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君の夢に現るる幻へと  作者: 深津条太
迷いの森
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帰還と危機

 生贄であった少女の帰還と、山神と呼ばれた人工生物の消滅を知った村人達は大いに喜び、宴を催した。二日連続にもかかわらず、その宴も盛り上がっていた。

 しかし、英雄の顔色は晴れない。

「レイ。まだ何か引っ掛かる?」

 俯いた青年の横にやってきたシビルが、とん、と彼の肩を叩いた。

 あぁ、と頷く彼を見て、小さくため息を吐いたシビルが、宴の真ん中へ跳び出す。

「みなさん、あたし達は山神と呼ばれてた怪物との戦闘で少し疲れたから先に戻るよ。それじゃ、このあとも楽しんでねー!!」

 大きな歓声を背に戻ってきた少女にレイが問う。

「よかったのか?」

 もちろんと笑ったシビルは、子供達を呼んでくるから先に行ってて、と走っていった。

「リリアナはどうする?」

「わたしも色々ありすぎて、さすがに疲れてもう寝たい気分だし、一緒に帰るよ」

 リリアナがわざとらしくうなだれながら答える。歩き出したリリアナの後ろに続くように彼女の家へと向かっていく。

 宴に出払っているのだろう、リリアナの家に着くまでの村に人気は感じなかった。


「あなた達、誰っ!?」


 先に家に入ったリリアナの声に、しまったと走り出すレイ。

 違和感の正体が分かった途端、先手を打たれた。レイが舌打ちをしながら扉を勢いよく開ける。

「リリアナ、大丈夫か!」

 スカーフで顔を隠した男に捕まっているリリアナが何かを伝えようとしているが、それよりも先に苦悶の声が漏れる。それに耐え、リリアナが精一杯の声を絞り出した。

「レイ、後ろ!」

「ぐッ……」

 レイが視界の端に何かを見たときには、もう遅かった。彼の後頭部に強い衝撃が走った。次第に遠のいていく意識。

 リリアナの悲鳴が、遥か遠くに消えていった。



 目の前には、見慣れた少女の顔があった。

「まったく、無駄な心配かけさせないでよ」

 少女の目尻から頬にかけて伸びた一筋の跡は、自身の手の甲で拭うと消えてしまった。

 痛む頭で今までのことを思い出したレイが声を上げた。

「……リリアナは?」

「どこにも見当たらないよ」

「くッ……!」

 仕掛けるにしても時間が足りない。レイの頭の中で思い描いたいくつもの構図が泡と化していく。

 揺れる視界に苦労しながらレイが立ち上がる。すぐに気がついたシビルが肩を貸した。

「子供達と村の人達が探してるから、休んでてよ」

「いや、すぐに良くなる。それに、彼らには見つけられない」

「どこにいるのか、分かってるの?」

 レイが頷きながら、シビルを手招きする。近付いてきたシビルに彼は耳打ちをする。

「もう、無茶しちゃダメだからね」

 シビルは青年の額を指で弾くと、翼を広げて大空へ飛び立っていく。

 ふう、と息を吐いたレイは、ゆっくりと歩き出した。



 藁の匂い。埃っぽい臭いの充満する暗がりでリリアナは目を覚ました。

「……ここ、どこ?」

 見覚えのない場所だ。木製の壁の端に鎖で繋がれている腕を動かしてみるが、ガチャガチャと音を立てるばかりで、外れる気配はない。

 灯りは彼女の真上に灯された蝋燭の弱々しい灯火だけ。風のひとつでも吹こうものなら、すぐに消えてしまいそうなくらい不安定に揺らいでいた。

 そのせいでこの部屋の反対側の様子は窺えそうにない。

 ただただ無音だった。鳥の声ひとつ聞こえない暗い部屋に、リリアナの不安が無尽蔵に増えていく。

 夢ならいますぐに覚めてほしい。そう思うが、錆びかけの鎖が擦れるたびに伝わる皮膚を擦る痛みによって、夢でないことを嫌でも認識させられる。


「だれか、いないの?」


 恐怖で大声も出せず、小さくなったリリアナの声が部屋に反響していく。

 そして彼女の脳裏に、倒れたレイの姿が浮かぶ。自分のために動いて無数の傷を負っていく彼と、そのパートナーを想う。リリアナは感謝と申し訳なさとチクリと刺さる感情に苦い表情を浮かべる。

「あの子にも心配させちゃったんだろうな……」

 突然、扉が開かれる。射し込んでくる光に目を細めたリリアナは、その人影を見つめる。

 呪術師のような奇妙な服に、儀式に使うような大きな仮面を付けたその人物がゆっくりとリリアナに近付いてくる。

「誰なんですかッ!?」

 リリアナの問いかけにまったく反応せず、ただ近付いてくる。

「なにっ!? 来ないでよッ!!」

 逃げたくても、腕に取り付けられた鎖がそれを邪魔する。さらに背中に感じる冷たい木板の感触。

 その人物を見ると、その右手には伐採用の斧が握られていた。それが引きずられ、床からズズ、ズズ……と音が鳴る。

 殺される。そう感じたリリアナがおびえた目で、その人影を見る。

「私の娘か?」

 仮面でくぐもった声が発せられた。

「誰なの……? わたしの母は死んだわ」

 そうか、とくぐもった声が呟くと、その斧を振り上げた。

「ならば、もう話は終わりだ」

 無感情な言葉にリリアナは恐怖を感じて、その目を閉じた。

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