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プロローグ - 夜明け前

以前は、別垢にて書いてましたが心機一転こちらで書きます。

午後十時を回ったところだった。


高台にある丘から見えていたはずの陽は落ち、闇が生まれ、


そして頭上には星という宝石が散りばめられた。


体に突き刺さるような、夏の暑さも影を潜め、少し風も出て心地よい。


そんな闇と輝きにつつまれた丘に、二人の人影が寄り添って座っていた。


「僕は、星とソラを見るのが好きだ。けど最初はくだらない理由でそれを始めたんだ」


夜空を見ていた影の一人が、突然喋りだした。


少年のような、まだ幼さを残す、少し高い声だった。


「くだらない理由……?」


そしてもう一人の声が発言を促すかのように聞いた。


さっきの声よりもっと高い、女の子の声だった。


隣り合って丘から星を見ていた二人だが、


理由を問いかけられた少年は、女の子の方を見ることもせず


まるで自分に言い聞かせるかのように、ただソラに向かって語りだした。


「小学生の頃、近所に仲の良かったお姉さんがいた。


 小さい頃から病気がちだった僕は、外で元気に走り回る子供達と仲良くできなかった。


 けど唯一、僕の友達と呼べる存在だったのがそのお姉さんだった。

 

 引っ込み思案な当時の僕と違って、お姉さんは活発そのものって性格だったけど


 不思議と気があってよく遊んでた。


 一緒に本を読んだりとか、キャッチボールやったりとか、海に行ったりとか……とにかくそんな感じ。

 

 少し元気すぎた人だけど、いつも僕に見せる笑顔とショートヘアがすごく素敵な人、


 そして僕が一番好きな人だった。


 だから……ある日、僕はお姉さんに告白することを決心したんだ」


「へ~! 仁も、なかなかやるじゃない!」


「う……うっさいな。

 

 それに告白って言っても、付き合って欲しいとかそんなのじゃない。


 ただ単純に好きって伝えたかっただけなんだ。


 子供の告白だよ。今も子供だけどさ」


「うんうん。それで?」

 

「僕がお姉さんに告白の言葉を伝えようとしたら、


 お姉さんは人差し指一本を立てて、その指を僕の唇に当てた。


 まだその言葉は言わないで、って意味を込めてね。


 その後、お姉さんは僕の手を引っ張って、この丘に連れてきてくれた。

 

 今日と同じような輝くソラの中、僕は言いかけてた告白の言葉をもう一度口に出したんだ……


 けど……」


「……けど?」


「僕の告白を聞いた後、お姉さんはソラを指差した後に言ったんだ」



『この夜空に輝く星を見てみて。


 そしてあなたが見たこともないような、私が見たこともないような


 一番きれいな星を見つけてちょうだい』



「……ってね。お姉さんは、それしか言ってくれなかった」


「へ~。なんか意味深だねえ。


 それで見つかったの? 綺麗な星は」


「ううん、結局見つかってない。


 それから毎日この丘に来て、そして毎晩探し続けた。


 でも最近になって少し分かったんだ」


「何を?」


「一番綺麗な星なんて最初から無かったんじゃないか……って」


「それは、お姉さんがあなたを子供扱いして、そういう言い回しをしたってこと?」


「多分、半分正解。……多分だけど。


 何度見ても結局分からなかった。


 どの星も光輝いている。


 でも一番きれいな星は? 僕もお姉さんも見たこと無いような星は?


 分からない。見つからない。

 

 そして、それが分からないまま月日が経っていったんだ」


「さっき、半分正解って言ったけど残りは?」


「……本当の正解は今でも分からない。


 僕が告白した一ヶ月後、お姉さんは交通事故で亡くなった。


 お姉さんと、その知り合いが運転していた車が事故に遭って二人とも……ね。


 犯人はおろか、未だ原因すらハッキリ分かってない。


 現場にあったのは、ひねり曲がったガードレールと半壊していた車だけだった。

 

 僕はショックだった。泣いた。


 とにかく泣いた。


 涙ってこんなに止まらないんだなってその時は思った。


 けど僕の涙が止まったのは、事故からそう遠くない日だった」


一旦、間を取ってから少年はもう一度語りだした。


「お姉さんの葬式の日、


 亡くなったことを悲しむ声が会場のいろんなところから聞こえてきた。

 

 けどそれは僕の想像してた言葉とは違かった。


 物静かな子、おしとやかだった子、おとなしかった子


 あまり家から出なかった子、読書がすきだった子……って。


 それは、僕が見ていたお姉さんとはまるで違う印象を持つ言葉だった。


 僕は、本当に疑った。もしかして違う人の葬式に来たんじゃないかって。


 でも、紛れも無くその場所は、お姉さんの葬式会場だった。


 じゃあいつも笑顔で僕に接してくれたお姉さんは誰だったんだろう。


 僕と遊んでくれたお姉さんは誰だったんだろう。

 

 あの夜、僕をこの丘に連れてきてくれたあの人は誰だったんだろう。 

 

 また一つ分からなくなった。けど一つだけ分かった。


 好きだ、なんて言ったけど結局僕はお姉さんのことを全然知らなかったんだって。


 お姉さんがいなくなったっていう事実以外、あまりに分からなくて、そして知らなかった。


 だから、それからも僕は、毎日星を見続けた。

 

 この夜空に輝く星を毎日見て。


 そして僕もお姉さんも見たことないような一番綺麗な星を探して。


 当時、お姉さんが残した言葉だけを頼りに。


 そして、今でもお姉さんが何を言いたかったのかを知りたくて。


 ……それが僕が星を見る理由さ。

  

 納得してくれた?」


少年がそう語りを終えると、


話を聞いていた少女は、少年に飛びつくように抱きつき


「仁えらい! 私、ちょっと感動したよ!」


と、興奮気味に先ほどの感想を少年に喋り始めた。


仁と呼ばれた少年は、少し照れながらも冷静に少女に語りだした。


「いやいや、そこまで立派な話じゃないよ。


 あれから何年も経っちゃったしさ。


 今更、笑い話にもならないのかもしれない」


「全然! そんなことないよ!


 思い切って星を見る理由を聞いて良かった~」


「と、ともかく話はこれでおしまい。


 僕は、家に帰って寝るよ」


「え~。つまんないの。

 

 夜は、これからだよ?」


「明日も学校なんだよ。そろそろ寝なきゃ。


 それより……一人でも大丈夫そう?」


「うん、今日は星も空も綺麗だし、闇もいつも通り元気だから


 私一人でも大丈夫だと思う」


「それを聞いて安心したよ。それじゃ、おやすみ。クレス」


「うん、おやすみ。仁」


そう言って仁と呼ばれた少年は丘を降りた。


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