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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1000/2031

九百九十九話 魔界王子テーバロンテ討伐と<血道第五・開門>

 壊槍グラドパルスは螺旋回転を続けながら白んでいる異空間の前で止まったまま。

 洞窟的な空間だと思うが……。


『器よ、狭間(ヴェイル)の穴の現象かもしれん、気を付けろ。しかし、器の体は大丈夫なのだな?』

『大丈夫だ。そういう沙たちは大丈夫なのか?』

『一瞬、暗闇となった。不安を覚えたが、妾たちは生きている』

『『はい』』

『主、我は一瞬感覚を失った』

『シュレもか。皆すまんな。左半身を失えば、いや左手を失えば、皆の感覚も消えるってことか。そして、左手が復活したら皆の感覚も復活するようで良かった。痛かったが、俺の弱体化対策の勉強にもなった。貴重な体験を得られたと前向きに考えよう』

『ふっ、器らしい』

『ふふ、はい!』

『前向きなところが好きです!』

『……我も』


 貂とシュレから然り気無い告白をされて嬉しかった。

 澄まし顔となっているかもだが――。

 <神剣・三叉法具サラテン>とシュレゴス・ロードとの思念会話を終える。


 すると、異空間の洞窟の奥にいるだろう誰かが騎乗している黒馬が此方側に走り寄ってくる。


 影絵的なアニメーションだ。

 洞窟のような空間を走る誰かを乗せた黒馬らしき動物だったが……。

 一向にこちら側との距離は縮まる気配がない。

 

 狭間(ヴェイル)の穴というのが本当なら、吸い込まれたらヤヴァいと分かる。


 が、まだ魔界王子テーバロンテは生きている。

 血魔剣を左手に召喚し直して、<脳脊魔速>を終了させた。


 戦闘型デバイスから複数の魔力回復ポーションを取り出す。

 蓋を囓り飛ばしてから中身を飲んだ。


 足下に来た小さい黒猫(ロロ)にもあげよう。

 膝で地面を突いて、姿勢を下げてから――。

 蓋を開けた魔力回復ポーションを黒猫(ロロ)の口に近づけた。


「ロロ、飲めるか?」

「にゃ」


 黒猫(ロロ)は舌を見せるように口を上向かせる。

 その口へとポーションを傾け少しずつ中身を注いで上げた。


 ポーションを飲んだ黒猫(ロロ)は、黒豆のような先端の触手が持つ魔雅大剣を引きずっている。


「ロロ、壊槍グラドパルスと異空間の現象を見ててくれ。だが、狭間(ヴェイル)の穴かもしれないと沙が思念で言ってたから、かなり離れた位置でな」

「ンン、にゃ?」


 黒猫(ロロ)はテーバロンテがいるほうを見る。


「あいつは俺が倒す」

「ンン、にゃお」


 納得したのか黒猫(ロロ)は黒虎へと姿を大きくさせると、魔雅大剣を持つ触手を首下に収斂させる。


 頭部を斜め下に突き出し、触手が収斂された反動で戻ってきた魔雅大剣の柄巻を上下の歯でガブッと噛んでから柄巻を咥え直して、魔雅大剣の剣身を回転させて切っ先を上向かせた。


 魔雅大剣の扱いが格好いい。

 黒豹ロロディーヌに神獣大剣師という戦闘職業をプレゼントしたくなった。


 その黒豹(ロロ)はバーヴァイ城のほうに後退してくれた。

 

 同時に血魔剣に<血魔力>を送る。

 血魔剣から吸血王の証明と言わんばかりに剣身と髑髏の柄から血の炎が迸った。


 外から見たら、剣身と髑髏の柄から迸る血の炎は、血の十字架に見えることだろう。

 

 魔界王子テーバロンテの魔素反応へと駆けた。


  魔界王子テーバロンテは、百足が構成する魔法陣の上で復活を遂げた。

 双眸は六つ、縦に三つ並んだ眼球の位置に変わりはない。


 しかし、魔界王子テーバロンテの左半身は人族に近い魔人であり、二本の腕と片足は正常な形をしている。

 一方、右半身は外骨格に覆われ、歩脚を持ち、腕は太い触腕で無数の小さなイボと陰茎骨のような器官が生えており、不気味な印象を与える。片足は伸縮自在であるように見え、全体のバランスが悪い。


 魔界王子テーバロンテの周囲の宙空には、カブトムシに似た魔虫が集結し、彼を取り囲むように浮遊している。


 魔界王子テーバロンテは、その魔虫を次々と体内に取り込んでいく。


 魔虫を体内に取り込むたびに、彼の体力と魔力が増強されているようだが、魔界王子テーバロンテはかなり疲弊した状態か。


 最初の頃の魔力内包量とは比較にならないほど、現在の魔力は減少している。

 魔界王子テーバロンテが大きな翅から作り出していた斜陽の光源は、完全に失われている。

 体力、魔力、精神力を大きく消耗したことが、その様子からうかがえる。 最初の頃の魔力内包量とは雲泥の差。

 魔界王子テーバロンテが大きな翅から作り出していた斜陽の光源はすべて失われている。

 体力、魔力、精神などを大きく消費したと分かる。


 魔力の巡りも悪く見えた。ま、当然か。

 相棒と俺との空中戦にトースン師匠の攻撃と《氷竜列(フリーズドラゴネス)》と《王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤード》の魔法に<闇穿・魔壊槍>も喰らった。


 <魔皇ラハカイネ・召喚憑依>という必殺技らしきスキルも使用した魔界王子テーバロンテだ。


 神格を失ったかは不明だが、相当に消耗しているはず。

 そんな魔界王子テーバロンテの左右の地面には、魔鎧を着た百足と人族が融合したような二人の魔族が片膝を地面につけた状態で待機している。


 魔界王子テーバロンテが召喚したのか、体から生み出したのか……。

 

 その魔界王子テーバロンテは魔人側の下腕を上げる。


 手に蒼い片手半剣の魔剣が召喚された。

 

 魔界王子テーバロンテは魔剣の切っ先を俺に向け、


「我をここまで追い詰めたのはお前が初めてだ……が、我は」


 そう喋った魔界王子テーバロンテは、


「ドセマルモ・バリハラー。エギ・バリハラー。あの魔槍使いを仕留めるぞ」

「「はッ」」


 テーバロンテの声に合わせて返事をした魔鎧を着た魔族たちが立ち上がる。

 

 ドセマルモとエギは、長い骨のような棍を右手で握る。

 

 両者の左腕は長い骨刃で、手はなかった。


 二人は頭部に魔力を集中させると、硬そうな甲皮が額から頭部全体へと拡がって兜となった。

 その兜の前立ては鍬形(クワガタ)で、戦国武将を思わせる。

 額と魔鎧の胸元には魔界王子の紋章のような絵柄が刻まれていた。


 親衛隊長のメヌーアとはまた違う直の眷属か?

 すると、指輪の<武装魔霊・紅玉環>の表面に下半分の単眼球体が嵌まっているように見えるアドゥムブラリが、


「あの百足系の魔族は、百足魔族デアンホザーとは異なる見た目だが、テーバロンテの直の眷属だろう」


 と額に刻まれているAの文字が輝いているアドゥムブラリが教えてくれた。

 念の為、その魔人と魔界王子テーバロンテの様子を窺いながら――。

 

 血魔剣の血の十字架を思わせる髑髏の柄を掲げ<血魔力>を強めた。

 すると、柄の左右と剣身から放出されている血の炎が強まった。


 その血の炎からブゥゥゥンという音を響かせてくる髑髏の柄越しに、


「覚悟はいいか、テーバロンテ」


 右手に聖槍ラマドシュラーを召喚。


「――テーバロンテ様に対して不遜なり!」

「異質な神界の戦士めが、陛下を愚弄するとは許せぬ!」


 ドセマルモとエギが左腕の骨刃を掲げながら前進。

 その左腕の骨刃から魔刃が飛び出てきた。


 <滔天仙正理大綱>を強めて――。

 ――<滔天内丹術>。

 ――<龍神・魔力纏>。

 ――<四神相応>。

 ――<朱雀ノ纏>。

 スキルを連続発動――。


 肩の竜頭装甲(ハルホンク)も、


「ングゥゥィィ!」


 と唸り声で呼応してくれた。

 防護服は一瞬で<四神相応>の朱雀に似合う姿に変化。


 同時に棒手裏剣と手裏剣が多数装着された朱雀を模した装備が左腕の袖から出る。


 更に、俺の精神と融合している四神の朱雀が『グォォォォ』と荒ぶる神気と思念を寄越してきた。


 その四神の朱雀に魔力を吸われた代わりに活力のような神気の力を得るがまま、目力を強めるように<仙羅・幻網>と<滔天魔瞳術>を発動――。


 双眸から<仙羅・幻網>の魔力の網が前方に迸った。


 ――<仙羅・幻網(魔力の網)>はドセマルモとエギが繰り出した魔刃を通り抜ける。


 ※仙羅・幻網※

 ※仙羅流<仙魔術>系統:仙技:羅仙瞑道百妙技※ 

 ※三叉魔神経網が必須※

 ※使い手の周囲に仙羅の幻の網を生成し、敵を捕縛する幻を見せながら実際に魔力の網で捕縛が可能なスキル※

 ※羅仙族、仙羅族の羅仙瞑道百妙技の一つ※

 ※水属性と魔技系を軸とした高位能力or高位戦闘職業が求められる※


 ※滔天魔瞳術※

 ※滔天仙流系統:独自瞳術スキル※

 ※戦神イシュルルの加護が必須※

 ※使えば魔力を消費、魔力と精神力の更なる消費で効果が高まる※

 ※視覚器を有したモノが<滔天魔瞳術>を喰らうと一定の確率で麻痺し、精神耐性が低い場合は直ぐに麻痺する※

 ※防御方法は無数に存在※


 最初に飛来した魔刃目掛け左腕を振るい、魔刃に当てるように袈裟懸けの<黒呪仙炎剣>を繰り出した。魔刃を豪快に闇の炎で燃やすように真っ二つ。

 やや遅れて飛来した魔刃は――。

 右腕と右肩がやや前に出る風槍流『華厳突き』の槍突きのモーションから聖槍ラマドシュラーの穂先の<光穿>が穿った。


 <滔天魔瞳術>を喰らったドセマルモとエギは体が硬直――。

 そのドセマルモとエギを<仙羅・幻網>の魔力の網が捕縛した。


「「――な!?」」


 魔界王子テーバロンテは「<三魔眼防壁>――」を発動。

 スキルか魔法で、俺の<仙羅・幻網>と<滔天魔瞳術>を防ぐと、左斜め後方に下がりながら「この状況下で、魔力と神気を更に上昇させてくるとは、驚きだ――」と発言。


 その魔界王子テーバロンテとドセマルモとエギに向けて歩きながら――。

 聖槍ラマドシュラーの柄を傾けた瞬間――<朱雀閃刹>を発動――。

 

 袖と腰から棒手裏剣と手裏剣が多数装着された装備が急回転しながら前方に伸びるや否や、その装備から棒手裏剣と手裏剣が高圧ガスで噴出されたように連続的に射出されていく。


 宙を劈く勢いの<朱雀閃刹>の棒手裏剣と手裏剣の群れの真上に迦陵頻伽(かりょうびんが)のような朱雀の幻影が出現。


 その直後、<朱雀閃刹>の棒手裏剣と手裏剣の群れがドセマルモとエギと衝突。

 ドセマルモとエギの魔鎧は一瞬で破壊された。二人の体は蜂の巣と化しつつ吹き飛ぶ。

 ドドドドッと重低音を轟かせながら得物の魔棍も上空に弾け飛ぶ。

 

 更に朱雀の魔力を内包した<朱雀閃刹>の棒手裏剣と手裏剣が、魔界王子テーバロンテがいた地面に突き刺さり大爆発。


 逃げた魔界王子テーバロンテに正中線を向けて前進――。


 魔界王子テーバロンテは地面の魔法陣に左の上腕と歩脚の一つを伸ばし魔法陣の中に浸透させて――左の上腕と歩脚を引き抜いた。


 その左の上腕には魔剣が握られていた。

 歩脚のほうは魔槍を握っている。

 新たな武器か。地面の魔法陣はアイテムボックスか?

 更に魔界王子テーバロンテは己の体の一部から百足の魔人を誕生させていた。

 魔法陣は爆発するように炎上する。

 

 その影響を受けても気にしない魔界王子テーバロンテと百足の眷族。


 そんな魔界王子テーバロンテと百足の魔人に対抗するため――。

 外魔十二鬼道が一つ、百目血鬼(どどめちき)を解放しよう。


 右手の聖槍ラマドシュラーを消去。

 左手が握る血魔剣を真上に掲げるように手放した。

 

 ――<血想剣>で血魔剣を浮かせる。


 その髑髏の柄を見ながら戦闘型デバイスを素早く操作――。

 銅貨を出し、指で銅貨を弾いた。


 ――左手の親指を囓り、その左手の親指も真上に放る。


 続けて肩の竜頭装甲(ハルホンク)の装備品の銭差的に連なる玄智宝珠札を外し、宙に放り、血と指と銅貨と玄智宝珠札を触媒にして、<血想剣>を解除。


 血魔剣を左手で掬うように柄巻を左手で握った直後――。

 <十二鬼道召喚術>を発動した。


「百目血鬼、出ろ――」


 複数の目を持つ両手で八枝剣を握った百目血鬼(どどめちき)が嗤いながら登場した。

 百目血鬼は、美しい黒髪を泳がせるように身を反らし、

 

「――<血外魔の魔導師>の主よ。血肉と銭の分の働きはしよう」


 百目血鬼の腕に宿る複数の目は、俺の指と血に玄智宝珠札と硬貨を欲するがまま、吸い込んだ。


 百目血鬼は血飛沫を背中から発しながら片手が握る八枝剣を振るい――。

 切っ先を壊槍グラドパルスに差し向ける。


 そして、八枝剣を魔界王子テーバロンテたちに向け直すと、


「――外魔ノ血ヲ刻ム主。銭と異質な札と血は、しかと承った。彼奴らを処分するのだな」

「そうだ。壊槍グラドパルスではなく、魔界王子テーバロンテとその眷族だ。半身が魔人のほうが魔界王子テーバロンテで、魔力の桁が違うように強い存在だ。テーバロンテは俺が受け持とう。百足の眷族のほうを頼む」

「承知」


 百目血鬼(どどめちき)を置いて前に出る。

 

 魔界王子テーバロンテは右側に跳ぶように移動を繰り返す。

 百足の眷族は直進してきた。両手に魔槍を持つ。

 この百足の眷属も強そうだ。

 親衛隊長のメヌーア並みに動きが速く、百足魔族デアンホザーよりは確実に強い。

 その百足の眷族は無視し――魔界王子テーバロンテを追った。


 すると、


「お前の相手は妾だ――」


 と、百目血鬼(どどめちき)が放ったであろう濃密な魔刃が百足の眷族に向かう。百足の眷族は槍の構えを下段構えに変えていた。

 構わず、右手に聖槍ラマドシュラーを召喚し直す。


 <仙魔・桂馬歩法>を実行――。

 百足の眷属から逃げるわけではないが、逃げるように斜め前方に跳ぶように移動――。

 

 魔界王子テーバロンテに近付いた。


 魔界王子テーバロンテは逃走を止める。

 気勢を体に漲らせるように左の上腕と下腕が持つ魔剣と歩脚の一つが持つ魔槍を構えながら前進してきた。


 テーバロンテは三つの魔眼を煌めかせ、


「ヌゴオァッ! 神界の手先めが!」


 右半身の歩脚の一つが持つ魔槍を突き出してくる。

 魔槍の魔力の幻影が魔槍の上下に生まれ出る突きスキルか。


 足下に<生活魔法>の水を撒きつつ<水月血闘法・水仙>を実行。

 血の分身を纏う左足の踏み込みから――。

 突きのモーションを取る。

 コンマ数秒、間を空けた。


 刹那、血魔剣を下手投げで<投擲>――。


「!?」


 即座に<血魔力>を纏わせた聖槍ラマドシュラーで<龍異仙穿>を繰り出した。

 

 ※龍異仙穿※

 ※龍異仙流技術系統:上位突き。上位系統は亜種を含めて数知れず※

 ※龍神族が愛用する<刺突>に連なる龍神槍スキル※

 ※使い手が扱う槍に、<龍神・魔力纏>、<火焔光背>、<魔闘術の心得>、<旭日鴉の導き>などの効果が宿る※


 血の龍を放出させる聖槍ラマドシュラーの穂先と、テーバロンテの歩脚が持っていた魔槍の穂先が合致するように衝突。


 聖槍ラマドシュラーから放出されていた血の龍はテーバロンテの魔槍の上下に生み出されていた魔槍の幻影と衝突――。


 続けざまに俺の血の分身からも迸っていた血の龍もテーバロンテの魔槍から発生していた上下の幻影と衝突していた。

 

 刹那、テーバロンテの魔槍の上下に発生していた幻影の魔槍は罅割れて砕け散る。

 

 ほぼ同時にテーバロンテの歩脚が持つ魔槍の穂先が異常に振動。

 テーバロンテの歩脚に聖槍ラマドシュラーから出ていた血の龍が喰らい付くと、爆発して弾け飛ぶ。

 そのまま血の龍が四方に迸る聖槍ラマドシュラーの穂先が右半身の歩脚の一部を貫いた。


 同時に<投擲>した血魔剣がテーバロンテの左足の甲に突き刺さる。

 

「<魔皇・威刃槍>がッ、構うか――<魔皇・魔風連速刃>」


 テーバロンテは、血魔剣が突き刺さって燃えている足の一部を百足に変質させつつ裂帛の魔声と共に前進――左半身が、右半身の外骨格を押しのける勢いで上腕と下腕がブレた。


 二筋の閃光が走るような袈裟斬りを繰り出してくる――。

 その袈裟斬りの<魔皇・魔風連速刃>目掛け――。

 左手に召喚した雷式ラ・ドオラで<光穿>を迅速に突き出した。

 紫電一突の雷式ラ・ドオラが上腕が握る魔剣の<魔皇・魔風連速刃>と衝突、やや遅れて、下腕が握る魔剣の<魔皇・魔風連速刃>が雷式ラ・ドオラの螻蛄首と衝突した。


 ――左手が握る雷式ラ・ドオラ一本で<魔皇・魔風連速刃>を防ぐことに成功。


 同時に<導想魔手>でテーバロンテの足を穿った血魔剣を握る。

 そのまま<導想魔手>が握る血魔剣で<蓬茨・水月夜烏剣>を迅速に繰り出した。

 突き軌道の血魔剣がテーバロンテの胸元に向かう。


「なんだ、その魔手は――」


 真っ直ぐ突き出た血魔剣から血の月が四方に散る。

 体を横に動かしたが、反応が遅れた魔界王子テーバロンテ。


 <蓬茨・水月夜烏剣>の血魔剣の切っ先がテーバロンテの右半身を貫いた。


「――げぇ」


 呻くテーバロンテは身を退きつつ体から魔虫と閃光を放ち、迅速にその魔虫の効果で胸の傷を回復させると、左半身が蠢いた。

 外骨格を纏い直したような姿で四手と二足になるが、隙だらけだ。

 そして、魔力も消耗度が高いと窺い知れた。

 <導想魔手>が握る血魔剣を振るうフェイク――。

 続けざまに両手の武器を消し、重心を下げつつの左足の踏み込みから――。

 両手に聖槍ラマドシュラーを召喚――。

 その聖槍ラマドシュラーで、魔法陣の盾を生み出しているテーバロンテに――。

 

 <戦神震戈・零>を繰り出した。


 ※戦神震戈・零※

 ※戦神イシュルル流:<神槍技>※

 ※戦神イシュルルの戈魔力が<戦神震戈・零>と化す※


 体から神意力を有した膨大な魔力が湧き上がる。

 俺自身から酒の匂いが漂うと、煌びやかな戈が出現し、前方の空間がその戈となったかの如く――。

 そのまま聖槍ラマドシュラーと共に自動的に前進、煌びやかな戈と聖槍ラマドシュラーの穂先が融合しつつ魔法陣の盾を貫き、魔界王子テーバロンテを貫いた。


 甲高い鐘の音が響く。

 テーバロンテの体は消えては回復を繰り返す。

 その度に、周囲にあったであろう魔法陣が爆発を繰り返した。


 やがて、一つの魔印を刻む百足となって地面に落ちた。

 素早く聖槍ラマドシュラーを消し、その落ちた百足を白蛇竜小神ゲン様のグローブを装着した右手で拾い上げた。

 じゅぅ~と蒸発音が響く。

 

「……ぐぁぁぁ」


 魔界王子テーバロンテの声だ。


「テーバロンテか」


 百足の頭部が蠢き、


「……なんだ、わ、我をどうするのだ……この、光の手先め……」

「もう分かっていると思うが、さすがに奥の手は使い切っただろう?」

「……悪の皮を着た聖者めが、我を活かせ、活かしてください……特別に魔皇の称号をくれてやる、あげます……」

「いらねぇ。聖者ではないからな」

「……嘘だ! お前は完全な善であり、聖者そのものだ。我を含む魔界セブドラの神々や諸侯たちのセナアプアの権益を、ことごとく潰す存在がお前たちなのだからな」

「なんだ急に……混乱しているのか? 俺は俺だ。光魔ルシヴァルと言っただろう」

「嘘だ。先の<光槍技>か<神槍技>は……戦神の幻影も出現していたのだぞ!」

「あぁ、戦神にも知り合いはいる」

「……やはり、我らの権益を潰す勢力の戦神教と光神の神聖教会の人材。お前は戦神教徒であり、光神ルロディスの眷属で【光ノ使徒】。否、今では【八大使徒】や【光神教徒】などと呼ばれている存在か。または、その末裔の場合もある。更には、光の精霊フォルトナの〝輝けるモノ〟の指示を受けている可能性もあるだろう。そして、光側を統括している【見守る者(ウォッチャー)】の高位〝捌き手〟の一人である可能性も高いか……或いは、教皇庁八課対魔族殲滅機関(ディスオルテ)の関係者の可能性もある」


 テーバロンテは百足の体から新たに歩脚を生み出している。

 なるほど、べちゃくちゃと喋って回復を謀っていたか。

 が、白蛇竜小神ゲン様のグローブが握っている部分は焼け焦げていた。


 すると、状況を見ていたのか、「ンン、にゃお~」と黒猫(ロロ)が走ってきた。


 壊槍グラドパルスはまだ宙空でストップ中。

 どうしたもんか。が、先にテーバロンテを始末しようか。

 

 百足のテーバロンテに、


「それがどうした。さて、お前が、セラに持つ邪教【テーバロンテの償い】だが、その邪教カルトの名の下で……数千年~数億年と……お前は、己の欲望のままに弱者たちを殺し続けていた。いったい何人の無垢で関係のない弱者たちが犠牲になったのか……その無念は計り知れない……そして、そんな弱者を信仰の名の下で食い物にする行為も許せない……だからこそ、神界の神なんて関係ない! 俺は俺の意思で、今ここにいる。お前を、魔界王子テーバロンテをこの世から滅するためにな!」

「にゃご!」


 相棒も同意するように鳴き声を発した。

 握りを強めた。

 百足のテーバロンテは燃え始める。

 

「ひゃぁぁ」


 睨みを強めつつ、


「アディオスだ、テーバロンテ!」


 白蛇竜小神ゲン様のグローブの指貫を活かすとしよう。

 <血道第二・開門>――。

 <血鎖の饗宴>――。

 指先から出た血鎖が、白炎を焚くように燃えていたテーバロンテを突き刺した。


 ジュッと音を立てて百足のテーバロンテは消滅。


 ピコーン※称号:魔界ノ上級神ヲ撃破セシ者を獲得※

 ※称号:魔界セブドラの魔神殺しを獲得※

 ※<血道第五・開門>※恒久スキル獲得※

 ※<血霊兵装隊杖>※恒久スキル獲得※


 おぉぉ<血道第五・開門>を獲得した!!

 黒猫(ロロ)も嬉しそうに頭部を上げて、


「にゃおおおおお~」

 

 勝利の鳴き声を発していた。

続きは来週を予定。

HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~18」発売中。

コミックファイア様からコミック「槍使いと、黒猫。1~3」発売中。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ズルズル決着を引き延ばさずに殺るべきときにキッチリと殺るシュウヤさん素敵 [気になる点] グラドパルスの謎は気になりますね [一言] お、1000話到達されてたんですね、お疲れ様です&おめ…
[良い点] 戦神震戈・零!一気に残りの回復の魔法陣を削りきりましたね、凄い威力。 テーバロンテ撃破!そして元の姿が百足とはな。魔族から百足魔族になってたんじゃなく百足が魔族に擬態してた感じか。 第…
[良い点] 通算1000話おめでとうございます。 1話の分量がこれだけ多いのに更に1000話はすさまじい。 そして1000話に相応しい、神殺しの達成。 ルシヴァル大帝国の更なる躍進ですね!
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