千四話 光魔騎士グラドと馬魔獣ベイルの活躍と魔皇獣咆ケーゼンベルス
2022年10月25日 13:51 修正
毒大蛇セケムの頭部を魔槍で貫いたグラドは魔槍の穂先を引くように横に回し、魔槍の石突側の柄を毒大蛇セケムの胴体に衝突させて、頭部を失った毒大蛇セケムを仰け反らせる。
同時にグラドを乗せている馬魔獣ベイルは、
「ヒヒィーン」
と鳴き声を発しながら前進。
太い両前脚と両後ろ脚の蹄で頭部を失った毒大蛇セケムの体を踏み潰すように前進し踏み台にしながら駆けた。
前へ前へと躍動する馬魔獣ベイルとグラドの前方には細い樹が並ぶ。
樹の奥には魔素の反応があった。それらの細い樹が疎らに倒れる。
と、そこから新手の毒大蛇セケムが複数出現。それらの毒大蛇セケムが一斉に口を広げ「「ブシャァァァァ」」と毒液を吐いてきた。
馬魔獣ベイルは体から魔力を発し鬣を泳がせる。
毒々しいアメーバが降りかかってくるようにも見える毒液を見ても騎乗しているグラドと同様に馬魔獣ベイルは微動だにしない。
その馬魔獣ベイルは突如「ブブゥゥ――」と息を荒らげると、後ろに目があるように背後へと体がブレながら迅速に跳躍し、樹と樹の間をすり抜けるように退き毒液を避けた。
退いたグラドを乗せたベイルの方角から「<武勲ノ馬王速>――」とスキル名が谺すると、反転していたグルドを乗せた馬魔獣ベイルが直進――。
ランスチャージのような構えのまま右斜め前にいる毒大蛇セケムへと一瞬で近付いた。
まさに魔界騎士としての機動力のまま、朱色と銀色が混じる魔槍が前に伸びた刹那、
「<魔皇愚穿>」
グラドはスキルを繰り出した。
朱色と銀色が混じる魔槍の穂先が、毒大蛇セケムの頭部を貫く。
馬魔獣ベイルは、更に加速して突進し、<魔皇愚穿>で頭を消し飛ばされた頭なしの毒大蛇セケムの体を、馬鎧の胸元で弾き跳ばす。
グラドは馬魔獣ベイルの手綱を握っていないが騎乗バランスは崩れない。
そのグラドは、左斜め前にいる毒大蛇セケムの体に向け、左手で持つ長柄のような槌を振るう。槌は毒大蛇セケムの胴体を抉り潰した。
やや遅れてドッという重低音を轟かせると、その胴体が前に折れ曲がったように毒大蛇セケムの頭部が突っ伏した。
その前に倒れた毒大蛇セケムを馬魔獣ベイルの前脚の蹄が捉えて潰す。
両前足の蹄が大きくて強力な武器になる馬魔獣ベイルだ。
そんな馬魔獣ベイルを操るグラドの魔界騎士、光魔騎士の動きを見ながら――四十五度の方角に現れた毒大蛇セケムを凝視し、その毒大蛇セケムへ左手首を差し向けた。
左手首の<鎖の因子>マークから<鎖>が、シュッという音と共に直進。
ティアドロップの形をした先端が、新手の毒大蛇セケムの頭部をぶち抜いた。
<鎖>は樹の枝と背後の幹をも貫いた。
その樹を貫いた<鎖>をぐわりぐわりと回し、大きい樹の幹に何重と絡ませた<鎖>を上方へと動かし、左手首の<鎖の因子>へと少しだけ収斂させながら一本釣りの如く大きい樹を引き上げ、ドッと重低音を響かせながら根っこごと大きい樹を引き抜いた。
その大きい樹を、近くにいたリベーラの魔猿たちへと放った。
リベーラの魔猿たちに樹を衝突させようとした。
「「「ブアァァァ」」」
放った樹は直ぐにリベーラの魔猿たちの太い棍に粉砕された。
が、牽制にはなった。バーソロンの炎の紐とツアンの光るククリ刃から繰り出された<血甲光斬糸>がリベーラの魔猿たちを輪切りのように切断して倒していく。
その様子を見ながら左手首の<鎖の因子>マークからピアノ線の如く伸びている<鎖>を消した。
退いていたグラドを乗せたベイルは再び前進し、ツアンとバーソロンたちの頭上を越えて、大きい樹の幹に四肢を衝け、反動を活かして宙を高々と越える。
「ンン」
俺の肩で皆の動きとグラドとベイルの動きを注視していた相棒も唸るような印象の喉声を発した。
グラドとベイルの機動は数度見ているが、見事な機動だ。
騎兵が森林地帯で躍動とか――。
轡と繋がる手綱や馬具が時折半透明となっていた。
毒大蛇セケムの口と牙は大きく、色合いが漆黒と小麦色。
牙の基部の唇腺と、その大きい牙から垂れている黄色と紫色が混じった粘液のような毒液が触れた地面は焼け焦げたような煙を発して、腐臭のような臭いを周囲に発していた。
毒大蛇セケムは渋い色合いの牙だが、毒の色合いはヤヴァいし、その毒の威力も高い。
先ほども数度俺たちに向けて、大きい牙から毒液を吐いてきたが、触れた樹が溶けるように消えていた。
ま、毒を吐く前に、<鎖>を射出――。
再び、<鎖>を射出。
ゼメタスとバーソロンの右斜め前にいた毒大蛇セケムの頭部をヘッドショット。
俺の<鎖>を含めた皆の攻撃で――大概のモンスターは沈むが――。
【ケーゼンベルスの魔樹海】の奥に向かうほど、モンスターの出現頻度が高まってきた。
開けた場所から毒大蛇セケムの大群が現れる。
騎兵らしく先陣を切っていた光魔騎士グラドを見ていたヘルメが、
「右側はわたしが守ります」
「ありがとうございます――」
ヘルメの《水幕》がグラドの右側に展開される。
やや遅れて、
「左側は俺が――」
「ンン」
ベイルに騎乗するグラドの前に出た。
相棒は子猫の姿で俺の肩に乗っていたが、後方に跳躍して俺から離れた。
黒馬としてベイルの動きを見たいんだと思うが、遠慮している?
相棒なりにグラドとベイルの動きを見て、馬魔獣の動きを勉強しているのかな。
そう考えながら小さい鎖状の無数の稲妻菱の絵柄を意識しつつ――。
左側の空域に<血鎖の饗宴>のカーテンを展開させる。
飛来してきた毒液を浄化するように毒液の波を俺の<血鎖の饗宴>とヘルメの《水幕》が防いだ。
「陛下! すみません!」
「なあに、余計なことだと思うが、いつものことだ、気にするな――」
「ハッ」
グラドを越えた俺は――。
<血鎖の饗宴>の出力を強めながら毒大蛇セケムが多い左側に直進。
そのまま複数の毒大蛇セケムを血鎖の大海で屠りまくる。
「「「おぉぉ」」」
「閣下に続けぇ!」
「精霊様の加護があれば我らは無敵なり!!」
「――陛下の<血魔力>は変幻自在なのか!」
「バーソロンの姐さん、旦那に見蕩れすぎですぜ――」
「「「シュウヤ様に続けぇぇ!」」」
「ふっ――すまない――」
「ふふ、気持ちは分かります――」
皆の声が響く右側を見る。
宙空で《氷槍》を繰り出すヘルメの下でデラバイン族の兵士たちが躍動している。
ベイルとグラドの動きを注視。
馬上槍武術と槌武術に――徒歩に移った槍と槌の扱いは参考になる。
<刺突>系のスキルを使用した後、魔槍を引く。その隙を逆に利用するような体を横にずらす機動から体を左に開く<豪閃>系の薙ぎ払いをリベーラの魔猿に喰らわせる。
見事な一閃。
と、俺も殲滅戦に参加しよう――。
《水流操作》で<生活魔法>の水を足下に展開させて滑るように前方に移動しながら壊槍グラドパルスで普通に<刺突>を繰り出し、リベーラの魔猿の太い棍ごと腕と胴体を穿ち倒す。
普通に<闇穿・魔壊槍>を使ったらどうなるのか、試そうと思ったが、皆ががんばるから、俺と相棒が倒そうと思った敵は直ぐに倒されてしまった。
ま、いいか。
【ケーゼンベルスの魔樹海】の奥から次々に現れるモンスターたちを順調に倒しながら開けた森を越えたところで温度が下がる。
斜面が多くなった。山か。
〝列強魔軍地図〟にあった地形通り。
小川があり、苔が生えた岩も多くなる。
ケヤキも転がっていた。
「水気は、この小川からでしたか」
「ンンン――」
「あ、ロロ様が小川に、先には滝か大きい泉もあるかもですね。水精霊ちゃんがいっぱいいて、私に話しかけてきています」
「……精霊様は不思議ですな。しかし、渓流、位置的に待ち伏せには好都合ですな」
「……旦那はたぶん、テーバロンテの支配を退け続けていたこの森の支配者と対面したいんだと思うぜ」
「なるほど……」
「陛下、【ケーゼンベルスの魔樹海】ですが、このまま北に進めば【ローグバント山脈】の方角です。そして、ここはもう魔皇獣咆ケーゼンベルスの領域、要注意かと」
「了解」
皆の言葉通り、周囲は山間部で渓流だ。
黒猫は川辺に寄って魚を探し中。こういうところは昔から好きだからな。
岸辺を北に越えた先は光り輝く樹と背丈の高い樹に大きな岩場が疎らに並ぶ。
樹と樹の間から青空を覗かせていた。左の山から流れた小川が足下に流れている。
白い花を咲かせた草花は綺麗だ。
透き通った小川は魔界セブドラとは思えない。ここは神界セウロスかセラの自然に思える。そして、白い花はワサビのような山菜か? 緑豊かな自然は左側に多い。
すると、膨大な魔力を察知。
そこは大きな岩場、と、ぬらりと、岩場の上に巨大な黒狼が姿を見せた。膨大な魔力を有した巨大な黒狼は、威圧感が半端ない。
稲妻を帯びた双眸の眼力が凄まじい。
続けて、複数の魔素を察知。
岩の周囲に複数の狼が姿を見せた。
「ンン、にゃお~」
相棒は見上げて、岩の上にいる巨大な黒狼を見ながら挨拶している。
巨大な黒狼と狼の群れか……。
「『我の森を汚すモノ共……そこから前に入るな……』」
「……陛下、あれが……魔皇獣咆ケーゼンベルスです」
続きは今週
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コミックファイア様からコミック「槍使いと、黒猫。1-3」発売中。




