9 ルナリア
まだ、母も父も生きていた頃。
はじめの記憶はぼんやりしていて、優しい懐かしい匂いがしている。
私の頭を撫でてくれる、暖かな温もり。
そして、ベッドに横たわる人の柔らかくて儚い微笑み。優しい息遣い。
その温もりがどんどん冷たさを増していって、突然その人に会えなくなってしまった。
あれは、きっと、母の記憶だ。
それから私は父と二人で暮らしていった。二人きりの慣れない生活。父の仕事の間は商家近くの託児所に預けられていた。この託児所も最近できたものらしく、申請すれば皇家からの援助が受けられるらしい。
父は優しく人だった。
時間があれば広場で遊んでくれた。一緒に買い物に出かけることもあった。でも、いつも何かに追われている。そんな人だった。
朝も夜もいつ見ても父は起きていた。
そんな生活が長く続くはずもなく、ある日仕事に行った父は帰ってこなかった…
その時私はまだ8歳かそこらの子だった。
私の両親の記憶はここまでだ。
その後、誰もいなくなった家を引き払い孤児院へ入ることになった。この頃が多分8歳くらいになる。
孤児院へは衣類や必要な家具を持っていった。家を引き払った際のお金や貴重品などは院長先生に預けることになる。他の領地は知らないが、オランジェット領の孤児院では預けた物を書類に残して退院する際に返してもらうことができる。
孤児院での暮らしは悪いものではなく、寂しい者同士が傷を庇い合いながら寄り添うそんな毎日を送っていた。それでも孤児院での仕事に慣れるまでそれなりに時間がかかった。分からないことだらけで失敗続きの毎日は私の悲しみをそっと癒してくれた。
孤児院にはそんな悲しみが当たり前のように存在していた。
それから半年が過ぎた頃、私にとって大きすぎる出会いがある。
貴族のお姫様が孤児院へやってきたのだ。
それから私は、これまで思ってもいなかった世界へと進んでいくことになる。
お父さん、お母さん。
どうか、私を
見守ってください。
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