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第25話:決戦前夜 ~師との絆、仲間との誓い~


「FX Gladiators」決勝戦を翌日に控えた、土曜日の午後。俺、田中翔太は、言いようのない緊張感と、不思議なほどの静けさに包まれていた。最強の敵、「エンペラー」鳳帝雅。その圧倒的な実力と、冷徹なまでの完璧さ。考えれば考えるほど、勝利への道筋は霞んで見える。だが、俺の心には、あの準決勝を戦い抜いた確かな自信と、そして何よりも、師匠・風林寺源一郎への想いが熱く燃え続けていた。

俺は、源一郎さんが入院している病院の個室のドアを、そっとノックした。

「…どうぞ」

弱々しいながらも、聞き慣れた声が返ってくる。部屋に入ると、源一郎さんはベッドの上で上半身を起こし、窓の外を眺めていた。顔色はまだ本調子とは言えないが、以前のような危険な状態は脱したように見えた。

「風林寺さん…体調はいかがですか」

「おお、翔太か。まあ、見ての通りじゃ。まだ冥土の土産話をするには、ちと早すぎるようじゃな」

源一郎さんは、いつものように軽口を叩いたが、その声には力がなかった。

「決勝、いよいよ明日じゃな」

「はい…」

「エンペラー…鳳帝雅か。確かに、今のFX界で、あれほどの才能と力を持つ者はそうはおるまい。じゃがな、翔太」

源一郎さんは、ゆっくりと俺の方へ向き直り、その澄んだ瞳で俺の目を見据えた。

「相場に絶対はない。どんな強者にも、必ず一瞬の隙、あるいは流れが変わる瞬間というものが訪れる。それを見逃さず、掴み取れるかどうかじゃ。そして何より…自分自身を信じろ。お前がこれまで悩み、苦しみ、そして掴み取ってきた『お前の相場』を、あの舞台で存分に表現してこい」

師匠の言葉は、具体的な戦略やテクニックではなかった。だが、それは今の俺にとって、何よりも力強いエールだった。

「勝ち負けなんぞ、二の次じゃ。お前が、心の底から納得できるトレードをしてこい。それができれば、結果は自ずとついてくる。…ワシの、いや、『サイレントG』と呼ばれた男の教えの全てを、あの若造に見せつけてやるんじゃ」

ついに、源一郎さんは自らの口から、その名を告げた。やはり、師匠は…。

「はい…!必ず…!」

俺は、込み上げる熱いものをこらえきれず、ただ力強く頷いた。源一郎さんは、満足そうに微笑むと、そっと俺の手を握った。その手は驚くほど細く、そして弱々しかったが、そこには計り知れないほどの温かさと、確かな力が込められていた。

病院を出ると、俺のスマホにはいくつかのメッセージが届いていた。

まずは、橘玲奈からだった。

『田中君、決勝進出おめでとう。エンペラーは…正直、今の私では歯が立たなかった。でも、あなたなら、あるいは何かを起こせるかもしれない。これは、私が彼と戦って感じた、ほんの少しのデータ。気休めかもしれないけど、何かの足しになれば…健闘を祈るわ』

メッセージには、エンペラーの過去のトレードパターンを分析したと思われる、詳細なデータファイルが添付されていた。あのクールな彼女が…。俺は、胸が熱くなるのを感じた。

続いて、金本カズヤさんから。

『翔の兄ちゃん!いよいよエンペラーとの大一番やな!あの若造、確かに強い。じゃがな、相場は理屈だけやないで!気合と根性、そして何よりも「諦めん心」や!ワシの魂、全部あんたに預けたで!タコ焼きみたいにひっくり返したれや!応援しとるで!』

金本さんらしい、豪快で、そして心からのエール。その言葉が、俺の背中を力強く押してくれた。

そして、星野ひかりちゃん。

『翔太先輩!いよいよですね!私、先輩のこと、めちゃくちゃ応援してますから!これ、良かったら決勝戦のお守りにしてください!エンペラーなんかに負けないでーっ!』

メッセージには、彼女が手作りしたと思われる、不格好だが可愛らしい小さな巾着袋の写真が添えられていた。「必勝」の刺繍入りだ。その純粋な応援に、思わず笑みがこぼれる。

最後に、桜井遥さんから。

『翔太君、いよいよ決勝ね。緊張すると思うけど、あなたがこれまで積み重ねてきた努力は、決してあなたを裏切らないわ。風林寺さんのためにも、そして何より、あなた自身のために、悔いのない戦いをしてきてください。心から応援しています』

遥さんの優しい言葉は、俺の心のささくれをそっと癒してくれるようだった。

師匠、そして仲間たち。俺は一人じゃない。みんなの想いを背負って、あのエンペラーに立ち向かうんだ。

その夜、俺は源一郎さんの言葉を何度も反芻し、玲奈さんが送ってくれたデータを分析し、そして仲間たちのエールを胸に刻みながら、静かに決戦の朝を待った。

窓の外には、2014年の新しい年が明けようとする東京の夜景が広がっている。アベノミクス相場は、新たな局面を迎え、世界は目まぐるしく動き続けている。

(エンペラー鳳帝雅…待っていろ。俺は、俺の全てを賭けて、お前に挑む!)

緊張と静けさの中に、確かな闘志が、俺の全身に漲っていた。


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