銀髪の少女との出会い
まぶしい朝日が、窓のすき間から差し込む。
「……うう、まぶし……」
イオリは寝返りを打つと、何かをぶちゅっと潰した音が聞こえた。
「ぷるるっ!?」
「うわ、ごめんっ! でも、おまえ俺の布団の中で寝るなって!」
イオリはスライムを潰してしまい、思わず飛び起きてしまった。
布団の隅ではシュリンが剣の手入れ、
セルネアは優雅に髪を整えていた。
「やっと起きたの? あなたの寝相、ずいぶんとひどいのね。」
シュリンも続けて言う。
「イオリ様の寝言が可愛かったぞ。“串焼き…美味かったな”って。」
「やめろぉぉぉ!!」
プラントは相変わらず、風呂に浸かるように部屋の隅の花瓶に根を伸ばし、気持ちよさそうに寝ていた。
そんなくだらない朝を迎えて、三人は宿を出る
……が、街の通りが妙に騒がしい。
「なんか、朝からざわついてるな?」
「イオリ様、あれを。」(シュリン)
掲示板の前に人だかりができている。
イオリはこっそり近づき、覗き込んだ。
“昨晩、兵士三人が無惨な姿で発見される。犯人不明。魔法の痕跡から、魔族の仕業の可能性あり”
「……うわ、怖ぇ……」
思わず身を引くイオリ。
「ま、俺たちには関係ないしな。早く朝飯行こうぜ。」
後ろでセルネアとシュリンが一瞬だけ視線を交わす。
セルネア「……イオリには秘密ね。」
シュリン「あぁ……悟られないようにする必要があるな。」
⸻
「とりあえず、服を買い直すか。」
イオリは昨日の逃走劇を思い出し、近くの服屋に入った。
「ようこそ。今日は物騒ですからねぇ。顔を隠せるフード付きなんかが人気ですよ。」
店主の言葉に、イオリは「じゃ、それで!」と即決。店主は本当に買うとは思わず、少し驚いていた。イオリ達は三人の分のローブを購入する。
「まいどあり! ……でもお客さん、気をつけなさいよ。朝にも街中が騒いでいたが、兵士を三人もバラすなんて、並の殺人鬼じゃない。」
「はは、そんなやばい奴も異世界にはいるんですね……」
イオリは苦笑して聞き流すが、
後ろでセルネア達が小声で「笑えないわね……」と呟いた。
⸻
服を買い終えると、ちょうど昼近く。
三人は小さな食堂に入る。
木のテーブルに香ばしいパンの匂い。
イオリの腹が分かりやすく鳴る。
「さ、食おう食おう!」
お腹が空いていたイオリは異世界の朝ご飯を待ち侘びていた。
「……その前に。」(セルネア)
銀貨が入った小包の袋を開けたセルネアの手が止まる。
「……少し、残りが心もとないわね。」
「どのくらい?」
「今日と明日の食事代はぎりってとこだわ。」
「結構渋いな、まあ元は人のお金だけど。」
「それがなかったらあなた、今頃野垂れ死んでいるわよ。」
「正直助かっている部分は、ございます……」
結局、一番安い“野菜スープ定食”を三人分頼む。
スライムは器用に服の中から手のような物を伸ばし、器に突っ込んだ。
「ぷるぷる〜♪」とスープを吸い込んでいる。
「お前、そうやって飲めるのかよ……」
「イオリ様にこんな粗末な食事をさせてしまうとは……」(シュリン)
「いや、別に十分美味しいよ?」
「私に任せてくれ…少しばかり、街の人間からお金を頂戴してくる。」
「こら、シュリン! 人様に迷惑をかけるようなことはやめなさい!!」
そんなくだらない会話をしながら、昼食は終わった。
⸻
食事を終えて店を出ると、通りの向こうで
ひとりの美少女が立ち尽くしているのを
イオリは見つける。
艶のある銀髪が陽の光を反射して光り、
シミひとつもない綺麗な肌。
年はイオリと同じくらいだが、その浮世離れした顔立ちは異国の美少女を感じさせる。
白いワンピースに淡い水色のリボン。
そんな少女はどこか困ったような表情を浮かべていた。
「……めちゃくちゃ可愛い。」
「イオリ様、ヨダレが少し…」(シュリン)
「垂らしてねぇよ!」
イオリは目の前の美少女に目を凝らしていた。
「全く、美人を見るとすぐに食いつくんだから……」(セルネア)
「男ってのは、可愛い女の子には正直になるってもんだ…俺だけじゃない。」
(…私には目もくれないのにね……)
一瞬、セルネアは暗い表情を浮かべながら小さく呟いたが……
その呟きはイオリには聞こえていなかった。
そんなセルネアを気にせず、イオリは少女に声をかける。
「どうした? 何か探してるのか?」
少女はぱっと顔を上げ、恥ずかしそうに笑った。
「えっと…髪飾りをどこかに落としちゃって……」
「髪飾り?」
「大事なものなんです。お母さんの形見で……」
イオリはすぐにしゃがみこみ、
「よし、探そう!」と手を伸ばす。
セルネア「ほんと、世話好きね。」
シュリン「さすがイオリ様だ。」
「うるさい、違うって!」
イオリ達は少女の髪飾りを探すのを手伝う。
しばらくして、イオリが溝を覗くと、金色に光る小さな飾りが見えた。
「お、あった!」
イオリは腕を伸ばし、なんとか拾い上げる。
「はい、これじゃない?」
少女は目を見開き、ぱっと笑顔を見せた。
「こ、これです! 本当にありがとうございます! 何とお礼をすればいいか……」
「これぐらいどうってことないさ。
俺の名前はイオリ。困ったことがあったら、いつでも俺を頼ってくれ!」
イオリは少し照れながら、少女に向けて胸を大きく張る。
その瞬間、
彼女の笑顔が陽の光よりまぶしく見えた。
「イオリ……素敵な名前! イオリは本当に優しいい人なんだね!」
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
いつものギャグが、今だけは出てこなかった。
(……なんだ、この感じ。)
「私の名前は、ミナっていうの!」
「ミナ……」
ミナと名乗る美少女の銀髪が風に揺れ、
イオリの心臓を小さく跳ねさせる。
この少女がイオリにとって“初恋”の相手であることはまだ誰も知らない。
「ミナっていい名前だね!見た目に合って、か、可愛い……」イオリは途中から恥ずかしくなり、早口になってしまう。
「ほんと!?それは嬉しい!イオリって名前もかっこいいと思います!」最後の方はどうやら聞き取れていなかったようだ。
「あと、この大事な髪飾り、ほんとに見つけてくれてありがとうございます!。」
ミナは小さく頭を下げる。銀髪がふわりと揺れ陽の光を受けた髪は、まるで雪を連想させるような美しさがあった。
「いやいや、全然。困ってる人見たら助けたくなる性分なんだよ、俺。」
イオリは得意げに笑いながら、内心と自己満足に浸っていた。
そしてイオリは何か思いついたように言った。
「さっきお礼するって言ってくれたじゃん。
そのお礼で、もしよかったら……この街、案内してくれない? 俺、こっち来たばっかでさ。」
「えっ、私が?」
「うん。お礼に、昼ごはん奢るよ。」
ミナは一瞬戸惑ったが、嬉しそうに頷く。
「わかりました! お礼なので、お気遣いは大丈夫です! じゃあ私が街で好きな場所を案内しますね!」
そのやり取りを少し離れたところで見ていたシュリンが目を細めた。
「イオリ様……今、“デート”の約束をしましたね。」
セルネアは腕を組みながら、じっとその背中を見つめる。
「……あの子、随分可愛いじゃない。……全く、イオリは美人にはすぐがっつくんだから。」
セルネアは不機嫌そうだった。
「尾行しますか?」
「当然。」
二人の間で妙な共犯関係が生まれた。
⸻
「まずはこの街の商店街から!」
ミナはイオリの腕を引きながら、人混みの中を進む。
屋台の列、香ばしい匂い、呼び込みの声。
イオリはその活気に目を輝かせた。
「おぉ、改めてすごいな……! なんか異世界っぽい!」
「え、異世界?」
「あ、いや! 比喩、比喩!」
「ふふっ、イオリって、なんだかおもしろい。」
ミナはイオリを見つめて言った。
「そんな、おもしろいか? まぁ俺は冒険者だからな。わからないこともあるもんさ!」
「冒険者なんだ! なんだかそう言われるとたくましく見えてくるような……」
ミナとイオリが笑い、そこには穏やかな少年少女の空間ができていた。
ミナはある屋台で思わず足を止める。
「か、可愛い……」
テーブルには、木で作られたクマの小さなキーホルダー。
イオリは二つ手に取り、にっと笑った。
「じゃ、これ買おう。俺と君でお揃いってことで!」
「えっ……!?」
ミナの頬がほんのり赤く染まる。
「ちょっと、は、恥ずかしい……」
「べ、別に変な意味じゃなくて、お礼ってやつ!」
「……ふふ、じゃあ、ありがたくもらいます!」
二人とも照れたように顔がほんのり赤くなる。
市場の隅では二つの影が。
そこではセルネアとシュリンが露骨に観察中。
「イオリ様、女とお揃いの物を買ってる。」(シュリン)
「……あの子、笑い方が気に入らないわ。 イオリはそんなんに振り向かないんだから……(小声)」
セルネアは不機嫌そうな表情を浮かべた。
「セルネア、さっきから顔が怖すぎる。」
「黙りなさい。」
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次に二人は水路の橋を渡った。
透き通る水がキラキラと光り、遠くで鐘が鳴る。
「この橋、昔によく弟と歩いていたんだ。」
ミナは空を見上げて話し始めた。
「お父さんは私が小さい時にいなくなって、お母さんは一人で私と弟を支えてくれたんだ。」
「すごいお母さんだ。うちの家族は結構、放任的だったからな……」
イオリは俯きながら呟いた
「イオリのところはそうなんだ……
でも私も仕事で忙しいお母さんとはあんまり会えてなくて……
だから、弟と二人でいるときが多かったの。」
少し寂しそうな表情で語る。
「けど、弟は今、兵士団に入って、街を守ってるんだよ。 すごいでしょ?」
「弟さん……すげぇな。」
ミナはその言葉に嬉しそうに反応をした。
「俺は、こっちに来たばっかで……ふらふらしてるだけだからさ。
ちゃんと頑張ってる弟も君も、なんか、えらいなって思うよ。」
「わ、私も!?」
ミナは驚いたように目を丸くしてから、微笑んだ。
「そんなこと……言われたの、初めてかも。」
「それに、その髪飾りもすごく似合ってる。綺麗だ。」
「えっ……!」
ミナの耳まで真っ赤になった。
その反応を見て、イオリもなぜか顔が熱くなる。
風が二人の間を抜け、時間が少し止まる。
まるで、この世界に自分たちしかいないようだった。
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屋根の上。
二人をこっそり追っていたシュリンが、頬を染めて俯く。
「なんか、見てるこっちが恥ずかしい気分だ。」
セルネアは腕を組んだまま、低く吐き捨てる。
「……私のほうが可愛いのに。」
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昼過ぎ、二人は小さなカフェに入った。
木造の内装、ほのかな香草の匂い。
「ここ、私が好きな場所なんです。」
「へぇ……たしかに落ち着くな。」
「おすすめのメニューは―― 」
窓際で紅茶を飲みながら、二人は街のことや他愛ない話をする。
ミナの笑顔はずっと柔らかく、イオリの心はどこか、くすぐったく感じていた。
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やがて夕暮れ。
空が赤く染まるころ、街の中央広場へ。
噴水の水がオレンジ色に輝いている。
「今日、一日中楽しかった!」(ミナ)
「俺も。またミナに会いたいな。」(イオリ)
ミナが少しだけ目を伏せ、
「……もちろんだよ。」と照れたように答えた、その瞬間――
「おぉ、可愛い子発見。」
振り向くと、
金髪で整った顔の青年が立っていた。
後ろには、露出度高めの女性三人を侍らしている。彼はにやりと笑って言った。
「俺はアルト。冒険者だ。君、うちのパーティに興味はないか?」
ミナがその男の言葉に戸惑い、イオリが反射的に一歩、前に出る。
(To be continued…)




