第二編 【ある意味最強の敵】船酔い
文字一種類の因数分解は共通因数→公式→たすき掛け。たすきが分からなかったらイコール0になる解を探す。因数定理ですね。
「1、2、3、……クラス分ある、な」
「多いですね……」
週の初め、黒須の船場にて。俺ら黒須学園新一年は宿泊学習のために集合していた。船が十二隻あるんだが、学園の事だしもっとありそうだ、な。
「圭さん、酔い止めは飲みましたか?」
「いや、飲んでない、な。ちょっと飲んでくる、な」
近くの水場(今日のために設置されてるらしい)に行き酔い止めを飲む……他の生徒もここで飲んでたらしく、ゴミ箱に酔い止めの薬の容器が捨ててある。持ち込みゴミは持って帰れ。それど何で胃薬の容器が混ざってんだ、な?
「お? 圭じゃねーか?」
「ん? 和か、な」
「なんだ薬か。水飲みてーからちょっとどけ」
「おっと。すまん、な」
「……ふー。あ、そうだ。これ作ったから持ってけ」
「なんだ、な? カメラか、な?」
「まーな。相手の写真を撮って、音声入力で情報を入れれるようにしてある。ネットに繋げば勝手に入れた人の情報漁ってくるからな」
「ありがと、な。意外と普通にありそうな機能だ、な」
「あるだろうな。ってかデータ名刺からヒント得たしな」
これで能力持ちの登録方法は大丈夫、と。データ見たら俺たちDOAGの情報があった。
「あーそれと拓海のアップデートファイル作っといた。その機械繋いでやればいい。そろそろウイルス対策仕込まないとな」
「ちょっと待て、前作ったの一週間前だろ、な」
「一週間も放置したらダメだろ」
「そうじゃなくて、お前ただでさえ忙しかったのにいつ作る暇があった、な?」
「一日だけ徹夜した」
だろうとは思ったけど、毎回二日位じゃ打てないと思われる量のプログラムを、徹夜とはいえ何故一日で出来るんだ……これが異能か。技能特化型の異能か。
「……なぁ、圭。その調子だと気付いて無いな?」
「え、なにが、な?」
「集合場所に行くか、その宿泊学習のしおりの名簿を見れば分かる」
「集まってるわね、乗るわよ」
機械を受け取ってからおよそ一時間後。俺らは船に乗り込んだ。学園側はクラス+先生+生徒会の人だけなので拓海以外のDOAGは居ない。
そして、しおりを見るのを忘れてたため、今になって和に言われた事の意味がわかった。
「……なぁ、海堂だよ、な?」
「ああ? って西京圭!? 何でお前が居るんだよ!? 久々に異世界に遊びに来たのか!?」
海堂 洋輝、俺ら(と言うより俺)は中学生の頃は結構な頻度で異世界に飛ばされていた。最後の一人になるまで殺しあうゲームに巻き込まれたり金のために鬼ごっこしたり、な……その中で結構な頻度で出会った能力持ちの一人だ。二重人格者で、もう一つの人格、海里のと話した回数の方が多いけど、な。
「なんでお前がいるんだ、な?」
「いやそれは俺のセリフだよ馬鹿野郎……ここの募集案内が来たから受験して、通ったから来たんだが……俺らとあんたらの世界一緒だったみたいだな」
「なるほど、な……」
「船の中、意外と広い、な」
「そうですね。動かないでいると体が固まってしまいますし、運動用でしょうか」
「全員が走ったらケガ人が出る位には狭いが、な」
とか言い合ってた二時間後。俺らの周りには酔って潰れてるクラスメートが多数いた。船って、気付いたら酔ってるから辛いし降りられないから休めもしない。俺はまだ大丈夫な方だが……
「あ、西京君、天川君。もうすぐ昼食だし、みんなを運ぶの手伝ってくれないかしら」
「いや待ってください、な。どんだけ倒れてるんですか、な?」
「およそ半数よ」
どうやらこのクラスは乗り物に弱い人が多いらしい……違うか。船に乗るのが初めてで慣れなかったのか、な。とか考えながら一人運ぶ『ぎゅー……』……こいつは腹減ってぶっ倒れた可能性が高い、な。大丈夫かこいつ。
「いや、ごめん! 朝寝坊して朝飯食って無くてよ……」
「腹が減ってたら酔いやすいぞ、な」
「出してしまった時も危険ですからね」
「ごめんごめん! 次から気ぃつけるわ!」
……昼飯食って復活したこいつは矢島 行人。黒須育ちらしい。目覚めてこそないが、能力持ちだ、な。
言い忘れていたが、俺には他人が能力を持っているか、それが魔法なのか霊力なのか超能力なのか、位まで分かる能力がある。と言っても、本人が気付いてなかったりするから口出しはしないけど、な。
「そういえば、西京ってどこ出身?」
「宮崎だ、な」
「あー道理で聞き覚えのない訛りなんだな」
……宮崎県民の訛りってそんなに酷いか?
んな事もあったが、酔い以外の敵は無く、無事に島へと入港した。というか酔いが最大の敵だった。
船酔いは危険です。以下少し汚い話。
実際の話。俺も船に乗ってて出した事があります。朝飯出したあとには黄色いもの、胃液も出てきて喉が痛かったです。そりゃ塩酸だもの。それを船員さんに話したら「胃液の内に何か食え、緑色の液体出てきたら危険だ」ってお湯ぶっかけた白飯食わされました。ちょっとつらかった。
あとは聞いた話ですが、知り合いの先生は酔い覚ましに鷹の爪を持ち込んだとか……




