リィナ18歳、誕生日
齢18になると大人と見なされるこの街では、領主から成人祝いが贈られる。
通行証が届けられ、城への出入りが自由になる。
驚いた事に、ここの領主は自らの居城でもある城を民に解放しているのだ。
若者たちは城で領主に謁見し、祝福を与えられる。
そこは計らずも人々の出会いの場となっており、各々伝を作り、仕事を得たりもする。
そして女たちは1年、城で客人としてたっぷりもてなされる。
城に出入りする男たちから伴侶となる者を見つけ、1年後、城から出た後に結婚する娘も多い。
見初められて領主の“花嫁”に上げられた娘もあると聞く。
当主にとっても出会いの場という訳だ。
18を迎える日、日付が変わった途端に窓から来訪した使者を、リィナは顔を綻ばせて迎えた。
「ねこちゃん!こんばんは!」
宵闇に融けそうに黒い猫がくわえて運んできたそれは、蜂蜜色のちいさな石で、街の年長者が皆アクセサリーに加工して携えている物だった。
各々のセンスが見れて、他の者の通行証をみるのも街の人々の楽しみとなっている。
「わたしの通行証!持ってきてくれたの?わぁ猫ちゃんの瞳にそっくりな色でキレイな色!あっでももちろん猫ちゃんの瞳のほうがキレイですよ!お利口ですねーお利口ですねー!ふふ!お利口ですねー!あっ!わたしの夜食の残りで悪いけど、良かったらチーズ食べる?」
石を受け取った途端、リィナはテンション高く猫を撫で回す。
猫は一声鳴いて、差し出されたチーズをくわえるとあっという間に闇に紛れてしまった。
「ありがとう!気を付けて帰ってね!」
猫が見えなくなった辺りに声をかけ、窓を閉める。
腰までストンと伸びたストロベリーブロンドを櫛で丁寧にとかして、明日着ていく服を決める。
白いブラウスに、リィナの瞳と同じ青色のロングスカートを用意した。
リィナは全体的に華奢だが、肉付きは可もなく不可もなくといったところだ。年頃の娘にしては肌を出すことを好まず、華美な服装にそんなにこだわりもない。
「あとは…」
1週間前、城から届いた案内状には「最低限必要な物だけ持参」「あとは全部用意させるから心配するな」「1年間、休暇だと思って好きに過ごせ」…要約すると、そんな事が書かれていた。
リィナは「1年間も好き勝手に絵を描いたり、本を読んだり出来るなんて!夢のような生活!」と胸を弾ませながら仕度をすすめる。
お気に入りの本、眼鏡、絵の具、動きやすいつなぎの服。
このつなぎは農夫たちが好んで着るような服で、華奢なリィナには少々余る部分もあるが、とても動きやすい為に愛用している。
これら愛用の品を鞄に詰めると、ベッドサイドに置いた。
あとは、明日朝一番の馬車に乗り遅れないように眠るだけだ。