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青よりも藍に出でて藍より青し  作者: 深川 明智
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エピソード零 最悪が生まれた日

楽しんでいってください!

 この世の中に魔法と言う概念が生まれたのは三十年ほど前である。一度は純粋な少年少女が夢見た魔法は世の中を便利にし、発展させていった。今や車は魔力で動く、掃除も、仕事も全てが魔法によって変わった。

 特に変わったと言えば、まずは仕事だ。専門職に魔法使いという職業だ出来た。それだけではない、魔法使役道具、通称魔道具の開発を進める魔導開発者。魔法に対しての理解や研究する魔導学専門研究院のウルシドの研究員。そして政界の重鎮や魔法による犯罪から町の平和を守る魔導警察や英傑の騎士団のアスティモの捜査員など、今や一大企業の社長や大統領や一般の主婦すらも魔法が使える世界。

 二〇一九年、ヨーロッパのどこかの国で不思議な赤ん坊が生まれた所から魔法の歴史が生まれた。

 赤ん坊は産声を上げると同時に母親の脳内に話しかけたという。赤ん坊が成長していき、幼い少女になった時に男の子に告白され、恥ずかしさのあまりに街一つを停電させた。

 彼女は大人になり、十五歳になった。思春期で感情が高ぶると時期を同じくして魔法の制御が出来なくなっていった。

 彼女が怒ると窓ガラスは割れ、気を配らないと他人を無意識的に傷つけてしまう。彼女が苦悩で学校に通わなくなった時に、その噂を聞きつけたとある若い男が彼女の家を訪れた。彼は研究者だと言い彼女の協力で魔法の研究が始められた。

 困難を極めたその研究は、いかなる討論会でも受け入れてもらえず馬鹿にされた。だが、二人目、三人目と魔法が使える子供が生まれていった。二人目はロシア、三人目はアメリカ。

 そこからだった、魔導を携えた子供たちが増えていった。四人目はブラジル、五人目はここ日本。六人目、七人目と数を増し、今や生まれてくる子供たちは魔法が使えて当たり前。

 そして初めに生まれた少女のことを『新世界の始まりの女』と呼ばれ、後から生まれた四人は魔法で起こる犯罪を危惧し、組織を作った。

 それが英傑の騎士団アスティモ。

 彼の研究も認められ、あることが分かった。魔法であることは変わりないが五人全員の魔力の質が違う。

 始まりの彼女は森羅万象全てを弾く魔法を、二人目は天候を操る魔法を、三人目は重力を操る魔法を、四人目は熱を操る魔法を、五人目は鉄を自由自在に生成し、加工する魔法。

 つまり血液型のように同じ型もあり、全く違う型もある。

 そんな皆使えて当たり前の魔法の世界に異端の子が生まれた。


 彼女の名は(きさき)(とう)()。彼女は魔法が使えなかった、何度専門医に見せても答えはどの医者も同じ、彼女に魔法は使えない。

 ただ、劣っていたのは魔法が使えないというだけで他の能力は劣っていなかった。むしろ秀でていた、頭の良さも容姿も、運動能力は特に。

 だが彼女は運命を憎んだ。この世界でこの体に生まれたことに意味などない、魔法が使えなければ差別され、ごみ虫のような生活を送る羽目になる。容姿など、頭も良さも全て要らない。だから魔法を私に。

 その願いは幼いころから祈り続けていたが、天には届かなかった。そんな彼女にも高校時代に好きな人が出来た。

 告白もした、しかし想い人の彼は「ごめん、顔は好みだけど……お前魔法が使えないじゃん? だから無理」

 無慈悲な世界だった。彼女は切に願っても叶うこともない魔法が使えればという夢。愛さえも、この世界は魔法によって左右される。

 毎日のように浴びせられる罵声。母親は今の学校ではなく、通信制高校に通わせるつもりだったが本人の強い意向で魔術の有名な専門学校に進学した。

 中学の担任にも、親にも反対された。けどどうしても行きたかった。ここで逃げれば生まれてきた意味が無くなるから。

 絶望した。心の底から、好きな人には振られ、周りからは陰惨な目に合わされる。生きていて何の意味がある? 誰かにその答えを聞きたかった。

「オレの魔法、制止って言ってな、人間以外ある程度の物なら止められるんだぜ」

 告白した彼が自慢している、魔法のことを。しかも大声で。彼の周りを付きまとっていた女子たちが「止めなよー」「妃さんに聞こえるよー」「そうだよ、可哀想だよ」

 と言ってクスクスと彼女を嘲笑う、別にお前らに同情されたくない。有象無象のクソ女たちが。心の中で貶す。

 こうもしなければ、彼女の心は砕けて塵になる。

 彼女の昼食の場所は屋上のベンチ、人は来ない。それがかえって彼女には好都合だった。唯一無二の安息の地。

 今日は違った、先客がいた。いつも座っているベンチには一匹の黒猫が座っていた。構わず隣に座るが猫は逃げない。

「ほら、おいで」

 彼女は久し振りに生物に手を差し伸べる。しかし猫はベンチから降りて、彼女と距離を置く。まるでクラスメイトのように。

「なんだよ、お前も魔力があるやつに懐くのか?」

 彼女は不満を口にして、答えるはずのない質問を猫に投げかけた。

 答えるわけがなかった――

「そう見えるかい?」

「!?」

 彼女は驚愕した、猫が喋っている。万物の声を聞こえる魔法は確かに存在している。だが彼女には魔法が使えない。

「このご時世で猫が喋るぐらいで驚くなよ」

 猫は流暢に話す。

「帰れよ、しゃべる猫なんてすぐに研究用にホルマリン漬けにされるぞ」

「心配無用。人間なんざに捕まらないさ」

「どうしてここに来た。景色が良いから? それとも偶然か?」

「偶然ねぇ……偶然と言うのかいやこれは必然だ。俺は君のためにここに来たんだ、妃灯花」

 知らない猫に名前を知られている、それだけでも十分警戒するに値する。

「どうして名前を?」

「俺は君に魔法を授けに来た。選べ、ここで負け犬として終わるか。それとも全てを凌駕する魔法を手に入れるか?代償は命の寿命」

「ふざけるな。帰れ。私の堪忍袋の緒が切れたら、お前を殺すぞ」

「殺す? ハハハハ、どうやって? 俺の首を絞めて殺すか、それともこの屋上で突き落とすか? いいか、よく考えろ。寿命をくれればそれで契約完了さ。俺は君の願いを叶える神様だ」

「神様? 随分横暴なんだな。今まで来なかったくせして、今更なんなんだよ」

「神はいつも気まぐれ。思うがままにこの世界を操る、これが神の特権ってやつさ。さぁ、どうする?」

 考えなかった。もう答えは遠い昔から決まっている。


 昼休憩が終わり、午後の授業が始まる時。クラスに灯花の姿がないことに誰かが気が付いた。

「あれ? 妃のやついないな。まさかかえったんじゃね?」

 ガムを噛んでいる男子生徒が後ろを振り向きながらそう言った。それにつられて「あいついても意味ないしな」「別に誰も困んないし」「いない方が教室が綺麗だな」「あいつゴキブリみたいじゃね? いても邪魔、生きているだけで俺たち人間様の害!」様々な生徒が罵詈雑言を吐き捨てる。

 教室のドアが開く。先生が来たと思い、静まる。だが、教壇に立ったのは教師ではなく、返り血を一身に浴びた灯花だった。

「んだよ、お前かよ。帰れよゴキブリ」

「そうだよ、かえーれ」

 クラス全員が帰れの大合唱。とても耳障りだ、彼女の取った行動は耳を塞ぐのではなく、更なる轟音で掻き消し、黙らせる方法。

「今日の授業は地獄についてです。さて、どんな場所でしょうか?」

「あ? 気持ち悪いこと言ってんじゃねぇよ。殺すぞ」

 ガラの悪い男子生徒が彼女に絡もうとするが、それを制するように灯花は喋った。

「答えはお前らの目で確かめてくださいね」

 そう言うと、両手にはサブマシンガン。一つの弾倉に三〇発は入る。その恐ろしい銃口から放たれた凶暴な弾丸は死をまき散らしながら一人、また一人と地獄に案内する。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 叫ぶが彼女には聞こえない。ゴキブリの声など、人間には届かない。

「死ね。ゴキブリども」

 逃げ惑う者、呆然としている者、抱き合う者、彼女に縋りつく者、反抗する者。当然、皆殺しにした。

「なんで、殺すんだよ!!」

 男子生徒が撃たれた足を引きづりながら彼女に質問した。その問いに彼女は平然とした顔で。

「害虫殺すのに、いちいち理由が必要か?」

 その男子生徒の頭を弾丸が撃ち抜く。

「なにやってんだ! 妃、どういう状況――」

 教師を殺した。喚く声がうるさいから。

「妃ちゃん、私たち友達でしょ?」

 女子生徒が泣きながらそう言う。

「友達? あぁ、痛そうだねその腕。助けてあげようか?」

 こくこくと頷く。それは飼い主に尻尾を振る犬のように人の尊厳などなく、ただ一言無様だった。

「私を笑わせて」

「え……?」

 撃ち殺した。反応が遅い、とろいやつは嫌いだ。

「よくもぉぉぉぉぉ!!」

 灯花は何かで頭を殴られた。教室の椅子だ、頭から血が垂れ意識が飛びそうになる。後ろを振り向くとそこには学校で一番の臆病者の男子生徒が椅子を握りながら震えていた。

 人は変化する、特に怒りの感情の時は。彼女は納得した。なる程、さっき殺したのはこいつの想い人かと。

「お前の魔法って、消える魔法だっけ? じゃあ消えて。私の前から」

 心臓を撃ち抜いた。消えることが魔法なら、目の前から消えれるはずだ。

「ふざけんな、死ねッ!!」

 突如、炎の弾が襲いかかるが、動きが遅い炎の弾如きに反応速度が学年で一番の彼女に当たるはずがない。

「やけどするだろ? お前は女の扱いに気を付けた方が良いぞ」

 勿論殺した。女たらしで有名だった、単純に女の敵だったから。

 この学校中の人間は殺した。いや、まだ一人だけ残っている。彼女が告白した男子生徒が壁に寄りかかり、様子を伺っている。灯花がいないことを確認した彼は足に絡みつく死んだ女生徒の手を振り払い、玄関へと向かう。

 ここからだと、西階段から降りればすぐに出られる。こんな地獄から一刻も早く抜け出したい、その思いが彼を焦られる。

「待てよ」

 階段に向かう前に、誰かに呼び止められる。その声の正体は他の誰でもなく、彼からしてみては恐怖の対象。

「妃……! 頼む、俺だけは見逃してくれ! なんでもする、告白蹴ったこと謝る。謝るから、ごめん。お前よく見ると可愛いよな。なぁたの――」

 彼の肩を撃ち抜いた弾丸。

「うぎゃぁぁぁぁぁ!? いてぇよ、助けてくれぇえええ!!」

 その一発で弾が無くなったのか、サブマシンガンを捨てる。彼はそれを見て逃げれると咄嗟に判断し、必死に逃げようとするが今度は足を撃たれた。

 廊下に顎を打ち付け、様々な痛みでもがく。

 何も装備していなかった彼女の手には一丁のハンドガンを持っていた。それで彼の逃げようとする足を撃ち抜いた。

「何でもする?」

「あぁ! なんでもする」

 彼女は彼の右の掌を撃ち抜き、踏みつける。

「ぐぁぁぁぁ!? やめろ、やめてくれ!!」

「やめるわけないじゃん。どう? ゴキブリ扱いしたやつに足を踏まれた気分は。最高だろ?」

「ふざけんな。お前の撃った弾なんかオレの魔法で止めてやる……」

「やってみる? そんじゃそこらの野球ボールとはわけが違う。こっちは高速の弾丸だ。へたすりゃ死ぬ、てか、発動する前に死ぬ」

「ちきしょう、なんだってんだよぉぉぉぉ!!」

 無情な弾丸が彼の頭蓋骨を砕く。全ての人間を殺した、これで彼女の目的は一つ完遂された。灯花が玄関から堂々と出ると魔導警官が何名かいる。

 そうだ、次の目標は魔法が使える全人類を殺すことにしよう。それがいい、こんな世界に復讐いてやる。

「君! 大丈夫か!?」

 無線で、生き残りがいたことを知らせているがその知らせは絶望の知らせになるだろう。

「おじさん、地獄ってどこ?」

「え?」

 

「どうだ? 魔法を手に入れた気分は?」

 あの猫が血まみれになった灯花に向かって話しかけている。

「楽しかった。そう言えば名前は? 私たちは今日から共犯者。打ち解けあおうぜ」

「そうだな。俺の名前は(おつ)(なぎ)、よろしくな妃灯花。早速だがこれからどうするんだ?」

 彼女は警官を撃ち殺し、奪取したパトカーの乗りエンジンをかけてこう言った。

「魔女狩りでも始めるよ。万物想像の魔法があればきっと殺しきれる」

「面白い、ならば軍隊を作らないとな」

「それもそうか。そんならまずは騎士団支部を潰しに行って、特区をぶっ壊そう。二年、二年で私は軍隊を作り上げる」

 パトカーを騎士団支部の所に向けて走り出す。

 これは、希望の物語が始まる前の前章に過ぎない。これはある少年少女に立ちはだかる最悪が生まれた過去の話。

 もし、貴方がこの世界に生まれていたらきっと後悔する。抗えない運命の波にのまれ、死んでいくのだから。

 そして時は元の世界に戻る。そして物語が始まる。

ちょこちょこ更新していきます

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