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悪魔娘とオーク娘

森を抜けて半日。

イオリたちは、ようやく人の気配のある場所にたどり着いた。


「おっ、やっと村が見えてきたぞ! これでようやく、俺の異世界生活が始まる!」


後ろを振り返ると、

スライム、ウサギ(ツノ付き)、コウモリ、バッタ、そして悪魔のセルネア。


……うん、客観的に見れば、魔王の行列。


「ねぇイオリ。村に入る前に、私の翼とツノ、隠したほうがいいかしら?」

「できればモンスター全員も隠してほしい。」

「無理な話ね。」

「ですよねー。」


イオリは呆れてため息をついた。



だんだんと近づいてきた村の手前で、大きな音がした。遠くでは人々の悲鳴が聞こえてくる。


「何だ!、何が起こってる!?」


駆けつけると、数体のオークが村を襲っていた。

家が燃え、村人が逃げ惑う。


「あの緑の肌に野蛮な姿は、オークだな……これもまた、チュートリアル戦闘ってやつだな。ここは助けて“イオリ様かっこいい!”って展開か!」


剣もないので、そこら辺に落ちていた木の棒を拾って構えた。


「え、ちょっと…それで戦う気?」とセルネアが苦笑するが、

イオリは胸を張った。


「男は度胸だ。見てろよ、俺がみんなを助けるところ!」

イオリは村へ意気揚々と走りながら向かって行った。



村に着くと、すぐに女の子の悲鳴が聞こえた。

振り向くと、金髪の少女がオークに追われていた。


「うわっ、やばい状況だ!」

イオリは反射的に飛び出し、彼女の前に立ちはだかる。


「やめろォォォ!!」


オークが振り上げた腕が――止まった。

まるで時間が凍ったように、ぴたりと動かない。


「……あれ?」


次の瞬間、オークの目がとろんと光り、

棒を捨ててイオリの前にひざまずいた。


「……え、えっと?」


セルネアがあきれた顔でつぶやく。

「また出たわね、あなたの“無自覚モンスターチャーム” まさかオークにも効くとはね。」



そんな中、リーダー格のオークが前に出てきた。


筋肉質で、肩幅が広く、たくましい――

けれど顔立ちは整っていて、胸の大きい膨らみが強調されている。肌の色が緑でなければ人間としても通用しそうな美女だった。


「……私はシュリン。あなたに忠誠を誓います!」


「え、えっと……まだ戦ってもいないのに?」

「あなたの眼差しだけで、私の心は燃え尽きました!」

「俺が何をしたってんだ!?」


他のオークたちがこっそりヒソヒソと話す。


「お、おい……シュリン姐さんがあんな口調……」


「普段だったら、こんな態度見せたらブン殴られるぞ……」


「姐さんってば気性が荒いんだぜ。気に入らねぇやつは片手で壁ドンからの吹っ飛ばしだ。」


「でも今、あの人間の前じゃ……なんか乙女じゃねーか?」


イオリ「……こわっ!? なにそのギャップ!!」


当のシュリンはというと、恥ずかしそうに微笑んでいた。

「名前は何といいますか?♡」

「イ、イオリだけど…」

イオリは名前を聞かれ、渋々答えた。


「ではイオリ様…立ちっぱなしでお疲れでしょう?

 その……私の肩をお使いください。」

「え、肩!? あ、いやいや、オークの肩って物理的に強そうで怖いから、やめておきます!」

「……ふふ。怖がりさんですね♡」

「いやだからキャラ変しすぎ!!」



そこへ、か細い声。


「……ひっ……魔物が、いっぱ……い……」


振り向くと、さっき助けた金髪の少女が震えていた。

イオリの背後には、スライム、コウモリ、ツノウサギ、バッタ、セルネア、そして緑肌美女オークのシュリン。


……どの角度から見ても魔王軍。


「ち、違うんだ! こいつらは敵じゃなくて、その、勝手に……」


「ぎゃああああああああああああ!!!」


少女は悲鳴を上げて逃げ出した。

他の村人たちもパニックになり、村中が阿鼻叫喚。


セルネア「ふふ、やっぱりね。」

シュリン「イオリ様、どうなさいます? この村を焼きますか?」

「焼かないで!?!?!?」

恐ろしい事を実行しようとするシュリンをイオリは思わず止めた。



混乱の最中、イオリ達は村を急いで離れた。


「……助けたのに、逃げられるって……どーゆうことだよ。」

空を見上げてつぶやいた。

「イオリ様……気を落とさないでください。」とシュリンが優しく寄り添う。

セルネア「まあ、あなたらしいオチね。」


(お前らのせいなんだからな…)


「けど……あの子、ずいぶんと可愛かったな……」

「ふふ。イオリ様、横顔が素敵です♡」

「お、おう……別にお前に言われても照れることはないけどな!?」


こうしてまたひとつ、世界に“魔王誕生”の噂が広がっていく。


だが本人は、ただの勘違い男であった。


「いや……なんでやねん!!」




イオリ達が村を離れてしばらく歩いたころ。

風が止み、森が静まり返る。


――ぐぅぅぅ。


「……あ。」


イオリのお腹が盛大に鳴った。


「イオリ様!? お腹が鳴っております!」

「いや、聞こえてるから!」


シュリンが慌てて腰に常備してある袋を開けた。

中から取り出したのは――見るからにヤバい色をした肉の塊。

青黒くて、紫色の湯気のようなものが沸いている。


「イオリ様、どうぞ!」

「うん、これ本当に食べれる?」

「安心してください! さっき倒したバグトードの脚です!」

「やっぱ安心できねぇ肉だなぁ!!!」


セルネアがくすりと笑った。

「ふふ、無理しなくていいわよ。あれ、普通の人間なら一口でお腹に激痛だから。」

「そんなもん食わせようとすんな!」

「だって、私たちはこれが普通なのよ?」

「おまえらの普通の基準がだいぶバグってんの!!」

イオリは魔物と人間の価値観は違うと気付かされる。



「……てか、前から言おうと思ってたんだけどさ。」

「はい?」(シュリン)


「……別についてこなくていいからね? 俺、一人旅するつもりだったし。」


周囲が一瞬、静まる。


セルネアが微笑んで首をかしげる。

「それは無理ね。だって、あなたが魅力的だもの。」

「いや、そーいう意味じゃなくて!」

「どんな意味でも、私はあなたのそばがいいの。」

「え、セルネアさん、なんで照れてるの!?」


シュリンが割って入った。

「イオリ様! 私は忠実なしもべです! 命に代えてもお守りいたします!」

「いや、そんな守られても、見返りとかできないからね?」

「いいえ! イオリ様が元気でおられるだけで、私たちは幸せなんです!」

「俺はほんとになにをしたんだ‥」


他のオークたちが「おれたちも旦那について行くぜ!」と胸を叩く。

ツノウサギがピョンと跳ね、スライムがぷるんぷるんと鳴く。


「ギィィッ!」(コウモリ)

「ギョギィギョギョ!」(バッタ)


「……おい。あきらか一体気持ち悪い鳴き声をしたやつがいたな。」

セルネア「ふふっ、悪くないじゃない。あなたが中心に立つ姿……好きよ。」

イオリ「だから何でさっきから照れてるの!?!?」



イオリが謎に懐いてくる魔物達に頭を抱えていると、前方に黒い洞窟が見えてきた。


「おおっ! これ、もしかしてダンジョンじゃね!?」

急にテンションが分かりやすく上がるイオリ。

「ダンジョン、レベルアップ、ヒロインゲットの3段活用チャンス!」

シュリン「イオリ様、何をぶつぶつと……?」

「いや、冒険者なら避けて通れない“イベント”が来たってことだ!」


セルネアが肩をすくめる。

「洞窟なんて、魔物の巣よ。あなたが行けば、また増えるだけだと思うけど?」

「縁起でもないこと言うな!」

イオリ一行そうして洞窟に入っていった。



中に入ると、しっとり湿った空気と、ぼんやり光るキノコが広がっており、まさに異世界の洞窟を感じさせるものだった。そして、怪しく光るキノコには青、緑、ピンクなど――幻想的ではあるが、どれも食べたらヤバそうな色をしている。


「うわぁ……絶対毒あるじゃん。」

セルネアがしゃがんで、ひとつ摘んでみせる。

「これは“月光茸”。人間でも食べられるわよ。魔力を少し回復させるの。」

「マジで!? 見た目完全にやばいのに!」

「あなたの世界の常識、ここでは通用しないのよ。」


イオリは恐る恐るひとかけらを口に入れた。

「……うん、味は悪くないな。てか、普通にうまいな!」


シュリンが嬉しそうに微笑む。

「イオリ様、お気に召しましたか? 私めもう少し採ってまいります!」

「お、おう。ありがとう……

(何でこんな優しいだ、このオーク娘)」


セルネアが横で腕を組みながら、イオリを見つめる。

その瞳の奥には、最初の頃にはなかった熱が宿っていた。


「……やっぱり、不思議な人ね。」

「ん? なんか言った?」

「いいえ、独り言よ。」


彼女の唇がわずかに微笑み、ツノが月光に照らされた。



見た目は明らかにやばいが、食べられるキノコで空腹を満たしたイオリは、満足げに立ち上がる。


「よし、腹ごしらえ完了! さぁ次の階層にでも行くか!」

「階層って言った!? あなたはこの洞窟、ゲーム感覚で進むつもりなの!?」(セルネア)

「俺、異世界に来たからには冒険しなきゃ気が済まないタイプなんだよ!」

「……ほんと、放っておけないわね。」


シュリン「イオリ様のためなら、どこまでも!」

オークたち「うおおお! イオリ様バンザイ!!」

スライム「ぷるる!」

バッタ「ギョギャギィギョ!!!」


――こうしてまた、異世界で一人と十数体の魔物の行進が始まった。


その背中を、月光茸の光が静かに照らしていた。


「……いや、なんで毎話、魔王の構図なんだよ」


(To be continued…)


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