第二話 占い師?
できたー!ので投稿します。
薄暗い店内。
店内には本がうず高く積まれていて、その中に時々見える人の手の形をした栞が一層不気味さを増している。
そんな、店で唯一片付けられているカウンターには睨みつけているようにも見える表情をした少年といかにも「魔法使いですっ!」といったローブを纏った老人が徒ならない雰囲気でじっと一点を見つめていた。
机に置かれた大きめの水晶。目を凝らせば、その下には六芒星を中心に配した魔方陣のようなものがうっすらと書いてあるのが分かる。
緊迫した雰囲気の中、今まで微動だにしなかった老人がすっと水晶に手をかざす。すると、透明だった水晶の中に段々と黒い靄のようなものが現れる。
あっという間に、その靄は水晶を侵食していきそのまま水晶は灰になってしまった。
その様子を見ていた老人の顔には深い皺が刻まれていた。
「思ったより、事態は深刻そうじゃの……」
「…………」
「少年いや、月波幸男よ、これから話す事を心して聞いて欲しい。」
「…………」
「きっと、お主にとっては酷なことになるかもしれん。だが、数々の試練を潜り抜けたお主なら大丈夫だと儂は信じておる。」
「…………」
「……少年、聞いているのか?」
「…………」
「少年?」
「…………ぐぅ。」
「……起きんか、この馬鹿者ぉぉ!!」
老人は何処からか取り出した巨大なはりせんで幸男の頭を勢いよくはたく。
スパーンといい音を出しながらクリーンヒットした攻撃は、見かけによらず威力があったのだろう。幸男は机と熱い口づけを交わしていた。
「……痛い。」
「儂の話の途中で居眠りすることは、許さん!」
幸男が痛がる様子を見て、気が晴れたらしい老人は満足げに鼻を鳴らした。
コントのような遣り取りをしていた雰囲気から一転、真面目な雰囲気の中老人は告げる。
「いいか、端的に言おう。お主はもうすぐ死ぬ。その身に余る不幸によってな。」
「っ!」
やっぱり。
幸男が老人から「もうすぐ死ぬ」宣言を受けた時感じたのは、死を宣告された驚きでも死に対する恐怖でもなかった。
逃れられない絶対的なものに対する諦めとでもいうような気持ちだった。
知っていた、いつかは理不尽な不幸によって死ぬことを。というよりは、覚悟していた。
幼稚園、小学校、中学校と年を重ねるたびに増え続ける不幸。日に日に増えていく不幸は規模も被害も増していき、そして最近では自分以外も巻き込まれるようになってしまっていた。
ついさっきの人質事件も以前なら自分だけが受けるものだったし、第一もっと直接的な被害だけだった。(例えば、トラックが突っ込んでくるとか)
最初は少しツイてないだけだと思っていたが、それは違った。日増しに増えていく不幸の数に俺は思ったのだ、俺は「この世にいらない存在」なのだと。
「この世にいらない」から俺だけが不幸を受けるし、これからも増え続ける不幸を受ける運命にあると思った日から死ぬことは覚悟していた。
でも、心のどこかでは「死にたくない」と思っていたかもしれない。ありもしない幸運を求め、開運グッズを買い漁っていたのだから。
この無駄だった努力ももうすぐ終わるのだと思うと少しほっとする。もうこれで、周りに迷惑を掛けなくて済む、それだけで救われた気分だった。
だが次の瞬間、俺は老人の一言で頭が真っ白になった。
「…………生きたいか?」
「えっ?」
「少年はまだ、生きたいか?」
分からない。生きたいのか、死にたいのか自分でもよく分からない。
俺の中で、不幸に見舞われるくらいなら死にたいと思う気持ちと、まだ生きたいという気持ちとで揺れ動く。
そんな、俺を見て老人は優しく微笑みながら言った。
「深く考えずともよい。心のままに言葉にしてごらん。」
「あっ……俺、は」
「自分の心のままに」老人の言葉がすっと頭に入ってくる。混乱していたのが嘘みたいに考えがまとまる。
俺は……
「生きたいっ!俺はまだ生きたい!このまま、死ぬなんていやだ!」
ここまで感情を出したのはいつ振りだろうか。赤子のように涙を流しながら叫び駄々をこねる俺は情けなく見えただろうか。
そんなことどうでもよかった。今はただただ、生きたかった。
みっともなくてもいい。生きたい。
幸男の強い思いに応えるように水晶の下にあった六芒星の魔方陣が輝きを増していく。
ただ、幸男は周りの様子に気づくことなく涙を流しうわ言のように「生きたい」と繰り返すばかりだった。
そして、一瞬辺りを眩い光が包む。
その光が治まった時には、もう幸男の姿は消えていた。
その様子を見て老人は優しく微笑む。
「それでよい。お主には幸せになる権利がある。……我がいとし子よ。お主に魔術師マーリンの加護があらんことを。」
老人いや、マーリンの姿が店ごと消えていく。
全てが消えた後、後に残ったものは何もなかった。
どうだったでしょうか?ご指摘・感想ありましたら、宜しくお願いします。
また次話で、皆様とお会いできる日を楽しみにしています 。