独自多段突き。亜種を含めても極少数※
※<刺突>系に連なる独自多段槍スキル。水属性が多重に付加され物理威力が上昇。水場の環境に限り体躯の踏み込み速度と槍突速度が上昇し、三連続の多段突きとなる※
闇炎と血を纏う神槍ガンジスと魔槍杖バルドークの連続の突きが――バシュウの大太刀の切っ先と剣身を数回弾く。
そのままがら空きとなったバシュウの胸と腹を穿つ。
バシュウは仰け反り、
「グアァァ」
と悲鳴を発して後退するが、外骨格の重さと骨の翼を活かし反転すると、
「<我魔刀断>――」
左手一本で握る大太刀を振り下ろしてきた。
紫電を思わせる速度の剣術スキルで俺の右腕を狙う。
――同時に体から骨牙と刃状の鱗を飛ばしてきた。
<血霊兵装隊杖>と<霊血装・ルシヴァル>で、それらの骨牙と刃状の鱗をすべて弾いた。
――螻蛄首を握った魔槍杖バルドークを斜め上に上げた。
嵐雲に似た穂先で大太刀を防ぐ――。
衝突した大太刀の刃と嵐雲に似た穂先から凄まじい量の紫の火花が散った。俺とバシュウを弾き飛ばす勢いの火柱となったが、なんてことない――同時に左手の神槍ガンジスで<塔魂魔突>を発動――。
前方に展開していた<空の篝火>の紅の光が神槍ガンジスに集約していく。
※塔魂魔突※
※塔魂魔流技術系統:基礎秘伝突き※
※上位系統は亜種を含めれば数知れず※
※霊魔系高位戦闘職業と<魔人武術の心得>が必須※
※『塔魂魔槍譜』の秘伝書を学ぶことにより獲得できるとされる※
※『勁』と『力』の槍と『八極魔秘訣』の『魔拳』は通じる※
※『雲心月性、不怕千招会、就怕一招精』※
※『槍が来たりて来たりて、呪われた狩りを行う善と悪の古き神々に関わることなく、胸に虚無宿ることなくアムシャビスの紅光が宿るように塔魂魔槍の『勁』と『力』が宿る。反躬自省のまま『八極魔魂秘訣』を獲得し『魔拳打一条線』を得るに至り『一の槍』を極め絶招に繋がる』※
――基礎秘伝突きの方天画戟と似た双月刃の穂先が、バシュウの体を捉え、鱗皮膚の腹を突き抜けると、ドッという重低音と虹を伴う紅色の衝撃波が発生。
バシュウの体は上下に破裂しながら散る。
血飛沫なども周囲に散った。
血が滴る錫杖が自然とその血飛沫を吸い寄せる。
ピコーン※<勁力槍>※恒久スキル獲得※
ピコーン※<無式・紅光一槍>※スキル獲得※
よっしゃ、バシュウは倒した!
が、まだハザルハードがいる。
右の空にいるハザルハードは、足下のオベリスクと魔法陣で相棒の紅蓮の炎を防ぎきり、両手を上げている。
「――愚王バンサント様と魔皇ローグバント様ァァ――」
そう叫ぶと、相棒の炎を防いだ魔法陣とオベリスクを上空に展開させ、
「――無数のともがらの体とグルハールとビュシエの体とアべンルの闇魂を、おおいなる贄に……ゲル・ハル・ベルア……エイフゥ……! その魂の問いに、今応えを、アルサブル……のお力ヲ――」
巨大な八角形の魔法陣に向けて呪文を唱えた。
更に、魔杖を天空に放り、魔槍を掲げた。
オベリスクが形成する八角魔法陣の中央で魔杖は止まる。
八角形の魔法陣が「ドッ」と鈍い音を響かせると、魔法陣がうねり、真上に放射状に魔線が迸る。
刹那、魔界セブドラの宙空が歪む。
八角形の魔法陣が魔界セブドラを吸収するような勢いで空間を歪め始めた。刹那、魔杖は崩壊。歪んだ空間は一種のポータルか?
その歪んだ空間にハザルハードは突進、と、ハザルハードは一瞬で巨大になった。その超大型巨人ハザルハードは、灰色の砦の上空にいる俺たちに向け、斬馬刀を振り下げてきた。
質量の違いからして威力は半端ないだろう。
痛いのはいやだ――。
足下に作った<導想魔手>を蹴って右に跳ぶ。
「ンンン――」
大きい黒猫の触手手綱を捕まえた。
そのままヘリコプターにぶら下がる特殊部隊の如く、黒猫と一緒に右に飛翔――。
超大型巨人ハザルハードが振るった斬馬刀が灰色の砦を両断。
その斬馬刀を振るい上げながら、超大型巨人ハザルハードは俺たちに巨大な魔斧を突き出してきた。
そこに沙・羅・貂が繰り出した魔刃が巨大な魔斧に衝突し、方向が大きくズレる。その影響で超大型巨人ハザルハードは体勢が崩れた。
振りあげていた斬馬刀も斜めに持ち上がり、近くの山を下から削った。
「ヌォォォォ――」
超大型巨人ハザルハードは怒ったのか、沙・羅・貂に振り向く。
「『名の知らぬ魔神よ、我が相手だ!!! ウォォォォン――』」
魔皇獣咆ケーゼンベルスが、その超大型巨人ハザルハードの脇腹に頭部から突っ込んでいた。
超大型巨人ハザルハードは体をくの字にさせながら、魔皇獣咆ケーゼンベルスのタックルの衝撃を殺そうとしたのか残っていた灰色の砦に手を伸ばしたが、まだ残っている灰色の砦は触れた大きな指によって一瞬で崩壊。
それを見ながら相棒の触手手綱を引っ張った。
「ロロ――」
「にゃお~」
触手手綱に引っ張り上げられ、巨大な黒猫の頭部に乗った。
続きは明日を予定。
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コミックファイア様からコミック「槍使いと、黒猫。1~3」発売中。




