迷宮へ堕ちた少年
身分証明書 No.1159
普通科1年
市東 有利 shitou yu-ri(15才)
上記の者を当校の生徒であることを証明する。
○○県立広葉高等学校
校長 斉藤 政義
MEMO
1日目。
とりあえず4畳半くらいの明るい部屋があったので、生徒手帳にメモをとる。ボロボロだが、ベッドや机、書棚もある。並ぶ古びた本には、見たこともない文字。
状況がよく判らないので、その整理をしたい。
今朝、家を出て、週明けの学校へ行く途中に地震に合い、気付いたら暗闇の中にいた。あまりに暗くて周りの様子が判らず、手探りで進んだのだけれど、なんだか違和感がある。
壁や床に触れてみた感触も、やけにゴツゴツしていて、少なくともコンクリートではないようだった。手触りをよく確かめてみると、どうやらきちんと組まれた石壁だ。
地震の衝撃で地面が割れて、そこにあった空間にでも落ちた・・・のだろうか。日の光がまったく差さない。夜になってしまったのか?
しかし、洞窟ではなくきちんと積まれた石造りの壁だし、床も平らすぎる。うーん。大昔に作られた地下牢とか、戦時中の防空壕か?
・・・・・・。
正確な時間は判らないけれど、今日はもう疲れてしまったので終わりにする。ボロのベッドはホコリまみれだったけれど、石畳の上よりはマシだろう。
帰ったら、制服もクリーニングに出さなければ・・・。
2日目。
朝かどうかは判らなかったが、空腹で目を覚ました。喉も渇いている。
そういえば、昨日食べるはずだった弁当と水筒が鞄の中にあったはずだ。昨日落ちてきた(?)場所に落としたのか、とにかく戻ってみることにした。と、部屋を出てみるとやはり真っ暗。夜まで寝過ごしたのでなければ、ここは外界から完全に隔離されている可能性がある。考えたくないけれど。
暗がりの中を歩くのには明かりが必要だ。ということで、ライトや蝋燭といった手に持てる光源を探すことにした。そこで初めて気付いた。疲れていて、そこまで頭が回らなかったのか。
この部屋の明かりって、一体なんなんだ?
松明やランプではなかった。一見電球のようだが、違った。その光る玉は、壁にかかった燭台のようなものの上で、蝋燭のような、赤みがかったぼんやりとした光を、周囲へと放っていた。
その玉に、恐る恐る触れてみたけれど、ほんわか暖かいくらいで熱くは無い。中央がくぼんだ台の上に乗っかっていただけらしく、危うく落としそうになった。ワレモノかどうかは知らないが、現在のところ唯一の光源だ。失うわけにはいかない。
手に持ってみると、野球のボールより少し大きい。昔、学校でやったソフトボールぐらいの大きさだろうか?
光る水晶玉、といった見た目だけれど、なぜ光っているのか。電池が入っているような感じもないし。こんなときなのにやけに気になったが、こんなときなのでそんな疑問には頭を振って、光る玉を手に部屋から出た。
昨日は暗くてよく判らなかったが、外は結構広い空間だった。幅が3メートルくらいある石造りの廊下で、天井も意外と高い。背伸びしてみたが、届きそうに無かった。部屋から出て左右のすぐそばに曲がり角がある。
とりあえず、左手をついたまま進み、左側に明かりの漏れるこの部屋を見つけたのだから、やってきたのは部屋を出て右側の方だ。と、今度は右手をついて、左手に光る玉を持って進んだ。
昨日は、ずいぶんと歩いたつもりだったけれど、意外と離れた場所ではなかった。暗かったせいで、距離も、真っ直ぐ歩いているかも判らなかったが、部屋から、距離にして30メートルも歩いていないくらいのところに、通学鞄とスポーツバッグが落ちていた。
そこから周囲を照らして見回したあと、まっすぐ部屋に戻って、所持品を確認した。使えそうなものは、最初から所持していたものを除外して、
通学鞄の中に入っていたもの
・携帯電話(通話不可)
・カッター
・鉛筆(キャップ付き)×5
・消しゴム
・三色ボールペン
・書きかけのノート×2
・ハンカチ
・ポケットティッシュ
スポーツバッグに入っていたもの
・弁当
・水筒(冷たいお茶)
・カ○リーメイト
・スポーツ飲料
・キシリトールガム
・運動着(半袖&ジャージ)
・バスケットシューズ
・スポーツタオル
・絆創膏
携帯電話は、時間を確認する以外には電源を切っておくことにした。どうやら、この場所そのものが通話圏外らしく、アンテナがピクリとも反応しないからだ。もちろん、家族や友人からの着信も入っていなかった。
ひとまず、家を出てから2日目という体感時間は正しかったので、このままメモを取り続けようと思う。・・・果たして「メモ」で済めば良いが。
空腹だったのと、傷みやすいこともあって弁当はすぐに食べてしまったので、残る食料はカ○リーメイト、スポーツ飲料、半分残った水筒のお茶だけだ。救助が来なければ、この問題はどうにかしなければならない。
今日一日は、救助が来るかもしれないという可能性にかけて、体力を温存する。・・・母お手製の弁当を食べたせいか、家が非常に恋しくなって涙が出た。
3日目。
救助は来なかった・・・。
やはり、時間的には昼になっても、まったくこの空間に光が差し込むことはない。空気の流れも感じないが、外界とは完全に隔離されてしまっているのか。
昨日、最初にいた場所からも周囲を見回したが、どこにも出口は見当たらなかった。天井にも、落ちてきた穴などは無く、乱雑に組まれた石が続いていただけだ。一体どうやって、この場所にやってきたのか。
・・・とにかく、これで動かずにはいられなくなった。ということで、今日はノートに地図を取りながら、辺りを少しずつ探索してみた。鉛筆で描いたり、消しゴムで消したりしながら、少しずつ、丁寧に調べていった。
昨日、最初にいた場所に戻るまでにも左右に3回もの曲がり角にぶつかった。通路の造りに規則性はなく、どうやら迷路のような構造になっているらしい。行き止まりの箇所もあるが、少し戻って歩けば、また新しい通路に出くわす。所々、通路自体が崩れてしまっているところもあった。
結局、探索によって、いくつかの「部屋」を見つけた・・・。
一つ目の部屋。
やはり、あの光る玉が壁に一つだけ設置されていて、ぼんやりと明るい空間だった。そして、こちらもやはりボロボロのベッドや机、書棚などがあったので、布切れのような シーツや、ホコリを被った本を何冊か手にとって、持ってきたスポーツバッグの中に入れた。
最初の日に見つけた部屋にあったものもそうだったが、何語なのか、内容が全く判らない。しかし、紙自体にはいろいろと用途があるので、体力と相談して回収していく。
机の上に、古い南京錠と鍵があったので、それもバッグに突っ込んだ。最後に、光る玉をそっと外して、シーツにくるんで大事にしまう。貴重な光源だ。
二つ目の部屋には光る玉が無かったが、代わりに少し変わったものを見つけた。
鍵のかかった、かなり大き目の金属製の箱だ。豪奢な造りの箱で、まるで「宝箱」だ。が、鍵そのものが見当たらず、空腹で力が出ず、箱自体を動かすことも出来なかったので、そのまま放置することにする。とりあえずメモ。
三つ目の部屋。
・・・続きは、明日書く。
4日目。
酷い空腹・・・。
カ○リーメイトを、鼠のようにカリカリと齧りながら、お茶で唇を湿らせる。食後に、ガムをじっくり噛んで空腹を紛らわせ、唾液を出して渇きを誤魔化す。
1箱4本入ってる携帯食料も、今食べているものを除けば、残り2本。お茶もこれで無くなり、飲み物もスポーツ飲料だけになった。
・・・昨日、最後の部屋で見たもの。それは、白骨化した人間の屍。
最初、自分が何を目にしているか判らず呆然としたが、すぐに恐怖が襲ってきた。それは、骸骨や幽霊といったモノに対するモノではなく・・・。いずれ、自分がそうなってしまうのではという、死そのものへの恐怖。人間の死体が、あんな風になるまで放置されているということは・・・。
5日目。
食べられそうなモノを見つけた!
食糧難と恐怖心とで、絶望に囚われそうになったが、気を奮い立たせて更に探索を進めた。どうしても空腹に勝てなかった、という理由もあるが。
途中、石畳の上に苔と、その上に生える植物を発見して、すぐにカッターで採取した。そして、大急ぎで部屋へと帰る。空腹で、足元がふらついたが、関係なかった。
果たして、生で食べられるのか? 毒はあるのか? ・・・などと考える余裕は無かった。
結果だけで言えば、今のところ体に異常は無い。茎は細く、葉は薄かったが、意外にも結構なボリュームがあったため、空腹は満たされた。しかも、意外に美味しかった。元より好き嫌いは無い方だけれど「空腹は最高の調味料」というやつだろうか。
植物の繊維ひとつひとつが、体に染み込んでいくように感じた。
その後、元気を取り戻し探索を続けると、先ほど植物を見つけたところから程近くに、とても広い空間があり、その中心になみなみと水を湛えた噴水があった。そして、その周りには、さきほど勢いで食べたものと同じ植物が群生している。
・・・考えてみれば、植物だって水が無ければ生きられないのだから、当然といえた。こちらも水筒に汲んで飲んでみたが、水道水よりは美味しい。問題はなさそうだった。
植物も、噴水の周りにかなり群生しているとはいえ、絶対量はそう多く無い。水は沸き続けているようなので遠慮は要らないが、こちらは大切に採取しなくては。
6日目。
携帯で時間を確認。暗いけど、朝だ。
体調のほうは、すこぶる快調。異常なし。どうやら、あの植物は食料として扱っても大丈夫らしい。その事実に、元気が出た。
今日は噴水のある広間の近くに見つけた部屋に引越しをした。最初に使っていた部屋よりも広く、8畳間くらいの空間があったので、使えそうなものを全て移動させた。往復してみると意外と距離があり、なかなかの重労働だった。
光る玉もあったので、部屋の入り口近くと中央付近の机の上に更に一つずつ配置して、それなりの明るさも確保した。入り口近くの玉は探索用にと、別の部屋で見つけたランプ(カンテラだっけ?)の残骸の中に入れてある。
お腹がすいたので、必要最低限の植物と採取して食べた。やはり美味しい。
7日目。
一週間経つ。毎日、最初のポイントまで戻ってみるが、勿論救援は無い。帰り道で、見落としていた部屋を見つける。光の玉とたらいを発見、回収。
あの植物が栄養豊富なのか体調は良いが、流れていく時間に、心が折れそうになる。なんだか、すでに一年分くらいの躁鬱を味わった気がする。
たらいに水を溜められるようになったので、スポーツタオルを湿らせて体を拭いた。薄暗がりの中にいて気付いていなかったが、土やホコリでかなり汚れていたようだ。タオルがみるみる黒くなっていく。水は冷たいし、なんだか切なくなってしまった。
8日目。
探索。とくに何も見つからなかった。
9日目。
tokuninasi。
10日目。
今日はすごい発見をした!
見たこともない言語で書かれていて読めないので見向きもしてなかったが、何の気なしに書棚にある本をパラパラとめくっていたら、光る玉を示した図を見つけた。
その図の通り、光る玉を4つ近くに置いたところ、共鳴するように光が強くなり、その光に、これまで全く感じなかった熱を感じたので、試しに菱形に並べた玉の隙間に紙を突っ込んでみた。そして5分ほど待つと、だんだんと焦げていき、遂には火が!
どういう仕組みかまったく分からないが、とにかくこれから、いろいろと試してみようと思う!!
11日目。
崩れた通路から、手頃な石を集めてきて、簡単なかまどを作った。燃料は、苦労してバラバラにした机。意外に乾燥していたのか、よく燃えた。
が、しかし、煙で大変なことになったので、組み立てたかまどもバラして、一番広い空間である例の広間に移動した。煙は通路へと逃げていってくれた。
そこに水を溜めたたらいを乗せてしばらくすると、当然だがお湯が沸いた。それを使って体を拭く。あまりの気持ちよさに涙が出た。
これからは、木などの燃料も集めなければならない。
12日目。
鍋と金属製のコップを発見。
早速水で洗って植物を煮てみたが、失敗だった。生のほうが美味しい。塩や醤油でもあれば、少しは違うのかもしれないけれど。
今日の探索で、ずいぶん立派な鍵を見つけた。なんの鍵だろうか?
13日目。
日記を読み直して、「宝箱」の存在を思い出した。
地図を頼りにその部屋へ行き、箱の鍵穴に鍵を差し込んで回してみると、ビンゴ。ガチャリという音を立てて鍵が外れた。開けてみると、意外なものが入っていた。
それは剣。ずいぶん立派な作りで、柄の部分に赤い宝石がはめ込んである。
最初、光の具合でそう見えるのかと思ったが、刃の部分が真っ黒だ。・・・錆びてる? 鞘や握りの部分が豪華な作りなので、なんだか武器というより美術品のようだ。
とりあえず、それを使って使ってない部屋の机やベッドを叩き壊していく。みるみるうちに薪が出来上がる。これは良いものを拾った。
ほかに、小さな色違いのビー玉のようなものが十数個入った小さな袋が一つと、古いが丈夫そうなロープ、古びたコート、細い鎖で出来たシャツ?が入っていた。
・・・ビー玉は、まさか宝石だろうか? まん丸で、宝石のイメージとは違うけれど。
数 学
Y.Shitou
14日目。
生徒手帳に書ききれなくなったので、数学のノートに続きを書いていこうと思う。そして今更だが、植物を「野菜」と呼ぶことにした。美味しいし、あれは食べ物だ。
見た目はただの草だけど・・・。
15日目。
今日は、探索を休むことにした。広間に行って、食べごろっぽい野菜を採って、水洗いしてから食べる。
思いついたことがあったので、お湯を沸かして体を拭き、足だけ浸してみた。全身は無理だが、ちょっとした足湯気分。・・・だったが、お湯はすぐに温くなってしまった。沸かしているところに水を足しながら使うべき?
そういえば、あの地震はかなり大きかったが、地上は大丈夫なんだろうか。もしかして、昔の大地震のように地上の被害が大きく、他人の捜索をしている場合ではないのではないか、などと考える。・・・しかし、自力で脱出できるだろうか。
もしここから出れたら、温泉に行きたい。
16日目。
探索再開。
なんだか最近、行き止まりにぶつかることが多くなってきた。何日もかけて探索してきたが、ようやく終わりが見えてきた。出口を見つけたい。実は、崩れた通路の先にあったなんていったら、目も当てられないが。
17日目。
一昨日に続き、外のことが気になりだした。いくらなんでも静か過ぎないだろうか。
剣を使って、今のところ地図で一番外側に当たる部分の壁を掘ってみた。石の壁は、意外と簡単に掘ることが出来た。壁の向こうは、どうやら岩の塊らしい。しかし、時間をかけて2メートルほど進んでも、まったく向こうにたどり着かない。
地下であることは間違いないようだけれど・・・本当に出口はあるのだろうか。
18日目。
体調は良い。
しかし良すぎるような気もする。連日の探索による疲労感も残っていない。なんだか以前より、重いものを持ち上げるのが楽になってきたような。昨日も、岩を掘るのがそんなに苦ではなかったし・・・。
うーん、野菜の健康効果?
19日目。
時間を確認しようとしたが、携帯の電源が入らない。ついに電池が切れたらしい。救助への数少ない望みが、ひとつ絶たれてしまった・・・。
20日目。
時間がよく解らない。
いつも、決まった時間に寝起きしていたのだが・・・。とりあえず、寝て起きたら次の日、という形で書いていくことにする。
・・・以前にも書いたが、力がついてきたように感じる以外にも、暗がりでもはっきりとモノが見えるようになってきた。目が慣れただけだろうか?
21日目。
今日は、大きな進展があった。階段を見つけたのだ。ただし、下へ向かうのだが。しかし、やはり真っ暗で、先がよく見えない。やはり出口、というわけではないようだ。こんな常識はずれに広い迷路にある階段なのだから、大して驚きではないけれど・・・。上下にも入り組んでいるのだろうか??
何があるか解らないので準備をしっかりしていこう。
22日目。
念のため、数日分の食料(例の野菜と水だけだが)を準備した。いざ、下の階層を探索へ。
と思ったら、階段を下がりきったところで鍵のかかった扉にぶつかった。しかも、これまであった部屋の扉とは違い、やけに頑丈な作りだ。
なんと、宝箱と同じ鍵で開いた。ここに住んでいた人のマスターキーだったのかな? あの朽ち果てたガイコツがそうだろうか?
23日目。
・・・間違いない。何かいる。動物? とりあえず、手近なところで見つけた部屋まで戻り、一眠りする。
24日目。
25日目。
「事件」があって、昨日は日記を書けなかった。
あの階層には、怪物がいた。
体長は2メートルほどもある、巨大なトカゲ。どこから逃げ出したのか、それとも捨てられ、この場所で成長、繁殖したのか・・・。とにかく見たことも聞いたことも無い動物で、ワニとも違う、あえていうなら、RPGなんかに出てくる翼のないドラゴンのような・・・。
手の平ほどもありそうな、ぬらぬらと光るうろこをもつそれが数匹、やたら丈夫そうな顎を使って、ぐちゃぐちゃとなにかの肉を貪っていて、うっかり物音を立ててしまったこちらと目が合った瞬間、当然のように襲い掛かってきた。
動きはそれほど速くなかったが、恐怖の余り叫び声を上げてしまった。
どうにか道を戻り、階段の扉の鍵を閉め、最初の階層に戻りいつもの部屋にこもると、以前手に入れた南京錠で鍵をかけ、更に書棚を動かしてドアの前に移動させた。
そこまでしてようやく安心すると、昨日はそのまま気絶するように眠ってしまったのだ。
体感時間は随分長く感じられたが、果たして隠れ、逃げていた時間がたった一日だったのかは自身が無い。現在、気分は若干落ち着いているが、さて、どうしたらよいだろうか・・・?
26日目。
怖くて動けない。とりあえず、探索用に準備していた食料を食べて過ごす。
27日目。
食料が残り少ない。部屋から出るべきか。
28日目。
食料が切れ、ドアの外に何も気配を感じないので、恐る恐る出てみたが、どうやらこちらのフロアにはやってきていないようだ。
とはいえ、探索に何日もかかる広大な場所なので、油断はできない。
あの黒い剣を携えて、恐る恐る先へ進む。光を気取られる可能性もあるので、光る玉は置いてきた。それでも、最近は難なく歩き回れるようになっている。まあ、神経を使うので結構疲れるのではあるけれど。
ともあれ無事に野菜と水とを手に入れて、部屋へ戻った。安全が確保されるまでまた何日か篭城するようだろうから、多めに採取しておく。
29日目。
今日も引きこもり。この日記を、誰か読むことがあるんだろうか。
もし知らない人がこれを読んだら届けてもらえるよう、住所を書いておくべきか。これが家に届いたとき、せめてあの化け物トカゲに食われていないようにしなくては。
30日目。
月にもよるが、およそ一ヶ月が経ってしまった(恐らく)。全然救助がくる気配もなく、出口を探そうにも恐ろしい化け物がいる。
完全な手詰まりという感じがする。
いつまで続くのかわからないこの状況が改善されるまで、しばらく日記を書くのを控える。鉛筆やボールペンも目減りしてきたし、1冊目のノートも白紙の部分が少なくなってきた。地図も書き込まなくてはならないし。
果たして、次にこのノートに記すときには、良いニュースを書き込みたい。それでは。
40日目。
その後、こちらの階層に入ってくることは無かったのだが、いい加減どうにかしないと、死ぬまでここで暮らすことになるかと思い、色々考えてからようやく決断した。
ドラゴンを殺して、食べることに。
トカゲだかカエルの肉は鶏肉っぽいっていうし、鳥の祖先は恐竜だし、オーストラリアでは、ワニの肉だってビーフジャーキーになっているのだ。
・・・と、ごたくはともかく、要は肉が食いたいのだった。
いい加減、育ち盛りの男子高校生が、野菜と水だけで生きていけるわけがない。いや、生きていけないことはないけれど、結局、恐怖より食欲が勝ってしまったのだ。
そうさ、ここで一生暮らすかもしれないのに、肉無しなんて・・・。
41日目。
ドラゴンを狩ってきた。
いや、そもそも勝手に名づけておいてなんだか、「ドラゴン」とは名ばかりで、その大きな体と恐ろしい見た目に反して、異様に弱かったのだった。黒い剣を手に、一緒に入っていた防具らしきものも着こんでいったのに、拍子抜けだった。
突進してきたが動きが遅く、横に回りこんで黒い剣でばっさり、首から一刀両断にした。動物を殺すのは、虫などを除くと初めてだけど、あまり気持ちよいものではなかった。血も大量に出たし、あの巨体を運ぶのも面倒だった。
しかし、めちゃくちゃ美味かったのでヨシとする。肉最高。
44日目。
意外なことに、あの巨大なドラゴンの肉は、三日ほどで食べつくしてしまった。そんなに肉に飢えていたのかと思うと、ちょっと浅ましく感じて恥ずかしい。しかし、野菜と合わせて非常に美味しく頂けたので、もう一度狩りにいこうと思う。
なんだか、危険に対する恐怖が麻痺してる感じもするけれど。
51日目。
既に3匹目のドラゴンを狩った。なんだか、段々相手が弱ってきているような。もしかして、彼らにもエサがないのだろうか?
59日目。
ドラゴンを素手で倒す。どうやら、こちらも力が大分ついているようだ。パッとみで500kgはありそうなドラゴンの死体を運ぶのが、ぜんぜん苦にならない。
・・・あの草にドーピング作用でもあるのだろうか? しかし美味しい。
64日目。
次の階層を見つけた。・・・が、また下へと続いている。このまま進んで良いものか。
68日目。
結局、2階層目を探索し終わり、3階層目へと進むことにした。
それにしても、慣れたのか探索が異様に速く進んだ。地図を改めてみると、最初の階層と同じくらいの広さはあったと思うのだけれど。
ちなみに、なんだかややこしいので以下記述のまとめや説明。ついでなのでわかりやすく階層の呼び名も帰ることにする。「階層」って画数多いし。
B1・・・最初にいた階層(地下らしいので)。「光る玉」「野菜」「黒い剣」
B2・・・B1の一つ下の階層。「ドラゴン」
B3・・・B2の一つ下の階層。これから探索予定。(以下B4~もある?)
光る玉・・・文字通り光る玉。なぜ光るのかは不明。4つあれば火を起こせる。不思議。
黒い剣・・・薪を作る道具兼、ドラゴンを殺す武器兼、包丁の役割も果たす。黒い剣。
野菜・・・B1で見つけた貴重な食料兼栄養源。フワフワした食感。腹持ちは良い。
ドラゴン・・・B2に生息する翼のないまるでドラゴンみたいな巨大なトカゲ。肉が美味い。
以降は、一人称か三人称を予定……していたけれど、いつ連載するかは不明(汗