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青よりも藍に出でて藍より青し  作者: 深川 明智
2/2

壊れた当たり前

ちょっと長いです!

 東京魔法特区。通称特区と呼ばれているこの場所の一軒家で目を覚ましたのは()(そら)椿(つばき)。自室のベッドから這い出るように抜け出すと、自分の携帯端末で時間と今日の予定を確認する。

 七時三十分。今日の予定は学校、放課後の部活動。体から眠気を取るために一階の洗面所に向かう、ウィンナーの香ばしい匂い。食欲をそそるその匂いにつられて、当初の目的である洗面所を後回しにして台所に向かってしまった。そこには椿の母親がいた。

「おはよう、お母さん!」

「おはよう椿。あなたまだパジャマなの? 早く着替えなさい、じゃないと朝ごはんが食べられないわよー」

「うん、顔洗って着替えるね」

 母親の冗談を寝ぼけた頭でスルーして、洗面台に到着。顔を洗う、冴えた頭で鏡に映った自分を見ると今日は一段と寝癖が凄い。左右に跳ね、襟足なんかは全て違う方向を向いている。自分で見ても芸術の域まで達しているなと思ってしまう。

 きっとこの作品は世界の芸術家もびっくりだ。心の中で冗談を言いながら寝癖を直す。これでも寝癖は良くなった方だ、今はショートカットにしているが昔は髪が腰まであった。その時は寝癖が酷く、直すのに手間取り幼稚園にたびたび遅れていた。

 寝癖が直り、眠気も取れた。あとは制服に着替えて朝食を食べよう。目的を設定して階段を上がり着替えた。

「この前見た人の話なんだけどねお母さん、私綺麗? って言ってる女の人がいてさー」

 食卓につき、一口ご飯とともに大好きなウィンナーを頬張る。

「その人、口裂け女かもよ」

「口裂け女?」

 知らない名前だ。椿は頭を傾げてみせた。

「そう、昔ねそういう妖怪がいたんだって。私もおばあちゃんから聞いた話なんだけど、私綺麗って聞いてちゃんとした答えられなかったら襲われるみたいよ」

「こわーい」

 そんな他愛もない話をして朝食を食べ終えた。歯磨きをして、身なりを整えたら出発しよう。

「そうだ、忘れてた」

 歯磨きをしている途中で、携帯端末を取り出し発信履歴から「()()()()(こと)」に電話をかける。

 コールが一回、二回、三回、出ない。椿は「もう」と言って携帯端末をブレザーの内ポケットに入れる。

 やることが一つ追加された、真琴を起こす。

 母親に行ってきます! と元気に言って母親からは気を付けていってらっしゃいと言われた。隣の夜木野の表札がしてある家に合鍵を使って入る。真琴の頼みで「俺を起こしてくれ」と言われたから合鍵を持っている。

 一方その頃の真琴は幸せな夢を見ていた。彼の夢は英傑の騎士団アスティモの騎士団長になることだった、夢の中ではばったばったと敵をなぎ倒し、女の子にモテモテ。そんな理想の自分でも勝てない相手はいた。

「起きろー!!」

 そう、彼女だ。椿だけには勝てなかった。どんな魔法を使っても彼女の大声だけには敵わない。真琴はベッドから飛び起きて、椿の姿を確認する。

 いつも変わらぬ愛らしい姿だ。真琴と椿は仲が良く、小さな頃から幼馴染でいつも椿は真琴の世話を焼いて来た。

「椿か……おはよう」

「何が椿か……おはようよ。遅刻するよ! もう真琴の巻き添えで遅刻になるの嫌だからね!」

「分かってる、着替えるよ……」

 寝ぼけた頭で着替え、手短に朝食を済ませて学校に向かう。 

「全く、真琴は着替えるのだけは早いんだから。ほら、急ぐよ」

「待てよ。バイクで行く」

「えー? だって怖いじゃん」 

「その代り、早く着くぞ」

「うーん、背に腹は代えられないなー」

 この交渉は真琴の勝ちで終わった。ここ特区では学校で成績優秀者で十五歳以上なら、中型バイクの免許を取得できるという特権がある。

 椿は並み。真琴は素質があり、特に『爆撃』の個性魔法はとてつもない威力を持ち、とても戦闘向きだ。それと打って変わって椿の個性魔法はまだ発現していない。二十歳まで発現しない人がいると聞いたが彼女自身も心配していた。

 個性魔法と言うのはその人間特有の物で、似たタイプもあれば全く違うタイプもある。まさに千差万別である。

 東京魔導専門学校につき、バイクにチェーンを付けて防犯対策を万全にした。東京魔導専門学校では生徒は生徒先生を合わせて八〇〇人いる。教科は色々とあり、専攻で魔道具専門の授業や、擬似戦闘訓練、と魔導学。

 椿は魔道具専門と魔導学の二つを専攻している。真琴は擬似戦闘訓練と魔導学。

「なぁ、お前さ。合成獣がほんとにいると思うか?」

 昇降口に向かうまで雑談がてらに話しかけた。

「合成獣……? それって都市伝説でしょ? 真琴って本当にそっち系の話が好きだね。私はどうだろ、いると思うな」

「ただの都市伝説じゃないんだぞ。闇の市場で病院が買い取って、人の臓器だって言ってその臓器を移植するんだってよ」

「うげー、朝からそんな話するの止めてよ。こういう系は私に意見を求めるんじゃなくて、斎藤先生に聞けば?」

「俺が起きてればな」

「そうだ、指輪つけた?」

「いけね、忘れるところだった。サンキュー椿!」

 この学校の成績上位者には指輪が装着が義務づけられている。感情の高ぶりにより、魔力が暴走しかねない危険性を考慮して余計な魔力を放出させないための魔力を抑える不思議な石、魔法石を装飾した指輪だ。


 そして今日の最後の勉強の時間、魔導学。椿は姿勢を一切崩さず、担任兼魔導学の講師である斎藤先生の講義を決して聞き逃さないように集中していた。

 ノートに凄まじい速度で書かれていく文字、ジョークを混ぜた先生の授業は退屈どころか最高の時間だ。

 しかし、彼女の斜め向かいで先生の熱心な講義を全く聞かず、始まって五分で寝てしまっている者がいる。

「夢の中でも授業してるのか?」

 斎藤先生が机とくっついている真琴の肩をトントンと叩く。すると驚いたように飛び起きる。真琴のキョトンとした顔を見て教室がどっと沸く。

「夜木野も起きたことだし、魔力浮遊量について一年生のおさらいしようか」

 先生は小さなプラスチック製の四角い箱を取り出して、授業を続ける。

「ここにある箱には当然魔力は通っていない。だけど、こうやって魔力を一定量流してやると」

 箱から手を離し、上げる動作をすると箱はそれにつられるように独りでに浮き上がる。

「浮かせることができる。こうやって浮かせ続けると、魔力は放出し続けるので自然に落ちます。これが魔力浮遊量です。最近の研究では牛や馬といった動物にも微量ながら魔力が流れていることが分かりました。ですが、クローン研究では魔力を持った牛のクローンは何故か魔力が通っていませんでした」

「はい! 先生、ちょっといいですか!」

 珍しく手を上げる真琴の姿に周囲は驚きながら、一体どんな質問をするのだろうと興味を持っていた。

「珍しいなどうした夜木野。熱でもあるのか? それとも変な食べ物を食べたのか?」

「違いますよ。人間のクローンって魔力が通っていないんですか? それに流血の魔女は現代の知識では理解不能って聞いてます。先生はどう思いますか?」

 チョークを置き、真剣に真琴の質問に答える。

「まずはクローン人間には魔力が通っていないってのはよく分からない。なんせ、実証例がないからな。流血の魔女か……みんなも知っているのように、あの魔女は騎士団支部や魔法使いを殺して回ってる。ついこの間も札幌特区も大打撃を受けた。あの魔法については先生も分からない、けどこの東京特区は騎士団日本本部もあるし、ここには強い先生もたくさんいる。俺の大事な生徒には指一本触れさせないよ」

「じゃあ最後に! 合成獣っていますか? それとその臓器を人間に移植すればどうなりますか!?」 

「質問するのは感心だが、これじゃあ授業が進まないな。合成獣だっけ? あれはいます。様々な動物を合わせ、人に作られ人によって処分されます。凶暴で哀れな生き物です。その臓器を人間に移植すれば? 確かに臓器は似ている奴もいる、ただし人に移植すればその人はきっと人ではいられなくなる。移植した臓器の大きさにもよるけどね」

 そして授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

「よーし、終わるぞ」

 誰かが起立を呼びかけようとした時、普段聞きもしない轟音が近づいてくる。クラスの全員が外を見ると。

 

 ――戦車が飛んでる。

 航空機に吊るされた戦車が、椿の疑問を打ち砕くように隣の教室に激突する。轟音を鳴り響かせ、激しく視界が揺れた。

 突っ込んでくるのはそれだけではない、三台の装甲車が花壇を踏み荒しながら玄関を壊す。悲鳴を上げたのはその後だった。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 椿の隣にいた女子生徒が叫び声を上げて、暴れ出す。そこに秩序などなくただ生きようとする本能が混沌と渦巻いていた。

 全校生徒が逃げ惑う、まさに混乱の極みだったが真琴は泣き崩れる椿の肩を抱き寄せ、落ち着かせるように小さく大丈夫と呟く。

 彼らは理解していた、あれは流血の魔女の軍隊だと。誰とも知れない悲鳴が校内を駆け回る。ここから出れば恐ろしい惨状が広がっている。

 ここにいても死ぬ。逃げよう。決心した真琴は椿を立たせて、手を引き走り出す。

 先生は初めに逃げた生徒を追いかけてどこかに行ってしまった。アナウンスなどかける暇など与えてくれなかった。

 一歩教室から出ると酷い血の臭い。内臓が四散して校舎だけではなく、椿や真琴の視界も赤く塗りつぶしていた。

 すでに蹂躙が始まっている。頭の中の悪魔が無理だと囁いているが、無理矢理黙らせ、きっと逃げれると震えている自分自身に言い聞かせる。

「行くぞ、椿。ここらか逃げよう」

 泣きながらも頷き、手が引かれるままに歩き出す。

「助けてくれ……」

 曲がり角から一人の男子生徒がよれよれと千鳥足ながらも、椿たちに歩み寄る。が助からないと判断しざるおえなかった。

 背中から剣を生えているのにどうすれば助けられるものか。

 どさりと倒れると絶命した。しかしそれだけではない、後ろには時代錯誤も甚だしい漆黒の鎧をつけた中世の騎士のような者がいる。

 敵だ。

 目の前には人の姿をした死。騎士は死体から剣を抜き取り、その切っ先を真琴達に向ける。今度は自分が殺される。

「椿、離れてろ」

 この時のための戦闘訓練だろ? ここで戦わないでいつ戦うんだ。指輪なんてしてられない。真琴は指輪を取り、右の掌に魔力を溜める。

 紅蓮の色をした魔力が球体を(かたど)り、騎士に向かって投げ撃つ。その球体が相手にぶつかるや否や激しく爆発し、鎧を焦がし砕く。これが真琴の個性魔法『爆撃』である。

「倒したか?」

 敵は動かない。初めての本物の戦闘、圧倒的疲労感と人を殺したのかという自責の念に駆られる。だが、驚くべきことに騎士の中身は空洞。

「空洞だ。どういう魔法で動いてるんだよ」

 敵が来る前に逃げよう。椿の手を引き、歩き続ける。

 隣の教室は床が抜けて、血の池のように血が一階に垂れ続けている。戦車の姿がない。そう思うと同時に耳が張り裂けそうな爆音とともに外に砲撃した。戦車が騎士団に向かって撃っているんだ。暫くは入って来ない。

「真琴、どうするの?」

 沈黙。

「私たち死ぬのかな?」

 沈黙。

「まだやりたいこと一杯あるのに」

 沈黙ではなかった。

「必ず、助ける。俺が死んでも、お前だけは」

 椿をそっと抱き寄せた。

 死なせるもんか、絶対に。固く、固く決心した。

 そして真琴は誰かによって倒された騎士の剣を拾い上げる。

 魔法は二種類ある。個性魔法と補助魔法。車などを動かすには補助魔法で動かす。攻撃にもそれらを組み合わせをすれば強力な合成魔法が出来る。しかし、真琴にはそれは出来ない。彼の『爆撃』は最も扱いにくいことで有名だ。個性魔法だとトップレベルの破壊力、しかし操作性は皆無に等しい。この魔法を自由自在に使用できれば、誰にだって負けない。

 だが、先ほども言ったように今の真琴にはそれが出来ない。即ち、負ける可能性がある。それに加え魔法を行使すると体力を消費し、威力などが減退していく。

 それを考え、真琴は剣を拾ったのだ。魔法の乱発は死を招くから。


「取り敢えず、行こう。まずは下に降りてからだ」

 今度は椿が返事をしない。どうしたことだろう。

「真琴……後ろ……」

 振り向く先には騎士。しかも先ほどとは違い鎧は見るからに厚く、剣よりもリーチが長い槍を持っている。

「クソッ! 椿逃げろ。後で追いつくから」

「イヤだよ! 真琴と離れたくない」

「頼むから!! 頼むから、一回ぐらい言うこと聞いてくれよ。俺はお前を守れなかったら一生後悔するだから!」

 肩を掴み、今にも泣きだしそうな椿を逃げるように言い聞かせる。彼女は頷き、後ろへと駆け出す。

「さぁ来いよ。()ぜさせてやる」

 爆撃を開戦の合図の如く撃ち込む。直撃。しかし敵は倒れず。それどころかかすり傷程度しかダメージを与えられてない。

 最大の一撃だった。

「うおぉぉぉぉ!!」

 走り出す。剣を突き刺せばいくらなんでも殺せるはずだ。その浅はかな考えがかえって自分を傷つけた。

 いかんともしがたいリーチの差。槍は肩を貫き、怪力で真琴を持ち上げる。

「ッ!?」

 この距離ならば。

「喰らえ!!」

 痛みを堪え、最大の爆撃を頭に当てる。至近距離からの爆撃はさすがに効いたようで、兜が半分砕けるがまだ動いている。

 そして騎士はそのまま真琴を壁に叩きつけた。その衝撃のおかげで槍は抜け、自由に動ける。これが全力で撃てる最後の魔法。

「はぁ、はぁ、こんちきしょうがぁぁぁぁ!!」

 腹部に当てた爆撃は鎧を抉り、動きを止めた。倒したように見えたが左腕がまだ動き、真琴の左脇腹に突き刺した。

「うぐぅぅぅぅ……!!」

 痛みの疲労で薄れゆく意識の中で、椿の安全を願いながらゆっくりと目を閉じた。


 椿はなんとか一階に降りることができ、真琴の言う通り、逃げることだけを考えていた。

 もう少しで玄関だ。安堵に包まれた彼女の目の前には疑うような最悪が、広がっている。血で出来た池、それを見て笑みを浮かべている一人の魔女。

 直感した、あれが流血の魔女。

「驚いた。まだ生きている奴がいたなんてな」

 もう、動けない。真琴も来ない。

 魔女が近づき、なんの予兆もなく腹を蹴る。息が出来なくなった椿は悶えながら魔女に許しを請う顔をして見つめていた。

「良いね。夢いっぱいの若者を殺すのってのは、悔しいか? 恨みたいか? 好きに恨め。力無き者が出来るのはせいぜい人を呪うことだからな」

 髪を掴み、コンクリートの床に顔から叩きつけられる。容赦のない一撃で鼻血はポタポタと垂れ、意識が遠くなる。

「死ね」

 頭が撃ち抜かれた。その瞬間の前、誰かが名前を呼んでいた。温かく懐かしい声。

 ただ、ハッキリと聞こえたのは一言だけ。

「また、救えなかった」


 東京魔法特区の一軒家で美空椿は目を覚ます。

 どうしたことだろう、椿はこの光景に見覚えがある。大好きなウィンナーが朝食として出ること口裂け女の話をしたこと、真琴を起こさないといけないことも、バイクで登校したことも、授業の内容も全て初めてなのに覚えている。

 霧にかかったような感覚だが、今日は今日であって初めての今日ではない。そして流血の魔女の軍団が攻めてくることも覚えている。

 真琴に手を引かれ、逃げる。ダメだ、この先に行くと私が、真琴が死ぬ。

 しかし、覚えのない黒いフードを被っている男が目の前に立ちはだかっていた。流血の魔女ではない、一体誰? 疑問が椿の頭を()ぎる。

「お前、誰だよ! どけよ!」

「いいかよく聞け、俺と一緒に来い」

 男が見下ろす。しかし、その目にも椿は見覚えがあった。いつも見てきて懐かしい目だ。

 後ろには真琴に槍を突き刺した重装甲の騎士が槍を携えて、構えている。それを見て真琴が戦おうとするが、男が制した。

「俺がやる。お前らは下がってろ、三秒だ……三秒待ってろ」

 グローブをしている指先から紅蓮の色の小さな球体が騎士に向かって放たれる。その速度が速く、騎士の腹部に当たり炸裂。

 一撃で宣言した通り、三秒で沈める。

 真琴は驚愕した、あれは紛れもなく自分と同じ『爆撃』の魔法。しかも自分より効率よく、高威力で撃ち放っている。

「ここから下に降りる。全く、あのクソ猫はどこに行きやがった」

 床に向かって、爆撃を当て床を壊す。無理矢理下へと続く道を完成させた。男につれられて一階に降りるがそこにはあの時と変わらず最悪がいた。

「驚いた、まだ生きている奴がいるなんてな」

 流血の魔女がそこにいる。

「お前が流血の魔女か」

 男が前に出て至って普通に話しかけた。

「魔女って言い方は好きじゃない」

「じゃあ、こう呼べばいいのか? (きさき)(とう)()

「お前、どうして私の名前を? いや、それはいい。私が殺し損ねた? 良いね、そういう奴を殺してみたかったんだ!」

 二人で睨み合いが続く。息をするのを忘れてしまいそうになる、戦闘に直接関係ない二人も手が震え始め、動悸が速くなる。

「見っけー。全く君が無理してどこかではぐれたから時間がずれたじゃないか」

 この緊張の場面には似合わない、やる気どころか何も感じられない声だ。その声を発していたのは白い喋る猫だった。

()(かげ)、飛ぶぞ。準備しろ」

「人使い――いや、猫使いが酷いなー。しても良いけどこの子たちは耐えられるの?」

「俺の保護魔法を何重にもかけてある」

「そうだとしても、少しは時間を稼いでくれないと出来ないよー」

「俺が稼ぐ。援護しろ……寿命を分けてやったんだ、そのくらいは働いてもらうぞ」

「はいはーい」

 何ともふざけた返事をした猫をしり目に男が駆け出す。灯花の手にはサブマシンガンがあり、それを男に向かって乱射する。

 だが、その弾が当たる前に捻じ曲がり弾道を変えた。弾は一発も当たらない。目の前で下に向けて小さく爆撃を放ち、目くらましと同時に後ろに回り込む。

 すぐさま彼女も振り返り、持っているサブマシンガンからアサルトライフルに持ち替え、振り替えりざまに乱射する。

 それすらも捻じ曲がった。彼女はアサルトライフルを捨て、ショットガンを持ち発砲。それも同じく捻じ曲がるが一発がフードを掠める。ニヤリと灯花は笑うが、空薬莢を排出しているショットガンはリロードに時間がかかる。

 その隙に彼の拳は彼女の顎を捉えていた。

「あぶねぇなオイ! いけねぇ楽しいぃぃ!!」

 拳が当たっていたのにも関わらず、彼女は微笑んでいる。戦っている彼も悪寒を感じられずにはいられなかった。

「いけるよー」

 猫が喋る。

「飛べッ!!」

 空間が捻じ曲がり、椿たちを飲み込んで灯花の前から消えた。

 椿の頭には一言だけ声が聞こえた――「やっと、救えた」 

ここまで読んでいただき有り難うございます!

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