ドラダーシュ領にて
辺境というには整っているし
都会というには寂れすぎている
リィナが生まれ育ったのは、そんな街だ
伯爵領・ドラダーシュには四季はないが、穏やかな気候で通年過ごしやすい
流行の物も月の満ち欠けが1週するくらいの遅れで雑貨屋に入荷するし、王都から距離はあるけれど馬車道や旅商人が利用する宿屋など、街がしっかり機能しているので流通がスムーズにいく
外敵の侵入もほぼ無いといえるし、気候を調節できるハウスという建物のおかげで、動植物の育成にも困らない
「領主様のおかげだ」
ドラダーシュの老人たちは皆そう口にし、その子孫にも口々に伝えられ、そして実感しながら生きていく
昨今の爵領としては、極めて異例な街である
異例、とは領主と民の関係を指す
この辺りの地方で爵領といえば、治めるのは血を求める月夜の一族…
吸血鬼である
身体能力等圧倒的に人よりも優れた種族だが、残虐かつ好戦的で力による統制を好む者もいる為、抗う民と戦になったという事例も多く歴史書に刻まれている
ここドラダーシュの領主はというと、代々穏やかな日々を愛し、領地に住まう人間たちも愛でている
領主は出来うる限りの手を尽くし、外敵から守り、発展を助け、弱く儚い人間を比護する
対価に血を求めるが、血を求める相手は自ら選んだ“花嫁”だけであった
領民は比護に感謝し敬い、街の発展に勤め、“花嫁”を求められる事を喜びとする
とくに娘たちにとっては、“月夜の花嫁”に選ばれるのは大変誇らしい事であった
そうやって何百年も、ドラダーシュの人々と吸血鬼一族は共存してきたのだ