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君の夢に現るる幻へと  作者: 深津条太
迷いの森
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森の姫

「右の大木の上だ!」

 敵影を捉えたレイが叫びながら、その腰のホルスターから巨大なリボルバーを取り出す。

「レイ! どれがその大木なのっ!?」

 しまった、とレイが漏らす。ここは通称、迷いの森だ。どこを見ても同じような巨木がずらりと並んでいる。

 木の陰から飛び出したレイが、狙いも絞らぬままに引き金を引く。大きな破裂音を発し、大木の濃褐色の表面を抉る。

「あの木の上だ」

「わかった!」

 そう言うと、シビルが一気に飛び出した。ローブを剥ぎ捨て、露出した漆黒の翼で空を駆ける。

「なっ!?」

 驚愕の声を上げた襲撃者の反応が、一瞬だけ遅れる。それだけでもシビルには十分すぎる時間だった。

 シビルが取り出した山刀を投げつけ、女の乗る枝の根元に深々と突き刺さす。枝は女の自重でへし折れ、襲撃者の女が空中に投げ出される。

 その機会を逃さないとばかりに翼を大きく羽ばたかせる。加速するシビルの姿は、雪のようなその髪も手伝い、まるで白い鷲のようだった。そのまま女に突き刺さるシビル。

 かふ、と空気を吐き出した女は、くの字に身体を折り曲げたまま地面に自由落下していく。十分な距離を取ったシビルがその様を空中から眺めている。

「へぇ、まだ意識あるんだ」

 圧倒的優位なシビルがその女に語り掛ける。襲撃者は女、というよりも少女と表した方がしっくりくるような姿だった。身に着けているものは動物の皮を切り貼りしたような、珍妙な服だった。

「だまれッ! お前達もここを荒らしに来たんだろう?」

「も?」

 会話の奇妙な流れにシビルが首をかしげた。

「黒い服の連中、あれはお前達の仲間なのだろう?」


「黒服の連中?」


 シビルを追ってきたレイが少女に訊く。少女はその声に警戒して腰の短剣を引き抜きながら、その問いに答えた。

「あぁ。長い距離を移動できる服装とは思えない奴さ」

 いよいよきな臭いな、とレイが眉をひそませる。それでも互いに警戒を解こうとはしない。少女はじりじりと円を描くようにその距離を離していく。

「あの、もしかして、あのときの?」

 リリアナの声に彼女は目を細める。そして、小さくため息を吐くと、短剣を鞘に納める。

「あの輩と違うことはわかった。だが、私はあれとは関わりたくはない」

 少女は腹に斜めに引かれた古傷を忌々しそうに撫でる。山神にやられた傷なのだろう。

「わかった。互いに敵意を向けない。平和でいいね」

 シビルはそう言うと、枝に突き刺さったままのマチェットを引き抜いて、太ももに忍ばせる鞘に納めると、ゆっくりと地上に降り立った。

「お前達は何者なんだ?」

 一歩では詰められない間合いを保ったままの少女が問う。

「俺はレイで、こっちがシビル。ただの旅商人だよ。今日は少し趣の違う仕事だが」

 そしてリリアナが生贄になること、その護衛をしていることを要点だけ掻い摘んで説明する。

「この子をみすみす生贄にするために着いてきたのではないのだろう?」

 あのさぁ、とシビルがふらふらと手を上げる。

「リリアナとはどういうご関係で?」

 退屈で面白い話を探すように訊くシビルに、その少女がため息を漏らす。

「なんてことない。熊を狩っていたら、運よくその熊が襲ってたこの子を助ける結果になっただけだ」

 少女は少し恥ずかしそうに、後ろで呆けるリリアナを指差した。指を差された方は聞いていなかったらしく、間抜けな声を出す。

 前にもこんな反応をされた、と頭を掻く少女がくるりと踵を返す。

「あの化け物の巣はあっちだ。だが、人間に倒せるものじゃないぞ」

「もうここまで来て、その選択肢はないな」

 レイが苦笑いでその少女を見送る。互いに後腐れはない。もう会うこともないのだろうが。

「まったく、とんだ邪魔が入ったね」

 小さく畳まれた翼をじっと見つめるリリアナの視線が気になったのか、シビルがその翼を広げてみせる。

「あたしの身体は悪魔だって話はレイがしたよね? これがその証拠。カッコいいでしょ?」

 子供が買ってもらった玩具を自慢するように、自身の翼を羽ばたかせるシビルの顔は得意げだ。

 翼を触ったり、指でなぞったりして遊んでいるとレイの足が止まった。


「真正面、なにかいるぞ」


 確かに何かが動いていた。何かを食べているのか、毛で覆われた腕が忙しなく動いている。

「リリアナ、ここで待っててくれ」

 リボルバーを取り出したレイは、後ろでマチェットを抜き放つシビルを手招きした。

「うーん、あれってどう見ても人間のよね」

 猿によく似た姿の怪物が咀嚼していたもの。それは男のものらしき足だった。

「あぁ、見られたら餌として認識されるだろうな。なにかで見た気もするんだよな、あれ」

 レイは考えるように目頭を押さえるが、答えは出ないままだ。そのとき、怪物の鈍く光る瞳がこちらに向けられる。その瞳は飢えに塗りつぶされていた。

「話し声か、臭いか、どっちにしろ見つかったな」

 二人は頷き合うと、怪物に向かって走っていく。

 それに応えてか、怪物も二人めがけて走り出す。その腕を叩きつけた木が音を立てて倒れた。それだけで腕の怪力を見せつけてくる。

 咄嗟に危険と判断したシビルが翼を広げ、飛翔する。シビルを捕らえようと両腕をぞんざいに振り回すが、その間をすり抜けたシビルが腕を撫でるようにマチェットの刃を当てていく。高速で飛んでいるため、それだけで怪物の腕から鮮血が散る。

 その隙に木の陰に隠れていたレイがシビルに向けて叫ぶ。

「シビル! 一回離れろッ!」

「わかってる、――ッ!?」

 しなりを上げて迫りくる尾が空で止まっている少女に狙いを定める。咄嗟に仰け反ることで紙一重にその直撃をかわしたシビルが、レイの隠れる木の陰に滑り込んでくる。

「思い出したよ。あいつの正体……」

 じっとその怪物を覗き込み、睨みつけるレイがゆっくりとそいつの正体を告げた。

「――攻城戦兵器だ。全てを叩き潰すためだけに産み出された怪物だ」

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