ドラダーシュの森にて
鬱蒼と繁った木々の合間から、白銀に光る月が見える。
こちらからは見えるけれど、木々の枝葉に遮られてあまり光は届かない。
木の根元に、少女と一匹は身を寄せあっていた。
気候は温暖ではあるが、夜は冷え込む。街外れの鬱蒼と繁った森の中では特に顕著だ。
少女が身につけているワンピースは、白く袖がない。着丈も短く、膝上まで隠したところで布地は終わっている。
そんな服装ではさすがに冷え込むのだろう、肩をさすっている。少女が暖をとれるのは、膝の上に乗せた獣の体温からだけだった。
怪我をしているのだろうか、白い小さな獣の後ろ足からは血が流れ、少女の白いワンピースの裾を染めた。
祖母の声が頭の中で聞こえる。
「夜の森に入ってはいけないよ、領主様の言うことを聞かない悪い奴らがいるからね」
幼少の頃から、ドラダーシュのこどもたちはそう聞かされて育つ。
少女はぶるっと身を震わせたのは、寒さからか恐怖からか。
月明かりの中で夜想花が花を広げ、花の中から美しい妖精が顔を出す。この辺りに群生している白い花は、昼は花弁を閉じ夜開く。夜行性の妖精たちはそこを寝床にしているのだ。
次々と顔を出した妖精たちは、近くに地の臭いを嗅ぎ付けた。
温かい獣の臭い。そして柔らかく甘い少女の臭い。
動けず固まる少女と目が合うと、“獲物”を見つけた妖精たちは口元を歪める。金色の目と鋭い犬歯が月明かりに煌めき、獲物を補食すべく一斉に飛び掛かった。
少女の悲鳴は木々に吸い込まれ、ストロベリーブロンドの美しい髪が森に舞った。